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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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「こんな大変な時に魔法実験をしたがるなんて、
正気の沙汰じゃないっすよ!団長には人の心って
もんがないんすか⁉︎」

そう文句を言ったユリウスさんをシグウェルさんは
鏡の向こうから眉を顰めて見つめた。

『魔法実験じゃない。お前には常識がないのか?
こんな時に俺がそんな事をするわけがないだろうが。
ヨナス神殿の魔石を無効化する方法を考えたんだ。』

魔石を無効化?そんなことが出来るの?

それはぜひ聞きたい。「団長に常識を説かれるなんて
・・・!」と震えているユリウスさんを尻目に私は
声を上げる。

「それ、知りたいです!私もあの魔石をどうすれば
いいのか見当がつかなくて困ってました!」

だろうな、とシグウェルさんは頷いた。

『昨日の君の話からして魔石をどうにかしなければ
あの霧は無くならないだろうという事は想像できた。
ただ、今まで通りグノーデル神様の力でそれを何とか
しようとしてもその場合、周囲に相当な被害が出る
はずだ。君の事だからそれをどうするべきか悩んで
いたのではないか?』

なにもかもお見通しだ、話が早い。

でもそれとシグウェルさんが私にして欲しいらしい
『面白いこと』ってどう関係があるんだろう。

『以前俺が君の首のそのチョーカーを外そうとした
ことがあっただろう?』

そういえばそんなこともあったっけ。あまりにも
ヨナスの力が強過ぎて結局あの時は外すどころか
逆にシグウェルさんが怪我をしたけど。

『あの時俺は自分の持つ魔力に宿るイリューディア
神様の力を最大限に引き出して解呪に当たった。
チョーカーから飛び出してきたヨナス神の力を
絡め取って無効化したのもそれだ。それと同じことを
君がやればいい。そうすれば理屈の上ではグノーデル
神様の力を使わずともヨナス神の力が宿る魔石を
無効化できるはずだ。』

自分でも出来たのだから、イリューディアさんの
加護が強い私ならなおさらヨナスの力を相殺できる
はずだとシグウェルさんは言う。

「でも集落全体を漂う霧を作り出しているくらい
あの魔石が持つ力は強いですよ?この大きさの私でも
うまく行くと思います?」

不安に思えばシグウェルさんはそこでまたあの瞳を
煌めかせた。

『だから今の君の力を増幅出来るものを作った。
それで増幅した力をあの魔石にぶつけて壊せば霧も
なくなると思ったからな。』

「作った?魔道具ですか?」

そう聞けば、

『どちらかと言えば神殿の祭具に近いか?ファレル
の神殿ではイリューディア神様の力を込めた祭具の
音の響きでヨナス神を抑え込んでいると聞いたから
それを元にしてみた。氷瀑竜の魔石で作り上げた
鐘だ。』

その言葉にユリウスさんが「はぁ⁉︎」と声を上げた。

「あ、アンタ、まさかあの竜の心臓が結晶化した
貴重なやつを加工しちゃったんですか⁉︎鐘って・・・
どれくらいの大きさのやつを作ったんすか⁉︎まさか
全部⁉︎ていうか魔力が増幅できる祭具もどきなんて、
竜の鱗にも夜通し加工をしてたはずなのにいつの間に
そんなものまで⁉︎」

まさか殿下に無断で⁉︎と青くなったユリウスさんを
小馬鹿にしたような冷たい目で見たシグウェルさんは

『無断なわけがないだろう、常識で考えろ。きちんと
リオン殿下とヒルダ殿の許可は得てある。』

そう言い、ユリウスさんは「また団長に常識を
説かれたっす・・・!』と震えていた。

そんなユリウスさんを尻目にシグウェルさんは
私に向き直ると、

『君、昨日は霧や人の救助については話していたが
肝心の神殿内部の魔石をどうするかについては触れて
いなかっただろう?だからそれについて俺も何か
出来ないかと思って考えておいたんだ。竜の鱗への
加工も思いのほか早く終わってする事もなくなって
いたしな。』

そんな事を言う。

「え?でも何人分の鱗が必要かはさっき起こされて
から聞いたんですよね?」

『そんな物50もあれば足りるだろう?いつでも
転送できるよう、仮眠の前にすでに50枚ほどは
加工済みだ。後は連絡が来たらすぐに送れるように
しておいたおかげで、ギリギリまで仮眠が取れた。』

薄く笑って満足そうなシグウェルさんに、

「マジで団長、サボるための手間は惜しまないっす
よね・・・。」

ユリウスさんは呆れている。私のノープランぶりを
見越してそこまで準備をしていてくれたなんて有能
過ぎる。なんてありがたいんだろう。

続けてシグウェルさんは話す。

『過去の世界に君がレニ殿下と迷い込んだ時に、
一つ目巨人のいた魔石鉱山にあった魔石や、巨人が
変化した魔石は魔力を増幅させるものだったろう?
ヒルダ殿に贈られた物も高位魔物が変成して出来た
魔石だ、同じような加工が出来ないかと思ってやって
みたら案外簡単に成功した。』

なんでもないことのように言ってるけど、それって
そんなに簡単に出来るものなの?

ユリウスさんを見れば思い切り首を横に振っている。
やっぱりシグウェルさんだからこそ出来たこと
なんだろう。

『だからあとは君が魔物祓いの力を乗せて叩けば、
本来の姿での力を出せずとも増幅されて反響する
その鐘の音が君の魔力を底上げしてくれて、ヨナス
神殿の魔石の威力を相殺してくれるのではないかと
思っている。』

どうだ、面白いだろう?そう言って目を細めた
シグウェルさんは自分がその場に立ち会えないのが
残念だと言いながらも楽しそうだ。

その様子にユリウスさんは、

「団長が面白そうにしてる出来事なんて絶対ロクな
もんじゃないっす、これのどこが魔法実験じゃない
って言うんです⁉︎恐ろしい・・・」

と愚痴をこぼした。

「えーと、それはつまり私の使う力に全てがかかって
るってことですよね?絶対に失敗出来ないのにそれが
ぶっつけ本番なんて大丈夫かな・・・」

迷う私にシグウェルさんは鏡に映っていない範囲に
手を伸ばすとそこから何かを取り出した。

手のひらサイズの水色の綺麗な水晶・・・
魔石の塊だ。例の氷瀑竜の心臓から出来た魔石の
かけららしい。

『よく見ておけ。魔法はイメージだ。君の鳴らす
鐘の音はこれが大きく広く拡がるものだと思えば
いい。』

そう言って細い鉄の棒のようなものでそれを叩いた。

キーンという澄んだ音が反響しながら、鏡のこちら側
にいる私達の体にまで染み入るように聞こえてきた。

とても綺麗な音が部屋の中を満たすように広がり、
同時に薄水色の淡い光がシグウェルさんの叩いた
ところから波のように広がって消える。

「綺麗ですね・・・!」

『今は俺の魔力で鳴らしてみせたが、君もこんな風に
鳴らすんだ。音の大きさやその広がりは君の祈りの
力具合によってこれとは違うだろうが、使う力を
何倍にも増幅して神殿内の魔石へとその音を届けて
くれるはずだ。』

そう説明される。それでヨナスの力が込められた
魔石を壊せるならありがたい。

なにせ私は一つもいい案が思い浮かばないんだから。

不安はあるけどシグウェルさんの考えてくれたこの
案を成功させるしか今は他に手がない。

「頑張ります・・・!」

しっかり頷けば、シグウェルさんは満足気にすぐに
氷瀑竜の魔石を転送しよう、と微笑んだ。

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