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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《執悪の種》

虚ろな道 2

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   阿部の自宅は、西武池袋線を数駅下ったひばりヶ丘駅だ。閑静な住宅街に駅前には大型のショッピングセンターがあり、主婦層や中年層が駅を行き交っている。
   フト、多くの中学生や小学生達が古びた雑居ビルへと入っていくのが目に入った。学歴社会、そんな単語が巷を駆け巡っているというのを思い出しながら、その光景を横目に暁達は、阿部の住んでいたアパートへと向かった。
   閑静な住宅街というには、何処か下町の住宅街の様な一方通行の道路に囲まれた2階建てのアパートが目的のそれだった。
   崇央からの情報だと、阿部はここに1人で暮らしていたらしい、まぁ建物を見るからに独身用のアパートだとパッと見でもわかる。

「あの、失礼ですが、大浦さんですか?」

   暁達がアパートを眺めているとアパート前に立っていた若い男が声をかけてきた。ジャケットを脱ぎ片手に持ちながら空いた手で汗を拭いている。
   どうやら、連絡していた管理会社の社員らしい、暁は直ぐに自己紹介を済ませると鍵を預かり、その返却を駅前の店舗でする様に頼まれ、程なくして彼は住宅街へと消えていった。
   阿部の部屋は103号室、1階の真ん中の部屋だ。
   部屋は、整理整頓された綺麗な部屋だった。むしろ綺麗過ぎると暁は思った。
   テツ、マツ、そして星見に部屋の中をリンクで探って貰ったが何の痕跡も見つからなかった。
   唯一、テツがタンスの上に置かれている写真を指差していつかの朝方に阿部が何かを祈る痕跡の糸を掴んだぐらいだった。
   暁は、その写真を手に取ると両親に挟まれた高校生ぐらいの阿部がはにかんだ笑顔を向けている。何処にでもある幸せそうな家族写真だった。
   確か、阿部の両親は数年前に他界している。
   写真をそっと戻すと暁は再び部屋の中を見渡した。
   やはり、この部屋は綺麗過ぎる、整理整頓と言うより綺麗にしている。そんな気がしてならなかった。どちからと言えば身辺整理の様な感じだ。
   リンクに目覚めた彼女は何かを見たのだろうか?
   そして、それが今回の事に関わっているのだろうか?
   再び、暁は写真立てに目を向けた。
   阿部の両親は、何処にでも居そうな平凡な出で立ちだ。どちらもが多少白髪は混じっているモノの黒髪で穏やかな顔立ちだ。
   ふと、何故この両親は2人とも他界したのだろうかと気になり、崇央に電話をして調べてもらえる様にお願いした。
   それから、暫く阿部の部屋を捜索し、かけ直しがあったのは、捜索を終え、部屋を出た時だった。

「先輩、何か気づいたの?」

   崇央は少しだけ興奮した様子だった。

「何も、気になっただけたど、どうした?」

   暁がそう言うと崇央は大きな溜息を漏らした。

「阿部とそして、ほか3人からもアルファとの繋がりが見つかったよ」

   その崇央の応えに暁は一瞬だけ頭が真っ白になった。

「どいう意味だ?」

「全員、家族がアルファ事件に関する被害者だった」

   その応えに暁は言葉を失った。

「それも、地下鉄襲撃事件の時の被害者なんだよ3人とも」

   そんな暁を他所に崇央は続けた。

「3人の被害者の仕事は国家関連か?」

「まだわからない、けど少なくとも阿部の両親の仕事は、自営業、公認会計士」

   ふと、阿部と両親の写真が暁の頭を過ぎった。
   平凡を絵に書いた様な見た目の両親、だけどそれが造られた印象だったらどうだ?
   そう考えれば考える程に何か触れてはいけないものが見えてくる気がした。

