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番外編

夢で会えたら 7

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起きたらシャル君に大まかな事情を説明する。

そう言ったリオン様は宣言通り朝も早くから起き抜けにベッドの上でシャル君と向かい合っている。

私もベッドの上でリオン様の正面に座り、膝にシャル君を座らせてその手を取ってあげているのだ。

「・・・シャル、昨日眠る前に自分の話したことを覚えている?」

シャル君の頭を優しく撫でながらそう聞いたリオン様にシャル君は小首を傾げた。

「ボク、なんて言ったんですか?ごめんなさい、おぼえてないです・・・」

どうやら寝入りばなに話していた、

「ボクだけのとうさま達にあいたいっておねがいがかなったのかな」

という自分の言葉は覚えていないらしい。だからリオン様は改めてそれを説明した。

そして未来のシグウェルさんの忠告通り、おそらく精霊の力が強い選女の泉の近くでその事を考えてしまったから過去の世界であるここへ迷い込んだのだろうということも。

ゆっくりと子供にも分かりやすく噛んで含めるような話し方をしたせいか、シャル君はぎゅっと力を込めて私の手を握りながらじっとリオン様の話に耳を傾けていた。

ただ、その説明の中でリオン様は小さなウソを一つついた。

「・・・だからね、シャルが僕達に会いたいって願ったのと同じように、僕らも早く自分たちの赤ちゃんに会いたいって思っていた気持ちが新年のこの時期に丁度重なったんだよ。シャルの気持ちに同調したっていうのかな?そのおかげで僕とユーリはかわいいシャルにこうして会えたんだよ。」

だからシャルのせいでここに迷い込んだんじゃない。

そうリオン様は言った。きっとシャル君が、自分だけが両親に甘えたいと願いそれが叶ったのはわがままな事なんじゃないかと気にすると思ったのかもしれない。

だからシャル君がここにいるのは私とリオン様もシャル君に会いたいと思ったからだとウソをついた。

するとシャル君は、

「じゃあほんとうに、ボクの前にいるとうさま達はボクが生まれる前のとうさまとかあさまなんですか?だからエルも小さくてマリー達もなんだかヘンだったの?」

と私とリオン様を交互に見た。その青い瞳がまだ少しだけ不安そうに揺れている。

だからそんなシャル君を私は後ろからぎゅうっと抱きしめた。

「そうですよ!びっくりしましたけど、こんなにかわいいシャルに会えて嬉しいです!いっぱい甘えて下さいね。」

「二、三日後にはノイエ領に行く予定だからそれまではずっとシャルと一緒にいるよ。僕らにたくさん甘えて遊んで満足すれば、あの選女の泉を通してきっとイリューディア神様がシャルを元の世界に帰してくれるはずだ。」

そう微笑んだリオン様にシャル君はおずおずと、

「ボク・・・ボクだけこんなにとうさま達をひとりじめしていいの?ラーズは?ボク、ラーズをあの泉のところに一人で置いてきちゃったの?」

と聞いてきた。

「心配しなくても大丈夫。ここに現れたのがシャルだけということはラーズは元の世界でみんなと一緒で、一人じゃないよ。置いてきたんじゃなく、ラーズはシャルが僕らとたくさん遊んで戻ってくるのをレジナス達と待っているから、ラーズに寂しい思いはさせてないよ。」

「元の世界に帰ったら私達とたくさん遊んできたんだよってラーズ君に自慢してあげましょうね!」

そう言った私に、「ボク、みんなにしんぱいをかけてないといいな・・・」とシャル君は気にしている。幼児なのになんて気の遣いようなんだろうか。

「そんなに気にしないで大丈夫。さあ、今日はレジナスがシャルに小馬を準備すると言っていたから乗馬をしようか。それに他にもシャルに会いに来る人がいるはずだから忙しくなるよ。」

リオン様のその言葉にシャル君の顔がパッと明るくなった。

「お馬さん⁉︎うわあ、うれしいです!」

無邪気に喜んでいるけど、私はリオン様のセリフの後半が気になった。

「シャル君に会いに来る人って誰ですか?」

「一人はもうそこにいて待機してると思うけど」

え?こんな朝早くから?マリーさん達のことじゃないよね?

