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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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火山の噴火騒ぎで別宮で過ごす日にちが思いがけず
伸びてしまった。

おかげでオーウェン様のお城に戻る日も遅くなり、
その分王都まで戻るのも遅れることになる。

「リオン様に心配をかけてなきゃいいんですけど」

別宮からお城へ戻れば、レジナスさんやシェラさんが
王都を空ける期限にも限度があるので残りの滞在日を
あまり長く延期も出来なかった。

お世話になったお礼にせめて穀倉地帯に加護だけは
付けたかったので最低限それだけはこなしたり、
本当は魔石鉱山にも出掛けて魔石に祝福をかけて
レンさんがしたみたいに魔物避けの結界石作りもして
みたかった。

なのでそれについてはオーウェン様にお願いをして、
とりあえずお城に集められるだけありったけの魔石を
集めてもらってそれに加護をつけた。

そしてすぐにユリウスさんに魔物避けの魔法をかけて
もらって魔物避けの結界石にしてもらう。

「人使いが荒いっす!」

こんもりと小山のように積み上がった魔石を前に
ユリウスさんはそう声を上げた。

レジナスさんやシンシアさん達は帰り支度に向けて
席を外している。

なので集めてもらった魔石に加護をつける作業を
しているここには護衛のエル君に絶対私のそばから
離れないシェラさん、作業に協力してもらいながら
ブーブー文句を言っているユリウスさんがいる。

そう文句を言ってるけど人助けになるんだから
ちょっとくらいはいいんじゃない?

「大丈夫ですよ!疲れたら私が癒しの力で回復させて
あげますからどんどんやりましょう‼︎」

「それのどこが大丈夫なんすか⁉︎溶岩を止めた上に
温泉を湧かしたり橋を作ったり穀倉地帯に加護を
付けたり、ここに来てからのユーリ様って後半は
ほとんど働いてるじゃないっすか。その上俺まで
使ってまだ働くとか、働き過ぎっす!全然休暇に
なってない‼︎」

「だって私に出来ることがあるのにしないで黙って
いるのは何だか落ち着かなくて・・・」

思わず自分に出来る仕事を探して働いてしまうのは
社畜根性の名残りだろうか。

疲れたら回復させてまた働かせるとか奴隷労働の
極みっす!と言うユリウスさんに手を触れて、文句を
言われた端からつい癒してしまった。

そんな私にシェラさんが手を取って上着をかけて
くれながら囁く。

「ユーリ様、まだまだ冷えますから暖かな物をきちん
と羽織って下さい。それからあまり頑張り過ぎないで
ください。心配でお部屋の中へ閉じ込めてしまいたく
なります。」

「だ、大丈夫ですよ⁉︎」

妙な色気を持って耳元で囁かれると落ち着かない。

そんなそわそわする気持ちを断ち切るようにハキハキ
と答えた私に構わずシェラさんはさらに耳元へ近付き

「・・・耳もお手も冷たいですよ。伴侶にさえして
いただければ、いつでもオレの胸を開いてユーリ様を
この身で暖めて差し上げられますのに。いかがです?
はいと言っていただけますか?」

体温を確かめるように唇がそっと耳たぶに触れて
またそう囁かれた。

「過剰接触です‼︎」

両耳を押さえてパッと離れて注意をすれば、平然と
シェラさんは微笑む。

「白いうなじや首筋まで赤く染まって可愛らしい
ですね。ユーリ様にそのように意識をしていただける
のはとても光栄です。やはりユリウス副団長の言った
事は一理ありました。」

「俺っすか⁉︎」

突然の流れ弾にユリウスさんが目を剥いた。

「そんなにユーリ様にベタベタしろとか、俺は
一言も言った覚えはないっすよ⁉︎」

ユリウスさんはシェラさんに一体何を吹き込んだ
んだ。耳を押さえたままじろりと見れば誤解っす!
と首をぶんぶん振られた。

「言ったではないですか。いつもと違う視点や角度
から物事を起こされると人はそれを意識すると。
実に有益なアドバイスでした。」

そういえばコーンウェル領に来る前にシェラさんは
そんな事を言っていた気がする。

あれって私に対する態度のことを言ってたのか!

