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第十五章 レニとユーリの神隠し

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イカサマ勝負でレニ様に勝ったキリウさんはご満悦で
また私を自分の馬に乗せた。

「魔物に足止めくらったけど、夕方までには鉱山へ
着くからね。そしたらちゃちゃっと魔石を手に入れて
しまおう!」

キリウさんの言葉にレンさんも頷く。

「この先は前に俺達が大物の魔物を倒してしまってる
地域だからもうそんなに邪魔は入らないと思うよ。
小さい魔物はいくつか出会うかもしれないけど、
その程度ならすぐに追い払えるしね。」

レニ君達の親御さんが心配するだろうし早く用事を
済ませちゃうよ、と並行して走る馬の上でレンさんは
言った。そしてレニ様はその馬の上で私に、

「見ろユーリ!勇者様にもらった‼︎賭けに負けたって
言ったらお詫びにくれたんだ‼︎」

そう言ってさっき炎狼から回収した赤い魔石を幾つか
見せてくれた。

「ユーリちゃんも、キリウさんが迷惑をかけて
ごめんね。迷惑料代わりに受け取ってくれると
嬉しいんだけど。ヨナス神の力を借りた炎狼から
取れる魔石は珍しいし、いい魔道具が出来るよ。
もちろん、ただブローチや剣の柄飾りにしても
いいと思う。」

あはは・・・と申し訳なさそうに笑ったレンさんは
キリウさんがイカサマ勝負をしたのに薄々気付いて
いそうだ。

「ありがとうございます。良かったですねレニ様。
勇者様からのプレゼントだなんて、賭けに負けて
かえって良かったのかも。」

「そっ、そうか⁉︎でも負けたのは悔しいからまた
勝負したい!次は絶対勝つ‼︎」

そう宣言したレニ様はキリウさんをキッと睨んだ。

「オレはいつでも大歓迎だよ~。賭け仲間が増える
なんて嬉しいな。」

キリウさんは笑って受け流しているけどやめて
くれないかな?これでレニ様が賭け事にハマったら
大変だ。

「ダメですよレニ様!賭け事が好きな大人なんて
碌なもんじゃありません。キリウさんを見て下さい。
女の子にもモテなくなっちゃいますからね、その魔石
で満足して下さい!ピカピカに輝いていてとっても
素敵じゃないですか‼︎」

物事はなにごともほどほどが良い。

そう思って注意をすれば私の後ろでキリウさんが
慌てた。

「え・・・さすがにそれは辛辣過ぎない?やっぱり
さっきの勝負のこと根に持ってる⁉︎」

当然です、と頷く私にキリウさんは「次はもっと
真面目に賭けるよ⁉︎」と弁解したけど賭けに真面目も
何もない。賭けるなという話だ。

そんな私達をレニ様はチラチラ見て、

「ユーリもこの魔石が欲しいのか?でもこれは俺が
勇者様からもらった物だからな、どうしようかな」

なんて言っている。さっき私が魔石を褒めたから、
どうやら私も欲しくて羨ましがっていると思った
ようだった。

でも私はレニ様みたいな子供からせっかく貰った物を
ねだって欲しがるような鬼じゃない。

「私は大丈夫ですよ、それはぜひレニ様が自分で
使って下さい!」

そう言ったのに、

「そうか⁉︎そんなに欲しいのにやせ我慢することは
ないんだぞ⁉︎お前がどうしても欲しいっていうなら
俺だって叔父上みたいにお前に装飾品の一つや二つ
プレゼント出来るんだからな!」

