【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera

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閑話休題 お気に召すまま

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ルーシャ国の王都にある一般市民街は貴族街が
はっきり居住区と商業地区に分かれているのに
比べると、それらが区別なく入り混じっている。

そのため無計画にごちゃついた街並みに見えるが、
その分活気に溢れていていつも賑やかだ。

その中でもマルク・ジーンの服飾工房は客の希望を
なるべく安価な金額で叶えてくれる上に腕も確かな
仕立て屋ということで、市民街の者達には通称
「マルクの店」と親しまれて人気だった。




「おーいマルク、いるか?」

大柄でがっしりした体格の男が1人、窮屈そうに
店の扉をくぐってきた。

「久しぶりだなあサミュエル!仕事は休みか?」

男を見て俺は仕事の手をとめた。サミュエルは
幼馴染で剣の腕が立つためにそれを活かして今では
中央騎士団勤めの立派な騎士様だ。

「大きな仕事を一つ終えたんで、3日も休みを
貰ったんだよ。実はお前に服の仕立てを頼みたい
んだが、予定はどうだ?相変わらず忙しいか?」

「お前の頼みなら引き受けるに決まってるだろ。
正装用の上下でも新しく作るか?それとも普段使いの
シャツをいくつか新調するか?いい生地をちょうど
仕入れたところだ。」

それに対してサミュエルは実はこれなんだが、と
懐から一枚の紙を出してきた。

「・・・女物のドレス?いや、侍女のお仕着せ?
なんでこんなものを?」

しかもその絵は妙にうまい。誰が描いたデザイン画
なんだろうか?不思議に思っていると、サミュエルが
顔を赤くして切り出した。

「お前、癒し子様のことは知ってるか?」

「知らないわけがないだろう。あの火事騒ぎのあった
王都の夜は忘れようったって忘れられないさ!」

俺は思わず大きな声を上げる。

数週間前、王都ではちょっとした火事騒ぎがあった。
噂によれば他国から入り込んだ窃盗団の起こした
騒ぎが原因らしい。

幸いにも店は騒ぎのあった地区からは少し離れて
いたがその騒ぎのさなか、突然金色の光と白い花が
店の中だというのに降り注いできた。

夜だというのに店の中どころか外まで明るく照らす
その謎の現象に一体何事かと思ううちに、気付けば
仕事のし過ぎから最近は動かし辛くなってきていた
指のこわばりや腰痛が綺麗に消えていた。

降り注ぐその白い花は、雪のように自分の体に
舞い降りては溶けるように消えてその度にガタの
き始めていた体のあちこちの痛みも一緒に消えて
いった。

何だこりゃ。生まれて初めての体験に恐ろしくなって
慌てて外へ出てみれば、ご近所さんも外に出てきて
いた。一緒に話してみれば、やっぱりみんなあの
白い花と金色の光に触れたら体の悪いところが
消えたと言う。

その現象からしてどうやら悪いものではなさそう
だったが、意味が分からなくて薄気味悪かったので
翌日ご近所さんと一緒に相談するため神殿へと
足を運んだ。

そしてそこで分かったのは、それが別世界から
召喚された癒し子様の使った力だということだった。

神殿に集まった者の中には、治る見込みのない病を
抱えて悲しみに沈んでいたのが今や感謝の涙を流して
癒し子様にお礼を伝えて欲しいと神官に縋りついて
いる者もいた。

そんなありがたい力を無償で王都中の人々の為に
使ってくれた癒し子様だ。知らない者などいない。

ただ、その姿を見た者は限られるが。

運良く街に買い物に来ていたその姿を見たことのある
者達は口々に、まだ小さな女の子だったけどすごく
可愛いかったと話していた。

そんな癒し子様のことをなぜ今サミュエルは話題に
出したのか。そう思っていたら

「実は俺がつい最近終えた大きい仕事っていうのは
その癒し子、ユーリ様の護衛だったんだよ。」

内緒だぞ、と声を潜めてサミュエルは教えてくれた。

俺の店は個人工房で、いくら腕がいいと言っても
普段はわりとのんびりと、繁忙期以外は基本1人で
やっている。

だからサミュエルの話も今は俺以外誰にも聞かれる
心配はないのだが、それでもひそひそと奴は大事な
話をするように打ち明け始めた。

王都近郊のトランタニア領へユーリ様の護衛騎士と
して同行し、突然の豪雨に雨宿りをした館での話だ。

雨に濡れた服の代用で、癒し子ユーリ様はその館の
侍女のお仕着せを借りて着ていたがそれがもう、
とんでもなくかわいかったという。

侍女のお仕着せが本当に良く似合っていて、その姿の
癒し子様にお茶を淹れてもらったり上着の脱ぎ着を
手伝ってもらったりと、自分達騎士に侍女として
尽くしてもらい甲斐甲斐しく世話をされることを
想像したら、もう1人の護衛ともども癒し子様に
見惚れてしまって危うく仕事どころではなくなりそう
だったという。

・・・いや、働けよ。妄想していて護衛に支障が
出たらダメだろうが。王宮と王都を守る優秀な
中央騎士団の騎士が何してんだよ。

思わずそう思った。サミュエルと自分ともう一人の
幼馴染で今は大神殿に勤めるダドリーという男を
併せた3人で、昔は三馬鹿と言われるほどくだらない
いたずらに明け暮れていた自分達だが、いまや俺は
街でも評判の仕立て屋になりサミュエルは騎士、
ダドリーは高位神官と立派になっていたはずだった。

