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番外編
西方見聞録 30
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軟禁すると言われてユーリ様の住まいの奥の院にそのまま留められた僕に与えられた部屋は、ユーリ様が普段生活されている居室から一番遠く離れたずっと端の方・・・かつユーリ様の部屋が一階なのに対して2階という場所だった。
そして扱いこそは丁寧ながらも、東国とリオン王弟殿下達が交渉している数日の間は本当に部屋からは一歩も出してもらえなかった。
1日の大半を海図と睨めっこしながら海流の危険箇所について書類をまとめたり工房に残して来た職人達への指示書を書いたりして過ごしていた。
そんな中、ごく稀に部屋から出られる時があったけどそれはユーリ様からお茶の誘いを受けた時だ。
そんな時はユーリ様に招かれた庭園や部屋で、聞かれるがままに皇国の生活や食べ物、風習などについて教えたりした。
そうすればユーリ様はあの美しい瞳をキラキラと輝かせて僕の話に耳を傾け、楽しそうな笑顔を見せてくれるものだからつい軟禁されている身だと言う事も忘れてあれこれと親しげに話してしまった。
そんな僕らにお茶を注いだり菓子を取り分けた皿を目の前に置きながら、僕を奥の院の玄関先で脅かしたあの美少年二人組の侍従が給仕の合間にひそひそと
「やっぱりあの時踏み潰しておくべきだったかなアンリ」
「そうだねリース、失敗したね・・・」
と恐ろしい事をわざと僕の耳に入るように囁いている。
え?もしかしてまだ諦めてないの?
二人の会話に僕が顔色を変えて青くなればそれを見たあの子達は満足そうに
「シェラザード様が不在の間はボクらがしっかりユーリ様にお仕えしないとね!」
とか
「あんまり馴れ馴れしくするようならシェラザード様が帰って来てからお仕置きしてもらおう」
なんてことまで言っている。まあそうしたらそれを聞きつけたユーリ様に当然のように
「シーリンさんは東国からの大事なお客様だからダメですよ!」
って注意されていたけど。でもその子達の会話で僕はそこで初めて「そういえばシェラザード様がいないな?」という事実に気付いた。
ユーリ様に対してなんだか物凄く感情を拗らせていそうなあの人が、結婚間近のユーリ様に求婚を申し込んだ人物がいるとかそれを手引きした者がいると聞いて何もしないわけがない。
何しろシグウェル様ですら遠く離れた領地からすぐに飛んで帰って来たくらいなんだから、シェラザード様が姿を見せないのは不思議だ。
そう思ってユーリ様に尋ねてみれば
「シェラさんは今、南の方に行ってるんです。私の結婚装束に縫い付ける真珠を買うとか何とか言って、数日の間は留守にするってやたら大袈裟にお別れを惜しんで行きましたよ・・・」
と、その時のやり取りを思い出したのか呆れたような恥ずかしそうな面持ちで教えてくれた。
ああ、なるほど・・・。騎士団に訪ねて行った時に部屋で広げていた地図のやつか。
でも買いに行ってるのは真珠じゃなくてそれが採れる島そのもののはずだよね。だから色々と手続きがあってまだ帰って来れないでいるのかな。
僕にしてみればあの人にこの騒ぎがバレないでいてくれた方が助かるけど。
工房の責任者のクビを変えようかと呟かれた時の、あの人の僕の首を斬り落としそうだった雰囲気を思い出せば思わずぶるりと震える。
するとそれを見たユーリ様が、
「大丈夫ですよ!今回のことはシェラさんが帰ってくるまで教えないようにってリオン様達にもお願いして口止めしてますから!」
と慌てて教えてくれた。あ、ユーリ様もあの人に今回の求婚騒ぎがバレたら面倒な事になると思ってるんだ・・・。
でもいずれにせよバレる時は来る。それを思えば今から何とも恐ろしい・・・とまだ気落ちしている僕を励ますようにユーリ様は更に
「もしシェラさんがシーリンさんに何かしようとしたら私も体を張って止めますから!」
と拳を握って頬を紅潮させながら力説してくれた。いい人だ・・・。でも実際、いざとなったらあの人を止められそうなのはユーリ様しかいない気がする。だから僕も申し訳ないと思いつつ、遠慮なく
「その時はお願いします・・・」
と頭を下げれば
「頑張ります!」
と頷かれた。随分と気合いが入ってるけど、それくらいシェラザード様を止めるのは大変ってことなのかな?
