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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199907 《新しい道》

背後にあるもの

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   太陽が真上で輝き、セミは、大量の鳴き声を鳴らしている、それを聞きながら暁は、見慣れない歩道を歩いていた。
   本当にこっちであっているのだろうか?
   あいにく地図をもちあわせていないのを悔やまれる。

   7月もそろそろ終わる真夏のこんな日に全く知らない場所に行かなければならないのか、悪態に近い文句が口を零れそうになる。

   埼玉県の北部、山沿いに近い駅で降りてからバスに乗り、30分、風景は木とアスファルトの道路、そして穏やかな田園風景が広がっていた。
   やっぱりタクシー使えば良かった、帰りは絶対タクシー使ってやる。

   そう心に決めながらバス停から歩く事20分後に目的地の病院へ着いた。

   練生会飯坂病院(れんせいかい いいざかびょういん)。

   国が公認で経営する精神科の病院と名を打っているが実際は法で裁けない犯罪者達を収容している施設だと前日の崇央の電話で聞いていた。
   そんな施設に何故、自分を?その問いを率直に崇央に聞いたが崇央は来れば分かると一点張りでそのあと何も言うこと無く電話を切られた。

   白と青のコントスト調の建物に全体を囲む様に茂る木々は、何処か外界との断絶する堅牢な城壁にも見えた。

   暁は、ロビーに入ると冷房の風が汗を冷たいくし体から放出する熱を冷ましていく。
   ふと、周りを見渡すと平日の昼間だと言うのに病院のロビーには疎らにしか人が居らず少しだけ妙な感じがした。

「お疲れ様です、すげぇ汗、まさか歩いて来たんすか?」

  ロビーで見渡していると横から声をかけられて視線を向けると崇央が呆れた様な表情で暁を見ていた。

「うっせ、こんなにもバス停からこんなにも離れてるなんて思わなかったんだよ」

   暁は、そう言いながら顎をしゃくると崇央は呆れた様に肩を竦めながらゆっくりと踵を返して病院の奥へと案内した。

「んで、態々こんな所に呼び出したんだ?」

   崇央の背中に聞くと崇央はこちらを一瞥した。

「とりあえず、見ればわかるよ」

   そう言いながらズンズンと病院の奥へと向かっていく。渡り廊下を渡った辺りからその風景に不釣り合いな物が見えて来た。
   格子のドアに警備室が完備されているフロアーだ。
   崇央は、警備員に声をかけると電子ロックなのだろう格子のドアが開き、再び奥へと向かい歩いて行った。
   暁もその背中を追いながら周りに目を配るとそこは、もはや病院と言うよりも刑務所に近い風景へと変化していた。

「余りジロジロ見ない方がいいすよ、騒ぐから」

   そう言われてもな、暁はそう思いながら気配を感じて目を向けるとそこにはドアの覗き窓からこちらとジッと見つめるボサボサ頭の女性と目が合った。
   一瞬でマズイと思った暁は視線を外したが次の瞬間、女性は盛大にドアを叩き始めた。

「ハジメさん!私よ!!ここよ!!私はここよ!!」

   何か意味のわからない事を叫びながらドアを叩き、その音に連なり誰かもまた叫び始めた。
   その音に崇央は呆れた様な表情で暁の方を向いた。

「ここって何なの?」

  暁が肩を竦めながら聞くと崇央は溜息を漏らしながら踵を返した。

「表向きは重度の精神病患者を収容する施設」

「なら、重度の精神病患者ってこんな感じなんだ」

「さぁ、表向きの話だとって言ったでしょ、実際は、リンクの被害者と問題ありと判断された接続者の収容施設だよ、ここは」

    そう言われて漸く、この不穏な雰囲気に説明がつき、改めて周りを見渡した。
    ゴムの様に少し弾力のある床に白いだけの壁、電灯には格子のカバーが付けられている。
    色々と警戒して作られた施設なのだろう。それも仕方ない事だ、収容されてる人間達が何をしでかすわかったものでは、無いのだから。

