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番外編
かわいい子には旅をさせよう 8
「まったく、ユーリ様に関わるとあのクソ真面目なレジナスも怪しい誘拐犯みたいに挙動不審になるし、元々怪しい行動しかしないアンタみたいな人は輪をかけて頭のおかしい言動をするしで、まるでユーリ様は癒し子っていうよりも人を惑わす小悪魔っすね!」
シェラさんに向かって頭がおかしい!と言い放ったユリウスさんは私をちらりと見やって、やれやれと肩をすくめた。
「え?なんでシェラさんとユリウスさんとの会話が私に飛び火してるんですか?とばっちりじゃないですか私。」
別に人を惑わしている自覚もない。ちょっと食い意地が張っているだけで、イリューディアさんに協力してこんなに品行方正に生きている人に対してひどくない?
そう訴えたら
「無自覚な辺りがなお悪いし小悪魔なんすよ!そのせいでノイエ領でやらかしてリオン殿下にしこたま怒られたの、もう忘れちゃったんですか?」
と、きゃんきゃん文句を言われた。
いやアレは私だけじゃなくてユリウスさんも悪くない?
ノイエ領でシグウェルさんの幻影魔法で大きな姿になった私を見てテンションが上がった挙句、慌てて私の口にイチゴを突っ込んだのはユリウスさんだったよね?
理不尽な言いがかりだ、と頬を膨らませたら
「ほらまたそんな可愛い顔して!マジ小悪魔っす!」
また文句を言われてしまった。一体どうしろっていうのか。
するとシェラさんが、イチゴを煮詰めていた小鍋をかき混ぜていたスプーンでその小鍋のふちをカンと打ってユリウスさんの言葉を遮った。
「いい加減になさい。そもそもユーリ様が小悪魔で何が悪いのです?これほど愛らしく人の心を奪うような所作をされるお方の前で平常心でいられないのは当たり前です。むしろその手の平の上で踊らされて、小悪魔のユーリ様に誘われるがまま共に地の底に堕ちても本望というものでしょう?」
「やっぱり頭がおかしい!・・・って熱っつ!目ぇ!俺の目が‼︎」
「おや失礼」
シェラさんに向かってまた頭がおかしいと言ったユリウスさんが目を押さえ、それを言われたシェラさんは全く心のこもっていないお詫びをした。
小鍋を打ったスプーンから飛んだ、熱々でとろりと煮溶けたイチゴの飛沫がユリウスさんの目を直撃したのだ。あれ、絶対わざとだよね・・・。
まだ目を押さえて悶絶しているユリウスさんを尻目に、シェラさんは私へと向き直る。
「ユーリ様、オレはユーリ様が女神であろうが小悪魔であろうが構いませんからね。お慕いする気持ちに変わりはありませんし、むしろ小悪魔のように振る舞い、オレをそのお心のままに好きに翻弄なさって良いんですよ。いえ、むしろいっそその方が本望です。」
「あ、はぁ・・・」
小悪魔呼ばわりされた私をシェラさんなりに励ましてくれてる・・・?
いや、そのうっとりとした眼差しは本気のやつだ。
このまま黙っているとまだまだ訳の分からない賛美の言葉だか口説き文句だかを聞かされそうだ。
だから一旦この場を離れてシェラさんにはクールダウンしてもらおうと立ち上がる。
「ユーリ様?」
不思議そうな顔で私を見上げたシェラさんに
「ちょっと他の騎士さん達の作ったご飯も食べてきます!パンケーキが焼けたら教えてください、食後のデザートに食べますから!」
そう宣言して串焼き肉を片手に待ち構えている騎士さん達の方へと駆ける。
そうすれば前方で騎士さん達がわっ、と口々に
「おい、こっちに来るぞ!」
「ようこそユーリ様!」
「ちょうどおいしい肉が焼けたところですよ!」
と歓迎してくれた。ちなみに後方ではユリウスさんの
「え、ちょっとユーリ様!この隊長と俺を二人っきりにするとか正気っすか⁉︎」
置いてかないで、という切実そうな声も聞こえたけど無視させてもらった。人のことを心が枯れてるだのなんだのと言った罰だ。
そうして護衛騎士さん達の中に入って勧められるままにご馳走になっていたら
「今のうちにたくさん食べておいてくださいね!向こうに着いたらなかなかに食糧事情は厳しくなると思いますので!」
と言われた。それはどういう事だろう?と聞けば、目的地は水害の多い地域だけに作物が育ちにくく取れにくいらしい。
「よく頑張ってそんな土地に住んでますね?」
もっと豊かな他の土地に移住しようと思わなかったのかなと疑問に思えば
「土地は痩せていても魔物が出にくい地域らしいんです。その辺り一帯は昔、勇者様が主だった魔物を討伐しつくした地域だからですかね?」
「自然の脅威か魔物の被害に遭うかを考えたら、やはり魔物の方を避けたいっすから。」
と教えてもらった。なるほど。
常に魔物の脅威に怯えるよりも、痩せた土地でも魔物が出ない所を根気よく開墾して暮らしやすくしていく方がましってことなのかな?
