14 / 36
視察終了、そして……
訓練場の視察もいよいよ大詰め。
僕たちが一通り訓練の様子を眺めたところで、再び今日参加している全員が整列した。
「陛下、明日よりこの者たちを連れ、素材の採集へ向かいます」
「うむ、期待しておるぞ。皆も我が息子マルクスのため、よろしく頼む」
「「「「「「「「「「「「 はいっ!! 」」」」」」」」」」」」
国王陛下《ちちうえ》からの激励に、皆が声を揃える。
僕のためってのが気になるけど、騎士の皆さんも気合十分な様子なんだよね。
ここはひとつ、僕からも声を掛けておこう。
「あ、あの~、みなさんよろしくお願いします」
「お任せください殿下」
「ネンチャクカマキリなんかに後れを取る者など、ここにはおりません」
「大船に乗ったつもりで、待っていてください」
おっと、父上に便乗して僕も皆に声を掛けたら、ずいぶん威勢のいい返事をくれた。
でも、トムさんが『騎士ではネンチャクカマキリなど狩れん』と言っていたから、少し心配だ。ここは念を押しておくに限る。
「でも、油断は大敵だよ。ぼくはみんなが死んじゃったらイヤだからね」
そう思って伝えてみたけど、みな真剣な面持ちで聞いてくれた。
「殿下、私がいる限り、部下を簡単には死なせませぬ。必ず無事に連れ帰りますから、ご安心ください」
「うん、ヒューイ。頼んだよ」
彼らしいといえばそれまでだが、僕の不安な気持ちを察し、力強い言葉で勇気づけてくれる。
とはいえ、それを鵜吞みにするほど愚かではないつもりだ。
戦いに犠牲は付き物。相手がそれなりの魔物である以上、絶対はない。その覚悟を僕も持たなければいけないのだ。
なんて思っていたけど、やっぱりヒューイ。それなりに準備はしてくれていた。
「では、昨日お約束した通り、私の部下を一人紹介いたしましょう。ライアン、こちらへ参れ」
「ハッ」
それはヒューイの背後に控えていた人物。短く刈り上げた金色の髪と、青く透き通るような瞳。背もヒューイと同じくらいで彼よりも膨れ上がった逞しい肉体美の男。
「お初にお目にかかります、マルクス殿下。騎士団で大隊長を務めるライアンと申します。以後、お見知りおきを」
うん、さっき見た。
「えっと、確か、やり投げをしていた人?」
「おおっ、殿下の目に留まっていたとは、光栄でございます。やはり私自慢の筋肉が目についてしまいましたか。どうです、殿下も私と一緒に鍛えては」
あ、ヤバイ。この人もなんか変なスイッチがありそうだ。
騎士団の大隊長ってくらいだから凄い人なんだろうけど、五歳の僕に筋トレって、やっぱり脳筋なんですか。
こんなプニプニの腕で筋トレなんてしても意味ないよ。
とまあ、そんなアホな感想は置いておくとして、僕は丁寧にお断りを入れる。
前世で早めに成長が止まったことを考えると、筋トレの開始は急がない方がいいと思う。
まずは感性から始めて、その後だよね。
「ごめんなさい、遠慮しておきます」
「ハハハ、殿下にはまだ早すぎましたな。その気になりましたら、いつでもお声かけください」
「うん、その時にはね………」
ヤバイ、とんでもないやつに目を付けられた。
いや、確かに対応したのは僕だけど、国王陛下《ちちうえ》の御前でもあるんだよ。それであんなことを言うなんて、勇気があるっていうか……。
僕は脳筋ライアンに身震いしつつも、視察した訓練を思い返してみる
ネンチャクカマキリは三メートルくらいの大型な魔物で、両腕は鋭い刃。昆虫の中でも王者に分類されるカマキリがベースなだけに接近戦は分が悪く、盾と弓で撹乱しつつ、強力な手投げ槍でダメージを与える作戦で行くつもりのようだ。
うん、大丈夫そう。持久力も鍛えていたし、破壊力のあるライアンの槍もある。これは期待が持てるんじゃないかな。
「では、殿下。朗報をお待ちください」
「うん、気をつけてね」
こうして僕は訓練場の視察を終えた。
まずはネンチャクカマキリ、そして次のターゲットであるタンポポ羊と連戦するようだ。
あとは、皆の無事を祈るのみである。
☆ ☆ ☆
あれから一週間が過ぎた。
騎士団はまだ戻ってきていないけど、そろそろ帰ってくるような気がするんだよね。
「コンコン」
誰か来たみたいだ。もしかしてヒューイかな?