なんて思っていたらそこへレジナス様がやって来た。
「東国から国使の来る日取りが決まったぞ」
ここ数日、皇国へ例の求婚騒ぎとそれに伴い皇族の側近を身分を偽ってまで潜入させていた事への抗議をやんわりとしながら、その対価をどうするかレジナス様はリオン王弟殿下と一緒に色々と交渉していた。
どうやらようやくその結論がまとまったらしい。
最近やっと本格的に交流が始まった僕らの国とルーシャ国の海路は、開かれたばかりでまだ安全に行き来できる最適なルートが定まっていない。
ルーシャ国に入港するまでにはどうしても岩礁が邪魔だったり潮流の変化が激しかったりする難所がいくつかある。
先日のリオン王弟殿下の話ではそんな難所をスムーズに行き来できるよう、船を誘導するために水魔法と風魔法を込めた魔石を誘導灯のように港から外海のある程度の所まで点々と一定区間設置したいらしい。
・・・水魔法で潮流に負けない水の流れを作り、風魔法でそれを援護するような風を船の帆に吹かせて安全かつ速く港へと船を誘導する。
言うのは簡単だけどいざ実行するとなれば一大事業だ。
レジナス様の話では水魔法と風魔法を込める魔石の準備と、その魔石を設置する小さな灯台みたいな塔はルーシャ国が用意するらしい。
皇国側が準備するのはその魔法を魔石に込める魔導士の派遣だ。
その説明をちょっと聞いただけでは塔の設置と魔石を準備する方が負担が大きいように見えるだろう。
だけど実際は、海流という大きな自然の力にも負けない魔法をそこに込めなければならない魔導士の負担の方が大きい。
それに魔石に込めた魔力がなくなればその誘導は出来なくなるので、定期的にその魔石に魔力を込めなければいけないのも大変だ。
ルーシャ国側は塔や魔石を一度作って設置すれば終わりだけど、皇国側は定期的に継続して魔導士を派遣し、魔石に魔力を込めなければならない。
どう考えても皇国側の負担が大きい。
交渉にはシグウェル様も同席していたから、優れた魔導士であるあの人ならそれがどれだけ大変なのかよく分かるだろう。
実際、皇国の優秀な魔導士を何人派遣させるべきかの計算までシグウェル様は済んでいるらしい。
「半年に一度、魔石一つにつき出来れば魔導士を3人。君の書いた海図を元に、リオン様は誘導塔は15ほど設置したいと話していたから45人は魔導士がいるな。」
そんなに⁉︎半年ごとに皇国の魔導士をそれだけ送らなきゃならないなんて、今回の騒動は随分と高くついてしまった。
「せ、せめて塔の数はキリよく10とかダメですか⁉︎」
騒ぎの片棒を担いだ僕が言える義理じゃないけど思わずそう言えば、レジナス様は僕を見つめながら話す。
「塔の数はそれ以上減らせない。が、シグウェル曰く魔導士の数は減らせる可能性はあるらしい。」
「それは一体・・・?」
「君は風魔法の使い手らしいな?それもかなりの魔力を持っているとか。だから君が手伝えば、少なくとも風魔法を魔石に込める方の魔導士の数は減らせるとシグウェルが言っていた。どうだ、やるか?」
えっ、僕?