不思議に思った私の疑問はすぐに解ける。

コン、と軽いノックの音と共に

「そろそろユーリ様の朝のお世話をしてもよろしいでしょうか?」

いつもの艶やかな声と共にそこに立っていたのはシェラさんだ。

「シェラさん⁉︎え、こんな朝早くからわざわざ別邸まで来たんですか⁉︎」

「昨夜はレジナスも含めて三人ともお帰りにならず、シャルという小さな子の世話で別邸に泊まるとデレクから聞いておりましたので。」

その事情についても先ほど大まかにエル君から聞いて、更には今のリオン様の説明で大体のところは把握したという。

「なるほど、この子が殿下とユーリ様の・・・」

シェラさんはあの色気を含んだ金色の瞳でシャル君をジッと見た。少し迫力を含んだ観察するような眼差しだったけどシャル君は怯まない。

「シェラとうさまだ!おはようございます!朝からかっこいいですね‼︎」

と笑いかけると私の膝からシャル君は降りる。そして

「かあさまのお世話ですよね?どうぞ!かあさま、シェラとうさまがかあさまの髪を結うところを見ていてもいいですか?」

そんな事を聞いてきた。

「え?それは構わないですけど・・・」

未来でもシャル君のいるところでシェラさんに朝から世話をされてるんだ。あの過剰なお世話っぷりを子供に知られているのはなんだか気恥ずかしい。

だけどシャル君は、

「ボク、シェラとうさまがかあさまの髪を結っているところを見るの大好きなんです!まほうみたいにいろんな髪型があっという間にできちゃうの!」

と言い

「あ!お世話の途中でシェラとうさまがかあさまにキスする時はちゃんと目をつぶるからだいじょうぶですよ!」

と付け足してきた。爆弾発言だ。

「へ⁉︎な、なんですかそれ!」

「おや」

慌てた私とは真逆にシェラさんは面白そうに目を細めた。そしてリオン様は

「ユーリ・・・朝からシェラに身支度をまかせながら二人でそんなに仲良くしてたんだ?」

と意地悪そうに瞳を煌めかせた。

「誤解です、そんなことしてないですよ!」

そう。濡れ衣だ、本当に朝からシェラさんとそんな風にいちゃついてなんかいない。ただし現時点では、だけど。

まさか未来の私は、シャル君の目の前でごく自然にリオン様やレジナスさんと口付けているのと同じようにシェラさんとも朝からそんな感じなんだろうか。

シェラさんも同じようなことを思ったらしく、

「なるほど、この子が話していることが未来のオレとユーリ様の正しいあり方なら今から同じように行動しておかなければいけませんねぇ・・・。シャル、ユーリ様はどこに口付けられていましたか?」

なんて聞いている。子供になんてことを聞くんだろう。そして無邪気なシャル君も、その質問に素直に答える。

「えっと、ほっぺとかお耳の近くとか・・・あっ!ちがいます、ボク見てません‼︎ボク、いい子だから!」

途中でハッとしてあの小さな両手で口を塞いだ。その仕草はかわいいけども。

「しっかり見られてるじゃないですか!子供の前で何してるんですかシェラさん‼︎」

現状まだ何もしていないシェラさんに言っても仕方ないと分かりつつ、つい文句を言ってしまった。

「ですがユーリ様も特段それを拒まれているわけではなさそうですよ?なるほど、頬や耳ですか。」

ふむ、と頷きながら私の顔や首筋を見るシェラさんの目が怪しい。これはやる気だ。

未来の私、情緒が死んでると評されているわりにはあの四人の愛情に素直に応えて受け入れてるのはいいけどちょっとやり過ぎじゃないかなあ⁉︎

そしてリオン様の言っていた「シャル君に会いに来る人」の一人がシェラさんなら、多分シグウェルさんも来るはずだ。

だって魔力に人一倍敏感なあの人が王都に突然現れた私やリオン様に似た気配の、強い魔力に気付かないはずがない。

まさかそのシグウェルさんともシャル君の前で余計ないちゃつきを披露していないよね?一抹の不安が胸をよぎった。

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