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54 兄弟
しおりを挟む仕方がないわね、教えてあげる、と混乱する私に楽しそうに微笑む王妃様……
「新しくできた国を魔王様お一人で治めることはとても大変なことなのよ。私は王妃教育も受けているし政も近くで見てきたわ」
私よりも魔王様の妃にふさわしい女性がいるかしら、と……そう言われても……
「それに私は魔族と並んでも見劣りしない容姿だから魔王様と私の子供もきっと美しいわ」
この方……王妃様は魔王様を男性だと思っているみたいだけれど……そうなの?
そういえばルウ達にそこまで聞いたことはなかった。
王妃様は王族だから私よりも知っていて当然か……
それなら尚更……
「王様はお許しになるのですか」
思ったことを口にしてしまってからしまった、と思ったけれど王妃様は気を悪くすることもなく口を開く。
「国にとっては大きな損失になるでしょうけれど、両国のためにもそうするべきなの。……そうねぇ……できれば魔族の女性が私がいなくなった席を埋めてくれたら一番いいのでしょうけれど」
……そんな交換留学みたいな感じで話されても……
「あなた、魔王様とそれからミアという魔族のメスガ……少女のことも何か聞いたら私に教えなさい」
どうして突然ミアの名前が出てくるの…………
……なぜか不安な気持ちになってくる……
私の不安を疑問と勘違いした王妃様が話し続ける。
「ミアという魔族の少女と国王は愛し合っているのよ。二人は私に遠慮していたけれど私がこちらの国に嫁ぐことで全てが丸く収まるわ」
そんな話は聞いたことがないけれど……
それに愛し合っているって……私が出会った頃のミアは子供で……子供の姿になる前のこと?
私が知らないだけで前のパーティーでミアは国王様に会っていた……? いつも出かけているのも国王様に会うため……?
でも……何かが違う気がする。
私がミアと初めて会ったとき……彼女は……彼女達は痩せていたし怯えてもいた。
そうだ……あの時、お城で暮らしていたのに……? と疑問に思ったのだ。
なんだか気分が悪くなってきた……
「こちらにおられたのですか」
後ろから男性の声が聞こえた。
「王妃様、国王陛下がお待ちです」
私をチラリとみて王妃様にそう伝える従者の男性。
「あら、少しお喋りをしすぎたわね、もう行くわ。あなたもパーティーを楽しんでね」
そう言って王妃様は従者の男性と会場へ向かった。
ハァ……なんか疲れた。
いろいろと話していたけれど、私が聞いてもいい話だったのかな。
…………違うな……私が取るに足らない存在だからいろいろと話せたのか。
あまり関わりたくはないけれどミアの名前が出てきたしなぁ……後でルウに聞いてみようか……
しばらくして会場へ戻るとパーティーは始まっていた。
音楽にダンス、お喋りと笑い声。
少しホッとして周りを見回す。
ミリアは酔っていたみたいだけれどララが一緒にいるはず。
人が多くて探すのは大変そう、まぁそのうち会えるかな。せっかくだから楽しもう。
「痛っ! ックソ……またお前っ……」
え……?
振り返って下を見ると……しゃがみこんで片手を押さえながら睨み付けてくる
「え……と……? エリオット?」
チッ、と舌打ちをしてから立ち上がり
「様をつけろ」
と今度は見下ろされチッと舌打ちをされる。
早速絡まれてしまった……彼はどうしていつも怒っているのか……
「お前、なぜここにいる」
なぜって……誰でも参加できるパーティーのはずだけれど……
「エリオット、様。私はお前ではなくハルです」
ムッとする彼……普通にしていれば綺麗な顔をしているのにもったいない……とやっぱりそう思いながら見上げていると
「また今回もふざけた仮面を着けているな」
フンッ、と馬鹿にしたように笑う。
「だいたいお前なんかの名前を誰が覚えるか」
なんでこんなに嫌われているのかなぁ? 何かした……?
「ハル?」
エリオットの向こうにエイダンが見えた。
「あっ……に……兄さ……兄上」
え?
「エリオット、来ていたのか」
エイダンの弟? そういえば似ているような……
「はい、兄上に会えるのを楽しみにしていました」
エヘヘ、と可愛く微笑むエリオット……ダレデスカ?
