月が沈むまでは

前田 芍葉

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2話 月見草

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今日の午後3時ごろだろうか?卓也から、
 「夕方ひま?」
 と、LINEが来たのだ。
 「18時からなら空いてるよ」
 と、とりあえず返信しといた。
 「 なら18半ぐらいにあそぼー」
 と相変わらず軽いノリで返信がきた。
 とりあえず、
 「どこで会う?」
 と、返信し、しばらく返信を待った。
 「渋谷」
 「おっけ」
 と、送ったが、私はこの世で渋谷という街が苦手だ、
 「なんで渋谷何だよ…」
 と、つい枕に顔を埋めながら叫んだ…。
 自分とは真逆のキラキラした明るい社交性の高い人間があつまり、ファッションに敏感な人達の集団なんかに、自分が歩いてたら、浮いちゃう…と焦りながらクローゼットから必死に服を漁った。
 色々と服を選んでいるうちに、時刻は午後4時半を差した。
 結局迷って選んだ服はビンテージ物のスタジャンに無地の白のロングTシャツにワイドタイプのジーンズだ。
 とりあえずそれらを身に纏い、準備して家を出た。
 慌てて小走りで、本八幡駅に続く細い通りを、ひたすら歩き、駅に着いた頃には黒髪が乱れ、汗をかいていた。
 駅構内のトイレの鏡で髪を整えてから電車に乗り、耳にAirPodsを挿し、鈴木雅之&菊池桃子の「渋谷で5時」を聴きながら電車に揺られた。
 渋谷駅に着いたのは結局19時だ。
 ハチ公前は人集り溢れ、スクランブル交差点のビル群のモニターの爆音が鳴り響いていた。
 近くにはカップル、大学生たちの集団、仕事終わりのサラリーマンたちが、わんさかいる。
 そんな周りを見ていたら、後ろから肩を叩かれ、振り向いたら卓也がいた。
 「おそーい、いつまで待たせるんだよー」
 と、卓也はむすっとした口調で言い、
 「とりあえず喫煙所行こーぜ」
 と、卓也は言い、俺達は喫煙所に向かった。
 卓也はIQOSのミントを吸いながら、
 「お前まだ紙タバコかよー、しかもキャメル吸ってるなんておっさんみてぇじゃん」        
 と、言い、ホワイトニングされた、真白な歯を剥き出し、ニヤニヤしながら馬鹿にするように言うのだ。
「いいんだよ、これが一番安くてタバコ感あるから」
 と、俺はツンとした感じで言い放った。
 卓也は、
 「ふーん」
 と、口をとがらせながら、相変わらず小馬鹿にしたような顔でこちらを見た。
 卓也は灰皿に吸い終わったタバコを捨て、一息をつき、
「とりあえず服でもみに行こー」
 と、卓也が言い、服屋に向かった。
 渋谷のガラス張りの大型店舗の中に沢山並んだ服、どれも俺が着ないような派手な   個性的なデザインな服ばかりだった。
 卓也は、「これ可愛いじゃんと!」色々な服を重ねて試していたのだ。
 俺は服にそこまで興味なかったから適当に、
「あー、可愛いね。似合うんじゃない?」
 と、適当に返事する。
 その後も卓也の服選びは時間かかったが、結局一枚も買わずに店を出た。
 二人で居酒屋に立ち寄り、卓也はビールと手羽先を頼み、俺はハイボールを注文した。
 卓也は運ばれてきたビールをクビクビと音をたてて飲んだ。
「おまえ、手羽先の食い方下手だなぁ」と笑いながら卓也はビールを口に運んだ。
「じゃあどうやって食べるの?」
 俺が聞いたら卓也は手羽先にしゃぶりつき、骨を引っ張り出したのだ。
 確かに綺麗に食べれるが、なんか気持ち悪いと思った。
 「ほら、やってみ」
 と、口元をベタベタさせながら言う。
「好きに食べるからいい」
 と、言い、私はちまちまと食べ、手をおしぼりで拭き取り、ハイボールを飲んだ。
 二人で何杯か酒を飲み、居酒屋飯を堪能し、お会計を済まし店を出た。
 渋谷は相変わらず、街は明るく、治安の悪い酔っ払いや、大声で奇声をあげる若者が溢れていた。
「このあと家に来る?」と卓也が聞いた。
「今日はこのまま帰る、明日色々とやる事あるし」
 と、言い、卓也が、
 「えー寂しいなー」
 と、不満気に言った。
 本当は行きたかったし卓也ともうちょい長くいたかったが、明日はいつも依頼してくれる編集社関係の依頼で、ロンドン、パリ、ミラノに出張をしに行くのだった。
 「明日は海外出張だからダメ」
 「だけど本当はもっと一緒にいたかったけどね」
 と少し照れるように言った。
 「そんなこと言われたら、連れて帰りたくなっちゃうじゃん」
 と、卓也も少し照れているように言うのだ。
 「でもまたすぐ会えるし、近いうちまた会おうな!」
 と、卓也は言い、俺たちは軽くハグをし、解散した。
 卓也は京王井の頭線の渋谷駅に向かい、その後ろ姿を見送った。
 恐らくだが、卓也はこの後別のセフレを呼ぶのだろう、と、思うと、駅に向かう卓也の後ろ姿を見送ると、何だか淋しい気持ちになった。
 とりあえず俺も駅に向かい、一人帰宅する事にした。
 渋谷のごみごみとした忙しない街でも、ビル群の隙間から満月が一際美しい覗いている。
 卓也と会えるのは決まって、いつも夜だ。
 楽しい時間もあっという間にすぎ去っていき、卓也とすぐ解散しなくてはならない…。
 そんな事を考えていると、目が少し潤んで、周りのネオンの光が霞んで、一人取り残された気持ちになった。
 
 本八幡駅に着いたのは夜の12時半頃だろうか、あたりは真っ暗で駅前も人が少なくなっていた。
 歩いて帰宅し、帰る途中の空き地に沢山の黄色い花色の月見草がいつのまにか、 咲き誇っていたのだ。
 私は月見草を一輪摘み、帰宅後、ソファーの横のサイドテーブルに飾った。
 風呂上がりに切子のロックグラスに氷を入れジンとトニックウォーター注ぎ、1人掛けソファーに座りながら、中森明菜の「ON NO,OH YES!」流し、ジントニックを飲んだ。
 玄関にはノートパソコン、書類、服や洗面用具などを詰めこまれたスーツケースが置いてある。
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