それなのに今回、水害による土砂崩れをきっかけに、ただでさえ痩せている土地に加えて魔物らしいものの被害まで出そうになっているなんて大変だ。そりゃああの書記官さんも故郷のために直訴までするよね。
「じゃあ私が行ったら出来ることは多そうですね?」
魔物らしいものの気配を浄化して、ついでに土地が豊かになるような加護を付けて・・・あと他にも何か出来ることはないかな。
うーんと考えていたら、こんがりとキツネ色に焼けたおいしそうなパンを差し出された。
「どうぞユーリ様、棒パンです!焼きたてなんで熱いから気を付けて食べてください!」
「ありがとうございます」
焚き火にかざした棒に巻き付けて焼かれていた出来立ての棒パンは、ふかふかでほのかな甘みがあっておいしい。
「すごくおいしいです!」
お礼を言えば騎士さん達も嬉しそうな顔をして頷いてくれる。
「オレの焼いたパンをユーリ様が食べてくれてる、帰ったら自慢しよう!」なんて感激までしてくれたので、シェラさんの焼いてくれているパンケーキの入る分までお腹に余裕を残しておこうと思ったのに頑張ってそれを頬張った。
そこでふと思いつく。あ、そうだ。ノイエ領で孤児院に寄付するために作った、あのパンやお菓子が湧いて出てくる籠。あれをまた作って、これから行く所へも置いて来れないかな。
あの籠があれば水害で食べ物が厳しい時期にも食べるものに困らなくなるかも知れない。
ついでに空き瓶か何かあったらそれにも果実酒がいつでも満たされていて減らない加護を付けるのもいいだろう。
何しろつい最近までシグウェルさんに色々な容れ物200個にそういう加護を付ける実験をさせられたのだ。
おかげで瓶の中に飲み物を満たす加護を付けるのは随分早く出来るようになった。
不本意ながらシグウェルさんのスパルタ魔法実験に付き合ったおかげでその手の加護を付ける要領が良くなってしまったのは良いことなのか何なのか。
思わずパンを食べる手を止めてあの無茶振りの魔法実験を思い出し、つい遠い目をしてしまったら騎士さん達に食べ過ぎて具合が悪くなったのかと心配されてしまった。
「いえ、違いますよ!えーっと、荷物の中にバスケットとか籠みたいなのって持ってきてますか?」
パンが出てくる加護を付けるのにちょうどいい入れ物はないかな。
そう思って聞いてみたけど、どうやらその手の手頃な籠はないらしい。
何に使うのかと聞かれたので説明していたら、突然背後でシェラさんの声がした。
「それはダーヴィゼルドへの道中、休憩した際にオレとデレクもご馳走になった例の籠と同じ物ですね?あの世にも不思議な物を目の前で作るところを見られるのですか?」
「うわ、びっくりしたぁ。シェラさん、気配を消したまま後ろに立たないでくださいよ!」
飛び上がるほど驚いて言えば、
「ユーリ様にお気遣いさせることなくその愛らしいお姿を眺めていたかったもので。パンケーキが焼けたので呼びに来たついでに、その小さなお口で愛らしくパンを食べているところを堪能させていただいておりましたが、気になることを仰っていたのでつい声をかけてしまいました。」
お食事の邪魔をしてすみませんと頭を下げられたけど・・・。
いや、気配を消して人が食べてるところを至近距離で黙ってずっと見てたとかやっぱりストーカーじゃないの?
