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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》

在り方の違い

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「お互いの為?」

 そのワードが縁には、妙に引っかかった、無論不快という意味合いでだ。
 しかし、縁のその言葉にそれを放った当人は、気にする素振りすら見せず、冷めた眼で縁を見ていた。

「そうだ、お互いの為だ、それともチンピラには、この言葉は、理解できないのかな?」

「出来るわけねぇだろ、何がお互いの為だ、お前と俺達は敵だろ?」

「だが、我々は接続者であり、見識者だ、つまりこの世界の行先も世界の愚かさも知っているだろ?」

 冷めた眼の男、峰倉の言葉に縁は、苦笑いを浮かべて首を横に傾けた。

「世界の愚かさ?なんだ、演説でも始めるつもりか?」

「ふん、そんなつもりなど無い、だがお前達は自分達がどれだけ無駄な事をしてるのかわかっているのかと疑問に思ってな」

「どういう意味だ」

 鼻にかかる物言いに縁は、少しだけ苛立ちを覚えながら聞き返すと峰倉は、深い溜息を漏らした。

「そのまんまの意味だよ、愚かな民衆に無能な支配者達、お前達も世界の歪さを見てきただろ、そしてその無能に道具の様に扱われる有能者たる接続者達、本来は逆だと思わないか?」

 反吐が出る、縁はその言葉に返事をする様に大きな溜息を漏らした。

「じゃあ、有能者である接続者が世界を統治するとかそんな話か?」

「変な話ではあるまい?」

「耳にタコ、ハッキリ言わせて貰うが、俺からすればお前やマルクトがその無能な支配者と何が違うのか俺にはわからんな」

 そう言いながら不敵な笑みでこちらを見下ろす小柄な男、マルクトを一瞥した。

「これだから低脳は、困る」

 溜息混じりに峰倉は呟き、その言葉に縁は肩を竦めた。

「そうさな、俺には学ってのは無い、だけどお前らがそこまで頭が良いとも思えねぇんだよな?」

 縁の言葉に峰倉のコメカミがピクリと動いた。

「それは、どういう意味だ?」

 余程、縁の言葉が勘に触ったのか無表情ながらにその顔には、怒りが籠っている様に見えた。

「どこまでいっても上か下、出来るか出来ないか、持ってるか持ってないか、それだけ、いつも2択だ。どうして3つめを考えない?」

「それが真理でだからだよ」

「真理って何だ?」

 縁の疑問に峰倉はあからさまな溜息を漏らした。

「それが本当の答えだと言う事だ」

「証拠は?」

「なに?」

「証拠だよ、それが間違ってないって証拠」

 縁がそう聞くと峰倉は、再度大きな溜息を漏らした。

「世界がそうだろ、我々は家畜を支配し、食料として生きている。強い者が立ち、弱い者は、跪く、世界が証明しているだろ」

「それが証拠になるのか?」

「なに?」

「確かに、俺達は家畜や野菜なんかを食っていく、それはあくまでも食物連鎖であり、支配とかとは違うだろ?家畜や農業それは生きていく為の効率化だ、それも人間の為だけのな」

「貴様こそ何が言いたい?」

「お前の言う、真理ってのは何処まで行っても人間の為だけのご都合真理って事だよ」

 縁のその言葉に高笑が響く、発信元はマルクトだった。

「なら、お前の思う真理とは何だ?」

 マルクトは、悪戯な笑みを浮かべながら訊くと縁は、鼻をひとつ鳴らした。

「知るか、んな事、どうでもいい」

「なに?」

 縁の返しに峰倉の表情が歪んだ。

「お前や民衆がそんなんだから今の世界はこうなっているんだ、見てみろ今の有り様を、国会議員達は責任も取らずのうのうと茶番劇を広げ官僚達はそのシナリオ書きに勤しむ、その結果潤うのは、保身しかない無能な支配者もどき達だ!」

