婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢、高笑いで身を引いた先で過保護王子に捕まる

ツナ

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「スイー、少し真面目な話をしよう。……二人きりで、静かな場所で」

騎士団の訓練を終えた夕暮れ時。レオンハルト様に手を取られ、私は王宮の奥深くにある「秘密の小庭園」へと連れてこられました。
ここは限られた王族しか入れない、沈黙とバラの香りに包まれた美しい場所です。

(……おーっほっほっほ! ついに、ついに来ましたわね!)

私は扇を握りしめ、心臓の鼓動を悟られないように背筋を伸ばしました。
この神妙な雰囲気、そして人払い。
これは間違いなく、私をこの国から追放するための「最終勧告」、あるいは私を真の黒幕として正式に任命するための「闇の儀式」に違いありませんわ!

「……スイー。君をこの国に連れてきてから、僕の毎日は一変した。……君が誰かを助け、誰かを美しくし、そして騎士たちを鍛え上げる姿を見て、僕は確信したんだ」

レオンハルト様が私の前に立ち、私の両手を優しく包み込みました。
その瞳は、夕陽を反射して燃えるような情熱を湛えています。

「僕は、君を誰にも渡したくない。……君のその邪悪で(可愛らしい)、傲慢な(気高い)魂を、一生僕の隣に閉じ込めておきたいんだ。……スイー、僕の王妃になってくれないか?」

「………………ッ!」

私は絶句しました。
王妃。王妃ですって!?
それはつまり、この国のトップに君臨し、レオンハルト様と共にこの国を影から……いえ、表から支配するということですわよね!?

(……なんて恐ろしいお誘いでしょう! 私を『生涯の共犯者』として指名するなんて!)

「……おーっほっほっほ! よろしいでしょう、レオンハルト殿下! その『最強の共犯契約』、謹んでお受けいたしますわ!」

「……共犯契約?」

レオンハルト様が、少しだけ拍子抜けしたように目を瞬かせました。

「ええ! 殿下が私をそこまで高く評価してくださるなら、私も相応の覚悟を持って、貴方と共に『悪の帝国』を築き上げて差し上げますわ! ですが、それには条件がありますのよ?」

「……。……。条件、かい? 聞かせてもらおうか」

レオンハルト様は苦笑しながらも、私の言葉を促しました。

「第一に! 王妃になった暁には、毎日三食、私が指定する『激辛メニュー』に付き合っていただきますわ! これは王家の味覚を破壊するための、私からの最初の試練です!」

「……分かった。胃薬の準備をしておこう」

「第二に! 毎日一回、殿下は私に『今日の君も最高に邪悪だ』と、愛の告白……ではなく、称賛の言葉を捧げること! 私の悪役としてのモチベーションを維持させるためですわ!」

「それはお安い御用だ。……むしろ、一日に何度でも言わせてほしいくらいだね」

「そして第三に! これが一番重要ですわ。……殿下は、どんな時でも私の味方でいること。たとえ世界中が私の『善行(という名の悪事)』を勘違いして褒め称えても、殿下だけは私の『真の邪悪さ』を笑わずに見守ってくださること!」

私は顔を真っ赤にしながら、一気にまくしたてました。
すると、レオンハルト様は一瞬、驚いたように目を見開いた後、それはそれは優しく、愛おしそうに私を抱き寄せました。

「……ああ。約束するよ。世界中の誰が君を聖女だと崇めても、僕だけは君が世界一の『悪役令嬢』だってことを知っている。……君の隣で、一生君の悪巧みに付き合おう」

「……。……。……お、おーっほっほ……。……殿下、……誓いの印が必要ではありませんか?」

「……そうだね。僕たちの不敵な同盟に、これ以上の証はない」

レオンハルト様の顔が近づき、唇に柔らかな感触が落ちました。
それは甘く、とろけるような……それでいて、これからの「悪の人生」を決定づけるような、重みのある誓いでした。

(……ふふ。……ふふふふ! ついに、ついに手に入れましたわ! 私だけの、私を理解してくれる『最強のパートナー』を!)

私は彼の胸の中で、勝ち誇ったような、けれど少しだけ幸せで涙が出そうな、複雑な微笑みを浮かべるのでした。

ところが、その時です。

「……素晴らしい! スイー様とレオンハルト殿下が、ついに真実の愛で結ばれたぞーっ!」

バラの垣根の向こうから、騎士団やセラフィナ様、さらにはメイドたちの歓声が爆発しました。

「……。……。……殿下。……人払いしたんじゃありませんでしたの?」

「……いやあ。……みんな、君の『悪の契約』が気になって仕方なかったみたいだね」

レオンハルト様がバツが悪そうに頭を掻きました。
私の「秘めやかな告白(共犯契約)」は、またしても国中の祝福という名の騒音にかき消されてしまったのでした。
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