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42 選択肢はない
しおりを挟むーー ルウ ーー
ハルの心配事は僕が片付ける……
城がどうなろうと街がどうなろうとどうでもよかった。
お金がなくても、買い物ができなくてもここでの生活には困らない。
困らないと思っていたけれど、ハルは……ハルが困ると言っていた。
あの街にはハルの好きなものがたくさんあるらしい。
それならば人間がこれまで通りの生活が送れるようにしよう。
そのために、僕は城へ向かった。
街の人間が生活に不安を抱えているというのに城には変わらず結界が張られ、城の中はどこもかしこも暖かかった。
貴族達は自分が優先されるのは当然だと思っているのだろう。
城の様子をしばらく見てきたが……
国王は僕達がマカラシャをつけたまま全員いなくなった後、しばらくすると体調を崩して王位を第一王子に譲っている。
恐らく面倒なことになったと思ったのだろう。
療養をすると言いたくさんの荷物を抱え、王妃を連れてさっさと城を離れていった。
晴れて王妃となったあの貴族の娘、イザベルといったか……
彼女は王妃という地位と前国王夫妻が城からいなくなったことで、こんな状況だというのに呑気に大喜びをしていた。
国王となった第一王子イザークは魔力集めとマカラシャの複製を進めるのと同時に、本物のマカラシャを探すという名目でミアの捜索にも力を入れていた。
絶対に外せないマカラシャから魔力が流れて来ていないということは死んだと考えるのが普通だが新しい国王はかなりミアに執心しているらしい。
それからローガンとかいう国王の側近。
研究所でエイダンと会っていた男だ。
彼はここ最近眠れていないらしい。
魔力の節約のために城での魔道具の使用を制限するべきだと進言していたが
「この国の頂点に立つ私達がそんな貧乏臭いことできるわけがないでしょう? どうにかするのが貴方の仕事なのだから考えなさいよ」
と王妃にはね除けられていた。
「国王は……イザークはなぜあのような方を選んだのか……いや……彼は選んでなどいなかった。ミアがいれば結婚相手など誰でもよかったのだ」
ミアはいなくなり残ったのはあの王妃……せめてもっと聡明な方であれば……とため息をつくローガン。
確かに、あの女の夢は城で暮らすことだった。国民の事など考えた事もないのだろう。
「これから、街への魔力供給が難しくなり魔道具の価格も高騰するだろう。暴動が起こるかもしれないから騎士団を一旦教会と城に配置しておこう」
そう頭を抱えながら騎士団長のイザークという男と話していた。
「一体どうなっているのだ、ローガン。城や貴族は変わらず蓄えた魔力を使って生活をしているのに街への供給を止める気か?」
まともなことをいう奴が城にも何人かはいるようだ。
「貴族の生活は民によって支えられている。その民を守るためにまずは貴族が動かなければ」
「そんなことはわかっているっ!!」
そう言ったところで頂点に立つ者がアレでは……と怒りをあらわにして
「せめて王弟殿下が城にいてくれたら……」
と呟くローガン。
そう、国王には腹違いの弟がいる。
側室を持つことを前王妃は嫌い当時の国王も側室を持つことはない、と約束をしていたらしいが……
ある貴族令嬢と出会い恋に落ちたのだという。
気の強い王妃とは違い控え目で優しい貴族令嬢を側室に、と当時の国王は望んだが王妃が首を縦には振らなかった。
それでも二人は引かれあい会瀬を重ねるようになり子を授かったが……出産を終えると母となった貴族令嬢は命を落とした。
王妃が医者や薬を城から持ち出すことを禁じていたという噂もあったらしいが証拠はなかった。
失意の王はせめて生まれた赤子だけでも手元にと願ったが、やはり王妃は許さなかった。
その赤子、ニコラはそのまま貴族令嬢の屋敷で大切に育てられたという。
片方の足にマカラシャを着けたグレンが城にくる前に住んでいたのがその屋敷だった。
年も近く好奇心旺盛なニコラはグレンが屋敷に来たときによろしく、と握手をしたらしい。
ニコラの家族もグレンを粗雑に扱うことはなくニコラの遊び相手として迎え入れられていたという。
手先の器用なグレンは様々なものを作り皆を感心させたらしい。
ニコラもニコラの家族も屋敷の者達も魔族を知ろうと積極的にグレンと関わっていた。
ニコラはグレンの片足に嵌められたマカラシャを外せないかといろいろと考えては試していたとグレンから聞いたときは驚いた。
