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番外編
指輪ものがたり 10
慣れない魔法陣での移動で体に負担のかかった私を休ませたいと、出迎えてくれたクレイトス領の人にシグウェルさんは話をしてすぐに部屋を用意させた。
というか、部屋だけでなく休憩をとる私のためにお茶とお茶請けのお菓子まで要求した。
「紅茶用に乳脂肪分の高い種類の牛乳にハチミツ、リキュールもだ。茶葉はルーシャ国の王宮で使っているのと同じものがこの城にもあるはずだな?確か前回ここを訪れた時にそれを出されたと記憶している。それも準備してくれ。菓子はバターをふんだんに使った焼き菓子を山盛りにして生クリームと果実をたっぷり使ったジャムも持って来い。」
いくら客人だとしても要求するレベルがめちゃくちゃ細かい。しかも最後はなぜか命令形だ。
「あんまり無茶は言わないでくださいよ・・・」
今度は通された客間のソファに置いてあるクッションが小さくて固いだとか、ソファの厚みがないからこれだと私がゆっくり休めないというような事をユリウスさんと話しているシグウェルさんを止める。
いやちょっと、いつからそんなに私に過保護に・・・?こんな話、クレイトス領の人達に聞かれたら癒し子というのは随分とわがままだと誤解されるんでは?
実際、シグウェルさんのそんな要求や指摘に部屋へ案内してくれたクレイトス領の人は恐縮して「今すぐ部屋を整え直します‼︎」とここを飛び出してどこかへ行ってしまった。
「シェラザードが任務で出立する前に、君に関する取扱い方法を細々と書いた紙をユリウスに預けて行ったからな。それに沿って言っているまでだ。」
「シェラさんが?」
確かシェラさんは、今回ミアさんがルーシャ国に来るのに合わせてリオン様にわざと離れた場所での仕事に出されていた。
「ミア嬢に余計なちょっかいを出された君が体調を崩すのを心配したんだろう。何かあったら少しでも快適に過ごして調子を取り戻せるようにという気遣いだ。」
シグウェルさんが頷き、ユリウスさんが
「いわゆるユーリ様取扱い説明書みたいなもんすねー、めっちゃ細かいっすよ。お茶の温度とか茶葉の濃さの調節の他におやつの時間の最初と最後に出す紅茶の種類を変えて、それに合わせてお菓子も最初より段々と甘い種類の物を増やして出すとか他にも色々っす!」
と笑っている。し、知らなかった。そんなに細かく気を遣ってもらっていたなんて。
私が持ちやすいように左に寄せてティーカップやその持ち手を置いてくれてること位しか気付いていなかった。
言われてみれば、おやつの時間は最初と最後でわざわざティーセットを変えていたような気がする。
単にシェラさんの趣味なのかと思っていたけど、まさかあれがお茶の種類まで変えていたってこと?
毎回単純に
「シェラさんの淹れてくれるお茶はおいしいですね!」
なんて呑気にお茶を飲んでいた過去の自分を正座させて説教したい。
「このソファは奥の院の君の部屋のものに比べて座り心地が悪そうだから、とりあえずこちらに座れ」
心の中で悶々と葛藤している私に気付かず、シグウェルさんは一度ソファに座らせた私をまた抱き上げてベッドの上に座らせた。
「俺はこれからユリウスと一緒にクレイトス大公に会い、リオン殿下の親書を渡しながら婚約破棄について話してくる。その間はここでゆっくりしているといい。時期に足腰の脱力感も消えるだろう。」
ローブを脱いでユリウスさんの準備した魔導師団の正装用の服とマントに着替え身支度を直しながら・・・まあ実際その身支度を整えているのはシグウェルさんじゃなくてユリウスさんだけど。とにかくそうして格好を整えたシグウェルさんは部屋を後にした。
すると今更ながらエル君が
「・・・というか、立てなかったのならユーリ様がご自分で自身に回復魔法をかけるか魔導士団長や副団長が魔法を使えば良かったのでは?」
