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第三章 マイ・フェア・レディ

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「ごっ・・・ごめんなさいぃぃ~~っ‼︎」

ソファに身を預けているリオン様と
その背後に控えているレジナスさん、
それからリオン様の対面に座っている
シグウェルさんにユリウスさん。

4人を前に私は元の世界で仕事を
大ミスした時のように、体を二つに折って
深い深い謝罪の姿勢を取っていた。
悲しいかな、社畜の体に染み付いた
条件反射の謝罪の姿勢は
全然違う体になった今も忘れてくれない。

取引先への謝罪よろしく頭を下げて、
お詫びの言葉だけはとりあえず
子どもらしさを装った。

本当は、大変申し訳ございませんでした‼︎と
土下座をしたい。

今の状況。それはシグウェルさん達が
リオン様の様子を診に来てくれて、
往診が終わったからと私が呼ばれ
リオン様の今の状態を説明されたところだ。

その結果を聞いて動揺しまくったあげく、
冒頭の謝罪に至った。

「・・・なんでユーリがそんなに謝るの?」

ユーリは僕を治したんだよ?と
リオン様がぽかんとしている。

「いや、だって・・・っ!か、体がっ‼︎」

むしろなんでリオン様は落ち着いてるの?
と混乱する。
私の恐れていたことが起きたのだ。

そんな私をシグウェルさんがお茶を飲みながら
チラリと見やり何謝ってんだコイツ、
みたいな顔をする。

「目が見えて顔の傷が消えて、ついでに
新しい能力の一つや二つや三つが増えたんだ、
喜びこそすれ怒る奴はいないだろう。
理解できないな、一体何を詫びている?」

「ちょっ、団長!言い方‼︎」

ユリウスさんが慌ててシグウェルさんを
小突いているが、私はそれどころではない。

そう。シグウェルさんの言う通り、
リオン様は傷が治るどころか3年前には
持っていなかった様々な力を得ていた。

目が治ってすぐユリウスさんが診た時は
何かが変だな?位しか分からなかったそうだ。

もっと詳しく調べるとなると
自分以上に魔力操作に長けている
シグウェルさんの検診が必要、
とのことで改めて2人に
会うことになっていたらしい。

そしてシグウェルさんの見立ての結果。

対魔毒耐性、対精神攻撃耐性、
対特殊攻撃耐性、
そして軽い傷なら自動回復してしまう
超回復能力。

ずらずらっ、と以前のリオン様にはなく
新たに獲得した特殊能力一覧を教えられた。

あ・・・あぁ~強化人間、
作っちゃったよ!しかも王子様で‼︎

え?これってまさか遺伝しないよね?
この能力がこの先リオン様の血をひく
王族に受け継がれていくなんて事に
なったりしたら、強化人間が増殖してしまう!

