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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《執悪の種》

混戦《銃口》

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 2人を拘束してながら改めて3階フロアーの様子を伺ったが1階、2階と違い、不気味にも静かだった。
 下は、喧騒と言うには、生温いぐらいの状況に対してこのフロアーは病棟としての機能を果たしているとも言えた。

「これは…」

 テツが疑問を口にすると暁は、小さなため息を漏らした。

「罠だったんだよ、これは」

 暁はそう言いながら目出し帽の女が持っていたを自動拳銃、グロック拾いテツに渡した。

「罠?」

 テツがそう聞き返すと全身に小さな棘が刺さる痺れにも似た感覚に襲われ、咄嗟に身構えた。
 何の変哲もなかった廊下の隅々に蔦の様な煙が泳ぎ、現実を侵食していく。

「もう、アイツのテリトリーだ、気を抜くなよ」

 暁がそう言うと、病室のドアが開き、何人もの患者がゆったりと出てきた。
 その動きに生気は無く、力も入っていない。
 操り人形、そんな表現が似合っている、佇まいにテツはより不気味に感じながら、かつてこれと同じ様な人間達を見たのを思い出した。
 そう、あれは、初の海外任務だった…

「来るぞ!」

 暁のその一言に少しだけ記憶を遡っていた意識を現実に戻して、迫り来る患者達に目を向けた。
 人数は全員で10人前後。
 とても、2人で相手する人数では無い。
 しかし、暁は迷うこと無くグロックを抜くと容赦無く、男達の足を撃ち始めた。
 テツは、暁のその行動に一瞬呆然としてしまったが直ぐに此処が日常では無く、戦場なのだと認識しすると同じ様にグロックで迫る患者達の足を撃ち抜いた。

 2人で計10発程、撃ち終えるとそこには血塗れの廊下と蹲り、呻く、患者達の悲鳴でいっぱいになった。

 この光景が恐らく、星見の見たものだろう。
 その前後が分からないから何故彼らがこうなったのかも理解できなかっただろう。
 そして、この光景には一つ足らないものがある。

「目覚めた、いや、同調したのか?」

 野太く粘り着く声に自然と暁とテツは声のした方へと銃口を向けた。
 廊下の奥の曲がり角から引き摺る様な足取りでのっそりと動きでそれは姿を現した。
 肥えた体に曲がった背筋、ボサボサに伸びきった髪から覗き込む眼は、爛々と不快な光を宿していた。

 暁は、無言のまま、一発、発射した。
 しかし、銃弾は左に逸れ、微かに伸びきった髪を揺らすだけだった。

「凄いなぁ、しっかりと眉間を撃ち抜いていたよ」

「当たってないなら意味はない」

 暁はそう言いながらゆっくりと銃口を少しだけ下げながら言った。

「大浦 暁、まさかこっちに来てもお前の顔を見るとは思わなかったよ」

「それは、こっちのセリフだよ、お前はあっちで確かに俺が消した筈だ」

 暁のその言葉にゆったりと顎を上げソレは、不気味な笑みを浮かべた。

「勘違いしたいんじゃないか?それか消し切る前にその力が足りなかったんじゃないか?お前はどうせ紛い物なんだしな」

 ジットリとした笑みでコチラを見るその姿にテツは、隠しきれない嫌悪感に襲われた。
 そっと暁の手が目の前に上がり、テツの銃の銃身に触れた。
 そこでテツは、引鉄に触れる指に力が籠っている事に気づいた。

「今は、自分の体に意識を持て」

 テツは、その一言に頷くと銃口を下げ、いつでも構えられる体勢、そして周囲の状態に気を配った。
 千条、かつてそう呼ばれていた存在は、もはや今はここに居ない。改めて目の前のモノを確認しながら中身が別の物なのだと確信した。
 マルクト、確かにその雰囲気や感覚は間違いなくそれだと認識している。間違いない、あの時あの戦場で出会ったアイツだ。
 だが、暁の反応は少し自分とは違う、その雰囲気、感覚は間違えようの無い筈なのに何処か懐疑的な面持ちだった。

「どうした?随分、冷静だな?」

 千条の中にいるソレがゆったりとした口調で声を掛けてきた。

「どういう意味だ?」

 暁は、淡々とした口調で返した。
 その言葉にソレの笑みがより歪なモノになる。

「伊澄の仇は目の前にいるのにやけに冷静だなって意味だよ」

 その言葉に暁はゆっくりと首を横に傾けた。

「お前、本当にマルクトか?」

 次に暁の口から放たれた言葉にソレの眉間にシワが寄った。

「どういう意味だ?」

「そのまんまだよ、確かにお前は雰囲気もこの感覚も、間違いなくマルクトだ、だけどなんでかな、俺の中の何かがお前は違うって言っている」

 その一言にソレは溜息をつくと興味が失せたかの様にゆっくりと横を向いた。
 それと同時に5人の人影が角からゆったりとした足取りで現れるとソレとの間の壁の様に立ちはだかった。
 目出し帽の男が1人に女が2人、そして若い坊主頭の男が2人、テツはその2人をよく知っていた。
 1人は、岩倉、数ヶ月前に白硝子高校に乗り込み逮捕された男だ、そしてもう1人はその相方、織部と呼ばれていた男だ。
 5人共、その目には生気が無く、頭には花の茎の様にリンクの煙が絡みついている。
 暁は、それをゆったりと観察しながら再度グロックを構えた。