とぽつりと言った。その言葉にハッとする。
「確かに!」
「あの人、ユーリ様をお姫様抱っこしたかったから知らないふりをして治さなかっただけじゃないですか?やる事がおとなげないですね」
やれやれと言うようにため息をついたエル君はいつものようにかぶりを振った。
あり得る。そしてユリウスさんならそんなシグウェルさんの目論見にも気付いていながら空気を読んで黙っていそうだ。おかげで私は随分と恥ずかしい思いをした。
エル君が言うまで、魔法陣での長距離移動という初経験に気を取られていて全く気付かなかった私もアレだけど。
慌てて治癒魔法を自分に使えば、何の問題もなくしゃんと立ち上がれた。
「最初からこうすれば良かったです・・・!」
悔し紛れにクレイトスの人が準備してくれたおやつをやけ食いしていれば、バタバタとユリウスさんが戻って来た。
「ユーリ様、急ですけど今晩夜会に出席をお願いしてもいいっすか?」
「夜会?」
「団長やユーリ様の来訪を歓迎する晩餐会みたいなもんす。やるとは思ってたんで一応礼服も持って来てあるけど、まさかそれが今夜とは思わなかったっす!」
せめて明日とか、もう少しゆっくりさせてくれてもと文句を言っているユリウスさんの後ろから
「いいじゃないか。晩餐会のような面倒なもの、さっさと済ませるに限る。そもそも今回は歓迎されないような提案をしに来ているんだから早く終わらせて婚約破棄をして帰りたい。」
悠々とした足取りで現れたシグウェルさんが面倒そうにため息をついた。
「話し合いはどうなったんですか?」
「一応大公も婚約破棄の申し出理由書には目を通していた。それを読んでいる間も念のため、第一夫人にあたり礼を尽くすべき相手である君の指輪を許可なくミア嬢が持ち去ったことは違法行為のみならず、君の伴侶である俺に対する不義理でもあると論理的にかつ冷静に諭して話してやった。」
「団長、めっちゃ顔も声も冷たくて部屋の温度が下がったのかと思うくらい室内の空気が冷えっ冷えだったっす。」
コソコソと補足したユリウスさんをシグウェルさんが鼻白んだ目で見つめた。
「あれくらい圧力をかける方が丁度いい。」
が、そこで話し合いの中身を思い出したのかシグウェルさんはチッと舌打ちした。
「だがあの赤ダヌキ、交渉はとりあえず今夜の夜会を済ませてから改めてと言ってきた。俺たちが来るのに合わせて領内の主だった貴族や魔導士を集めた盛大な晩餐会を開く準備をもう済ませてあるそうだ。せめてそれが終わってからと言われればこちらもルーシャ国の代表として向こうの顔を立てて了承しなければならなかった。」
それで私もその夜会?晩餐会?に同席して欲しいってことか。それにしても赤ダヌキとは。
首を傾げた私にまたユリウスさんが補足する。
「クレイトス大公のことっす。ミア様同様、見事な赤髪に恰幅がいいから・・・つーか団長それ、他の人達に聞かれないようにするっすよ⁉︎謝るのは俺なんすから‼︎」
シグウェルさんに文句を言いながらユリウスさんはいつの間にか部屋に持ち込まれていた荷物をごそごそしていた。どうやら私達の後にルーシャ国から他の魔導士さん達の力を借りて送ってもらったらしい。
「ユーリ様の服はこっちっすね。ユーリ様の格好はクレイトスの侍女さん達にお願いして整えてもらうようにしたんでもうじき案内人が来るはずっす。その間に俺は団長の準備をするっす。さあ、さっさと風呂に行くっすよ団長‼︎」
段取りよくてきぱきと、エル君に私の衣類や装飾品が入っているらしい小箱などを預けながらユリウスさんは櫛や香油の瓶が収まっている入れ物を手にシグウェルさんをぐいぐい引いていく。
あ、そんな侍従さんみたいな仕事までシグウェルさんの世話はユリウスさんの担当なんだ?そりゃあ便利過ぎてシグウェルさんが離さないはずだ。
つくづく万能かつ貧乏くじな人だ、とちょっと憐れみを込めた目で思わずユリウスさんを見てしまった。