思いもよらない話を持ちかけられて面食らう。そりゃあ確かに、言っちゃあなんだが皇国の優秀な魔導士よりも僕の方が魔力は多い。
だからシグウェル様の話は間違ってはいないけど。半年ごとに海を越えて魔石に魔法を注入しに来るのかあ・・・。
なかなかに大変な仕事だ。だけど今回ルーシャ国にかけた迷惑を思えばそれも仕方ないのかもしれない。
あれこれと思いを巡らせていたら、そんな僕にレジナス様が更に声を掛けた。
「それで、急だがこの後君も魔導士院の通信部屋まで来て欲しい。皇国側に君を丁重にもてなしているということを見せ安心させる事になっている。君の無事を確認したら、まずは顔合わせを兼ねた打ち合わせで国使の前に向こうからさっそく魔法陣を使って魔導士を派遣するそうだ。」
なるほど、そういう事なら行かないわけにはいかないだろう。
僕の無事が確認出来なければ交渉が進まないかもしれない。
すると皇国の魔導士に興味を持ったのかユーリ様も一緒に行きたいと言ってついてくることになった。
そうして魔導士院に着いてレジナス様に促され通された部屋は大きくて立派な、金の装飾も煌びやかな鏡が据えてある部屋だった。
そこには
「おや、ユーリまで来たの?」
とユーリ様を見て微笑んだリオン王弟殿下の他にシグウェル様とユリウス様もいる。
そしてユリウス様からも
「とりあえず今から東国と通信を繋いでシーリンさんの無事を向こうの交渉担当に確認してもらったら、実際の航路の確認や魔石に試しで魔法を入れてもらうために向こうの魔導士がすぐに何人か派遣されてくる予定っす。東国とは距離も離れてるんで、何ヶ所か魔法陣を経由して来てもらうから早くても数十分後辺りにここの魔法陣に現れると思うんすけどね。」
と説明された。そして、んじゃ、開くっすよ!とユリウス様が鏡に手をかざす。
向こうの交渉担当は誰かな。皇宮の主席魔導士か、それとも魔術上院の長官だろうか。
いずれにせよ迷惑をかけて申し訳ない。
そんな気持ちで通信が繋がるのを待っていた僕の前で鏡が明るく白い光を放つ。
そして聞こえて来た
『シーリン、大丈夫⁉︎』
よく見知った焦るようなその声は、懐かしのジェン皇子のものだった。
「・・・え?」
ポカンとして鏡を見つめれば、そこには確かにあの整った顔の皇子が心配そうに眉を寄せて僕を見ている。
ユリウス様が
「あれ?いつもの担当者じゃないっすね」
と戸惑い、シグウェル様も
「誰だこいつは」
と、こいつ呼ばわりする始末だ。大丈夫?と僕に語りかけている皇子の背後では「ちょっと皇子⁉︎」なんて声が聞こえているけど、まさか勝手に通信に割り込んだのかな⁉︎
だけど皇子はそんなあっちとこっちの戸惑いそっちのけで
『すぐ行くからね!死なないで‼︎』
なんて言っている。いや、死・・・?何を勝手に人を処される前提で話してるわけ?
ていうか、「すぐ行く」って何?まさかアンタが来るとか言わないよね?
