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番外編

マッシュルーム・ハンティング 1

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※時系列的にリオネルの港町でのシェラやシグウェルとの休暇から帰ってきた辺り、「ふしぎの海のユーリ」の後の話です。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ユーリ、準備は出来たか?」

私の寝室の扉をノックする軽い音と共にレジナスさんがそう声を掛けてきた。

その声に慌てて「いいですよ!」と返事をして、リオン様との共有の部屋へと急ぐ。

ぱっと扉を開ければ目に飛び込んで来たのは、いつもの黒一色の騎士服とは違って白シャツ黒パンツ姿に茶色い革ベストのような物を着ているレジナスさんの姿だ。

腰にはいつものように双剣が見えるけど、指の部分を抜いた黒い革手袋の手には弓の入った筒も持っている。

「弓矢も持つんですか?」

そう聞けば、

「立ち寄り先には湖もあるからな。時期的に脂の乗った鴨も獲れるはずだ。」

と頷かれた。そこへリオン様も、

「やあ、二人ともすっかり準備万端だね。それじゃあそろそろ行こうか?」

とにこやかに声を掛けて来た。

こちらもいつもの王子様然とした白を基調にしたかっちりとした服ではなく、濃いグレーのシャツに黒ベストと黒いパンツ姿でなんだか新鮮だ。

いつも清廉潔白を絵に描いたような白い服を着ているリオン様の、黒を基調にした服装のギャップにうわあ・・・!と目を奪われる。

白い服装も似合うけど、黒い服もよく似合う。

笑わないシグウェルさんが笑った時もそうだけど、普段と違う服装をしたリオン様にも弱いとか私のギャップ萌えも進行している気がする。

いつもの剣とはまた別に、短剣もその腰に差しながら自分を見つめる私の視線に気付いたリオン様は、

「何?見惚れてるの?」

とくすりと笑った。

「リオン様のそういう格好は珍しい気がして・・・」

「遠乗りだし狩りだからね。白は獲物に気付かれやすい上に汚れたら目立つでしょう?」

そう答えられ、なるほどと納得した。

今から私達三人に護衛のエル君を加えた四人で王都近郊の森へ狩りと遠乗りに出掛ける。

リオネルの港町へシェラさんシグウェルさん達と出掛けるかわりにリオン様やレジナスさんとも後で三人だけで出掛けようと約束していたあれだ。

遠乗りをして綺麗な景色を楽しんで、狩った獲物を調理して食べる。

「一応日帰りの予定だけど、突然雨に降られたとか何か不測の事態になった時は湖の近くの高台に王家所有の別邸があるから。予定が変わって日帰り出来ない時はそこに泊まれるようにもしてあるからね。」

玄関に向かって歩きながらリオン様はそんな風に教えてくれた。

「護衛の騎士さん達はエル君の他にいないんですか?」

玄関についてもそこにいるのは三頭の馬を引いてきてくれた馬番さんだけで、護衛らしき人達は見当たらない。

「シェラ達との休暇にも護衛は最低限だったでしょう?今回もそうだよ。レジナスとエルがいればそれ以上はないってくらい心強いし。」

なるほど。私は一人で馬に乗れないのでリオン様かレジナスさんのどちらかと一緒に乗るとして、三頭目の馬はエル君の分だったのか。

納得していればいつの間にかエル君も私の後ろにいて「よろしくお願いします。」とリオン様達に頭を下げていた。

「それじゃ行こうか」

ひらりと軽やかに馬に跨ったリオン様に促され、私を抱き上げたレジナスさんは当然のようにそのリオン様の前に私を座らせた。

「帰りはレジナスの馬に乗ろうね」

と後ろから囁いたリオン様は、抱きすくめるようにしっかりと私を支えると馬の横腹を蹴る。

そうして出掛ければ、その日の天気は上々で木々の緑の合間から覗く青空に太陽の光が輝き小鳥のさえずりも賑やかだ。

途中、たくさんの花が咲き乱れる花畑のような開けた所や苔むした木々の間に小さな滝が流れ落ちる場所で小休憩を挟みながら馬を進めて行く。

そうして湖が近付いて来た辺りでは早くも頭上を飛ぶ鴨を見つけたらしく、リオン様とレジナスさんはそれぞれ素早く矢をつがえると見事命中させていた。

「回収して来ます、湖畔で合流しましょう」

そう言ったレジナスさんは鴨の落ちていく先もしっかり把握済みらしく迷わず真っ直ぐに馬を走らせた。

まるで優秀な猟犬みたいだ。そういえばユリウスさんも、レジナスさんは私やリオン様に何かあれば容赦なく相手に噛みつき襲ってくる黒い忠犬みたいなことを言ってたなあ。

「先に行って火の準備でもしておこうか。レジナスのことだから僕らに合流する頃にはもう一つ二つ、獲物を増やしてやって来るかも知れないよ。」

そう笑ったリオン様は湖畔に着くと手際よく火を起こす準備を始めた。

「王子様なのに手慣れてますねぇ」

焚き火一つ起こせない私はリオン様の側にしゃがみ込んでその様子を観察しながら感心してそう言えば、

「ユーリが召喚される前まではたまに野営も含めた魔物討伐にも出ていたからね。これくらいは出来るさ。」

と教えてもらった。いやいや、だからって王子様自らが火起こしが出来るとか普通はないでしょう?