 峰倉の熱を帯びた声がこだました。
 しかし縁には、その熱が増せば増す程に妙な違和感を感じていた。
 だが、今はそんな事を気にかけている余裕はなかった。
 時間稼ぎにも限度がある。
 出来るだけ悟られない様に挑発しているが今のところそれに乗ってきているのは、峰倉のみ、マルクトは先程まで乗ってきていたが峰倉の行動によって冷静さを取り戻している。
 泰野の部隊の気配はまだ無い。
 もう腹を括るしかないのだと察すると縁は、ゆっくりと銃口を峰倉へ向けた。

「無能か有能か、俺は知らない、だけど、そのお前の考えの為に何万人もの人間が犠牲になるのは、違う話だろ?」

「だから、チンピラはわかってない、俺は責任を取らせただけだ、なんの考えもなしに何を犠牲にしているかも考えない民衆にお前達の選んだ結果はこれだと」

 峰倉もそれに応じる様に銃を抜くと縁へと向けた。

「出来るなら私はお前を殺したくない、お前も有能な者の筈だ」

「なに、今更抵抗するなとかいうつもりか?」

「そうだ、だが、撃つなら殺すだけだ」

 峰倉の言葉に縁は迷いもなく発砲した。
 狙いは肩、しかし銃弾は峰倉の肩を竦めた。
 避けられた、それは予想内だった。
 だからこそ、縁は撃った瞬間に身を屈めると柱へと走り出した。
 それを追う様に2発の発砲音と縁の足を銃弾が掠める感触が伝わった。

「どうした、龍を使わないのか?」

 峰倉もまた縁と同様に柱へとその姿を隠し挑発していきた。

「ハンデだよ」

 縁は、そう応戦するが、正直ジリ貧に近い状況だった。
 実際、龍を使うか纏えば峰倉を抑え込む事などは、なんて事はない、しかしそれを使えばテツと西端へのマルクトの侵食を早めてしまうのだ。
 だから、こそ縁は龍の力を満足に使えなかった。
 今現在、龍を顕現さ銃を置いたベンチに顕現させているのは、その範囲から半径300m圏内の侵食を抑え込む効果があるからだ。
 だからこそ、先程まで支配されていたテツの意識を戻す事が出来たのだ。
 しかし、それは同時に縁が発揮出来る力を制限してしまうものでもあった。
 戦いとなれば縁は、その龍を纏い自分の半径10m圏内を支配下に置くことが出来る。
 逆を言えば10m圏外になればその支配をする効力は消えてしまう。
 消えてしまえば、マルクトの侵食が始まり、敵は峰倉とマルクトの他にテツと西端も加わる可能性が出て来るのだ。
 そうなると流石の縁もこの2人を生かすことは出来なくなる。
 少なくとも足や手の1本は、確実に消す羽目になる。
 マルクトもそれを知っているからこそ下手に手を出してこない。
 テツならまだましだろうが西端となれば今後の自分に影響してくるからだ。
 それにヤツは、まだ何かを警戒している。
 その為に周囲にリンクの気配を張っている。
 それがどれだけの効果があるのかわからない、だがその為に峰倉に加勢できないのだけは理解できた。
 しかし、縁の行動は、読んでいるのだろう。
 マルクトの能力は、根っこの様に縁達の周りの壁や地面に張り巡らされている、そこから気配を察知して峰倉へと伝えている。
 それを証明する様に峰倉は、縁の背後へと回ろうと動いているのがわかる。
 狙いは、縁を撃つ事、それが頭なのか体なのかわからない。
 それならそれで構わない。
 縁は、気配を読みながら適した遮蔽物へと身を隠す。
 広いフロアーにあるのは、柱と腿の高さ位の花壇ぐらいだろうか。
 あくまでこれは、時間稼ぎの戦い、逃げて引き伸ばす方が優勢だろう。
 だが、そう簡単には、いかない。
 マルクトだ、ヤツは制限されてるとは言え、テツと西端を動かそうとする。
 一瞬でも隙を作られてそこを狙い撃ちされれば流石に対処は、辛いものになる。
 縁は、柱から走り出す、それを追う様に2発の銃弾が壁と床へと着弾した。
 次に聞こえてくるは、気配を消しながら動く峰倉の感覚。
 事務系かと思っていたが戦闘用の訓練も積んでいるのがわかる。
 足音が殆ど聞こえないのだ。
 もし縁が龍の力で察知できてなかったら恐らくその気配を見逃してしまうだろうっと思える程だった。
 あの人には、これが見えているのだろうか?
 縁は、そう思いながら再度、柱から出ようとしたが一瞬で見えた感覚にその足を止めた。
 それと同時に予期せぬ方向からの炸裂音と弾が柱へと埋まった。
 その弾は、踏み出していたら間違いなく縁の胸に埋まっていた。