いやいや、さすがにそれは無いでしょ。
一瞬浮かんだ考えを否定した時だ。
「あれ?なんか急に天気が怪しくなって来たっすね?」
と言ったユリウス様の言葉にどきりとする。
ハッとして窓の外を見れば、さっきまで晴れていたのにいつの間にか空には重く雲が垂れ込めていた。
遠くからは雷鳴も聞こえる。まさか。嫌な予感がする。
その間にも、ぽつぽつと降り始めた雨粒が窓に当たり始めていた。
「・・・おい、なんだこの魔力は」
シグウェル様があの氷の美貌の眉を顰めた。
「へ?魔力っすか?」
ユリウス様がそう聞き返した時だ。窓の外で激しい轟音が鳴り響いて、大きな雷がすぐ近くに落ちた。
「ええ⁉︎あれ、移動用の魔法陣の近くっすよ⁉︎」
ユリウス様の慌てる声に目眩がする。あ、ダメだこれはもしかして・・・。
「誰か魔法陣で移動して来たな」
確かめに行くぞ、とシグウェル様が踵を返す。
なんて言うか、今からまた絶対にひと騒動起きる。その予感しかしなかった。
そして扱いこそは丁寧ながらも、東国とリオン王弟殿下達が交渉している数日の間は本当に部屋からは一歩も出してもらえなかった。
1日の大半を海図と睨めっこしながら海流の危険箇所について書類をまとめたり工房に残して来た職人達への指示書を書いたりして過ごしていた。
そんな中、ごく稀に部屋から出られる時があったけどそれはユーリ様からお茶の誘いを受けた時だ。
そんな時はユーリ様に招かれた庭園や部屋で、聞かれるがままに皇国の生活や食べ物、風習などについて教えたりした。
そうすればユーリ様はあの美しい瞳をキラキラと輝かせて僕の話に耳を傾け、楽しそうな笑顔を見せてくれるものだからつい軟禁されている身だと言う事も忘れてあれこれと親しげに話してしまった。
そんな僕らにお茶を注いだり菓子を取り分けた皿を目の前に置きながら、僕を奥の院の玄関先で脅かしたあの美少年二人組の侍従が給仕の合間にひそひそと
「やっぱりあの時踏み潰しておくべきだったかなアンリ」
「そうだねリース、失敗したね・・・」
と恐ろしい事をわざと僕の耳に入るように囁いている。
え?もしかしてまだ諦めてないの?
二人の会話に僕が顔色を変えて青くなればそれを見たあの子達は満足そうに
「シェラザード様が不在の間はボクらがしっかりユーリ様にお仕えしないとね!」
とか
「あんまり馴れ馴れしくするようならシェラザード様が帰って来てからお仕置きしてもらおう」
なんてことまで言っている。まあそうしたらそれを聞きつけたユーリ様に当然のように
「シーリンさんは東国からの大事なお客様だからダメですよ!」
って注意されていたけど。でもその子達の会話で僕はそこで初めて「そういえばシェラザード様がいないな?」という事実に気付いた。
ユーリ様に対してなんだか物凄く感情を拗らせていそうなあの人が、結婚間近のユーリ様に求婚を申し込んだ人物がいるとかそれを手引きした者がいると聞いて何もしないわけがない。
何しろシグウェル様ですら遠く離れた領地からすぐに飛んで帰って来たくらいなんだから、シェラザード様が姿を見せないのは不思議だ。
そう思ってユーリ様に尋ねてみれば
「シェラさんは今、南の方に行ってるんです。私の結婚装束に縫い付ける真珠を買うとか何とか言って、数日の間は留守にするってやたら大袈裟にお別れを惜しんで行きましたよ・・・」
と、その時のやり取りを思い出したのか呆れたような恥ずかしそうな面持ちで教えてくれた。
ああ、なるほど・・・。騎士団に訪ねて行った時に部屋で広げていた地図のやつか。
でも買いに行ってるのは真珠じゃなくてそれが採れる島そのもののはずだよね。だから色々と手続きがあってまだ帰って来れないでいるのかな。
僕にしてみればあの人にこの騒ぎがバレないでいてくれた方が助かるけど。
工房の責任者のクビを変えようかと呟かれた時の、あの人の僕の首を斬り落としそうだった雰囲気を思い出せば思わずぶるりと震える。
するとそれを見たユーリ様が、
「大丈夫ですよ!今回のことはシェラさんが帰ってくるまで教えないようにってリオン様達にもお願いして口止めしてますから!」
と慌てて教えてくれた。あ、ユーリ様もあの人に今回の求婚騒ぎがバレたら面倒な事になると思ってるんだ・・・。
でもいずれにせよバレる時は来る。それを思えば今から何とも恐ろしい・・・とまだ気落ちしている僕を励ますようにユーリ様は更に
「もしシェラさんがシーリンさんに何かしようとしたら私も体を張って止めますから!」
と拳を握って頬を紅潮させながら力説してくれた。いい人だ・・・。でも実際、いざとなったらあの人を止められそうなのはユーリ様しかいない気がする。だから僕も申し訳ないと思いつつ、遠慮なく
「その時はお願いします・・・」
と頭を下げれば
「頑張ります!」
と頷かれた。随分と気合いが入ってるけど、それくらいシェラザード様を止めるのは大変ってことなのかな?