いつものようにメアリーが入室の許可を出し、僕はドキドキしながらその人物を待つ。
「殿下、一週間ぶりですね。ただいま戻って参りました。必要な素材は全てトムさんに渡してありますので、もう作業に取り掛かっている頃でしょう」
やはり、とでもいうべきか、入ってきたのはヒューイだ。けれど、一人らしい。
「ほんと、ありがとう。ヒューイもおつかれさま。今回はどうだった?」
「はい、殿下の懸念されていたようなことも起こらず、皆無事に戻って参りました。多少の怪我等はございますが、命を落とした者はおりません」
ああ、よかった。今回もみな無事だったみたいだ。でも、ちょっと気になることが……。
「うん、流石だね。ところで、ライアンは一緒じゃないの?」
先日の訓練で紹介されたくらいだから、きっと一緒に来るのだろうと思っていたのだけれど、どうやら彼の姿は無いらしい。
ただ、理由はにこやかな笑顔のヒューイが、すぐに教えてくれる。
「ええ、彼でしたら、今回の功労賞で陛下から呼ばれております。『なんで、オレが』って、戸惑った様子でしたよ」
「へえ~、そんなこともあるんだ」
「もちろんです! 今回の遠征には殿下が係わっていますからね。褒章も豪華ですよ」
「えっ?」
ちょっと、待って。今何か聞こえたよね。僕が係わっているから褒章も豪華? それって、国王陛下《ダメパパ》が原因だよね。
もう、あの人何してるの。親バカすぎるにもほどがあるでしょう。
僕の背中にヒンヤリとした汗が流れ落ちる。あれだけ皆の無事を祈ってたのに、まさかの父上が暴走。これでみんなが無理して犠牲者が出たらどうすんだって話だ。
もう……、勘弁してくれよ。
親の心、子知らず。なんてことわざもあるけど、子の心も親は知らないと思う。
国を守るための騎士が、僕のわがままに付き合って命を落とすなんて、あってはいけないはずなのに。
けど、今は素直にみんなが無事に帰ってきたことを喜ぼう。
そして、僕はさっそくトムさんのところへ出かける計画を練るのだった。
僕たちが一通り訓練の様子を眺めたところで、再び今日参加している全員が整列した。
「陛下、明日よりこの者たちを連れ、素材の採集へ向かいます」
「うむ、期待しておるぞ。皆も我が息子マルクスのため、よろしく頼む」
「「「「「「「「「「「「 はいっ!! 」」」」」」」」」」」」
国王陛下《ちちうえ》からの激励に、皆が声を揃える。
僕のためってのが気になるけど、騎士の皆さんも気合十分な様子なんだよね。
ここはひとつ、僕からも声を掛けておこう。
「あ、あの~、みなさんよろしくお願いします」
「お任せください殿下」
「ネンチャクカマキリなんかに後れを取る者など、ここにはおりません」
「大船に乗ったつもりで、待っていてください」
おっと、父上に便乗して僕も皆に声を掛けたら、ずいぶん威勢のいい返事をくれた。
でも、トムさんが『騎士ではネンチャクカマキリなど狩れん』と言っていたから、少し心配だ。ここは念を押しておくに限る。
「でも、油断は大敵だよ。ぼくはみんなが死んじゃったらイヤだからね」
そう思って伝えてみたけど、みな真剣な面持ちで聞いてくれた。
「殿下、私がいる限り、部下を簡単には死なせませぬ。必ず無事に連れ帰りますから、ご安心ください」
「うん、ヒューイ。頼んだよ」
彼らしいといえばそれまでだが、僕の不安な気持ちを察し、力強い言葉で勇気づけてくれる。
とはいえ、それを鵜吞みにするほど愚かではないつもりだ。
戦いに犠牲は付き物。相手がそれなりの魔物である以上、絶対はない。その覚悟を僕も持たなければいけないのだ。
なんて思っていたけど、やっぱりヒューイ。それなりに準備はしてくれていた。
「では、昨日お約束した通り、私の部下を一人紹介いたしましょう。ライアン、こちらへ参れ」
「ハッ」
それはヒューイの背後に控えていた人物。短く刈り上げた金色の髪と、青く透き通るような瞳。背もヒューイと同じくらいで彼よりも膨れ上がった逞しい肉体美の男。
「お初にお目にかかります、マルクス殿下。騎士団で大隊長を務めるライアンと申します。以後、お見知りおきを」
うん、さっき見た。