「どうして、ここに居るのか、偶然か必然か、まぁどれでもいい、お前達に用は無いし目障りだ、消えろ」

 ソレのその発言が合図だった、その言葉と同時に5人が5人共に動き出した。織部は岩倉と目出し帽の女に対して手を伸ばし触れると3人の姿が消え、残りの2人はこちらに向かい迷い無く突進してきた。

「動くな」

 目出し帽の男がそう言うとテツの体が地面へと吸い込まれそうになる。
 しまった、出だしが…
 テツは、咄嗟に吸い込まれそうになるのを踏み留まり、その感覚を整えて解除するが一歩行動が遅れたがそれよりも早く乾いた音が響いた。
 暁が何よりも早く的確にその2人の足を撃ち抜いたのだ。

「テツ、俺と背中合わせろ」

 テツは、反射的に暁の指示通りに背中合わせにすると周囲に目を配った。
 織部のリンクは、知っている。その精度も高く、完全に3人の姿は見えなくなっていた。
 どうする。
 焦りから唾を飲むと暁は、小さく深呼吸をした。

「目だけに頼るな、相手は生きている、あの男の力は姿を消せても気配までは消せてない」

 暁は、そう言いながら徐に一発、壁に向かい発砲した。
 一瞬、風が吹く。
 そうか、今慌てて躱したのか。
 そう思いながらテツは、再びゆったりと一点を見つめると耳、鼻、そして肌に感覚を集中した。
 微かな揺れに、相手が間合いを詰めてくると同時に位置が掴めてくる。
 しかし、未だに距離感はわからない。
 近いのか遠いのか、相手がどんな構えなのか、皆目見当がつかない。
 唯一わかっているのが織部は、《隠す力》を使い、岩倉は《氷のナイフ》を使うという事だけ、もう1人の目出し帽の女の力はまだわかっていない。
 それと、暁が撃ち抜いた2人の目出し帽の動きも気になる。今は痛みでコチラに注意を向けられないが男の方は《言葉の支配》を使い、もう1人の女が何なのかわからない。
 自分の様に読み込む方の力ならばまだ問題は無いが、もし《言葉の支配》や《氷のナイフ》の様な身体的な影響を及ぼすものなら厄介だ。
 かと言って勝機が無いわけでもない。
 ハルのくれた小太刀をカスタマイズしたナイフだ。
 これを使えば織部の力は剥せるし、氷のナイフも壊せる。
 だが、使い方を間違えば形勢が不利になる。
 テツは、出来るだけ思考を回しながら周囲に向けて感覚を研ぎ澄ませる。
 恐らく向こうも攻めあぐねているが時間が経てば経つ程にコチラが不利だ。
 なんせ、奥にはもう1人、厄介な存在がいるのだから。

「落ち着け、恐らく奴は俺達に構っていられない」

 焦るテツとは、対照的に暁は、冷静に周囲に目を配っていた。
 感覚を共有しているからこそ、暁もまたテツと同じ状況の筈なのに、何処までも静かにマルクトを静かに見ていた。

「そうであったとしても、コチラもかなり厄介なのは、変わりませんよ?」

 テツがそう言うと暁は、ゆっくりと肩を竦めた。

「そうでもない」

 そう言いながら暁はグロックの握る手をゆっくりと伸ばした。
 安易な挑発だった。

「どうした?俺を切りつけて苦しめるってほざいてなかったか?そら、切りつけてみろよ」

 暁は嘲笑う口調で言う、それと同時に空気の質が変わっていく。
 怒りから来る、殺気だ。
 来る!
 見えなくても暁に向かい、何かが迫っているのがわかった。

 空気を切る音が鳴り、暁の腕が震える。
 その瞬間、腕から暁の体が崩れた。
 倒れるまではいかないものの、膝を着いてしまったのだ。
 テツが咄嗟にその空間に対して発砲するが空を切り裂いて弾丸は壁へと埋まっていった。
 クソ!
 テツは、漏れそうになる自分自身への悪態を何とかウチに納めたが状況はより最悪なモノへと変化した。

