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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

英雄と影

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   間違いない、全身に感じる震えから、推測から確信へ変わっていく。

   東堂 縁(とうどう えにし)は、ゆったりと歩きながら一歩、一歩、踏みしめる様に進んでいく。

   迷いは消え、自分が何を果たすのか、何の為に、何をするのか、決めていく。

   行先は、この感覚が最も感じる場所へ。

   ふと、誰かの視線を感じて立ち止まり周りを見渡す、角から新聞屋のバイクが颯爽と飛び出して駆け抜けて行く、そのバイクのライトが民家の壁と共に男の人影を一瞬映した。

    縁の視線は、そこに向く、人影は、暗闇に消えたかと思うとゆったりと歩きながら川沿いの街灯下へ姿を現した。

「お前が覚えてるって意外で驚いたわ」

   タバコを咥えながら、現れた人影は、まだ10代後半であろう、黒髪の青年だった。
   中肉中背、これといった特徴があるとすれば何処か飄々としていて、どこかしっかりとした根を張っている、まるで蒲公英の様に感じる。

   縁は、改めてその男をそう評価しながら小さな溜息を漏らした。

「お前こそ、よく覚えてたな、ハル」

   縁が率直な応えを言うと黒髪の青年、ハルは、苦笑いを零して肩を竦めた。

「忘れてたよ、でも、今関わってる案件でな、アイツの名前があって思い出した…呼ばれてんのかな?」

   ハルは、そう言いながらゆっくりと振り返り、目的であろう場所を見つめた。

「迷ってるのか?」

「正直言えば、でも、それも無駄なのかもしれない」

「どういうことだ?」

「アイツは、あっちで死んだ、つまり此処にはいない、これを変えてしまう事は、アイツ自信を変えてしまう事に繋がる…それが怖かった」

   何処か寂しそうにハルが呟く言葉の先を促す様に縁は、黙ったままタバコに火をつけた。

「でも、そこが変わればアイツは俺達に関わらないで済むかもしれない、大事なモノの傍らで幸せに暮らせるかもしれない、そう考えたら今考えてる事が無駄な気がしてきてな」

「そうだな、無駄だな」

   縁は、そうキッパリと言いながらハルの横を通り過ぎる。

「てめぇ、相変わらず身も蓋もない事を言いやがって」

   そんな縁に悪態をつきながらハルの足音が後から続いてくる。

「だが、お前のそういう、推し量る姿勢は凄いと思うよ、俺は単純だからな、進む為にキッパリと決めちまう、それが後になって別の遺恨を生んでしまってる…」

「そうな、お前は本当に単細胞だからな」

   縁は、手痛い反撃に徐に苦笑いが零れてしまった。

「だけど、時としてそのシンプルさが大事な時もある、特に守りたいモノを守る時には、な」

   その言葉に縁は何も言えず、ただ肩を竦めた。

  そのまま、無言で縁と黒髪の青年は、ゆっくりと同じ目的地まで歩いて行く。
   お互いがお互い、何も言わなくても何をすべきかちゃんと理解している。

「煌祐は、最後どんなんだった?」

  ふと、後ろからハルが聞いてきた。

「アイツらしかった…俺を向かわせる為に、多人数相手に奮闘していたからな」

   縁の脳裏にあの時の背中が蘇る。
   多くの敵を目の前にして、啖呵を切った。
   最後まで出入り口を守る為に戦い続け、最後は爆弾を破裂させ、出入り口事消えていった。

「暑苦しは最後までか…」

   ハルは、苦笑しながら呟いた。
   ふと、縁はそのハルの顔を一瞥した。
   その目には、もう迷いは無いのだろう、穏やかな表情の中、その目だけは確実に光っていた。

「相手は、何人かわかるか?」

   目的地は近い、周囲に漂う空気の色がゆっくりとドス黒いモノと優しく軽やかな白が混じりあっている、最悪なバランスを生んでいた。

「恐らく、3人、冷たい空気を発してるのはそれぐらいだな」

「やれるのか?」

「若いって素晴らしいね、今なら全盛期の倍の動きは出来そうよ?」

   川沿いの公園に着いたのは、それから数分後で土手近くのレンガの高台になった所にあるベンチには、2人の小さな人影があった。
   縁は、その2人の人影を見つけると自分の存在が知られない様にゆっくりと住宅街の方へ向かった。

   ハルもまたその後ろを歩き、民家の外壁に着くと、タバコに火を灯し、縁にも1本の差し出してきた。
   縁は、それを受け取るとゆっくりと火をつけて2人の様子を伺った。

「何話してるんだろうな?」

   ふと、漏らした縁の問いにハルはニヒルに笑った。

「そいつは、無粋ってもんですよ大将」

   お前は、何処の3流キャラだ?そんなツッコミを頭に浮かべながら呆れ顔で返していると冷たく鋭い感覚が近づいているのを察知した。

   ハルも感じたのだろう、住宅街から公園の出入り口に向かい早足で向かい始めた。
   縁もその後を追う、公園の出入口で2人の様子を伺っている3つの人影を発見した。

   和柄の甚平を着ている男、ジーンズに花柄のワイシャツの男、それと金髪のタンクトップの男だ。

   明らかに一般人とは、違う匂いを発している。
   視線、体格、立ち振る舞い、動作から3人の情報を叩き込み、どう制圧するか想像した。

「ヤバそうなのは、金髪だな、ありゃ多分、訓練受けてるタイプだ」

   ハルも同じ視線で見ていたのだろう、そっと呟いた。
   確かに、金髪が一番厄介かもしれない。 
   自然と肩を丸め、膝も少し曲げられている、正中線のブレも少ない、足運びもなかなかだ。

「2人を2撃で仕留める、それで金髪をしばく、勝負は秒で済ませるぞ?」

   縁の言葉にハルは、はいよっと応えると体を静かに屈めると足音を消して素早く移動を始めた。
   縁もその後を直ぐに追ったが、2人の足は唐突に入ってきた感覚によって止められた。

   何が来る?
   ふと見たハルの口元がゆっくりと笑みを浮かべていた。

「アイツが暑苦しいなら、あの人は、お節介だな」

   何を言っている?
   そう思っていると、住宅街の道からチラチラと一つ目のライトが迫ってくるのが見えた。

   速度的には、自動車やバイク等のエンジン付きではない。
   自転車だ、それがわかったのは、ゆっくりと公園に立ち入ろうとする3人の前に立ちはだかる様に止まった時だった。

「あの人…確か向こうで死んだよな?」

   目の前に現れた人物を見て縁は驚きながらハルに対して声をかけていた。

「あぁ、俺を庇ってな、だけどこっちで既に関わってんだよねぇ~仕事で」

   ハルは、何処か呑気な声を上げながら何処か嬉しそうにゆったりと3人組と彼に向かい歩き出した。

「そうなったら、今出来ることでフォローしてやろうって思うのよ、元部下としてさ」

   紫煙を空に向かい吐き出しながら歩く、その背中は力強く、本来より大きく見えた。
   全く…
   呆れたのか、ホッとしたのか、縁は自分でも分からないまま、何処か力が抜け、そして気が全身を巡るを感じながら、ハルの背中に着いていく。

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