「んで、なんで俺をここに?」

   暁は、目的地に黙々と歩く崇央の背中に問うとそこに着いたのだろうか崇央は1つのドアの前に立ち止まるとくるりとこちらを向いた。

「その応えは、ここで、ちなみに何人かお偉いさんいるから色々気をつけてな」

   そう言ってから鉄製のドアをゆっくりと開けた。

   部屋の中には、縦に並ぶ様に長い机2つとパイプ椅子が5つ並べられていた。
   そこには、先客が3人既に座っていた。1人は警備局長の高岩、それと若い背筋のしっかりと伸びた中性的な顔立ちの男に壮年の物静かそうな黒縁メガネをかけた男だ。
   3人は、それぞれ入ってきた暁に会釈をすると直ぐにその視線を1点に集中させた。
   男達の視線の先には、部屋を入って右手側にある大きな窓でそれにはフィルターが貼られているのか少し色づいている、恐らくマジックミラーになっているのだろうと察した。
   マジックミラーの窓の向こうには隣の部屋が見えている。

   中央にステンレス製の机に椅子がふたつと2人の男が向き合っていた。
   1人は、坊主頭になっているが見覚えのある顔だった、数ヶ月前に一度だけ会っただけだがよく覚えている。

   岩倉但だ。

   そして、向かい合ってる男は、多分警察の人間なのだろう、岩倉をずっと睨み続けている。

   暁は、3人に会釈を済ませると3人の後ろの席へと向かった崇央に着いていき、そのまま隣の席へと座った。

「取り調べ中か?」

   暁が小声で聞くと崇央は、軽く頷いた。

「それで、お前に彼らを殺す様に依頼したのは、誰だ?」

   スピーカーから男の声が聞こえて窓に目を向けると警察の男がゆっくりと前のめりになりながら机を叩いた。
   いつからやっているのかわからないがどうやら岩倉の取り調べは、上手くいっていないのがこれを見るだけでよく分かった。
   明らかに警察側の人間が苛立っているのに対して岩倉は完全に呆れているのか欠伸すらしている始末だ。

「いや、下手くそにも程があるだろ?」

   暁がつい本音を漏らすと崇央は、苦笑した。

「あれからほぼ2ヶ月、あの調子だからね、普段の話から聞こうとしても黙りを決め込んでる」

「法律上の脅しも聞かないから、効力無しってか」

「だね、物的証拠が無い限り罪には問えない、誰かの入れ知恵なのか、元々知っていたのかわからないけどアイツはそれを傘にこの2ヶ月ずっとあんな感じらしい」

   ずっとあんな感じとは、警察も舐められているモノだ。
   そう思いながら向かい合う警察官に少しだけ同情しそうになる。罪を吐かせるにしろ、動機を吐かせるにしろ、突破口は手ずまりだ。
   本当ならその背後関係まで聞き出したいってのが本音だろうに…
   もし自分ならどうしただろうかと想定してみる。
   正直正規の手順、強引なブラックゾーンで攻めても恐らくアイツは陥落しない。
   むしろこっちが焦っていると思って図に乗って来るだろう…

   だけど、手が無い訳でもない…相当見苦しい手口になるけど…

「ひとつ聞くけど、俺がここに呼ばれたのって?」

   暁がそう聞くと崇央の片眉だけを上げた。その反応で暁は自分の予想が間違っていないのを察した。
   そうと分かればお声のタイミングを崇央に任せて視線を岩倉に向けた。
   話を聞いてない、というより聞く気もないのだろう。時折こっちを向いては大きなあくびをしながら眠たげな目を向ける。
   よく見ると手と足に拘束具が付けら、床に固定された輪っかに通した鎖で繋がれていた。
   やってみるかなぁ~、暁の頭の中に1つのプランが出来上がりつつあった。しかしこのプランは正直見てていいものでもないし低俗だし、何より恐らく情報は引き出せない可能性の方が高い。
   だけど、こんな舐めたヤツには丁度いいプランかもしれない。
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