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番外編
蜜を召しませ 6
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ほぼふて寝のような状態で頭痛と共に寝てしまったけど、実は眠っていたのは小一時間くらいだろうか?それほど長い時間ではなかった。
そして目が覚めたのはお腹が空いていたせいもあるけど、枕元でなんだかヒソヒソ言っているレジナスさんとシェラさんの声が聞こえたからだ。
「・・・だって仕方がないでしょう?あなたも真正面からあのユーリ様の顔をご覧になれば理解出来たはずですよ。赤らんだ頬、僅かに汗ばんだ額、それにあの潤んだ瞳。そんな顔で小さなお口を目一杯開けて、口の中をオレの白いモノでいっぱいにしながら頑張ってそれを全部飲み込もうとしていたんですよ?腰にこない方がおかしいです。ああ、新婚休暇が待ち遠しいですねぇ・・・」
顔は見えないけどうっとりしながら話しているのが手に取るように分かるシェラさんはやたらと饒舌だ。
「お前・・・だからどうしてそう紛らわしい言い方をするんだ?ユーリに必要なのは刺激ではなくて休養だろうが!それをあんな無理やり・・・!」
「おや。顔が赤いですよ、思い出しましたか?・・・それにしても自制心が強いですねぇ。ですが、欲望も我慢が過ぎるといつか自制が効かなくなりますよ?そうなる前にユーリ様とは日常的に適度に触れ合う機会を作って発散する方がいいと思いますが。」
「人の下半身を見るな、わざと煽っているだろうお前!全く、ユーリともっと伴侶らしくしろという意味では言っていることはリオン様とそう変わらないのに、お前が言うとまるで邪なことにしか聞こえないな!」
「邪な意味合いに聞こえるあたり、オレのせいだけでなくあなたも相当限界だと思いますが・・・。まあいずれにせよ、あの乳酸飲料にはユーリ様のお力が込められた食材がたっぷり含まれていますからね。頭痛がしたのも好転反応かも知れません。その証拠に、額や頬の熱もだいぶ落ち着いてきているでしょう?じきに目を覚ましますよ。」
「だといいが・・・」
気遣わしげなレジナスさんの声が近くでして、あの無骨で大きな手がそっと私の頬に触れたのを感じる。
「昼に薄いパン一枚が浸されたスープを飲んだきり、あとはリンゴのすり下ろしとお前のあの白い・・・乳酸飲料を飲んだだけだ。もっと何か口にさせたいんだが」
「あ、今白いアレって言いそうでしたね?」
「人の話は真面目に聞け!」
・・・本当にこの二人は仲がいいんだか悪いんだか。
シェラさんも、私を心配しながらもレジナスさんをからかっているのはきっと眠っていた私の様子が落ち着いていたからだろう。それならもっと安心させてあげるために起きなくちゃ。
「ん・・・」
レジナスさん、と言いたかったけど残念ながら声はまだそんなに出ない。
なんとか頑張って掠れた小声でその名前を呼んで、頬に当てられている手の方へと顔を向けた。
「ユーリ、起きたか!どうだ調子は。声は・・・まだ出ないな。」
ほっとしたレジナスさんに起こしてもらってベッドへ寄りかかれば何か食べるかと聞かれた。
うん、食べる食べる!声は出ないけどあの高熱で頭がぼうっとする感じはほとんど消えている。
薬草やシグウェルさんの魔法もそうだけど、シェラさんがマールの町から持ってきてくれたリンゴのすり下ろしを食べたおかげと・・・不本意ながら無理やり飲まされたあの乳酸飲料が効いたのかもしれない。
「リオン様は王宮からの呼び出しで所用を片付けに行ったがすぐに戻る。シグウェルの奴も、また後で来るからな。ユーリが起きてからその様子を見て魔法をかけるそうだ。解熱作用のある薬草もその時の状態に合わせて処方量を決めると言っていた。だからその前に少し食事を取っておこう。」
そうレジナスさんが促した先のテーブルにはマリーさんが控えていた。
「ユーリ様、温かいスープと冷たいスープ、どちらになさいますか?まだ熱っぽいようであればさっぱりしたものが良いかもと言うことで、シンシアさんが両方準備してくれていますよ。」
そう聞かれたのでちょっと考えて身振り手振りで冷たいスープをお願いする。
熱が出て汗をかいたせいかひんやりしたものが欲しい。
「瞳に少し力強さが戻ってきたようだな。回復してきているようで良かった。」
ほっとしたように私の目を見たレジナスさんがそう言って、シェラさんが
「ほらご覧なさい。やっぱりさっき頑張ってアレを飲んでもらっておいて良かったんですよ。」
したり顔で頷いている。あ、そういえば多少強引な事はされたけど朝からわざわざマールの町まで走ってもらったお礼をまだシェラさんに言っていない。
それに気付いたのでシェラさん、と口パクで呼べばすぐに側までやって来る。
マールの町まで行ってくれてありがとうございます、と掠れ声と口パクが混ざった形でお礼を言えばそっとその指先を唇に押し当てられたのでむぐ、と口を閉じざるを得なかった。
「まだご無理をなさらずに。言葉にされずともそのお気持ちだけで充分です。それよりも、早く回復なさっていつものあの何の憂いもない輝くばかりのユーリ様の笑顔を見せていただければと思います。」
私を見つめたシェラさんはにっこりと金色の瞳を笑ませた。
そう言われたら頑張って早く元気にならなくちゃ。
唇に指先を当てられたまま、こくこくと真面目な顔で頷いたところで
「ただ、そうですねぇ」
シェラさんの笑みが深まって金色の瞳がきらりと輝いた。・・・うん?