いや確かに大袈裟なくらいの美辞麗句をシェラさんに
言われ慣れてたところに突然こんな事をされると
面食らうけど。

「だからって色仕掛けをしろとか俺は言ってない
っすからね⁉︎言葉の解釈違いっす‼︎」

誤解ですから!と必死にユリウスさんは私に目で
訴えてくる。

リオン様にだけは言わないで!と言う心の声が
聞こえてきそうな切実さだ。

そんな必死なユリウスさんを見ながらふーん、と
シェラさんは意にも介さず私の後ろに立つとぽんと
両肩に手を置いた。

「今度は何ですか?」

後ろに立たれると表情が見えないから何を考えて
いるのか分からなくて怖い。

「色仕掛けと言うか、ユーリ様のお心を動かそうと
オレなりに頑張って誘惑しているのは事実なので
それはまあいいのですが・・・」

「良くないですよ⁉︎」

「認めるとかいよいよ頭がおかしいっす‼︎」

私とユリウスさんの驚きにもシェラさんは動じない。

失礼します、と言うと肩に置かれていた手がぱっと
離れた。

「あなたのアドバイスが有益であった証拠をお見せ
しましょうか。」

言いながら背後からきゅっと抱き締められた。

そしてさっきのように耳元に顔を寄せて囁かれる。

「どうですユーリ様、オレにこうされるとイヤだと
感じますか?気持ち悪くて鳥肌が立ったり、今すぐ
オレを突き飛ばして離れたいと思ったりしますか?」

「そ、それはないって言うかそんな事まで考えられ
ないですよ⁉︎ただただ恥ずかしいだけです・・・!」

「告白をしなければこのように頬と頬が触れるほど
近付いたりこんな風に抱き締めたりなど畏れ多くて
出来ませんでしたが、思い切って気持ちを伝えて
良かった。おかげでこうして堂々とユーリ様へ触れる
ことが出来ます。」

「告白したからって何をしてもいい訳じゃないと
思いますよ⁉︎振り切り過ぎでしょう⁉︎ていうか、
開き直り⁉︎」

目の前ではユリウスさんがそんな私達を見てみるみる
顔を赤くしていく。

エル君はなんで止めてくれないのか。

「こうして抱き締めてみるとそのか細さがよく分かり
ますね。オレの両腕に余るほどのその頼りなさに、
愛しさがより一層増して来ます。」

「だからどうして突然こんな事を⁉︎」

「・・・ああ、つまりこのような事を例えば目の前の
ユリウス副団長にされたとしたらどうです?オレに
感じたのと同じく恥ずかしくなりますか?」

え?ユリウスさんに?何がなんだか分からないまま
目の前のユリウスさんを見れば目が合う。

「・・・いや、ユリウスさんはないでしょう⁉︎
恥ずかしいとかよりも意識した事がないからこんな
事されるとか有り得ないですよ⁉︎」

ないですから!と反射的に声を上げれば、

「だから団長の時もそうっすけど俺をユーリ様の
告白試験紙みたいに扱わないでくれません⁉︎
即答するその言い様がいちいちヒドイんすよ毎回‼︎」

傷付くっす、とユリウスさんに抗議された。

そこでやっとシェラさんから解放される。

「ね?お分かりになりましたか?ユーリ様はオレの
行動に動揺して気恥ずかしさは感じても嫌悪感は
なく、それがもしユリウス副団長ならば有り得ないと
思うほどには彼を男性として見ることは拒否して
おられるのです。」

「アンタもユーリ様に負けず劣らずヒドイ事を言う
っすね⁉︎いやそんな人だって分かってたけど‼︎」

ユリウスさんが噛み付くようにシェラさんに声を
上げたけど、それを綺麗に無視してシェラさんは
続ける。

「彼のアドバイスを元にこうして普段以上に接触して
みなければ、その違いがユーリ様にも分からなかった
でしょう?彼とオレに感じている気持ちの差。
それこそがオレを一人の男として意識している証では
ありませんか?」

そう言われるとなんて返していいのか分からない。

これはあれだ、シグウェルさんの告白を即答で
断らないってことは少しでもシグウェルさんに気持ち
があるってことだと指摘されたのと同じことだ。

今回はそれが口説き文句じゃなくて身体的な接触
だったというだけで。

「そのお顔からすると良いお返事が聞けるのも
近そうですね。」

見た人が当てられるような色気を滲ませた笑顔の
シェラさんが私の前に跪いて手を取るとその甲に
口付けて目を細めて見つめてくる。

艶然とした微笑みのその金色の瞳の奥には、その目に
捉えた獲物は決して逃さないとでも言いたそうな
獰猛さを感じる色気が滲んでいて射すくめられる。

少しでも身動きすれば飛び掛かられそうな雰囲気に、
私はどうすればいいのか分からなくなって困って
しまったのだった。



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