元高校球児の僕だけど、異世界転生したら称号が球界のプリンスだった

かわなお

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トムさん

「それで坊ちゃんは、儂にどのような要件があるのですかな?」

 改まって僕をジロリと見る目は、何かを探るよう。幼い王子がこのような場所にまで来て、いかなる要件があるのだろうかと訝しんでいる目だ。

 でも……、そんなの関係ない。
 だって、神様直々に野球を広めるよう命じられたのだから、僕は成すべきことをするまでだ。

「えっと、トムさんはゴムのボールって知らない? 出来たら作って欲しいんだけど」

 僕はまず、そう尋ねてみた。
 でも、トムさんもメアリー同様、知らないようだ。

「ほう、ゴムのボールとな」

「うん、ボールっていうのはね、まあるいミカンくらいの球のことで、お互いに投げっこして遊ぶんだよ」

「ふむ、ゴムで出来たミカンくらいの球ですか……、聞いたことがありませんな。失礼ですが、坊ちゃんは何処でそのようなことを?」

「あ~、うん、夢で見たの。素材はゴムの木の樹液と、アロン樹の根の粉末、それとネンチャクカマキリの体液だったかな。もう、すっごく楽しくて、また遊びたいって思ったんだ」

 トムさんの、僕の心を見透かすかのような鋭い視線が痛い。

 正直、ここは夢ってこたえるしか思いつかないし、まだしっかり文字の読めない僕が本で得た知識っていうのも無理があるからね。
 まあ、神秘的なところが魅力、そう思ってもらえたらいいけど……甘かった。

「ほう、夢でございますか。それにしても素材までとは豪勢な夢でございますな」

 ありゃ、やり過ぎた?
 僕の困惑をよそに、トムさんは更に話を進める。

「確か、自身の知らないことを夢で見るようなことはないはずでして、もしそれがあったとしたら、予知夢か……、神からの御神託でござりましょうな」

 げっ、ちょっと待って。予知夢? 神託? これってマズくない?

 そう、僕は勘違いしていた。信仰心の薄い日本人的な感覚で考えてしまっていたけど、世界に目を向ければ宗教国家は数多く存在するのだ。
 ましてやここは異世界。元の世界以上に神との結びつきが強いなんて、わかりきったことだった。

 あちゃ~、やっちまった。でも、まだ大丈夫。
 選択肢は二つ。なら選ぶは一択だ。

「そうなの? じゃあ僕、予知夢だったら嬉しいな。だって、夢の中の僕、すっごく楽しそうに遊んでたんだもん」

 決まった。これなら文句もあるまい。
 五歳児の可愛らしさに充てられやがれ。

 そんな僕の思惑通り、みな呆けた様子だ。
 メアリーなんて顔を真っ赤にして、僕を見つめている? みつめて…………。

「はあああ、マルクスさま、尊い、尊いですわ。そうですよね、トムさん。マルクスさまの夢を叶えるため、ご協力いたしましょう」

「お、おう」

 やべえ、メアリーの様子がなんだかおかしい。それを見たトムさんも若干引き気味だ。
 もしかしてこれって、メアリーの特殊な性癖を目覚めさせただけなんじゃあ。大丈夫かな? 信じてるよ。

「ま、まあ、予知夢であろうと、御神託であろうと、幼い坊ちゃんには理解できますまい」

 よし、勝った! どうやらトムさんが折れてくれたようだ。これで先へ進める。

 そう思っていたのだけれど、トムさんは何やら難しそうな顔をしている。
 何か問題でもあるのだろうか。

「では、まずは素材についてじゃが、ゴムの木の樹液は問題あるまい。たいして強くもないからのう。しかしな、アロン樹の根の粉末とネンチャクカマキリの体液は厳しいかもしれん」

 ……ん、今なんかおかしかったよね。
 強くないって、どういう事? 
 それにアロン樹の根の粉末とネンチャクカマキリの体液は厳しいって、まさかだよね。

「えっと、どうしてなの?」

「うむ、坊ちゃんは知らぬでしょうが、ゴムの木は小さな魔物で打撃系の攻撃には強いが、剣で斬りつければアッサリ倒せる。じゃが、アロン樹は大樹でな。でかいものだと十五メートルを越えるものまでおって、少々厄介な魔物なのじゃよ。
 火矢を放って燃やしてしまえばわけないが、根を残すとなると幹の部分を切り落とす必要が出てくる。まあ、騎士団の三小隊ってところかのう。
 おまけに、ネンチャクカマキリはかなりの強敵じゃ。騎士たちだけではまず狩れんと思った方が良かろう。
 こちらはハンターギルドへ依頼を出さなければならぬじゃろうな」