「どうしてもお礼を、と言うのであれば痛む喉で無理にお話いただくよりも、態度で示してお褒めいただく分にはオレもやぶさかではありません。どうです?女神の信徒である卑しくも哀れなオレに慈悲と褒美を与えてはくれませんか?」
オレの女神、と言われてぐっとその顔が迫る。その瞬間、レジナスさんがぐいとシェラさんの後ろ襟を引いて私から引き離した。
「本当に油断も隙もないなお前は!」
「やめてください、首が締まっていますよレジナス。」
苦しいです、と言いつつも飄々とした態度のシェラさんはちゃんと首元に隙間が出来るように手を入れている。レジナスさんの素早い動きにも対応してふざけるのを忘れないあたりはさすがだ。いや、褒められたことじゃないけど。
「お前、今日はもうユーリに近付くな!」
そう言ったレジナスさんはシェラさんを投げ出すようにポイと放ると、その流れでベッドに腰掛けてなぜかその膝の上に私を座らせた。
「⁉︎」
どういうこと?と思っている間にも
「マリー、スープを。」
とマリーさんに指示をしてスープを受け取っている。
「冷たいカボチャのスープか。少し粘度があるから、むせないようにゆっくり飲め。」
スプーンでスープ皿をくるりとひと混ぜしたレジナスさんは私を膝の上に抱えたまま、後ろからまるで二人羽織のようにスープを掬ったスプーンを私の口元へと運んだ。
え?レジナスさんがリオン様ばりに私を膝の上に乗せてご飯を食べさせるの?
これは初めての体験だ。
面食らって思わず後ろのレジナスさんを振り仰いだけど
「・・・まだきちんと一人で座って食事を取るのは体が辛いだろう?腹も減っているだろうし、俺を椅子がわりにして寄りかかって食事を取れ。」
ちらりと私を見てそう言った。確かに、がっしりしているレジナスさんに後ろから抱えてもらうとあったかいし安心感もあるけれど・・・。
「良かったですねユーリ様。安心してレジナス様に頼ってください‼︎」
なんてニコニコしているマリーさんに見られながらこの体勢でご飯を食べるのはちょっと恥ずかしい。
「まったく、自ら椅子になれるのは大男の特権ですね。・・・さあユーリ様、こちらもどうぞ。マールの金のリンゴを甘く煮たものです。こちらも冷たく冷やしておきましたからね。」
なぜかシェラさんも私を膝に乗せてご飯を食べさせているレジナスさんを止めるでもなく煮リンゴを出してきた。
レジナスさんもそれを受け取って、ひと掬いするとまた私に差し出す。
甘い香りに誘われて思わずそれを口にすれば、歯で噛まなくても舌で押し潰すだけで柔らかく口の中で溶けるように崩れてなくなり、甘いリンゴの風味が口の中いっぱいに広がる。
「おいしいです・・・」
ぽろりとこぼれ出た言葉は掠れ声でなくきちんとした声になっていた。
「さすがユーリが加護をつけたリンゴだな。ユーリ本人の病気の回復にも相性が良さそうだ。だがまだ無理をして喋らなくていいからな。」
私の声を聞いたレジナスさんはほっと安堵のため息をついて次はどっちにする?とカボチャのスープと煮リンゴのお皿を目の前に置く。
「えっと、お肉・・・」
「まだ早い」
調子に乗って目の前にないものをリクエストしてみればピシャリとたしなめられた。
その落ち着いた様子はとてもじゃないけどつい先刻慌てふためいて毒ヘビをここに持ち込んだのと同じ人とは思えない。
「レジナスさんの意地悪!」
「食べたければ早く良くなれ。そうすればいくらでも肉を焼いてやる。というか、まだ喋るな。」
と、ぎゅっと後ろから抱きしめられる。その様子を見ていたシェラさんが
「日常的に触れ合えとは言いましたけど何も今、オレに見せつけるようにしなくてもねぇ・・・」
と呟いた。あれ、それってさっき私が目を開ける前に二人で話していたことかな?