それが癒し子様がもし侍女だったら・・・と
目の前で妄想を語る男はとてもじゃないが優秀な
騎士には見えない。

「で?その癒し子様の話からなんでこのデザイン画と
俺に仕事を頼むって話になるんだ?あと、どうでも
いいけど随分とこの絵はうまいな。どこの画家に
頼んだんだ?」

サミュエルの持ってきた侍女服のデザイン画には、
それを着た街で流行りの猫耳型の髪型をした癒し子様
らしき人物も一緒に描かれている。

それにしてもまさかこいつ、俺に作らせた服を
癒し子様に献上でもするつもりか?いくら俺の腕が
良くても、王宮お抱えの仕立て職人には劣るぞ。
一抹の不安を抱えて絵を眺めた。

「いや、その絵を描いたのは画家じゃなくて俺の
同僚だ。最近絵画教室に通っていて・・・」

サミュエルの言葉に耳を疑った。

中央騎士団のエリート騎士が絵画教室?何の冗談だ。

サミュエルのようにガタイのいい筋肉ダルマが、
背を丸めて縮こまりながら筆を持ちキャンバスに
向かってちまちまと絵を描いている姿が俺の脳裏に
浮かんだ。

突然侍女服を俺に頼んできたサミュエルといい、
絵画教室に通う騎士といい、一体中央騎士団で何が
起きているんだ。

こんな奴に国と王族の安全を預けておいて本当に
大丈夫なのか?そう思いながら口を開く。

「おい、サミュエルさんよ。仮に俺がこの服を
作るとしてだ。出来上がったこれを一体どうやって
癒し子様に渡すつもりだ?不敬罪で取っ捕まるんじゃ
ないか?罪人を捕まえる側のお前が、だ。」

「いや、ユーリ様に着てもらえれば最高だけどそれは
無理だろう?だから剣術練習用の木人型にでも
着せて寮の娯楽室に飾ろうかって話がみんなからも
出ていて」

三馬鹿の一人が騎士じゃなく本物のバカになった。

それにそのバカはどうやらこいつだけでなく騎士団の
他の騎士達もらしい。

本当に、一体どうした中央騎士団。

「やめろやめろ!俺達街の人間が尊敬して憧れる
中央騎士団像をぶっ壊すんじゃねぇよ‼︎
そんな変態じみた妄想に付き合ってられるか、
これは没収する!ちょうど今、街に新しく出来る
食堂だか居酒屋だかの女性従業員の服を作るように
頼まれてるから、これはそっちで使わせてもらうぞ。
癒し子様のお仕着せ姿を妄想したいんだったら、
木人型に着せてうっとりしてないでこの服を着た
女の子達を見に食堂に食いに来い!その方がまだ
マシだ‼︎」

そう言ってサミュエルの出してきたデザイン画を
没収する。そんなあ、と情けない声を上げた奴と
あーだこーだ話していると、店の扉に付けている
鈴がチリンと鳴った。

「お取込み中すみませんが・・・」

顔を覗かせたのはなんともう一人の幼馴染のダドリー
だった。お互いに仕事が忙しい俺達三人が顔を
揃えるのは珍しい。

サミュエルとダドリーも、互いに目を丸くして
驚いていた。

「ダドリー!久しぶり、元気だったか⁉︎ここには
良く来るのか?」

サミュエルがガシッ!と騎士団風の荒々しい抱擁で
神官姿のダドリーに挨拶をした。それを痛そうに
受け止めたダドリーは苦笑している。

「今日はたまたまだよ。街に画材を買い足しに出た
ついでに、マルクに依頼したいものがあって。」

ダドリーは昔から絵が得意で、神殿でも書写係と
いう教典を写し取ったり宗教画を描いたりする
部署にいると前に教えてもらったことがある。
今日も小脇に抱えている紙袋からは絵筆が数本
のぞいていた。

「神官様が街のしがない仕立て屋に一体何を頼むって
言うんだ?」

不思議に思ってそう聞けば、ダドリーはかすかに
その頬を朱に染めて話し出した。

「マルク、癒し子様って知ってる?」

・・・ん?全く同じ会話をついさっきサミュエルと
したばかりだ。

「いや、そりゃ知ってるさ・・・王都に住んでて
あの夜を経験してんだから・・・」

何だ、まさかこいつまで癒し子様に侍女服をとか
言い出さないよな?

恐々と返答をすれば、ダドリーが続ける。

「実は先日、姫巫女のカティヤ様が王宮の癒し子様を
訪ねる際の神官団の一人として僕も書写長様に同行を
許されたんだけど。」

その言葉にサミュエルがクワッ!と目を見開いた。

「マジかお前‼︎カティヤ様とユーリ様の並んでる
姿を見たのか⁉︎どうだった⁉︎」

その言葉にダドリーがうん、と頷きその時の事を
思い出したのか頬を更に赤くしてうっとりとした。
正直気持ち悪い。

「尊い・・・」

「「は?」」

サミュエルと二人でぽかんとする。そんな俺達に
構わずダドリーは夢見る乙女のような表情で続けた。

「あのお二人が互いに隣同士に座って、手を握りあい
微笑みながら話している姿はもう、尊い以外の
何物でもなかったよ・・・。まるで天の園で女神の
語らいを聞いているようだった・・・。」

なんだその感想。聞いていてもよく分からない。
だけどサミュエルは分かる気がすると頷いている。

「カティヤ様は神殿でお過ごしの時もかなり無邪気に
振る舞われる方ではあるけど、あの時も相当で」

「まさか!お前‼︎見たのか⁉︎噂の!アレを⁉︎」

サミュエルが力いっぱい大声を出し、それを受けて
ダドリーがまた乙女のように頬を赤らめて頷いた。
何なんだ一体。





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