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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】
ep.16 囮猫はお取引可能?
この真っ逆さまに落ちていく感じ、前世で似たような体験をした気がする……!
それが何なのかは思い出せないけど、1つだけ分かったのは……やっぱり急降下は苦手だって事だ!
うぐぐ……と身体が落ちていく感覚に暫く耐えていると、降下のスピードがようやく緩やかになった。
もう平気かな……?
固く閉じていた瞼をそっと開けば、黒夜の正門の前に到着していた。門の警備をしていた騎士達が、ギョッとした表情でこちらを見つめている。
「お、俺の目の錯覚か? 何で空から副団長と女子団員が……? てかあの子って、医務課の子じゃなかったっけ?」
「いや俺も見てたよ。そうそう、医務課の……しかも抱きかかえてたよな……? ……あの副団長が?」
ひそひそ声とは到底言えない声の大きさなので、こっちまで会話がバッチリ聞こえている。
変に目立つ登場の仕方をして申し訳なかったけど、全部声に出しちゃうのもどうかと思うのですよ、団員さん方。
「……医務課に所属してると、そんなに有名になるんですかね……?」
副団長は言わずもがな有名だから、こういう反応のされ方をするのも分かる。
でも新人の私が、話した事がない団員にまで顔を知られているというのは一体なんぞや……?
不思議に思って呟く私を、副団長は何か言いたげな顔で見上げてきた。……と思ったのに、その後に続く言葉はなく、ふいと視線を正面に戻されてしまった。
な、何か知ってるなら教えてくれたっていいのに……悪評だったら嫌だけども。
信じられないモノを見た、という顔の団員達を横目に、副団長は私を抱えたまま、スタスタと歩き続ける。
そうして正門をくぐって、ようやく屋根のある場所、騎士団の正面玄関前に辿り着いた。
「ひゃ!?」
再び副団長に軽く持ち上げられたかと思うと、そのままふわりと地面に降ろされた。最初は米俵のように粗雑に抱えられたのに、意外にも紳士的な降ろし方である。
まだ何とも言えない浮遊感がちょっと残ってる気がするけど、地面に足を付けられたという安心感の方が勝った。ただいま地上……!
「は、運んでいただきありがとうございました……」
「いえ。私とニアは、そのままこの足で団長へ報告に行ってきます。アシュレーは医務課に戻る前に、寮でシャワーを浴びてきなさい。団服はもう乾いているとは思いますが、一度濡れた身体は芯が冷えてますから」
「あ、はい。承知いたしました……?」
私の返事を聞くのもそこそこに、副団長は既に歩き出していた。今回の事件は副団長的にも、どうやら色々と思う事があるようである。
『メル、今日もお疲れ様。またね』
「ニアも色々とありがとうね。うん、また」
すっかり先を行く副団長を追いかけるニアを見送りながら、私は振っていた手を程なくして下ろした。
「えぇと……風邪を引かないようにっていう、副団長なりの配慮……でいいのかな?」
雨除けの魔法をかけてもらうまで、フードも被っていたし、そこまで濡れた感覚はないんだけど……
「……副団長って、意外と心配性?」
私は小首を傾げつつも、その有り難い助言に従うべく、そそくさと寮へと戻ったのだった。
────────────────
そして翌日。
あれだけ副団長が嫌がっていたニアの囮作戦が、結局実行される事となった。
なんでも、いなくなった猫と城下町に存在する猫の大まかな数等を集計した表を見た団長が「これ以上時間をかけると、犯人が目的を果たして城下町からいなくなるのでは」と、事態の緊急性を感じ、GOサインを出したらしい。
当初の自分の提案が通ってルンルンなニアと、不機嫌オーラ全開の副団長。
……その2人に挟まれながら作戦を伝えられた、私の居心地の悪さといったらもう。
「それで、私の役目は犯人とニアをこっそり追いかけて、応援が来るまでの少しの間、事態が急変しないかどうかの監視……ですか?」
「はい、繋ぎのポジションです。猫を連れ去る際は、犯人の警戒心もかなり高いでしょうから、ニアの魔法が使える君が適任、という話に団長となりました」
他の団員だと各々のパートナー精霊がおり、ニアの特殊な魔法が使えないからと、私に役目が回ってきたそうだ。
ならば副団長が、という話にもなったみたいだけど、今回の件に関連した事で外せない用事があるらしく、連れ去られるタイミングが読めない中での追跡は不可能だとなったんだとか。
「勿論、他の団員も少し離れた所から追跡しますから、完全に1人で追跡、という訳ではないので」
「分かりました。ニアのその特殊な魔法というのは、どういう魔法なんですか?」
「ニアが近くにいれば一定時間、姿を消す事ができる魔法です。ただ便利な分、一言でも喋ってしまうと魔法が解けてしまう制限付きのモノなので、何を見ても聞いても、絶対に声を出してはいけません」
ひぇ……つまりは喋った瞬間に、私の存在が犯人にバレるって事……? 私は恐々と頷いた。
「あの……そもそもこんな作戦にまで参加するなんて、医務課所属の人間がやる域を絶対に超えてますよね……?」
「私もそう団長に伝えましたけどね。団長からの伝言ですが『メルは黒夜のイチ団員として、城下町の野良猫が可哀想だとは思わないのか?』だそうです」
「の、野良猫をダシにするとは……」
団長、許すまじ。
そんな風に言われて、動物好きの私が手伝わない訳ないだろうと、絶対に分かった上で言ってるな。
「まぁ、今回の全責任は団長にあると書面には残してもらいましたから、あまり気負わずに」
副団長は相変わらず素っ気ないままだったけど、サラリと告げられた言葉からは意外にも私の味方でいてくれている感じがして、少し心強かった。
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