通りでいつものレジナスさんぽくなく積極的なわけだ。
それにしても、いつも自分をからかってくるシェラさんのアドバイスをちゃんと聞いてさっそくそれを実践するなんて。真面目か。
まあそこがレジナスさんらしいと言えばらしい。そしてレジナスさんのそんなところが私は好きだなあ。
ふふ、と小さく笑えばなぜか私を抱えていたレジナスさんが身を固くした。うん?
どうかした?と不思議に思ったら
「い・・・今何を言ったんだユーリ?」
レジナスさんの声が動揺している。
「なぜ急に好きだとか言い出したんだ・・・⁉︎」
え、あれ?まさか声に出てた?ずっと声が出たり出なかったりだったので勝手が良く分からない。
するとシェラさんが
「ユーリ様はどうやらまだ高熱に浮かされているようですね?そうでなければ何の脈絡もなく、突然この男に愛を告げるなどあり得ませんからね。ええ、普段の恥ずかしがり屋のユーリ様からはとても考えられません。さあもう一度布団にお戻りください。」
そう言ってレジナスさんの膝の上から私をサッと降ろすとあっという間にまたベッドの中に戻してしまった。
頭まですっぽりと被せられた布団の外ではレジナスさんの「待て・・・!」とか「もう一度確かめて・・・」とか言う声が聞こえてくる。
だけど私は無意識のうちについうっかり心の声を口に出してしまったことが恥ずかしくて、そのままシグウェルさんやリオン様が戻って来るまで布団の中に籠城することにしたのだった。
そして目が覚めたのはお腹が空いていたせいもあるけど、枕元でなんだかヒソヒソ言っているレジナスさんとシェラさんの声が聞こえたからだ。
「・・・だって仕方がないでしょう?あなたも真正面からあのユーリ様の顔をご覧になれば理解出来たはずですよ。赤らんだ頬、僅かに汗ばんだ額、それにあの潤んだ瞳。そんな顔で小さなお口を目一杯開けて、口の中をオレの白いモノでいっぱいにしながら頑張ってそれを全部飲み込もうとしていたんですよ?腰にこない方がおかしいです。ああ、新婚休暇が待ち遠しいですねぇ・・・」
顔は見えないけどうっとりしながら話しているのが手に取るように分かるシェラさんはやたらと饒舌だ。
「お前・・・だからどうしてそう紛らわしい言い方をするんだ?ユーリに必要なのは刺激ではなくて休養だろうが!それをあんな無理やり・・・!」
「おや。顔が赤いですよ、思い出しましたか?・・・それにしても自制心が強いですねぇ。ですが、欲望も我慢が過ぎるといつか自制が効かなくなりますよ?そうなる前にユーリ様とは日常的に適度に触れ合う機会を作って発散する方がいいと思いますが。」
「人の下半身を見るな、わざと煽っているだろうお前!全く、ユーリともっと伴侶らしくしろという意味では言っていることはリオン様とそう変わらないのに、お前が言うとまるで邪なことにしか聞こえないな!」
「邪な意味合いに聞こえるあたり、オレのせいだけでなくあなたも相当限界だと思いますが・・・。まあいずれにせよ、あの乳酸飲料にはユーリ様のお力が込められた食材がたっぷり含まれていますからね。頭痛がしたのも好転反応かも知れません。その証拠に、額や頬の熱もだいぶ落ち着いてきているでしょう?じきに目を覚ましますよ。」
「だといいが・・・」
気遣わしげなレジナスさんの声が近くでして、あの無骨で大きな手がそっと私の頬に触れたのを感じる。
「昼に薄いパン一枚が浸されたスープを飲んだきり、あとはリンゴのすり下ろしとお前のあの白い・・・乳酸飲料を飲んだだけだ。もっと何か口にさせたいんだが」
「あ、今白いアレって言いそうでしたね?」
「人の話は真面目に聞け!」
・・・本当にこの二人は仲がいいんだか悪いんだか。
シェラさんも、私を心配しながらもレジナスさんをからかっているのはきっと眠っていた私の様子が落ち着いていたからだろう。それならもっと安心させてあげるために起きなくちゃ。
「ん・・・」
レジナスさん、と言いたかったけど残念ながら声はまだそんなに出ない。