「…………」

 まさかだった。

 アロン樹だけじゃなく、ゴムの木まで魔物かよ。まあ、弱いってのが救いだけどさ。でも、十五メートルを越す大樹の魔物と、どうやって戦うんだ。全くイメージが湧かないぞ。

 それに、やっぱりネンチャクカマキリは強いのか。大きさがどの程度かわからないけど、もしラノベで見たような人の倍くらいありそうな魔物だったら、ゾッとするね。 
 神様の言っていたファンタジーはあるから存分に楽しんでくれって、こんなの楽しめるわけないじゃないか。

「やっぱ、無理そうだよね」

 野球はしたいけど、騎士の人たちが何人も犠牲になってまでしたいわけじゃない。
 確かに神様からの依頼ではあるけれど、僕が楽しめなければ意味ないと思う。

 けど、僕はこの世界の人たちを甘く見てた。

「それでは、私が中隊を率いて採って参りましょう。十日ほどもあれば集められると思いますので、まずは陛下から許可をいただきましょうか」

「ほう、ヒューイ殿が行ってくれるなら、問題無かろう。坊ちゃん、素材はそろったようなものですぞ」

「えっ? さっきまでの話はいったい……」

 いくらヒューイが騎士団副団長だからって、僕のお願いのために中隊を動かすわけにはいかんでしょう。

 聞いた話だと、小隊は隊長一人に部下が十九人の二十人体制。そして中隊は小隊が五部隊集まった百人体制の部隊で、本来はそれを中隊長に任せているのだけど、今回はヒューイが率いて行くつもりらしい。
 まあ、実際は一小隊が輸送支援で、もう一小隊が回収班だろうから、実質戦闘に参加する部隊は三小隊なんだけど、ピンチになったら参戦するだろうから問題はないみたいだ。

 でも、やっぱり心配だよね。

 そんな僕の思いなど意に介さず、話はサクサクと進んで行く。

「殿下の希望を叶えるとなると、一度、陛下にも詳細をお話させていただかなければなりませんね」

「うむ、儂からも話を通しておこう」

「助かります」

「では、素材を手に入れたら、この小屋まで運んでくれ。それまでに人を集めておくでのう」

「わかりました。ネンチャクカマキリ次第ではありますが、遅くとも十五日以内には戻って参りましょう」

「うむ、任せたぞ」

 そんな感じで話もまとまり、この日はお開きに。でも。ちょっと待って。トムさんって何者なの? 話を聞いている限り、凄い人だよね。

 まあ、なんとかなりそうだからいいけど。


 こうして、僕の初外出は終わった。
 ちょっと予想とは違う展開だったけど、概ね順調だと思う。
 でも、僕のお願いのために戦って、誰かが死んじゃったらやだな。
 騎士の皆さんが無事であることを祈ろう。


 ちなみに帰りはメアリーが僕を抱っこするといって聞かないので、素直に抱えられて部屋まで戻ってきた、らしい。
 というのも、僕は抱えられてすぐに眠ってしまったようで、特に疲れていたというわけではないが、ちょっとはしゃぎ過ぎたのかもしれない。

 皆の視線が、ママに抱っこされた子供でなきゃいいんだけど……。


 そして、トムさんの鑑定結果がこれだ。


 (名前) トム・ローガン  (年齢)58歳 (性別)男
 (所属) 前ローガン伯爵
      宮廷庭師筆頭
      前国王の友人

 (能力)
  (ちから)  25/52
  (スタミナ) 22/63
  (知力)   83/92
  (走力)   18/46
  (遠投力)  17/43
  (守備力)  35/48
  (長打力)  15/52
  (指揮力)  85/90


 年齢からか数値は平凡だけど、知力と指揮力がずば抜けている。
 おじいさまの友人ってのも気になるけど、やはり只者ではなかったみたいだね。
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