当の本人であるユリウスさんはそんな私の視線に気付かずに、
「では夜会の前にまた会おう」
と悠長な事を言うシグウェルさんを引っ張って行くのに苦労しているだけだったけど。
というか、部屋だけでなく休憩をとる私のためにお茶とお茶請けのお菓子まで要求した。
「紅茶用に乳脂肪分の高い種類の牛乳にハチミツ、リキュールもだ。茶葉はルーシャ国の王宮で使っているのと同じものがこの城にもあるはずだな?確か前回ここを訪れた時にそれを出されたと記憶している。それも準備してくれ。菓子はバターをふんだんに使った焼き菓子を山盛りにして生クリームと果実をたっぷり使ったジャムも持って来い。」
いくら客人だとしても要求するレベルがめちゃくちゃ細かい。しかも最後はなぜか命令形だ。
「あんまり無茶は言わないでくださいよ・・・」
今度は通された客間のソファに置いてあるクッションが小さくて固いだとか、ソファの厚みがないからこれだと私がゆっくり休めないというような事をユリウスさんと話しているシグウェルさんを止める。
いやちょっと、いつからそんなに私に過保護に・・・?こんな話、クレイトス領の人達に聞かれたら癒し子というのは随分とわがままだと誤解されるんでは?
実際、シグウェルさんのそんな要求や指摘に部屋へ案内してくれたクレイトス領の人は恐縮して「今すぐ部屋を整え直します‼︎」とここを飛び出してどこかへ行ってしまった。
「シェラザードが任務で出立する前に、君に関する取扱い方法を細々と書いた紙をユリウスに預けて行ったからな。それに沿って言っているまでだ。」
「シェラさんが?」
確かシェラさんは、今回ミアさんがルーシャ国に来るのに合わせてリオン様にわざと離れた場所での仕事に出されていた。
「ミア嬢に余計なちょっかいを出された君が体調を崩すのを心配したんだろう。何かあったら少しでも快適に過ごして調子を取り戻せるようにという気遣いだ。」
シグウェルさんが頷き、ユリウスさんが
「いわゆるユーリ様取扱い説明書みたいなもんすねー、めっちゃ細かいっすよ。お茶の温度とか茶葉の濃さの調節の他におやつの時間の最初と最後に出す紅茶の種類を変えて、それに合わせてお菓子も最初より段々と甘い種類の物を増やして出すとか他にも色々っす!」
と笑っている。し、知らなかった。そんなに細かく気を遣ってもらっていたなんて。
私が持ちやすいように左に寄せてティーカップやその持ち手を置いてくれてること位しか気付いていなかった。
言われてみれば、おやつの時間は最初と最後でわざわざティーセットを変えていたような気がする。
単にシェラさんの趣味なのかと思っていたけど、まさかあれがお茶の種類まで変えていたってこと?
毎回単純に
「シェラさんの淹れてくれるお茶はおいしいですね!」
なんて呑気にお茶を飲んでいた過去の自分を正座させて説教したい。
「このソファは奥の院の君の部屋のものに比べて座り心地が悪そうだから、とりあえずこちらに座れ」
心の中で悶々と葛藤している私に気付かず、シグウェルさんは一度ソファに座らせた私をまた抱き上げてベッドの上に座らせた。
「俺はこれからユリウスと一緒にクレイトス大公に会い、リオン殿下の親書を渡しながら婚約破棄について話してくる。その間はここでゆっくりしているといい。時期に足腰の脱力感も消えるだろう。」
ローブを脱いでユリウスさんの準備した魔導師団の正装用の服とマントに着替え身支度を直しながら・・・まあ実際その身支度を整えているのはシグウェルさんじゃなくてユリウスさんだけど。とにかくそうして格好を整えたシグウェルさんは部屋を後にした。
すると今更ながらエル君が
「・・・というか、立てなかったのならユーリ様がご自分で自身に回復魔法をかけるか魔導士団長や副団長が魔法を使えば良かったのでは?」
とぽつりと言った。その言葉にハッとする。
「確かに!」
「あの人、ユーリ様をお姫様抱っこしたかったから知らないふりをして治さなかっただけじゃないですか?やる事がおとなげないですね」