 そう思っていた。

 テツが見た暁の表情はその真逆で口元に笑みを浮かべゆっくり立ち上がると先程、落ちた腕は嘘の様に軽々しくと上がり空中の何かを掴んだ。

「本当に単純で助かるよお前」

 そう言うと野太いが悲鳴が廊下中に響き渡った。
 それと同時に燃える様に空間から首を捕まえれた岩倉の姿が現れた。
 その表情は苦悶に歪み天を仰いでいる。

「どうだ?お前が凍るなら俺は燃える様だろ?」

 暁は、そう言いながらそのまま岩倉の体を壁へと叩きつけた。

「調子に乗るな、紛い物!」

 ソレのその言葉と同時に岩倉の首元から蔦の様な煙が掴む暁の腕に伸びてきた。
 暁は、表情を歪めると素早く手を離し、岩倉から距離を取る。
 それと同時に空気が揺れ、テツはそれを逃さなかった。
 素早く横一文字にナイフサイズの黒い木刀を走らせると空間が切れ、そこかから暁に向かい片刃のナイフを振りかぶった織部の姿が現れ、テツは銃口を足に向かい構えた。

「動くな」

 その言葉と同時に全身に走る衝撃が引鉄に掛かった指の力を止めた。
 先程の目出し帽の男だ。
 数秒の間が空く、引鉄を引いた時には弾丸は足をすり抜け廊下へと埋まってしまった。
 織部のナイフが暁の肩を目掛けて振り下ろされる。
 しかし、暁は咄嗟に体を捻り反転させると銃を握っている腕でそれを止めた。
 切っ先が暁の肩まで数cmというところで止まり、織部はその腕に全体重をかけるがテツはそんな織部の脇腹に向かい木刀を握った拳を走らせた。
 呻き声と共に織部の体はくの字に曲がり廊下へと倒れ込む。

「お前には見えない」

 その言葉が届くと同時に織部の姿は消えたがテツは直ぐにその空間に向かい木刀を走らせる。
 脇腹を抑えながら織部は体を回転させ膝立ちになった姿が現れた。
 テツは、銃口を直ぐに目出し帽の男の方へ向けると一発撃った。
 地面を目出し帽の男の目の前を跳弾し、弾丸は廊下の壁へ。
 その一瞬の間でテツは銃口を織部に向け、今度こそその足を撃ち抜く為に撃った。
 微かに体が下に向く、ズラされた。
 乾いた音ともに廊下の床に埋まる弾丸、織部は立ち上がると手をゆらりと動かしその姿を消した。
 今のは、目出し帽の男じゃない。
 テツは、再度ナイフを走らせようとしたがその腕が動かなくなり視線を向けると床から生える蔦の様な煙に手首が絡め取られていた。
 振りほどこうとするがその蔦は、しなやかで強く、引きちぎれずにない。
 横から風を感じ、直ぐに銃口を向けると風が止んだ。
 静寂が空間を支配し、その緊張からテツはゆっくりと息を飲んだ。
 次の瞬間、熱風がテツの周囲を包む。
    熱風は、渦を巻く様に張り巡らされた蔦をゆっくりと燃やしていく。
    蔦に支配された世界からテツと暁を守る様にドーム型の結界が出来てきた。
 風が吹いてくる方向に自然と目が向くとそこには、暁が静かに立っていた。

「ダメです、やめてください、大隊長!」

 暁は、その言葉にテツを一瞥すると口元に笑みを浮かべながら忌々しそうにこちらを見ているソレに目を向けた。

「さぁ、お前はどうなるんだろうな?」

 暁がそう言うとソレは暁に向けて掌を翳した。

「その前にお前が消えるだけだ、あの女の様に死ね」

 テツの頭の中にかつての光景が蘇る。
 地下の空洞、黒い仮面を被った男がハルと向かい合い攻防をくりひろげていた。
 テツ達は、ハルを支援しようにも黒い仮面の男のリンクによって阻まれ何も出来ずにいた。
 1人を覗いては。
 当時の大隊長である暁だ、暁はテツや部隊の他のメンバーが欠け無い様にリンクでカバーをしていた。
 しかし、作戦としてはこれ以上のハルのリンクの消費も好ましくない、そんな中彼が取った手は、自分のリンクの暴走で周囲のリンクを焼き尽くすという荒業だった。
 そして、それは出来るだけ味方の被害を抑える為に黒い仮面の男の近くでしなければならない。

《少し耐えろよ、お前ら》

 唐突に頭の中に響く念話にテツは背筋が凍る様な感覚に襲われた。
 気づくと共有していた感覚は途切れ、テツが振り向いた時には、暁は黒い仮面の男の両腕を掴んでいた。

「アキさん!!!」

 ハルの咆哮が空間を反響し、一瞬、全てが真っ白な世界へと染まっていく。
 いつもの暖かい風とは違う、全てを焼き尽くしそうな熱波を全身に感じかながらテツはその眩さに目を瞑ってしまった。
 それが暁の最後の背中だった。

「ダメだ!!」

 テツは、ゆっくりと銃口をソレへと向ける。
 暁が首を横に振るのが見えたがそれに従う気はない。
 視界の外に姿を現した織部と岩倉がテツに向けて氷のナイフと片刃のナイフの切っ先を突き立てるように迫ってくるのが見える。
 しかし、テツはそれを知りながらも千条の姿をしたソレに向けて引鉄を引いた。
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