なんとか頑張って掠れた小声でその名前を呼んで、頬に当てられている手の方へと顔を向けた。
「ユーリ、起きたか!どうだ調子は。声は・・・まだ出ないな。」
ほっとしたレジナスさんに起こしてもらってベッドへ寄りかかれば何か食べるかと聞かれた。
うん、食べる食べる!声は出ないけどあの高熱で頭がぼうっとする感じはほとんど消えている。
薬草やシグウェルさんの魔法もそうだけど、シェラさんがマールの町から持ってきてくれたリンゴのすり下ろしを食べたおかげと・・・不本意ながら無理やり飲まされたあの乳酸飲料が効いたのかもしれない。
「リオン様は王宮からの呼び出しで所用を片付けに行ったがすぐに戻る。シグウェルの奴も、また後で来るからな。ユーリが起きてからその様子を見て魔法をかけるそうだ。解熱作用のある薬草もその時の状態に合わせて処方量を決めると言っていた。だからその前に少し食事を取っておこう。」
そうレジナスさんが促した先のテーブルにはマリーさんが控えていた。
「ユーリ様、温かいスープと冷たいスープ、どちらになさいますか?まだ熱っぽいようであればさっぱりしたものが良いかもと言うことで、シンシアさんが両方準備してくれていますよ。」
そう聞かれたのでちょっと考えて身振り手振りで冷たいスープをお願いする。
熱が出て汗をかいたせいかひんやりしたものが欲しい。
「瞳に少し力強さが戻ってきたようだな。回復してきているようで良かった。」
ほっとしたように私の目を見たレジナスさんがそう言って、シェラさんが
「ほらご覧なさい。やっぱりさっき頑張ってアレを飲んでもらっておいて良かったんですよ。」
したり顔で頷いている。あ、そういえば多少強引な事はされたけど朝からわざわざマールの町まで走ってもらったお礼をまだシェラさんに言っていない。
それに気付いたのでシェラさん、と口パクで呼べばすぐに側までやって来る。
マールの町まで行ってくれてありがとうございます、と掠れ声と口パクが混ざった形でお礼を言えばそっとその指先を唇に押し当てられたのでむぐ、と口を閉じざるを得なかった。
「まだご無理をなさらずに。言葉にされずともそのお気持ちだけで充分です。それよりも、早く回復なさっていつものあの何の憂いもない輝くばかりのユーリ様の笑顔を見せていただければと思います。」
私を見つめたシェラさんはにっこりと金色の瞳を笑ませた。
そう言われたら頑張って早く元気にならなくちゃ。
唇に指先を当てられたまま、こくこくと真面目な顔で頷いたところで
「ただ、そうですねぇ」
シェラさんの笑みが深まって金色の瞳がきらりと輝いた。・・・うん?
「どうしてもお礼を、と言うのであれば痛む喉で無理にお話いただくよりも、態度で示してお褒めいただく分にはオレもやぶさかではありません。どうです?女神の信徒である卑しくも哀れなオレに慈悲と褒美を与えてはくれませんか?」
オレの女神、と言われてぐっとその顔が迫る。その瞬間、レジナスさんがぐいとシェラさんの後ろ襟を引いて私から引き離した。
「本当に油断も隙もないなお前は!」
「やめてください、首が締まっていますよレジナス。」
苦しいです、と言いつつも飄々とした態度のシェラさんはちゃんと首元に隙間が出来るように手を入れている。レジナスさんの素早い動きにも対応してふざけるのを忘れないあたりはさすがだ。いや、褒められたことじゃないけど。
「お前、今日はもうユーリに近付くな!」
そう言ったレジナスさんはシェラさんを投げ出すようにポイと放ると、その流れでベッドに腰掛けてなぜかその膝の上に私を座らせた。
「⁉︎」
どういうこと?と思っている間にも
「マリー、スープを。」
とマリーさんに指示をしてスープを受け取っている。
「冷たいカボチャのスープか。少し粘度があるから、むせないようにゆっくり飲め。」
スプーンでスープ皿をくるりとひと混ぜしたレジナスさんは私を膝の上に抱えたまま、後ろからまるで二人羽織のようにスープを掬ったスプーンを私の口元へと運んだ。
え?レジナスさんがリオン様ばりに私を膝の上に乗せてご飯を食べさせるの?