なんで?どうしてこうなった?
私、あの時何を考えてたっけ?
必死に頭をフル回転させて思い出す。

えと、えっと、確か
悲しい目に遭いませんように』
だった、かな・・・・?ってそれかぁぁ‼︎

いや、確かにそう祈ったよ。祈ったけど
違うそういうことじゃない。

私の脳裏に、
これでもう大丈夫よ~と
のんびり微笑むイリューディアさんの
姿がよぎった。

加護の力が強過ぎる。

毒も精神攻撃も、あと例えば石化みたいな
特殊攻撃も効かない上に多少の傷も
すぐ治るとなれば確かに
悲しい目に合わないかもしれない。

でもそれってもはや人間以上の
ナニカじゃないのかなあ⁉︎

ただ治って欲しかっただけなのに、
まさかこんな結果を引き起こすなんて。

どうやって責任を取ればいいんだろう。

「せ、せ、責任を・・・どうすればいいですか⁉︎
リオン様、突然こんな事になって
体はおかしくなってないんですか⁉︎」

「体は全く問題ないけど・・・
え、じゃあこの先ずっと側にいて、
僕のこと見てればいいんじゃないかな?」

責任を、と言われてリオン様は
ちょっと考えると
悪戯っぽい艶やかな笑顔を見せた。

お嫁に来てもいいんだよ?とか言ってるけど
こんな時にリオン様は一体
何をふざけているんだろう。
事態の深刻さが分かっているのかな⁉︎

両手を上げたり下げたりして
アワアワしている私をフォローするように
ユリウスさんが声をかけてくれる。

「大丈夫っスよ、能力が増えたとしても
殿下は元々魔力の扱いにも長けてるんで
すぐに慣れるし、体に馴染んでいくと思うっす!」

突然扱える力が3つ以上増えるってのは
聞いたことがないけど
自己防衛能力みたいなものだし
悪い事ではないっすよ~と笑っている。

「まぁそうだな。
最初は違和感があるかも知れないが
使える力が増えるのは悪い事ではない。
むしろ喜ぶべきことだ」

シグウェルさんも同意して、
リオン様の背後に控えている
レジナスさんもその言葉に頷いている。

・・・えぇ?この世界の人達にとって、
自分の体に変化があるって
そんなもんなの⁉︎
怖くないのかな⁉︎

「まさか癒し子の力が人や動植物を
癒すのに留まらず、
新たな能力を授けるものとは思わなかったが。
これはやはりイリューディア神に
加護を受けている癒し子ならでは、ということか」

興味深い、とシグウェルさんが私を見つめた。

ヒエッ!たまたまです、
ついうっかりやらかした事なんで
金輪際もう二度とないように
気を付けます~‼︎

シグウェルさんの目が好奇心を
浮かべたのを見て
また何かされると思ったのか、
レジナスさんは私に歩み寄ると
さっと抱き上げて
リオン様の膝の上に座らせた。

いや、位置がおかしいでしょ。
膝の上って。
リオン様の隣でいいと思うんですけど。

それともレジナスさん的には
さすがに王子様の膝の上に乗ってる人に
ちょっかいは出さないだろうという判断?
え、それって自分の主を私の盾にしてない??

それでいいのか、と思ったけどリオン様は
何の問題もなさそうに膝に乗った私の頭を
撫でているし、レジナスさんは満足げに
リオン様の背後に控えている。

そしてリオン様は目の前のテーブルにあった
お茶受けのフィナンシェを手に取ると、
ごく自然な仕草で私の口へと運んだ。

ここ最近リオン様の手ずから
食べさせられるのに慣れてしまっていたので
条件反射でつい食べてしまう。

食べてしまってから、目の前の
ユリウスさんと目が合った。
そしてユリウスさんが目をまん丸にして
信じられないものを見た、
という顔をしているのに気付いて
しまったぁ!と自分のうかつさに気付く。

リオン様に従者みたいなことをさせていると
バレてしまった。人前で私はなんてことを。
いや、人前でなくても本当は
断らなきゃいけないんだけど。

「いや、あの、これは・・・お腹がすいてて‼︎」

言い訳をしようとして咄嗟に口から
出てきたのは食いしん坊発言だ。

「なんだユーリ、そうだったの?
気付かなくてごめんね。
すぐに君の好物を用意させるよ」

「いえっ!大丈夫です。
あっ、そっちのクッキーもおいしそう!」

真に受けたリオン様が更に軽食を
準備しようとしたので慌てて止めると
テーブルの上の別のお菓子を
自分の両手に持って食べた。

まずい、これ以上食べ物を出されたら
またリオン様に食べさせられる流れだ!

これ以上自国の王子の威厳を損なう姿を
人様に見せるわけにはいかない。

リオン様が私の口にお菓子を運べないように、
両手に持ったお菓子を必死に食べて
もう私の口の中はいっぱいですよー、
リオン様が食べさせられる余裕はありませんよー、
とアピールした。食いしん坊万歳。

それを見たリオン様は残念そうに、
ゆっくり食べないと喉がつまるよ。と
言っているからとりあえず
私の食いしん坊作戦は成功したらしい。

・・・まぁ、ユリウスさんはまだ驚いたみたいに
もぐもぐ口を動かしている私を見ているから
ものすごく気まずいけど仕方がないよね・・・。




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