なんて思っていたらそこへレジナス様がやって来た。
「東国から国使の来る日取りが決まったぞ」
ここ数日、皇国へ例の求婚騒ぎとそれに伴い皇族の側近を身分を偽ってまで潜入させていた事への抗議をやんわりとしながら、その対価をどうするかレジナス様はリオン王弟殿下と一緒に色々と交渉していた。
どうやらようやくその結論がまとまったらしい。
最近やっと本格的に交流が始まった僕らの国とルーシャ国の海路は、開かれたばかりでまだ安全に行き来できる最適なルートが定まっていない。
ルーシャ国に入港するまでにはどうしても岩礁が邪魔だったり潮流の変化が激しかったりする難所がいくつかある。
先日のリオン王弟殿下の話ではそんな難所をスムーズに行き来できるよう、船を誘導するために水魔法と風魔法を込めた魔石を誘導灯のように港から外海のある程度の所まで点々と一定区間設置したいらしい。
・・・水魔法で潮流に負けない水の流れを作り、風魔法でそれを援護するような風を船の帆に吹かせて安全かつ速く港へと船を誘導する。
言うのは簡単だけどいざ実行するとなれば一大事業だ。
レジナス様の話では水魔法と風魔法を込める魔石の準備と、その魔石を設置する小さな灯台みたいな塔はルーシャ国が用意するらしい。
皇国側が準備するのはその魔法を魔石に込める魔導士の派遣だ。
その説明をちょっと聞いただけでは塔の設置と魔石を準備する方が負担が大きいように見えるだろう。
だけど実際は、海流という大きな自然の力にも負けない魔法をそこに込めなければならない魔導士の負担の方が大きい。
それに魔石に込めた魔力がなくなればその誘導は出来なくなるので、定期的にその魔石に魔力を込めなければいけないのも大変だ。
ルーシャ国側は塔や魔石を一度作って設置すれば終わりだけど、皇国側は定期的に継続して魔導士を派遣し、魔石に魔力を込めなければならない。
どう考えても皇国側の負担が大きい。
交渉にはシグウェル様も同席していたから、優れた魔導士であるあの人ならそれがどれだけ大変なのかよく分かるだろう。
実際、皇国の優秀な魔導士を何人派遣させるべきかの計算までシグウェル様は済んでいるらしい。
「半年に一度、魔石一つにつき出来れば魔導士を3人。君の書いた海図を元に、リオン様は誘導塔は15ほど設置したいと話していたから45人は魔導士がいるな。」
そんなに⁉︎半年ごとに皇国の魔導士をそれだけ送らなきゃならないなんて、今回の騒動は随分と高くついてしまった。
「せ、せめて塔の数はキリよく10とかダメですか⁉︎」
騒ぎの片棒を担いだ僕が言える義理じゃないけど思わずそう言えば、レジナス様は僕を見つめながら話す。
「塔の数はそれ以上減らせない。が、シグウェル曰く魔導士の数は減らせる可能性はあるらしい。」
「それは一体・・・?」
「君は風魔法の使い手らしいな?それもかなりの魔力を持っているとか。だから君が手伝えば、少なくとも風魔法を魔石に込める方の魔導士の数は減らせるとシグウェルが言っていた。どうだ、やるか?」
えっ、僕?