これは初めての体験だ。
面食らって思わず後ろのレジナスさんを振り仰いだけど
「・・・まだきちんと一人で座って食事を取るのは体が辛いだろう?腹も減っているだろうし、俺を椅子がわりにして寄りかかって食事を取れ。」
ちらりと私を見てそう言った。確かに、がっしりしているレジナスさんに後ろから抱えてもらうとあったかいし安心感もあるけれど・・・。
「良かったですねユーリ様。安心してレジナス様に頼ってください‼︎」
なんてニコニコしているマリーさんに見られながらこの体勢でご飯を食べるのはちょっと恥ずかしい。
「まったく、自ら椅子になれるのは大男の特権ですね。・・・さあユーリ様、こちらもどうぞ。マールの金のリンゴを甘く煮たものです。こちらも冷たく冷やしておきましたからね。」
なぜかシェラさんも私を膝に乗せてご飯を食べさせているレジナスさんを止めるでもなく煮リンゴを出してきた。
レジナスさんもそれを受け取って、ひと掬いするとまた私に差し出す。
甘い香りに誘われて思わずそれを口にすれば、歯で噛まなくても舌で押し潰すだけで柔らかく口の中で溶けるように崩れてなくなり、甘いリンゴの風味が口の中いっぱいに広がる。
「おいしいです・・・」
ぽろりとこぼれ出た言葉は掠れ声でなくきちんとした声になっていた。
「さすがユーリが加護をつけたリンゴだな。ユーリ本人の病気の回復にも相性が良さそうだ。だがまだ無理をして喋らなくていいからな。」
私の声を聞いたレジナスさんはほっと安堵のため息をついて次はどっちにする?とカボチャのスープと煮リンゴのお皿を目の前に置く。
「えっと、お肉・・・」
「まだ早い」
調子に乗って目の前にないものをリクエストしてみればピシャリとたしなめられた。
その落ち着いた様子はとてもじゃないけどつい先刻慌てふためいて毒ヘビをここに持ち込んだのと同じ人とは思えない。
「レジナスさんの意地悪!」
「食べたければ早く良くなれ。そうすればいくらでも肉を焼いてやる。というか、まだ喋るな。」
と、ぎゅっと後ろから抱きしめられる。その様子を見ていたシェラさんが
「日常的に触れ合えとは言いましたけど何も今、オレに見せつけるようにしなくてもねぇ・・・」
と呟いた。あれ、それってさっき私が目を開ける前に二人で話していたことかな?
通りでいつものレジナスさんぽくなく積極的なわけだ。
それにしても、いつも自分をからかってくるシェラさんのアドバイスをちゃんと聞いてさっそくそれを実践するなんて。真面目か。
まあそこがレジナスさんらしいと言えばらしい。そしてレジナスさんのそんなところが私は好きだなあ。
ふふ、と小さく笑えばなぜか私を抱えていたレジナスさんが身を固くした。うん?
どうかした?と不思議に思ったら
「い・・・今何を言ったんだユーリ?」
レジナスさんの声が動揺している。
「なぜ急に好きだとか言い出したんだ・・・⁉︎」
え、あれ?まさか声に出てた?ずっと声が出たり出なかったりだったので勝手が良く分からない。
するとシェラさんが
「ユーリ様はどうやらまだ高熱に浮かされているようですね?そうでなければ何の脈絡もなく、突然この男に愛を告げるなどあり得ませんからね。ええ、普段の恥ずかしがり屋のユーリ様からはとても考えられません。さあもう一度布団にお戻りください。」
そう言ってレジナスさんの膝の上から私をサッと降ろすとあっという間にまたベッドの中に戻してしまった。
頭まですっぽりと被せられた布団の外ではレジナスさんの「待て・・・!」とか「もう一度確かめて・・・」とか言う声が聞こえてくる。
だけど私は無意識のうちについうっかり心の声を口に出してしまったことが恥ずかしくて、そのままシグウェルさんやリオン様が戻って来るまで布団の中に籠城することにしたのだった。
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