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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》

雪の日

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 それは、今年2月の雪の日の話だった。
 世良は気づくとかつての体とかつての家で寝ているところに目を覚まし自分が過去に帰ってきたのだと悟った。
 自分でもまさかと思ったが同時にどこか腑に落ちる感覚もあった。
 そして病魔に侵される体を無理やり起こして導かれる様に自宅の庭に出た。
 そこには、黒いレインコートを羽織った若い死神が立っていた。
 彼に何を話せばいいのだろか?
 しかし、若い死神は世良の言葉を待つことなくその手に刀を具現化させると世良へ向けて歩を進めてきた。
 幾つかの言葉を投げ掛けたが若い死神は否定し、歩みも止まらなかった。
 世良は、深々と積もる雪の上に正座するとゆっくりと頭を下げた。
 その行動に若い死神の足は止まり、明らかに戸惑っていた。

「ふざけるな!」

 その一言共に地面へと落ちた影が腕を振り上げるのが見えた。
 わかっている、これがどれだけ身勝手な話をしているのか重々承知している。
 それでもこれは譲れないと思った。
 目の前の若い死神と戦ったからこそ、自分の中に空いた穴に気づいた。
 流石は、最後の弟子であり、孫なのだと感心させられた。
 一太刀、拍子、呼吸、どれをとってもかつて共に稽古した彼を思い出させた。
 そして、あと一歩のところで崩れ去るその姿に空虚な感覚が自分を支配したのを思い出させた。

「ああぁぁぁ!!」

 若い死神の咆哮が聞こえ、世良は覚悟して目を閉じた。
 振りを下ろされる音が鳴る、しかし世良の感覚に何の変化も無く、不思議と思い目を開けると切っ先向けた若い死神の瞳に微かな迷いの光が差し込んでいた。
 その表情に本当に似ている、孫なのもあるがやはり師でもあるのが大きいのかもしれないと思った。

「もし爺さんがアンタをやれなかったら俺がアンタを殺す、今度は手を抜かないし逃がさない」

 あぁ若い死神は知っているのだ。
 この後の全てを…
 そしてもう万が一に備えているのだと知った。

「わかった、こちらはマルクトをどうにかしよう約束する」

 その答えに若い死神は、刀をしまいながら首を横に振った。

「だめだ、それは流れを悪くする、恐らく儀式の日しかアンタと爺さんは戦う機会は、ない」

「ならば、それまでこのままにするつもりなのか?それこそ多くの危険があるだろ?」

「それでもこれにかけるしかない、俺から頼めるのはかつての政府軍に手を出すなと命令するだけでいい、それもマルクトはいずれ破るだろう、だがそうしなければ爺さんは姿を現さないしマルクトの動きもわからなくなる」

 若い死神の洞察と推察能力に世良は、感嘆した。
 見た目は10代になろうとも中身は30代後半だがそれを差し置いてもしっかりと状況を読んでいるのだと改めて感心させられた。

「わかった、ならマルクトと秋成の捜索はそちらに任せる事になるが構わないか?」

「それでいい、だがこちらも保険は掛けさせてもらうぞ」

 そういうと若い死神は掌に呪の印を浮かべていた。

「構わないが、それを使っている時は君は…」

「大丈夫だ、もしアンタが裏切ればこれで終わらせるし、俺の出る幕は殆どないだろうからな、アンタは俺に何か起きた時に動いてくれればいい」

 世良がその言葉の意味を知ったのは、飯坂病院の一件を報告を受けた時だった。
 若い死神は、世良の胸に呪の印を刻んだ後にその場から姿を消した。
 それ以降、世良との直接のやり取りはなかったがマルクトの動きを調べている中で見え隠れしている若い死神の行動に少しだけ不安があったが飯坂病院での一件で彼が自分を囮の様に動いていたのだと知り改めて感嘆させられた。
 そしてそれと同時にその心配りに応えなければならないと実感させられた。

「決戦は11月、お互いもう若くない、しっかりと万全での態勢でいこうじゃないか」

 世良がそういうと蘇我は鼻を一つ鳴らした。
 相変わらずの悪ガキの様な視線に懐かしさを感じながらそれが了承の意思と捉えた。

「場所は、この国の腹の中、そういえばわかるだろ?」

「皇居の真下のあの神殿か?」

「そうだ、そこで私は転生の儀を行う、その前の露払いとしてお前を…殺す」

「いいだろう、後悔させてやるよ」

 蘇我は、そう息巻く。
 相変わらず、単純な性格だ、そんな蘇我に自然と笑みが零れてしまいそうになるが世良はグッと堪えた。

「そこには、俺達も参加していいんですよね?」

 丁寧で芯のある声に世良の視線は、向いた。
 |大浦 暁《|《おおうら あきら》》が静かな視線でこちらを見ていた。
 若い死神に選ばれた案内人、その目の光にどうして彼を選んだのか世良は納得しながら頷いた。

「無論だ、今回の一件も含めて君達もマルクトと決着をつけないと気が済まないのだろう?」

「当たり前だ」

 次に応えたのは野暮ではあるが静けさのある声だ。
 東堂 縁とうどう えにしが精悍な佇んでいた。
 若い死神の相棒というべきの同等として背中を預けていた。

「君達とも決着をつけないとな、蘇我を殺したら次は君達だ」

「上等だ」

 雄々しく応える縁にその答えが何なのかわかった気がした世良は改めて蘇我の方に向いた。
 何故、若い死神は、自分の身を犠牲にしても大丈夫だと思えたのかどうしてこの賭けに乗れたのか、その答えは嫌と言う程に理解が出来たのだ。

「眩しいな」

 誰にも聞こえない様に呟いたつもりだったが流石の腐れ縁というべきなのか蘇我その言葉聞こえていたのか唇を読んだのか、口元を少しだけ緩めていた。

「さぁこの場は私が収める、君達は、この場を去りなさい」

 世良そう言うと蘇我達は、出入り口へと向かっていった。
 世良は、その背中を見送りながら一人の青年の遺体に目を向けた、若い死神は彼の死までは読んでいなかっただろう。
 しかし、全てが予想通りに向かうとも思っていなかった筈だ。
 それはこれからの出来事でも同じ事だ、最後まで気は抜けない。
 フト、視線を感じて目を向けるとエレベーターに乗る直前の蘇我達へ向いていた。
 全員、周囲を警戒する余り、敵意の無い世良に視線を向けるものはいなかったが1人だけ世良に視線を向けている者がいた。
 その真っすぐな目に世良、直感で気づかれたかもしれないと思ったが慌てる事無く静かに穏やかな笑みを向けた。
 これが何を示しているのか、彼が気づくのはいつの事だろうか?
 そんな事を考えながらエレベーターが閉まる迄、彼等に見つめていた。
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