思いもよらない話を持ちかけられて面食らう。そりゃあ確かに、言っちゃあなんだが皇国の優秀な魔導士よりも僕の方が魔力は多い。
だからシグウェル様の話は間違ってはいないけど。半年ごとに海を越えて魔石に魔法を注入しに来るのかあ・・・。
なかなかに大変な仕事だ。だけど今回ルーシャ国にかけた迷惑を思えばそれも仕方ないのかもしれない。
あれこれと思いを巡らせていたら、そんな僕にレジナス様が更に声を掛けた。
「それで、急だがこの後君も魔導士院の通信部屋まで来て欲しい。皇国側に君を丁重にもてなしているということを見せ安心させる事になっている。君の無事を確認したら、まずは顔合わせを兼ねた打ち合わせで国使の前に向こうからさっそく魔法陣を使って魔導士を派遣するそうだ。」
なるほど、そういう事なら行かないわけにはいかないだろう。
僕の無事が確認出来なければ交渉が進まないかもしれない。
すると皇国の魔導士に興味を持ったのかユーリ様も一緒に行きたいと言ってついてくることになった。
そうして魔導士院に着いてレジナス様に促され通された部屋は大きくて立派な、金の装飾も煌びやかな鏡が据えてある部屋だった。
そこには
「おや、ユーリまで来たの?」
とユーリ様を見て微笑んだリオン王弟殿下の他にシグウェル様とユリウス様もいる。
そしてユリウス様からも
「とりあえず今から東国と通信を繋いでシーリンさんの無事を向こうの交渉担当に確認してもらったら、実際の航路の確認や魔石に試しで魔法を入れてもらうために向こうの魔導士がすぐに何人か派遣されてくる予定っす。東国とは距離も離れてるんで、何ヶ所か魔法陣を経由して来てもらうから早くても数十分後辺りにここの魔法陣に現れると思うんすけどね。」
と説明された。そして、んじゃ、開くっすよ!とユリウス様が鏡に手をかざす。
向こうの交渉担当は誰かな。皇宮の主席魔導士か、それとも魔術上院の長官だろうか。
いずれにせよ迷惑をかけて申し訳ない。
そんな気持ちで通信が繋がるのを待っていた僕の前で鏡が明るく白い光を放つ。
そして聞こえて来た
『シーリン、大丈夫⁉︎』
よく見知った焦るようなその声は、懐かしのジェン皇子のものだった。
「・・・え?」
ポカンとして鏡を見つめれば、そこには確かにあの整った顔の皇子が心配そうに眉を寄せて僕を見ている。
ユリウス様が
「あれ?いつもの担当者じゃないっすね」
と戸惑い、シグウェル様も
「誰だこいつは」
と、こいつ呼ばわりする始末だ。大丈夫?と僕に語りかけている皇子の背後では「ちょっと皇子⁉︎」なんて声が聞こえているけど、まさか勝手に通信に割り込んだのかな⁉︎
だけど皇子はそんなあっちとこっちの戸惑いそっちのけで
『すぐ行くからね!死なないで‼︎』
なんて言っている。いや、死・・・?何を勝手に人を処される前提で話してるわけ?
ていうか、「すぐ行く」って何?まさかアンタが来るとか言わないよね?
いやいや、さすがにそれは無いでしょ。
一瞬浮かんだ考えを否定した時だ。
「あれ?なんか急に天気が怪しくなって来たっすね?」
と言ったユリウス様の言葉にどきりとする。
ハッとして窓の外を見れば、さっきまで晴れていたのにいつの間にか空には重く雲が垂れ込めていた。
遠くからは雷鳴も聞こえる。まさか。嫌な予感がする。
その間にも、ぽつぽつと降り始めた雨粒が窓に当たり始めていた。
「・・・おい、なんだこの魔力は」
シグウェル様があの氷の美貌の眉を顰めた。
「へ?魔力っすか?」
ユリウス様がそう聞き返した時だ。窓の外で激しい轟音が鳴り響いて、大きな雷がすぐ近くに落ちた。
「ええ⁉︎あれ、移動用の魔法陣の近くっすよ⁉︎」
ユリウス様の慌てる声に目眩がする。あ、ダメだこれはもしかして・・・。
「誰か魔法陣で移動して来たな」
確かめに行くぞ、とシグウェル様が踵を返す。
なんて言うか、今からまた絶対にひと騒動起きる。その予感しかしなかった。
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兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。
特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった……
恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。
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