「パンケーキが焼けたなら先にそれを教えてくださいよ!」
「今、マリーがあのイチゴのソースをかけて仕上げをしておりますよ。・・・それよりも、今の話ですが籠がなければ作れば良いのでは?」
「え?」
作る?どうやって?小首を傾げれば、艶然と微笑んだシェラさんに周りの騎士さん達がざわついた。
「おい、これ絶対この隊長ロクな事考えてないぞ」
なんて声がどこからともなく上がる。だけどシェラさんはそんな声をまるっと無視して
「周りには籠の材料になるものが嫌というほど溢れておりますからね。野営地であるこの場所だけでなく、森全体にも先ほどユリウス副団長に魔物避けの結界を張ってもらいましたし、護衛騎士達を全員森の中へ籠の材料であるツルの採取に駆り出しても問題ないでしょう。念のためユリウス副団長にも残ってもらいますが、ユーリ様の就寝時の夜番の護衛はオレだけでも充分です。」
と提案してきた。途端に周りの騎士達からまた声が上がる。
「いや隊長、まさか俺たちに夜の間中ずっと森の中で籠の材料探しをさせるつもりですか⁉︎」
「隊長ばっかりユーリ様の側に一晩中いるとかズルイ!」
「俺たちもユーリ様の寝息をそばで聞きたい‼︎」
・・・いや、最後のそれはどうなのかな?ちょっと変態じみてない?
だけどシェラさんはそんな他の騎士さん達の文句もどこ吹く風で、
「材料を集めて終わりではないですよ。ツルを取ってきたらそれで籠も編んでもらわなければなりませんからね。明日の朝、出発するまでにそうですねぇ・・・四つは作っておいてもらいましょうか。どうですかユーリ様、その位の数で足りますか?」
そんな事まで言って私に向き直った。
「え?あ、はい。それくらいあれば大丈夫かな・・・?」
確かに、日中は騎士さん達は馬で移動するから籠を作るなら朝までだけど。籠の数も、四つもあればこれから行く先の住民たちに充分パンが行き渡るだろうけど。
なんか余計な仕事を増やして悪いなあと
「すみませんけどお願いしてもいいですか・・・?」
騎士さん達に頭を下げたら、
「ユーリ様のためなら頑張ります!」
「何でも言ってください‼︎」
私が下げた頭よりも深く、それこそ土下座でもしそうな勢いで騎士さん達に頭を下げられた。
あれ?これって奥の院を出る前にシェラさんがどこの独裁者かと思うように言ってた『私が頭を下げたらそれよりももっと深く頭を下げろ』が実践されてしまってる⁉︎
「そ、そんなかしこまらなくていいんですよ⁉︎」
慌てて頭を上げさせようとしたけどみんな
「隊長に殺されるんで!」
と頑として聞き入れず、シェラさんだけが
「それでよろしい」
とご満悦だった。
シェラさんに向かって頭がおかしい!と言い放ったユリウスさんは私をちらりと見やって、やれやれと肩をすくめた。
「え?なんでシェラさんとユリウスさんとの会話が私に飛び火してるんですか?とばっちりじゃないですか私。」
別に人を惑わしている自覚もない。ちょっと食い意地が張っているだけで、イリューディアさんに協力してこんなに品行方正に生きている人に対してひどくない?
そう訴えたら
「無自覚な辺りがなお悪いし小悪魔なんすよ!そのせいでノイエ領でやらかしてリオン殿下にしこたま怒られたの、もう忘れちゃったんですか?」
と、きゃんきゃん文句を言われた。
いやアレは私だけじゃなくてユリウスさんも悪くない?
ノイエ領でシグウェルさんの幻影魔法で大きな姿になった私を見てテンションが上がった挙句、慌てて私の口にイチゴを突っ込んだのはユリウスさんだったよね?
理不尽な言いがかりだ、と頬を膨らませたら
「ほらまたそんな可愛い顔して!マジ小悪魔っす!」
また文句を言われてしまった。一体どうしろっていうのか。
するとシェラさんが、イチゴを煮詰めていた小鍋をかき混ぜていたスプーンでその小鍋のふちをカンと打ってユリウスさんの言葉を遮った。
「いい加減になさい。そもそもユーリ様が小悪魔で何が悪いのです?これほど愛らしく人の心を奪うような所作をされるお方の前で平常心でいられないのは当たり前です。むしろその手の平の上で踊らされて、小悪魔のユーリ様に誘われるがまま共に地の底に堕ちても本望というものでしょう?」
「やっぱり頭がおかしい!・・・って熱っつ!目ぇ!俺の目が‼︎」
「おや失礼」
シェラさんに向かってまた頭がおかしいと言ったユリウスさんが目を押さえ、それを言われたシェラさんは全く心のこもっていないお詫びをした。
小鍋を打ったスプーンから飛んだ、熱々でとろりと煮溶けたイチゴの飛沫がユリウスさんの目を直撃したのだ。あれ、絶対わざとだよね・・・。
まだ目を押さえて悶絶しているユリウスさんを尻目に、シェラさんは私へと向き直る。
「ユーリ様、オレはユーリ様が女神であろうが小悪魔であろうが構いませんからね。お慕いする気持ちに変わりはありませんし、むしろ小悪魔のように振る舞い、オレをそのお心のままに好きに翻弄なさって良いんですよ。いえ、むしろいっそその方が本望です。」
「あ、はぁ・・・」
小悪魔呼ばわりされた私をシェラさんなりに励ましてくれてる・・・?