「えっと、確か、やり投げをしていた人?」
「おおっ、殿下の目に留まっていたとは、光栄でございます。やはり私自慢の筋肉が目についてしまいましたか。どうです、殿下も私と一緒に鍛えては」
あ、ヤバイ。この人もなんか変なスイッチがありそうだ。
騎士団の大隊長ってくらいだから凄い人なんだろうけど、五歳の僕に筋トレって、やっぱり脳筋なんですか。
こんなプニプニの腕で筋トレなんてしても意味ないよ。
とまあ、そんなアホな感想は置いておくとして、僕は丁寧にお断りを入れる。
前世で早めに成長が止まったことを考えると、筋トレの開始は急がない方がいいと思う。
まずは感性から始めて、その後だよね。
「ごめんなさい、遠慮しておきます」
「ハハハ、殿下にはまだ早すぎましたな。その気になりましたら、いつでもお声かけください」
「うん、その時にはね………」
ヤバイ、とんでもないやつに目を付けられた。
いや、確かに対応したのは僕だけど、国王陛下《ちちうえ》の御前でもあるんだよ。それであんなことを言うなんて、勇気があるっていうか……。
僕は脳筋ライアンに身震いしつつも、視察した訓練を思い返してみる
ネンチャクカマキリは三メートルくらいの大型な魔物で、両腕は鋭い刃。昆虫の中でも王者に分類されるカマキリがベースなだけに接近戦は分が悪く、盾と弓で撹乱しつつ、強力な手投げ槍でダメージを与える作戦で行くつもりのようだ。
うん、大丈夫そう。持久力も鍛えていたし、破壊力のあるライアンの槍もある。これは期待が持てるんじゃないかな。
「では、殿下。朗報をお待ちください」
「うん、気をつけてね」
こうして僕は訓練場の視察を終えた。
まずはネンチャクカマキリ、そして次のターゲットであるタンポポ羊と連戦するようだ。
あとは、皆の無事を祈るのみである。
☆ ☆ ☆
あれから一週間が過ぎた。
騎士団はまだ戻ってきていないけど、そろそろ帰ってくるような気がするんだよね。
「コンコン」
誰か来たみたいだ。もしかしてヒューイかな?
いつものようにメアリーが入室の許可を出し、僕はドキドキしながらその人物を待つ。
「殿下、一週間ぶりですね。ただいま戻って参りました。必要な素材は全てトムさんに渡してありますので、もう作業に取り掛かっている頃でしょう」
やはり、とでもいうべきか、入ってきたのはヒューイだ。けれど、一人らしい。
「ほんと、ありがとう。ヒューイもおつかれさま。今回はどうだった?」
「はい、殿下の懸念されていたようなことも起こらず、皆無事に戻って参りました。多少の怪我等はございますが、命を落とした者はおりません」
ああ、よかった。今回もみな無事だったみたいだ。でも、ちょっと気になることが……。
「うん、流石だね。ところで、ライアンは一緒じゃないの?」
先日の訓練で紹介されたくらいだから、きっと一緒に来るのだろうと思っていたのだけれど、どうやら彼の姿は無いらしい。
ただ、理由はにこやかな笑顔のヒューイが、すぐに教えてくれる。
「ええ、彼でしたら、今回の功労賞で陛下から呼ばれております。『なんで、オレが』って、戸惑った様子でしたよ」
「へえ~、そんなこともあるんだ」
「もちろんです! 今回の遠征には殿下が係わっていますからね。褒章も豪華ですよ」
「えっ?」
ちょっと、待って。今何か聞こえたよね。僕が係わっているから褒章も豪華? それって、国王陛下《ダメパパ》が原因だよね。
もう、あの人何してるの。親バカすぎるにもほどがあるでしょう。
僕の背中にヒンヤリとした汗が流れ落ちる。あれだけ皆の無事を祈ってたのに、まさかの父上が暴走。これでみんなが無理して犠牲者が出たらどうすんだって話だ。
もう……、勘弁してくれよ。
親の心、子知らず。なんてことわざもあるけど、子の心も親は知らないと思う。
国を守るための騎士が、僕のわがままに付き合って命を落とすなんて、あってはいけないはずなのに。
けど、今は素直にみんなが無事に帰ってきたことを喜ぼう。
そして、僕はさっそくトムさんのところへ出かける計画を練るのだった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。