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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199905《氷の刃》

糸口

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   爽やかな男。
   それが写真を見た時の第一印象だった。

   だが、それと同時にその男には、何処か気持ち悪く嫌な感覚もあった。
   漠然としているがもし目の前に居たらきっと話す事も関わる事もしようとしないだろう。

   香樹実(かずみ)は、そんな事を思いながら写真をそっとテーブルに置いた。

「どうだ?知ってる顔か?」

   香樹実の対面のソファーに座る男、鷲野(わしの)は、清潔感を漂わせる雰囲気を持ちながらその真逆の不遜な態度で聞いてきた。

「私は知りません」

   香樹実は、それだけ言うと隣に座る和之へ目を向けた。

「俺も見た事は、無いです」

   和之は、少し慌てた様子で応え、その応えに鷲野は、数度軽く頷きながらテーブルから写真を乱暴に取り上げスーツの胸ポケットへしまった。

「つまり、この男がホシへ導く糸口というわけになるか…」

「その人は、誰ですか?」

   香樹実がそう聞くと鷲野は、明らかに面倒そうな表情を浮かべ、ゆっくりと自分のコメカミを叩いた。

「覗いてみろよ?」

   そう応える、鷲野に対して香樹実は、冷たい視線で睨みつけた。

「もう何度も説明しましたよね?それは出来る人と出来ない人で別れると?」

   香樹実がそう言うと鷲野は、大きな溜息を漏らしながらソファーの背もたれに体を預けた。
   そんな2人のやり取りを和之は、オロオロしながら見渡している。そんな和之の態度がより香樹実をイライラさせる要因だった。

「昨夜に志木市内で遺体で見つかった男だ、死因は心臓発作、倒れてた状況からすると前の4件と同じ形だった。つまりお目当ての奴の可能性が高い」

「だけど、この男性だけは他の4人と違って繋がりがない」

   鷲野の言葉にふと気づいた和之が続けると鷲野を片眉だけを上げてゆっくりと頷いた。

「もしかしたら、本当に普通の心臓発作だったのかもしれませんよ?」

   香樹実がそう言うと鷲野の眉間に皺が寄った。

「なら、遺体の確認してくれよ。お前が見れば分かるんだろ?」

「わかりました。何時どこに行けばいいんですか?」

   香樹実がそう真っ直ぐ応えると鷲野は、ポケットから携帯電話を取り出し、どこかへかけ始めた。

   いくつかの問答を終えると電話を切り、タバコを咥えて火をつけると紫煙を吐いた。

「明日の昼の11時、彩南医大、出入口でウチの人間がいるから後は、そいつに聞け」

   鷲野は、それだけ告げるともう用がないと言わんばかりに立ち上がり出入り口を指差した。

   香樹実は、その背中に向かいあからさまな溜息を吐くとソファーを立ち上がり事務所を出た。

   西池袋の雑居ビルを出ると冷たい風が頬を切った。
   その冷たさに本当に5月なのかと思いながらネオン煌めく池袋の雑踏を駅に向かい歩き出すと途中の通りで見た事のある4人組の人影が目に入り立ち止まった。

   向こうも香樹実の存在に気づいたのだろう駆け足でこちらに向かってきた。

「香樹実!」

   その人影より早く香樹実に声を掛けたのは、後を着いてきた和之だった。

   香樹実は、一息だけつくとゆっくりと振り返り和之を一瞥すると目の前に来た集団に目を向けた。

「皆に知らせたのは、カズ?」

   そう問われ、出端を挫かれた和之は口を閉ざしながらゆっくりと頷いた。

「また、なんで余計な事するの?皆関係ないじゃん!?」

   香樹実の怒りを含んだ声に和之は、ピリッと背筋を伸ばし無言のまま俯いた。

「まぁまぁ、星見さん、車木くんも悪気があった理由でもないし、何よりも僕を通さずに君達を呼び出した彼等の行動に緊急性を感じて教えてくれただけだから責めないであげて」

   面長な顔立ちの為永(ためなが)が柔和な笑顔で香樹実を諭し、為永の言葉に香樹実は、ただ軽く頷いただけだった。

「それで彼等はなんて?」

   為永の後ろに居た、黒髪のショートカットの燈(あかり)が聞いてきた。

「1人の男の写真を見せて私達と同じかって聞かれた」

   燈の言葉に香樹実は、落ち着いた声で返した。

「それで、知ってたの?」

   燈がそっと続け様に聞くと香樹実は、ゆっくりと首を横に振った。

「それでその男が何なの?」

   次に口を開いたのは、全身からその活発的な雰囲気を醸し出す西端(にしばた)だった。

「どうも4人目の被害者らしい…」

   香樹実がそう言うと全員がその意味に気づいたのか妙な沈黙に一瞬支配された。

「それは、つまり…対象に迫る大きな手掛かりってこと?」

   そんな沈黙を破ったのは、為永の一言だった。
   その発言に全員の顔が心なしか光った様に見えたがそれと同時に妙な緊張感も走って居る様でもあった。

「それは、まだわかりません。その為に明日、その遺体を確認しに行きます」

   香樹実は、真っ直ぐと為永を見ながらそう応え、為永はそんな香樹実の視線に応えながらゆっくりと頷いた。

「わかった、とりあえず担任の先生とかには、僕から口添えしておくから任せてくれ」

「よろしくお願いします」

   香樹実は、そう言うと為永に向かいしっかりと頭を下げ、その後は自分を含めた皆の服装に目を配り、為永以外の全員が制服で来ている事に気づいた。

「それよりも早く帰りましょう。流石に制服の学生がこんな時間まで繁華街を散策してるのは、不味いですし」

   香樹実がそう苦笑いしながら言うと皆が皆、お互いを見てばつ悪そうな笑顔を向けながら駅へと向かい歩き出した。

   香樹実は、皆と屈託の無い話をしながら駅に向かう間にフト、池袋の街並みに目を向けた。

   こんな時間が続けばいいのに…

   香樹実は、そんな事を思いながら、胸の奥に吹き荒れる嫌な感覚に少しだけ表情を歪めた。
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