いや、そのうっとりとした眼差しは本気のやつだ。
このまま黙っているとまだまだ訳の分からない賛美の言葉だか口説き文句だかを聞かされそうだ。
だから一旦この場を離れてシェラさんにはクールダウンしてもらおうと立ち上がる。
「ユーリ様?」
不思議そうな顔で私を見上げたシェラさんに
「ちょっと他の騎士さん達の作ったご飯も食べてきます!パンケーキが焼けたら教えてください、食後のデザートに食べますから!」
そう宣言して串焼き肉を片手に待ち構えている騎士さん達の方へと駆ける。
そうすれば前方で騎士さん達がわっ、と口々に
「おい、こっちに来るぞ!」
「ようこそユーリ様!」
「ちょうどおいしい肉が焼けたところですよ!」
と歓迎してくれた。ちなみに後方ではユリウスさんの
「え、ちょっとユーリ様!この隊長と俺を二人っきりにするとか正気っすか⁉︎」
置いてかないで、という切実そうな声も聞こえたけど無視させてもらった。人のことを心が枯れてるだのなんだのと言った罰だ。
そうして護衛騎士さん達の中に入って勧められるままにご馳走になっていたら
「今のうちにたくさん食べておいてくださいね!向こうに着いたらなかなかに食糧事情は厳しくなると思いますので!」
と言われた。それはどういう事だろう?と聞けば、目的地は水害の多い地域だけに作物が育ちにくく取れにくいらしい。
「よく頑張ってそんな土地に住んでますね?」
もっと豊かな他の土地に移住しようと思わなかったのかなと疑問に思えば
「土地は痩せていても魔物が出にくい地域らしいんです。その辺り一帯は昔、勇者様が主だった魔物を討伐しつくした地域だからですかね?」
「自然の脅威か魔物の被害に遭うかを考えたら、やはり魔物の方を避けたいっすから。」
と教えてもらった。なるほど。
常に魔物の脅威に怯えるよりも、痩せた土地でも魔物が出ない所を根気よく開墾して暮らしやすくしていく方がましってことなのかな?
それなのに今回、水害による土砂崩れをきっかけに、ただでさえ痩せている土地に加えて魔物らしいものの被害まで出そうになっているなんて大変だ。そりゃああの書記官さんも故郷のために直訴までするよね。
「じゃあ私が行ったら出来ることは多そうですね?」
魔物らしいものの気配を浄化して、ついでに土地が豊かになるような加護を付けて・・・あと他にも何か出来ることはないかな。
うーんと考えていたら、こんがりとキツネ色に焼けたおいしそうなパンを差し出された。
「どうぞユーリ様、棒パンです!焼きたてなんで熱いから気を付けて食べてください!」
「ありがとうございます」
焚き火にかざした棒に巻き付けて焼かれていた出来立ての棒パンは、ふかふかでほのかな甘みがあっておいしい。
「すごくおいしいです!」
お礼を言えば騎士さん達も嬉しそうな顔をして頷いてくれる。
「オレの焼いたパンをユーリ様が食べてくれてる、帰ったら自慢しよう!」なんて感激までしてくれたので、シェラさんの焼いてくれているパンケーキの入る分までお腹に余裕を残しておこうと思ったのに頑張ってそれを頬張った。
そこでふと思いつく。あ、そうだ。ノイエ領で孤児院に寄付するために作った、あのパンやお菓子が湧いて出てくる籠。あれをまた作って、これから行く所へも置いて来れないかな。
あの籠があれば水害で食べ物が厳しい時期にも食べるものに困らなくなるかも知れない。
ついでに空き瓶か何かあったらそれにも果実酒がいつでも満たされていて減らない加護を付けるのもいいだろう。
何しろつい最近までシグウェルさんに色々な容れ物200個にそういう加護を付ける実験をさせられたのだ。
おかげで瓶の中に飲み物を満たす加護を付けるのは随分早く出来るようになった。
不本意ながらシグウェルさんのスパルタ魔法実験に付き合ったおかげでその手の加護を付ける要領が良くなってしまったのは良いことなのか何なのか。
思わずパンを食べる手を止めてあの無茶振りの魔法実験を思い出し、つい遠い目をしてしまったら騎士さん達に食べ過ぎて具合が悪くなったのかと心配されてしまった。