それならば余計に城での生活は辛かったのではないかと聞いたことがあった……もしかしたら元々はこんなに無口ではなかったのかもしれない。
「そうだったのかもしれない……けれど」
と静かに口を開くグレン。
「僕は……僕がされたことを覚えているし、その礼は何倍にもして返すつもりだから」
辛かったことよりも今はそれを考えると楽しくなる、と微かに口角を上げて話していた。
グレンがされたこと……とは、グレンがしてもらったことという意味もあるのだろう。
魔力を取り戻ししばらく経った頃、みんなもそれぞれ動き出した。
僕が城の様子を見に行っている間、みんなが何をしているのかは知らなかったけれど、グレンが一度ニコラに会って来たと言ってきたことがあった。
その後も数回訪ねているようだがグレンなりのお返しをしているようだった。
ニコラとニコラの家族にだけ会ってきているようだったが彼らはグレンが無事で更には成長していることに泣きながら喜んでくれたらしい。
その話を聞いてハルの心配事を減らす方法を思い付いた。
みんなに頼み事や何かをして欲しいと指示を出すことはないけれどハルの事だけはみんなで守ろうと決めている。
だからグレンと考えたことをみんなにも話して、みんなの意見も聞いて決めたことに向かいこれからは行動することにした。
僕は城へ行き、国王が一人になったときに姿をみせた。
「お前は何者だっ」
そう聞きながらも結界のことやどうやって人を呼ぶかと考えているのだろう。
「お困りのようですね。魔力を集められていないのでしょう?」
国王の質問は無視したけれど柔らかい口調の僕に少しだけ警戒心を解く。
「何故その事を……」
そう言いながらも僕を観察している。
「協力をしてもいいですよ。魔力を提供します」
再び警戒する国王。
「どこまで知っているのだ」
全てだ、当事者なのだから。
「マカラシャが失くなっていることも知っています」
国王の眉間に微かに皺が寄る。
「では魔族の子供を連れて来られても意味がないことはわかるな」
協力すると言っているのにこの態度。
コイツはこの世界で自分が一番偉いと勘違いしているのか?
「もちろんわかっています。だから僕が魔力を提供すると言っているのですよ」
そう、僕が提供してやると言っている。
「なぜ……」
当然そう思うだろう。
マカラシャを嵌められて魔力を絞り取られていた僕達を見ていたときは一度もそう思わなかったのだろか。
この子供達はなぜ、と。
「ただ、僕の魔力にも限りがありますからね。あの意味のない結界を張るのを止めることと、この城と貴族達の使う魔力量を制限してもらえれば国民が生活に困ることはないと思いますよ」
しかし……と首を縦には振らない国王。
これまではそんなことをしなくても生活ができていたのに突然使える魔道具を制限されるのだ……
「他の貴族達にも話さなければならないでしょうから時間を差し上げます」
そう言って僕は一度城を後にした。
六日後、もう一度城へ行くと結界がなくなっていた。
どうやら結論はでたようだ。
国王に会いに行くと隣には王妃もいた。
僕の顔を見ても僕だとは気が付かず、それどころか鬱陶しく視線を絡めてきた。
「今回はこの者達も同席させてもらう」
と、王弟とローガンも紹介され、改めてその場にいる全員に自己紹介をされた。
僕も名前を名乗らないわけにはいかず、少し考えてルカという偽名を名乗ることにした。
「皆と話し合い、貴方が言っていた通りにすることにした」
結界を張ることを止め、貴族の魔道具の使用を制限することにしたようだ。
「それは懸命ですね。では私が魔力を提供する見返りですが」
国王が目を見開く。
「まっ、待ってくれ、見返りとはなんだ!? 私達は貴方の言う通りにしたのだぞっ」
だから何なのだ。
「僕は、魔力を節約して使うアドバイスをさせてもらっただけですよ」
国王の眉間に皺が寄る。
どちらにしろ僕は彼らが満足に暮らせるほどの魔力を提供する気はない。
そうなると今、考えを改めてもらわなければこれまでと変わらず貴族達は国民を犠牲にしてでも自分達の生活を守ろうとするだろう。
国王の側近のローガンが言ってもだれも耳を貸さないから僕が言ってあげただけだ。
「だから、もちろん見返りはいただきますよ。それがなければ僕が魔力を提供する意味がありませんから」
今さら結界を解いて節約を始めたところですでに事態はひっ迫している。
彼らに断るという選択肢は……ない。
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