やっぱり元から器用な人なんだなあと魔法みたいにあっという間に火を起こした手さばきに改めて感心した。

その後もリオン様は、ダーヴィゼルドへの山越えの時のデレクさんやシェラさんみたいに手頃な大きさの石を簡単に組んだ小さなかまどのようなものを作ってその上に小鍋をかける。

そして乗ってきた馬の横腹に付けていた荷物から私達が座るための敷き物と一緒に革袋も持って来てその中身を小鍋に入れた。

革袋の中身は小さく切ったジャガイモや人参、タマネギなどの野菜だった。

そこにぱらりと調味料も入れてひと混ぜしながら、

「狩りで調達出来そうなもの以外はこうして準備して来たんだけど・・・後はここにさっきの鴨肉を入れたいね」

とリオン様は上機嫌に言う。その楽しそうな横顔を見ていると、同じく楽しそうに料理をしていた勇者様・・・レンさんのことも思い出した。

もしかしてご先祖様の血が流れているだけあってリオン様も料理好きなんだろうか。そういえば紅茶を淹れるのも上手だし。

新たな発見だ、となんだか新鮮な気持ちでいたら

「お待たせしました」

とレジナスさんが合流して来た。その馬には二羽の鴨の他に、立派な角を持つ大きな鹿も一頭縛りつけてある。

「ホントに鴨以外も獲って来たんですね!」

リオン様の言っていた通りだ。目を丸くしてそれを見つめていれば、ね?僕の言った通りでしょう?とリオン様に笑われた。

レジナスさんはリオン様が火にかけている小鍋を見ると、

「スープの準備は出来ているようですので、串焼きや他の焼き物の準備は俺がします。」

と言って獲ってきた鴨と鹿を馬から降ろした。

「あ、じゃあ鴨は僕が捌くよ。レジナスには鹿を頼もう。ユーリにはエルと二人で水を汲みに行って来てもらっていいかな?」

とリオン様に水差しを手渡される。

レジナスさんは鴨をリオン様に手渡して、鹿は脚を上にして近くの木に吊るした。

そして小鍋がかかっているのとは別に少し大きめの石組みを作ったり焚き火の準備をし始めた。

リオン様はベストの内側から折りたたみ式の小刀を取り出して鴨を片手に

「その小道を少し行った先が湖に水が流れ込む湧水のある場所になっているから。エル、案内をよろしくね。」

と私を見送る。これはあれだ、鴨や鹿を捌いているところを私に見せないようにと簡単なお使いもどきを頼んでこの場から離そうとしてくれているんだな。

そう察して素直に頷き、エル君と二人で水を汲みに行った。

「リオン様もレジナスさんも過保護なんですよね~、別に動物を解体するところを近くで見たって大丈夫なのに。」

まあ、多少は怯むかもしれないけどそれによって血を見たから気持ち悪くなって食欲が失せるとかはない。

「お二人なりの気遣いですよ。・・・あ、ユーリ様あそこです」

エル君の指し示す先に小さな溜め池のような場所とそこからどこかへと流れている小川が見えた。きっとその小川の先がさっきの湖に繋がっているんだろう。

リオン様の瞳の色みたいに深い青色をたたえる澄んだ池は、その中心辺りから一定のリズムで水と気泡が湧き上がっている。

よいしょとそこに水差しを入れれば、手に触れる水もひんやりと冷たくて気持ちがいい。

と、近くでキキッ、と小さな鳴き声が聞こえた。

「ん?」

いつの間にか近くには茶色くて小さなリスがいた。ふさふさの尻尾がかわいい。

「わっ、リスですよエル君!こんなに近くで初めて見ました‼︎」

「・・・リスは食べてもおいしくありませんよ?僕に捕まえろとか言わないですよね?」

「誰がそんなことしますか!」

エル君は私がどれだけ食い意地が張ってると思っているんだろうか。誤解もいいところだ。

「確かポケットにお菓子が入っていたはず・・・」

リスを脅かさないように静かに水差しを置いてゆっくりとポケットに手を入れる。

「ユーリ様、こんな所までお菓子を隠し持って来てたんですか」

「ひ、非常食ですよ、万が一の時のための!」

ついさっき自分の食い意地を否定したばかりなのに台無しだ。

エル君に言い訳をしながらポケットから出したクッキーを小さく割って、そうっと手のひらに乗せリスに差し出す。

リスはキョロキョロと私と手のひらのクッキーを見比べていたけどサッと素早くクッキーを取った。

「か、かわいい~‼︎」

あっという間に咀嚼して食べ終わったリスは私の手からまたクッキーを取る。

気付けば一匹だけでなく数匹のリス達が集まって来て私の手からクッキーを食べている。

ほのぼのとその様子を見ていたら、ふとその後ろの方に目が行った。

あれは・・・。

「エル君、きのこです!」

「はい?」

「あそこにきのこが生えてますよ、あれは多分食べられるやつ‼︎」

何の根拠もなく自信たっぷりにそう言った私を見る、いつも無表情なエル君の眉間になんだか珍しく小さな皺が寄ったような気もしたけど気にはならない。

今のところ狩りが出来るリオン様達と違って火も起こせない私には水汲みしかやる事がなかったけど、そんな私にも出来ることを見つけたという嬉しさにエル君に話しかける声も弾んだ。

「あれも取って行きましょう!」










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