「いえ、違いますよ!えーっと、荷物の中にバスケットとか籠みたいなのって持ってきてますか?」
パンが出てくる加護を付けるのにちょうどいい入れ物はないかな。
そう思って聞いてみたけど、どうやらその手の手頃な籠はないらしい。
何に使うのかと聞かれたので説明していたら、突然背後でシェラさんの声がした。
「それはダーヴィゼルドへの道中、休憩した際にオレとデレクもご馳走になった例の籠と同じ物ですね?あの世にも不思議な物を目の前で作るところを見られるのですか?」
「うわ、びっくりしたぁ。シェラさん、気配を消したまま後ろに立たないでくださいよ!」
飛び上がるほど驚いて言えば、
「ユーリ様にお気遣いさせることなくその愛らしいお姿を眺めていたかったもので。パンケーキが焼けたので呼びに来たついでに、その小さなお口で愛らしくパンを食べているところを堪能させていただいておりましたが、気になることを仰っていたのでつい声をかけてしまいました。」
お食事の邪魔をしてすみませんと頭を下げられたけど・・・。
いや、気配を消して人が食べてるところを至近距離で黙ってずっと見てたとかやっぱりストーカーじゃないの?
「パンケーキが焼けたなら先にそれを教えてくださいよ!」
「今、マリーがあのイチゴのソースをかけて仕上げをしておりますよ。・・・それよりも、今の話ですが籠がなければ作れば良いのでは?」
「え?」
作る?どうやって?小首を傾げれば、艶然と微笑んだシェラさんに周りの騎士さん達がざわついた。
「おい、これ絶対この隊長ロクな事考えてないぞ」
なんて声がどこからともなく上がる。だけどシェラさんはそんな声をまるっと無視して
「周りには籠の材料になるものが嫌というほど溢れておりますからね。野営地であるこの場所だけでなく、森全体にも先ほどユリウス副団長に魔物避けの結界を張ってもらいましたし、護衛騎士達を全員森の中へ籠の材料であるツルの採取に駆り出しても問題ないでしょう。念のためユリウス副団長にも残ってもらいますが、ユーリ様の就寝時の夜番の護衛はオレだけでも充分です。」
と提案してきた。途端に周りの騎士達からまた声が上がる。
「いや隊長、まさか俺たちに夜の間中ずっと森の中で籠の材料探しをさせるつもりですか⁉︎」
「隊長ばっかりユーリ様の側に一晩中いるとかズルイ!」
「俺たちもユーリ様の寝息をそばで聞きたい‼︎」
・・・いや、最後のそれはどうなのかな?ちょっと変態じみてない?
だけどシェラさんはそんな他の騎士さん達の文句もどこ吹く風で、
「材料を集めて終わりではないですよ。ツルを取ってきたらそれで籠も編んでもらわなければなりませんからね。明日の朝、出発するまでにそうですねぇ・・・四つは作っておいてもらいましょうか。どうですかユーリ様、その位の数で足りますか?」
そんな事まで言って私に向き直った。
「え?あ、はい。それくらいあれば大丈夫かな・・・?」
確かに、日中は騎士さん達は馬で移動するから籠を作るなら朝までだけど。籠の数も、四つもあればこれから行く先の住民たちに充分パンが行き渡るだろうけど。
なんか余計な仕事を増やして悪いなあと
「すみませんけどお願いしてもいいですか・・・?」
騎士さん達に頭を下げたら、
「ユーリ様のためなら頑張ります!」
「何でも言ってください‼︎」
私が下げた頭よりも深く、それこそ土下座でもしそうな勢いで騎士さん達に頭を下げられた。
あれ?これって奥の院を出る前にシェラさんがどこの独裁者かと思うように言ってた『私が頭を下げたらそれよりももっと深く頭を下げろ』が実践されてしまってる⁉︎
「そ、そんなかしこまらなくていいんですよ⁉︎」
慌てて頭を上げさせようとしたけどみんな
「隊長に殺されるんで!」
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「それでよろしい」
とご満悦だった。
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