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番外編

チャイルド・プレイ 1

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時系列的には番外編「お風呂に介助はいりません!」よりも前にあたる話です。


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「ホントに飲むんすかユーリ様。これ、モノがモノだけに他の人で試飲実験をしてないんすけど」

魔導士院の団長室で、ユリウスさんは私の前に置かれたオレンジ色の液体と私の顔とを交互に見ながらそう言った。

「まあ一抹の不安はありますけど・・・。でも私はすっかり元の姿に戻っているわけだし、それならもし何か体に負担のかかる副作用があったとしてもある程度のことには耐えられるんじゃないかと思うんですよね。」

「あと一ヶ月もすれば団長や殿下達との結婚式だってのに、こんな事して魔力回復を焦るよりお式の準備をする方が良くないすか?いつも慎重なユーリ様らしくないっすよ?」

ユリウスさんの言うことも分かる。だけどエリス様との一件から目覚めて体力も回復した今となっては早く元通りの魔力を取り戻して国のために貢献したい。

なんていうか朝起きて、お世話をされて、おやつを食べて、リオン様達の帰りをただ待っておかえりなさいっていうだけの毎日に不安を感じるのだ。

それはそれですごく気楽な生活でいいと思うし、シェラさんなんかは

「今まで頑張った分、少しゆっくりされた方がいいと思います」

なんて言ってくれてるけど。自分に出来ることがあるはずなのに何も出来ないと言うこの状況がちょっと落ち着かない。

毎日一生懸命癒しの力を使ってみたりするけど少しも魔力が増えて来ているような気はしないし。

そのためシグウェルさんへ、魔力回復を早める魔法薬のような物を作れないかと相談していた。

モリー公国で薬花に加護をつけるために飲んだ、元の姿になるシグウェルさんの魔法薬は軽い二日酔いみたいな副作用があった。

今回は姿は変えずに魔力だけを増やすものだし、もし何か副作用があってもそれに似たようなものじゃないかな?と思っているんだけど。

「普通の人の魔力量を一時的に増幅させる魔法薬は元々あるんで、これはその改良版っていうかそれを応用して作ったものっすけど、いかんせんその対象者が普通の人じゃなくて召喚者で神様の加護付きの人っすからねぇ・・・。団長は面白がって作ってましたけど俺は怖いっす。」

「量も少ないからきっと大丈夫ですよ!」

目の前ではショットグラスほどの大きさのグラスに入ったオレンジ色の液体がしゅわしゅわと小さな気泡をいくつも浮かべている。まるで炭酸のオレンジジュースだ。

「こんな薬に頼って、もし何かあって結婚式延期なんて事態になったら・・・」

「心配性ですねぇユリウスさんは。何かあっても私が二日酔いみたいになるか、全く効き目がなくて魔力が増えないままのどっちかくらいじゃないですか?もっとシグウェルさんを信じてあげないと!」

「その団長が作ったものだからこそ心配してるんすよ俺は。・・・って、うわ!飲んだ⁉︎せめて団長が来るまで待ってて欲しかったっす‼︎」

でもシグウェルさんは魔導士院の別の場所で他の魔導士さんの魔法実験の立ち会い中だ。

それを邪魔するのも悪いし、もし何かあっても同じ建物の中だからすぐに対処出来るだろう。

オレンジ色の炭酸ジュースみたいなそれを飲み干してそう話せばユリウスさんには

「ユーリ様は団長を信用し過ぎ!いや、伴侶としてはそれでいいのかも知れないっすけど、もうちょっと少しずつ飲んでも良かったんじゃないすか⁉︎」

なんて言われた。

「でもどうせ全部飲むんだし、こんな少量なんだから別に・・・。あとすごく甘くておいしかったです!」

「量は少ないけどその分魔法が凝縮されてるっすからね⁉︎あと甘いのは団長がお菓子好きなユーリ様のためにわざわざ付けなくてもいい味を付けてあげたってことっす!あの人いつの間に味まで付けてたんだ?そのせいで不純物とか余計なモノが混じってなきゃいいんすけど・・・⁉︎」