「崇央、阿部の両親と他の被害者達、どこまで前職を遡れるだけ遡ってくれないか?」

「また随分な無茶を…とりあえず、出来るだけ調べてみるけど、期待しないでくれ」

   崇央は、そう言うと溜息混じりに電話を切った。

   地下鉄襲撃事件、アルファの理の名前が宗教団体から過激派のテロリストへと変貌したあの日の出来事。
   表立っての理由は、世間への報復とされている。
   だけどもし、これが違っていたら?
   別の何かの為にあのテロは引き起こされたとしたら、それは何か、そして今回の3人はリンクという以外の繋がりとしてあのテロで家族が被害者となっている。
   もし、これが偶然じゃないとしたら?
   判断するにはまだ早いが暁の中では既に何かが結ぼうとしていた。




   ゆったりと波の様に深い青が空に押し寄せ群青に染まり、深い青から暗闇の黒へと染まる。
   暁達は、一旦事務所に戻り、崇央への報告を終えると解散した。星見、藤は帰路へ、テツとマツは稗田の元へ向かった。
   暁は、今日の調査報告書を書き上げ、崇央に提出して帰路についた。
   志木駅についてバス待ちをしていたが梨花が今日当直なのを思い出し、ご飯を適当に済ませる為に駅前の居酒屋へと向かった。
   睦月の宴、以前梨花と共に入った事のある個人経営の居酒屋だ。確か彼女の青春の味とかで話しは盛り上がったが本郷達の捜査があり、焼き鳥しかしっかりと味わえていなかったのを思い出した。
   店の前の通りに行くと大盛況で店の前に何グループかが並んでいるのが見えた。 確かに美味かったし並ぶのも頷けるが。だけど並んでまで食べたいと思わなかった暁は、食べるのを止めて近くにある弁当屋へ足を向けた時だった。

「舐めてんのか!ジジィ!!」

   唐突に響く怒声に暁は、瞬時にその方向へ目を向けた。
   睦月の宴の店前に1人の小柄な男性に対して大柄な男が詰め寄っているのが見えた。
   小柄な男性は、ハット帽を被り、半袖のワイシャツにスラックス、顔立ち等からするに老人だ。
   対して大柄の男は、チンピラなのだろう、子分か3人ほど連れている褐色肌でキラキラとした装飾を耳や手首などにジャラジャラと付けていた。

「舐めてなんかおらんよ、その価値も無いのに」

   そう言うと老人は呆れた溜息を漏らしながら肩を竦めた。その態度が気に食わないのだろう大柄な男はより距離を詰め寄ろうとした時、老人の手が男の顔の前に出された。

「それ以上、近づくならこっちも去なすけどいいか?」

   大柄の男の顔が歪む、重心も前に掛かる。
   良かった、嫌な予感がして距離を詰めて置いて、暁はそう思いながら大柄の男の手が胸元まで上がったのを確認すると放たれるより早くその手に自分の平手を被せた。
   唐突に横から現れた暁の姿と行動に大柄の男の顔は呆けたモノになったが直ぐに暁の存在に気づくと慌ててバックステップを踏んで距離を取った。
   喧嘩の経験のあり、だけどあくまで同レベルの不良同士の喧嘩の類だろうと、暁は大柄な男を分析しながら2人の間に立つとにこやかな笑顔を向けた。

「何があったか知らないけど、暴力は良くないんでないか?」

「なんだテメェ!!?そのジジィの知り合いか!?」

「いんや、通りすがりのサラリーマンですけど?」

「だったらすっこんでろよ!」

「そうも言ってられんのよ~」

   暁は、そう言いながら鞄の外ポケットに締まっていた警察手帳をチラリと見せながら相手の反応を確認した。顔が一瞬引き攣る、どうやら素人でもないらしい。

「なんじゃ、横入りしてジジイに注意された凄むクセに若いのが来たら逃げるのか?この阿呆」

   唐突な老人の挑発に暁は、苦笑いを見せながら首を横に振り、それを見た老人は察してくれたのか鼻をひとつ鳴らしながら顔を横に向けた。
    暁は、咳払いを1つして改めて大柄の男へ向き直した。

