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第十四章 手のひらを太陽に

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モリー公国への同行を頼んで一通りの説明を聞いた
シェラさんはふーん、と顎に手を当てて考え込んだ。

「何か気になることはありますか?」

「この国は任務や軍事訓練で行ったことがないので
詳しい内情まではオレも分かりかねますが・・・
出来ればユーリ様が癒やし子という事を隠したまま
訪れることは可能でしょうか?」

「え?」

「リオン殿下の話から察するに、モリー公国のような
小国がルーシャ国の有名な癒やし子を大々的に歓迎
してそれを迎え入れるとなると、周辺国を下手に刺激
する恐れがありますね。できればそれは避けた方が
よろしいかと。」

そんなこと考えても見なかった。ていうか、どうして
そういうことになるんだろう?目を丸くした私に
シェラさんは地図を差し示した。

「モリー公国と大河を隔てての隣国バロイは公国を
建てた大公閣下の出身地でモリー公国を属国において
いた国です。旧宗主国を差し置いてモリー公国が先に
癒やし子を招いたとなればプライドを刺激して公国に
対して悪感情を抱かせるか、下手に口出しをされる事
も考えられますので。恐らくバロイ以外の周辺国も
そう思うところがいくつか出てくるでしょう。」

「何百年も前に国がわかれているのにそう思ったり
するものなんですか?」

「王族というのはプライドが高いものです。その意識
はたかだかニ、三百年程度では改まったりはしない
ですよ。ちなみに今ルーシャ国を訪れているその
宰相殿にはバロイとの関係についても聞いてみたので
しょうか?」

それについてはリオン様は何も言っていなかった。
リオン様のことだから多分聞いているとは思うけど。

「私が行くことで周りの国に影響があるかもなんて
考えたこともなかったです。だからといって助けを
求められたのを断るのもイヤですし・・・」

そしてモリー公国に来たならついでにウチにも、
みたいにその周辺国あちこちに引っ張り回されて
ルーシャ国に帰るのが遅れるのも嫌だ。

そんな事になったら同行してくれるリオン様や護衛の
騎士さん達にまで迷惑がかかる。

「でもリオン様も同行するのに私の存在を隠すなんて
出来ますかね・・・?」

「そこは普段それほど交流がない国や地域を訪れる
というのが良い方向に働くと思いますよ。」

どういう意味だろう。

「逆に考えるんです。癒やし子ユーリ様の訪問に
殿下が同行するのではなく、珍しい薬花に興味を
持った殿下が公国を訪問するのにお気に入りで片時も
手放したくない少女を伴った事にすればいいんです。
幸いモリー公国やその周辺国はこちらとの交流も薄く
癒やし子自体は有名でも、直にユーリ様を見たことの
ある者は少なく本人だと気付かれる可能性は少ない
でしょうし。」

それはリオン様の恋人的な位置付けで私が同行する
ってこと・・・?

びっくりするようなシェラさんの提案にぽかんと
する。

「それであれば周辺国もそれほど我々に目を向けない
でしょうし、オレを含めた騎士の何人かは薬花の
取引に関係して同行する商人にでも変装すれば護衛の
数も少なく見えて周りから警戒もされないでしょう
しね。」

「周りに波風を立てずにモリー公国を訪れることが
出来るなら私はなんでもいいですけど、それだと
リオン様が他国の訪問にまで視察に無関係の恋人を
同行するような女性好きに見られませんかね・・・?
しかもこんな歳の離れた女の子・・・」

気掛かりなのはそれだ。いつだったかリオン様が
こっそり教えてくれたけど、レジナスさんは私の
ことを好きだと自覚するまでは、私との歳の差から
自分のことを少女趣味の変態になってしまったと
相当悩んでいたという。

少し位歳が離れていたって誰もそんな目で見ない
のにね?とその時のリオン様は笑っていたけど、
下手をしたらモリー公国やその周辺国の何も知らない
人達に今度はリオン様がそういう目で見られたりは
しないだろうか。

そう心配した私にシェラさんは、

「ではオレから殿下にこの事を提案してみます。
恐らく快く了承していただけるはずですよ。」

なんて言っていたけれど。

その日の夕食で顔を合わせたリオン様はあっさりと

「シェラから話は聞いたよ。面白い事を考えるね、
僕もそれでいいと思う。」

快諾されてしまった。

「いいんですか⁉︎リオン様の評判に傷を付けるんじゃ
ないですか⁉︎」

わざわざ他国にまで自分のお気に入りの少女を同行
させるとか、とんだ女好きだと思われてしまう。

「たいしたことじゃないよ。何を噂されようとも
結局僕とユーリが伴侶なのは変わらないし。それに、
隣国バロイとモリー公国の関係性を考えてもシェラが
懸念しているように癒やし子がモリー公国を訪問する
というのはあまり公にしない方が良さそうだ。」

「それはやっぱり、モリー公国に対してバロイ国が
まだ属国のような目で見ているからですか?」

「宰相殿の話では、跡取りになった第三王子が病弱
なためにバロイから補佐役に摂政を遣わそうだとか、
早々に後継者をもうけて国を安定させるためにも
バロイの王族の姫を嫁がせようかなどの申し出も
して来ているらしいよ。」

なんというか将来的にモリー公国がバロイの王族に
乗っ取られそうな危うさがあるよね、とリオン様は
笑っているけど・・・。

「だからそんな状況で癒やし子がモリー公国を訪れた
とバロイが知れば、ルーシャ国と親しく交流を持って
薬花の再生で借りまで作り、モリー公国はこの先
バロイよりも恩情を感じたルーシャ国の言いなりに
なるのではと疑われるかも知れない。」

「え?それって結局お家騒動的なゴタゴタじゃない
ですか?そんなのないって話でしたよね?」

「どうも昨日の宰相殿の態度が気になったんでね。
今日は父上もお茶に同席させてみたら楽しい時間を
過ごせたよ。」

「国王陛下まで巻き込んだんですか⁉︎」

何をしてるんだろうか二人とも。

「ユーリを他国に訪問させるんだから心配の種は
いくらでも潰しておきたかったからね。父上も
ユーリのためならと乗り気でやって来て、お茶と
間違えてうっかりお酒を勧めていたなあ。」

おかげで話が早かった。そう笑うリオン様が怖い。

いや、陛下それ絶対わざとお酒を勧めたでしょ?
お酒で口を軽くして国の内情を聞き出すとかバレたら
国際問題になったりしないのかな⁉︎親子揃って一体
何をやっているのか。

青くなった私の考えを見透かしたように、やだなあと
リオン様は笑う。

「大丈夫だよ、父上のお酒は上等な一級品だからね。
翌朝には
すっきりと気持ち良く目覚められるものだよ。前日の
悪酔いやこぼした愚痴のことなんて、から。」

こっわ。陛下やリオン様と同席する時は間違っても
お酒に口を付けないようにしよう。そう心に誓った。


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