やれやれと言うようにため息をついたエル君はいつものようにかぶりを振った。
あり得る。そしてユリウスさんならそんなシグウェルさんの目論見にも気付いていながら空気を読んで黙っていそうだ。おかげで私は随分と恥ずかしい思いをした。
エル君が言うまで、魔法陣での長距離移動という初経験に気を取られていて全く気付かなかった私もアレだけど。
慌てて治癒魔法を自分に使えば、何の問題もなくしゃんと立ち上がれた。
「最初からこうすれば良かったです・・・!」
悔し紛れにクレイトスの人が準備してくれたおやつをやけ食いしていれば、バタバタとユリウスさんが戻って来た。
「ユーリ様、急ですけど今晩夜会に出席をお願いしてもいいっすか?」
「夜会?」
「団長やユーリ様の来訪を歓迎する晩餐会みたいなもんす。やるとは思ってたんで一応礼服も持って来てあるけど、まさかそれが今夜とは思わなかったっす!」
せめて明日とか、もう少しゆっくりさせてくれてもと文句を言っているユリウスさんの後ろから
「いいじゃないか。晩餐会のような面倒なもの、さっさと済ませるに限る。そもそも今回は歓迎されないような提案をしに来ているんだから早く終わらせて婚約破棄をして帰りたい。」
悠々とした足取りで現れたシグウェルさんが面倒そうにため息をついた。
「話し合いはどうなったんですか?」
「一応大公も婚約破棄の申し出理由書には目を通していた。それを読んでいる間も念のため、第一夫人にあたり礼を尽くすべき相手である君の指輪を許可なくミア嬢が持ち去ったことは違法行為のみならず、君の伴侶である俺に対する不義理でもあると論理的にかつ冷静に諭して話してやった。」
「団長、めっちゃ顔も声も冷たくて部屋の温度が下がったのかと思うくらい室内の空気が冷えっ冷えだったっす。」
コソコソと補足したユリウスさんをシグウェルさんが鼻白んだ目で見つめた。
「あれくらい圧力をかける方が丁度いい。」
が、そこで話し合いの中身を思い出したのかシグウェルさんはチッと舌打ちした。
「だがあの赤ダヌキ、交渉はとりあえず今夜の夜会を済ませてから改めてと言ってきた。俺たちが来るのに合わせて領内の主だった貴族や魔導士を集めた盛大な晩餐会を開く準備をもう済ませてあるそうだ。せめてそれが終わってからと言われればこちらもルーシャ国の代表として向こうの顔を立てて了承しなければならなかった。」
それで私もその夜会?晩餐会?に同席して欲しいってことか。それにしても赤ダヌキとは。
首を傾げた私にまたユリウスさんが補足する。
「クレイトス大公のことっす。ミア様同様、見事な赤髪に恰幅がいいから・・・つーか団長それ、他の人達に聞かれないようにするっすよ⁉︎謝るのは俺なんすから‼︎」
シグウェルさんに文句を言いながらユリウスさんはいつの間にか部屋に持ち込まれていた荷物をごそごそしていた。どうやら私達の後にルーシャ国から他の魔導士さん達の力を借りて送ってもらったらしい。
「ユーリ様の服はこっちっすね。ユーリ様の格好はクレイトスの侍女さん達にお願いして整えてもらうようにしたんでもうじき案内人が来るはずっす。その間に俺は団長の準備をするっす。さあ、さっさと風呂に行くっすよ団長‼︎」
段取りよくてきぱきと、エル君に私の衣類や装飾品が入っているらしい小箱などを預けながらユリウスさんは櫛や香油の瓶が収まっている入れ物を手にシグウェルさんをぐいぐい引いていく。
あ、そんな侍従さんみたいな仕事までシグウェルさんの世話はユリウスさんの担当なんだ?そりゃあ便利過ぎてシグウェルさんが離さないはずだ。
つくづく万能かつ貧乏くじな人だ、とちょっと憐れみを込めた目で思わずユリウスさんを見てしまった。
当の本人であるユリウスさんはそんな私の視線に気付かずに、
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