「この前のパーティーでも会っただろう?」
クスクスと笑うエイダン。
「ところで二人は知り合いだったのか?」
聞いてよエイダン……お宅の弟さん、なぜかすごく絡んでくるんだけど……
私を見るエイダンの横で私を睨んでくるエリオット……
余計なことは言うな、と。
「まぁ、ちょっとね、兄上こそコレ……この方とはどういう……?」
あぁ、と知り合った経緯をエリオットに話すエイダン。
「では、この……彼女は兄上の命の恩人だと……?」
そうだよ、と頷くエイダン。
一瞬苦しそうな表情をして
「そうでしたか、それはありがとうございます」
と微笑むエリオット……笑顔がひきつってるって。
エリオットが私と握手をしてそのまま引き寄せる。
「命の恩人だからといって兄様に近づくな」
なんだ……そうか……単なるブラコンか。
私が何かしたわけではなく単なるヤキモチで……
そうわかると何だか可愛く思えてくる。
フフフッと笑うと思っていた反応と違ったのか驚いた表情をしてから少し頬を染めて離れていった。
「エリオット、父上と母上も来ているのか?」
エイダンがそう聞くと
「父上も母上も来ていないですよ」
とエリオットがわざとらしい笑顔で答える。
「そんなことよりも兄上、家を建てたのですよね。今夜……今度泊まりに行ってもいいですか?」
エイダンが優しく微笑み
「いつでもおいで、ただし、父上と母上にはちゃんと言ってから来るのだよ」
少しうつむき……はい、と答えるエリオット。
「ハルもまた来て欲しい」
あ……エイダン余計なことを……
隣でエリオットがまたぁ? って感じの凄い顔で見てくる。
「おま……ハルは兄上の家に行ったことがあるのだね。羨ましいよ」
マジで羨ましそう……なんかすまん。
「またハルが眠ってしまってもいいようにベッドも整えておくよ」
へぇ……と微笑むエリオット……
エイダンちょっとこれ以上は……
「兄上の家は居心地が良さそうですね。でも女性が婚約者でもない男性の家に上がるのも、ましてや寝てしまうなんて……あまり褒められたものではありませんね」
軽蔑の眼差しが痛い……ごめんなさい。
「エリオット、ハルはいいのだよ。返しても返しきれない恩があるのだから。それにうちにはハルの部屋もあるし……ね? ハル」
……ね? じゃなくて横みて横!
私、今日殺されるかもしれないよっ……
「へ……へぇ……兄上、もちろん僕の部屋もありますよね?」
何とか笑顔を作るエリオット……
「ん? あぁ、客室があるから泊まりに来ても大丈夫だよ」
客…………とガックリと肩を落とすエリオット……
エイダンはわざとなのか察しが悪いのか……
エリオットは喋れば喋るほど自分で傷口をえぐっているような……
面白い兄弟だ……
「兄上、一緒に何か食べませんか?」
エリオットが立ち直りエイダンにそう言いながら、私にはどっか行けという視線をむける。
あぁ、後から行くよ、とエリオットに言い
「ハル、私と一曲踊ってくれないか」
エイダンが私に手を差し出す……隣からの殺気が凄い。
お兄さんを取ったりしないから大丈夫なのに……
「……でも……」
エリオットを見ると踊って欲しくはないけれど断ったら断ったでムカつく、みたいな顔をしている……
どうしろと……
「兄上、僕はあちらで待っていますね」
何とか笑顔でそう言うと口から血が出そうなほど歯を食いしばりながらエリオットは行ってしまった。
「ハル?」
エイダンが私の手を取る。
あ……そういえば……
「エイダン、私……」
あまり踊ったことがないの……と伝えると大丈夫だよ、と私の手を引く。
「ハル、この前のパーティーで魔族と踊っていたね。あの男性はハルの知り合い?」
……さっきも同じことを聞かれたけれど……皆さん魔族に興味があるみたい。
どうしようかな……と少し迷ったけれど反射的に小さく首を振ってしまった。
「そうか、それならいいのだが……」
そう言って私を抱き寄せる。
近い……近すぎない? エイダンの体温が……
「ハル、次はいつ私の家に来てくれる?」
耳元で囁かれて身体がピクリと反応してしまう。
「ハルがくれた茶葉のお陰で以前よりは良く眠れているのだけれど、やはりハルと一緒に……」
くすぐったい……耳元で話さないで欲しい……
思わずエイダンを押し返すように力を入れるとエイダンがクスクスと笑う。
「ハルは小さくて力が弱くて可愛いね」
……この世界の平均身長は男女共に高そうだし確かにそんなに力持ちでもないけれど……
「エイダン、音楽が終わっているよ。あとエリオットが凄い顔でこっちを見てる……」
マジで怖……あ、エイダンが振り返ると笑顔になった。
エリオットから近いところににララとミリアがいるのが見えた。
「ハルゥ」
と手を振るララとミリアをみて、エイダンが行こうかと言い、なぜか一度周りを見回す。
ララとミリアのところに私を送り届け、また後でね、といいエイダンはエリオットの元へ行った。
そういえば……
エイダンには魔族の血が入っていると言っていた。
けれども弟のエリオットは人間だと……
エイダンがアレスのことを聞いてきたのはもしかしたら魔族の国に興味があるからなのかもしれない。
また今度落ち着いた場所できちんと話を聞こう……
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