「どうだい、お互いここは、穏便に済ませないかい?」

   そう言うと大柄の男は顔を歪ませながら舌打ちをした。

「今回は見逃してやる、だけど今度見かけたらジジイはタダじゃおかねぇ!」

「そういう事言うなよ、今回の事はこれで終わりにしておこうぜ?お互い、ややこしくはしたくないだろ?」

    そう言いながら暁が少しだけ、大柄の男の目を見つめながら凄むと再び男の足が下がる。

「くっそが!!」

   大柄の男は、そう言うと踵を返して駅の方へ大股で歩いて行き、それを子分であろう若い男達が着いていく。

「わかり易い奴だなぁ~」

   大柄の男の背中を見送る暁の背後から老人の間の抜けた声が聞こえ、振り返った。
   改めて、老人の腕や立ち方、そした振る舞いに暁は助けたのはこっちではなく向こうなのだと認識した。

「そうでしょうけど、余り店先で無茶はしない方が良いんでは無いんですか?」

「何を、この店を守る為にあれに喧嘩売ったんだが?」

「売ったんだが?じゃないんですよ、警察呼べば良かったじゃないですか?」

「民事不介入って言って交番のお巡りは相手にしてくれなかったぞ?」

   それは、聞き捨てならない、そもそも店を守るとはどういう事なのだろうか?

「才田さん、大丈夫ですか?」

   暁がそれを問おうとすると店の奥から割烹着を着た、壮年の顔を出してきた。確かこの店の店主だった男だ。
   才田と呼ばれた老人は、にこやかに笑いながら手を振り、改めて暁の方を向いた。

「立ち話もなんだ、どうせ一人飯だろ?暇な老人の晩酌の相手しくれ」

   そう言うと才田は、ゆったりと見える足取りで店の中へ入って行ってしまい、暁はそれに続く事になった。
   才田は、迷いの無い足取りで賑やかな店内を進むと1番奥の食べ物と酒が並んでいるテーブル席の上座へ座った。
   暁は、才田に続く様に向かいの下座に座ると直ぐに店主が現れた。

「才田さん、追い返して貰えた様で…申し訳ありません、危ない事をさせてしまった様で」

   店主はそう言いながらペコペコと頭を下げ、才田は苦笑いをしながら手を振った。

「なに、暇な老人が勝手にやった事だ、それに本当に追い返してくれたのはこのあんちゃんの方さ」

   そう言いながら才田は、暁に手を向け、それを見た店主が申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「いや、俺はたまたま通り過ぎただけで、それよりあの連中と何かあったんですか?」

「はい、情けない話なのですが、あの客達が週に何回か来店されるのですが店で暴れるは他の客に絡むはで、何度も注意したんですが直して貰えず、出禁にしたのですが聞いて貰えない状態でして」

   所謂、迷惑客って部類だろうが、手帳を見せて引き下がるところを見るとみかじめ料目当ての筋者系の可能性もある。

「一応、警察の方へも相談したのですが、民事不介入だと言われて、困っていた時に父の知り合いの才田さんが追い返してやるって…」

「民事不介入…ちなみになんですが暴れた際に何か壊されたり、誰か暴行されたりしてませんか?」

「はい、食器等が幾つか壊されたり、私も彼等にお腹を殴られたりしましたけど…」

   そう言われると暁は、自分の名刺を取り出すと後ろに志木署の捜査課の番号とその分野の班長の名前を書くと店主へ差し出した。

「今と同じ内容をこの番号のこの人に相談して下さい、俺の名前も名刺に書いてあるのでこの名前の人に言わられたって言えば話を聞いて貰えると思いますよ」

   暁がそう言うと店主は目を向けて、再び深々と頭を下げてきた。そんな店主と暁の様子を見ながら才田は、満足そうに頷きながら店主に暁の分のビールとツマミを頼むと店主は、元気な返事をしながら店の奥へと消えていった。

「お前さん、やっぱり出来るタイプの人間だね」

「なんすか、それ?」

   暁がそう返すと才田は、豪快に笑いながら煙草に火をつけた。程なくして暁の分のビールとお通しが届いた。

「とりあえず、乾杯しとこうか」

   才田はそう言いながら清酒の入ったお猪口を差し出し、暁はビールジョッキで乾杯をした。
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