へぇ、私が飲みやすいようにそんな気遣いまでしてくれてたんだ。

嬉しいなあ、とにこにこしていた私に焦ったように話しかけていたユリウスさんが、突然ピタリとその動きを止めると食い入るように見つめてきた。

「ユーリ様・・・体が光ってるっすよ・・・⁉︎」

「え?でも私、これ以上は大きくなりようがないですよ?・・・って、わ、ホントに光ってますね⁉︎」

自分の両手を見れば、お酒に酔って大きくなる時と同じように体が淡く光っている。

「えっ、えっ、大丈夫っすかそれ!酔ったような感じがするとか体が熱いとかは⁉︎」

「いえ、そんなことはないですね・・・?これ、もしかして成功なんじゃないですか⁉︎」

魔力が戻る前兆とかきっかけなのかも。

目を輝かせた私にユリウスさんは、

「喜ぶのはまだ早いっす、その光が落ち着いてみないと」

とまだ懐疑的だ。その時だ。いつも大きくなる時と同じように目も眩むほどまぶしい光が部屋いっぱいに広がった。

「うわ⁉︎なんスかこれ‼︎」

「ま、まぶし・・・」

目を瞑れば、一瞬だけ体をかぁっと熱く感じた。

今まで私のすることやユリウスさんとのやり取りを呆れたように扉の側で見守っていてくれたエル君も、さすがに「ユーリ様⁉︎」と声を上げているのが聞こえた。

体に熱さを感じたのはほんの一瞬で、瞼の裏に広がった眩しい光もすぐに消えたので恐る恐る目を開ける。

だけど目の前は真っ暗だ。・・・ん?

しかも何かが体に絡まっている。暗がりの向こうではユリウスさんが

「ユーリ様、どこっすか⁉︎えっ?消えた⁉︎」

と言っている。

ここにいるんですけど⁉︎と思うけどもがいても絡まっている何かはなかなか取れてくれなくて、まるで網に絡まった魚の気分だ。

と、エル君の声が冷静に

「落ち着いてくださいユリウス様、ユーリ様はここにいます」

そう言うと私を持ち上げた。視界が一気に開けて明るくなる。

ぷはっ、と息をついて

「た、たしゅかった・・・エリュくん、ありあとー・・・⁉︎」

エル君にお礼を言った自分のあまりの舌っ足らずさに思わず固まった。ん?何これ。

固まったのは私だけじゃなくて、私を持ち上げたエル君も驚いているのか珍しくあの赤い瞳を目いっぱい見開いて私を見つめている。

そしてユリウスさんは、

「ウワァァー‼︎思いっきり失敗っす、これ一体どうするんすか団長ぉー⁉︎」

膝から崩れ落ちて頭を抱えると床に転がっていた。

「な、なにがおきたんでしゅ・・・すか?」

自分の口なのに思うように話せなくてもどかしい。なんで赤ちゃん言葉なんだ、恥ずかしい。

恥ずかしさに頬に熱を持ちながらエル君に聞けば、なぜかぎゅっと抱きしめられて落ち着かせるようにぽんぽんと背中を叩かれた。

「ユーリ様・・・落ち着いて聞いて下さい。すごく小さくなってます。幼児です。元の魔力を取り戻すどころかせっかく戻った元の姿から三、四歳児くらいになってしまってます。」

でもかわいいです、と最後に小さく呟くように付け足してくれたけどそれは残念ながら私の耳に入っていなかった。

よ、幼児?三歳児?なんで?

床に崩れ落ちたユリウスさんと、私をあやすように背中を叩いているエル君を目の前に事態の把握が出来ない。と、そこへ

「・・・おい、なんだこれは。何故ユリウスが床に転がっていてエルが幼児をここに連れ込んでいる?迷子か?それともユーリが拾ってきたのか?それにその肝心のユーリはどこだ?」

シグウェルさんの声がした。さっきの光を見て駆け付けてくれたんだろうか。

「ここ!わたしはここでしゅよ!」

エル君の腕の中からはい!と手を上げる。

パチリと視線のかち合ったシグウェルさんは

「・・・ユーリそっくりだな。何なんだ一体。」

僅かにその表情を動かして私を見つめてきた。

いや、何なんだも何もシグウェルさんの魔法薬のせいなんですけど?


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