真っ赤になって胸を張って威張られた。

「え?いや、いいですよ、せっかくレニ様が勇者様
からもらった物なのに・・・」

断ろうとしたら、キリウさんが私の肩をつついて
囁いた。

「いいからいいから。そういう時は黙って受け取って
おくのがいい女ってもんだよユーリちゃん。」

「ええ・・・?」

なんでだ。しかも女の子に逃げられてばかりの
キリウさんに女心の心得みたいなものを説明されても
説得力がない。

だけどなぜかレンさんまでそんな私とレニ様を見て

「青春だねー、初々しくてなんかほのぼのして
きちゃう。レニ君、それでぜひユーリちゃんに似合う
素敵なアクセサリーを作ってあげてね。」

と言ってレニ様を撫でている。勇者様のお墨付きで
私に魔石をあげてもいいという許可をもらったレニ様
はまた頬を紅潮させてはい!と良い返事をした。

そのまま嬉しそうに魔石をいじっていたレニ様だった
けど、ふと疑問を口にした。

「あの・・・勇者様はどうしてわざわざ王都から
離れたこんな場所にある魔石を取りに来たんですか?
魔石鉱山ならもっと他にもあるだろうし、王都の
近くにもいい魔石の取れる所があるんじゃ・・・」

そう言えばそうだ。ここまでは王都から4日もかかる
って話していたっけ。

「俺達が今から行く鉱山にある魔石はちょっと特別
なんだよ。他にはない変わった魔石があるんだ。」

レニ様の疑問に答えてくれたレンさんにキリウさんも
頷く。

「そうそう。偶然見つかったやつなんだけど面白い
よ~。魔力を当てるとそれを増幅して反射してくれる
魔石なんだから。うまく使うと自分の魔力を何倍にも
増幅して魔法を使えるんだよ。」

魔道具として加工された物ならその手の物はある
らしいけど、加工前の天然の魔石の状態でそんな物は
すごく珍しいらしい。

レニ様も、そんな鉱山があるなんて聞いたことない。
と呟いていた。

王子様でルーシャ国について色々勉強しているはずの
レニ様が知らないなんて私達の時代のルーシャ国には
もうその鉱山はないんだろうか。

百年の間に採掘され尽くしてしまったなら、すごく
貴重な魔石だ。

それに魔力を増幅する魔石なら、それをうまく利用
すれば私とレニ様が元の世界に戻るのにも役立ちそう
な気がした。

「レンの奴がルーシャ国にいる大型で凶悪な魔物や
魔竜をあらかた倒してくれたからね。おかげで今まで
人が行けなかった場所にも行けるようになったわけ。
で、今回の魔石もそんな場所の一つを探索してた奴が
見つけてくれたんだよ。」

キリウさんの説明にレンさんがはにかむ。

「倒したって言っても俺一人じゃありませんから。
キリウさんがいてくれたおかげですよ。」

「ちょっとレン君、良いこと言うねぇ~もっと言って
もいいんだよ?お礼に三代先までお前に仕えるように
言い伝えておくわ!オレとユーリちゃんの子供から
子々孫々に至るまでな‼︎」

またどさくさに紛れて明るい家族計画を語っている。
油断も隙もない。

そんな風にふざけるキリウさんを適当にあしらったり
この時代のルーシャ国の人達の生活の様子を聞いたり
時には小型の魔物が出てそれをレンさんやキリウさん
が追い払ったりしながら馬は進んだ。

そして気が付くといつの間にか周りの風景が砂利や
石ころだらけのひび割れた地面で草木もまばらな
岩山だらけのものに変わっていた。

目の前にはそんな岩山の中でも一際大きく寒々とした
雰囲気の岩山が、まるで私達を招き入れるかのように
ぽっかりとその洞窟の口を開けている。

「見本の魔石を取ってきてくれた者が言うには、
魔石を手にしたらそれまで静かだった鉱山の奥の方
から途端に何かの叫び声みたいなものが聞こえてきた
らしいよ。その恐ろしさに後ろも振り返らず一目散に
逃げてきて僕にそれを献上してくれたんだ。」

レンさんはそう教えてくれると腰の剣を差し直す。

「声だけで誰もその正体を見てないから、まあ
運が良ければ出るのは魔物じゃなくて野犬の類いって
こともあるかな?」

ホントに土竜が出て来るのはゴメンだよとキリウさん
は笑った。

「俺が先頭になるからレニ君とユーリちゃんはその
後ろをついてきて。キリウさんは一番後ろからお願い
します!」

そう言ったレンさんを一番前にして、私達は薄暗い
鉱山の中へと足を進め始めたのだった。


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