「やりやがったな、テメェ」

 ふと漏れた言葉にケラケラと無邪気に笑う声が降り注いだ。

「ギリギリで気づいたね、龍の」

「小賢しい手を思いつくもんだねったく」

 縁は、そう悪態を着きながら炸裂音がした方に威嚇射撃を1発放つと逆方向へと飛び出し、また別の柱へと移動した。
 しかし、周囲のマルクトのリンクからもう1人の気配が察知できない。
 マルクトが張った根と同じ気配で隠しているのだ。
 どれだけ気配を探ろうともそこには、根の気配しかなくもう1人の位置を正確に把握できない。
 かといって、峰倉の気配に注視していたら逆に殺られる。
 だが勝機がないわけでは無い。
 追い詰められているとも言えるが逆を言えば相手の意識を逆手に取るチャンスでもあった。
 《ギリギリでに気づいたね》、マルクトから放たれたその言葉は、縁にとって最大な希望の要因だった。
 迫る、峰倉の気配、相変わらず遮蔽物に隠れながら迷うこと無く縁へと近づいてきていた。
 どうする、先程の感覚でもう1人の範囲は、掴んでいるがそいつに発砲すれば峰倉に後ろから撃たれるであろう。
 逆に峰倉に対応すれば隠れている相手に撃たれる。
 龍を動かして2人の行動を抑えるか?しかしそうすればテツや西端の制御が解けてしまう。
 その時、頭の中で囁きが訊こえた。

「なら、それで行きますよ、お願いしますからね」

 縁は、そう呟くと迷わず、柱から飛び出して虚空に向かい発砲した。
 発砲音は、4発響いた。
 1発は、縁が発砲したモノで虚空から呻き声が響き、右肩から出血している車木が姿を現した。
 左手には、拳銃を握りしめてなおも縁に向かい構えているが定まらない銃口から縁は、そこに脅威を感じずに静かに背後に目を向けた。
 2発は、縁向けられたものだったが1発は頬を、もう1発は肩を掠める程度で頬からは、切られたがそれ以外にダメージは、なかった。
 そして、最後の4発目は、峰倉の掌を撃ち抜き、その手から銃を地面へと落としていた。

「そうか、気づいたんじゃない、教えてもらったのか」

 その光景を見下ろしながらマルクトは、静かに重い声で囁いた。
 縁は、ゆったりと見上げながら口元に笑みを浮かべて峰倉の背後の虚空へと目を向けた。

「随分、上手く使える様になったな」

 マルクトもまた縁と同じ方向へ目を向ける。

「そりゃ、いつまでもお前らの思い通りにさせておくわけには、いかないからな」

 そう言いながら銃を構えた、男がゆったりと姿を現すと撃たれて蹲る峰倉のコメカミに銃口を当てた。

「貴様…いつの間に…」

 峰倉は、苦しそうに銃の先を睨みつける。

「漸くだ、漸く尻尾を掴めたよ、峰倉」

 そう言いながら、男は、峰倉を後ろ手で拘束するとマルクトを見上げた。

「役者は、揃ったか、なぁ大浦 暁」

 マルクトは、そう言いながら笑みを浮かべるがその笑みは、先程までの無邪気なモノとは、違い、どこか忌々しさを含んだものに代わり、暁はその笑みに無表情で応えるとそっとマルクトへ銃口を向けた。

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