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戦の予感
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「……どうかしましたか? 帰蝶?」
「……へ? どうかって……」
「……随分と長く、十兵衛殿を見つめていらしたので」
「な、何かウチの十兵衛が気に障ることをしてしまいましたか? 何分こいつは無愛想なもので……」
「……い、いえ。なんでもありませんよ? ……ただ、他の人とは違った雰囲気を持っているなと思って……」
「……へぇ、それは……フフ。もしかしたら、記憶を失っても十兵衛殿への特別扱いは変わらないのかもしれませんね」
「……特別扱いって……?」
小見さんは私と光秀を交互に見ながら楽しそうに笑っている。
その姿を見て、私は今までずっと『美しい』と思っていた小見さんをはじめて『可愛い』と感じていた。
「……十兵衛殿は、あなたの従兄だということで幼い頃から付き合いがありました。その十兵衛殿をあなたは大層気に入っていたようで、大きくなってからも主従ではなく1人の友のように接していたのですよ?」
「……それが、特別扱い?」
「ええ。昨年十兵衛殿が所帯を持たれた時なんて、あなたは凄くいじけていたんですよ?」
「いじけてたって……それってつまり……」
「フフ……これ以上は、十兵衛殿の前ではよしておきましょうか」
なんてこった、帰蝶はこの光秀のことが好きだったのか? 随分とドラマみたいな話だけど、『うつけ』って呼ばれる人間は光秀に惹かれるものだと考えれば……
私は再び光秀の眼を見る。……うん、やっぱり光秀からは道三と近い感じがする。
道三も光秀も、私達常人とは違う世界に生きる人間。そして恐らくは、道三に認められ、光秀に惹かれた帰蝶も彼らと同類だ。
ふと、不安に思えてきた。斎藤道三の娘で織田信長の妻、更に明智光秀の従妹という時点で、帰蝶という女が普通の人間じゃないことは分かりきってるんだ。
そんな女に、果たして私は成りきれるのか?
もしかしたら、私の行動のせいで歴史が変わってしまうこともあるのでは?
ああ、やっぱりこれは悪夢だ。お願いだから、早く覚めて……
「……大丈夫ですか? 帰蝶様……」
「……みつ、ひでさ……」
「……昔のように十兵衛とお呼び下さい。たとえどれだけ時が経とうとも、妻や子供を得ようとも、私はいつまでもあなたにこの身を捧げます。……あなたは覚えていないかもしれませんが、そう約束したので」
……光秀の眼が、変わった。野望の炎は消え、澄んだ瞳が私をじっと見つめている。
そしてその眼を見た時、私の心の奥底に眠っていた帰蝶の記憶が脳内に奔流してくる。
何で今更帰蝶の記憶が私の中に入ってくるんだ?
それだけ、帰蝶は光秀に対して強い思いを抱いていたの?
よく分からないまま、私は遂に帰蝶の記憶の中の光秀を見つけだした。
『誓いましょう。私は生涯、あなたにこの身を捧げ続けると』
帰蝶の記憶の中の光秀は、純粋な笑顔を彼女に向けていた。
「……ありがとう。み……いや、十兵衛」
「……よかった。顔色が元に戻りましたね」
目の前で微笑む光秀は、紛れもなく帰蝶の記憶の光秀と同じだ。
彼女の見る光秀は、優しくて、頭が良くて……確かに、あれは憧れのお兄ちゃんって感じだ。好きになっちゃうのも分かるよ。
でもさ、1つだけ引っかかるところがあったんだ。
野心の欠片も見えなかった光秀の眼が、一瞬狼のようになった瞬間が。
『……十兵衛なら、きっと天下にも手が届く。お前の才覚があれば、いつか天下を取ってこの下らない戦乱の世を……』
『天下』。この言葉を聞いた時、光秀の眼の色が変わったんだ。もしかして、光秀の野望に火を着けたのは帰蝶なんじゃ……
「殿ッ! 若ッ! 至急お耳に入れたき儀がありますッ!!!」
その時、明智家の家臣らしき人が襖の向こうから光安と光秀を呼ぶ声が聞こえた。
光安さんは小見さんに断りを入れてから席を立つと、襖を開けて家臣の人から話を聞く。
「……なんだ伝五よ。急ぎの話か?」
「……尾張の織田と、越前の朝倉がこちらに向かって進軍を始めたとの由。山城守様は、至急兵を稲葉山に集めよと申されました」
「……なんと!」
……戦だ。遂に戦が始まるんだ。私は、いよいよ今を戦国時代たらしめる出来事を体験することになるんだ。
「……叔父上、私は伝五と共に明智に戻り兵を募ってきます。叔父上は、今いる手勢と共に先に大殿の下へ!」
「うむ。そちらは頼むぞ、十兵衛、伝五!」
「「はっ!!!」」
「……では、私もこれにて失礼致します」
「ええ。御武運を」
慌ただしくなってきた……これが戦か。光安さんも、光秀も、小見さんも、皆戦の顔に変わっている。
何をすればいいか分かっていないのは、この場では私だけだ。
「……帰蝶、私達は部屋に戻りましょう」
「……はい」
とにかく、小見さんの言う通りに行動しよう。
私が何の役にも立たない無力な存在だということは、唯一分かっているから……
「……へ? どうかって……」
「……随分と長く、十兵衛殿を見つめていらしたので」
「な、何かウチの十兵衛が気に障ることをしてしまいましたか? 何分こいつは無愛想なもので……」
「……い、いえ。なんでもありませんよ? ……ただ、他の人とは違った雰囲気を持っているなと思って……」
「……へぇ、それは……フフ。もしかしたら、記憶を失っても十兵衛殿への特別扱いは変わらないのかもしれませんね」
「……特別扱いって……?」
小見さんは私と光秀を交互に見ながら楽しそうに笑っている。
その姿を見て、私は今までずっと『美しい』と思っていた小見さんをはじめて『可愛い』と感じていた。
「……十兵衛殿は、あなたの従兄だということで幼い頃から付き合いがありました。その十兵衛殿をあなたは大層気に入っていたようで、大きくなってからも主従ではなく1人の友のように接していたのですよ?」
「……それが、特別扱い?」
「ええ。昨年十兵衛殿が所帯を持たれた時なんて、あなたは凄くいじけていたんですよ?」
「いじけてたって……それってつまり……」
「フフ……これ以上は、十兵衛殿の前ではよしておきましょうか」
なんてこった、帰蝶はこの光秀のことが好きだったのか? 随分とドラマみたいな話だけど、『うつけ』って呼ばれる人間は光秀に惹かれるものだと考えれば……
私は再び光秀の眼を見る。……うん、やっぱり光秀からは道三と近い感じがする。
道三も光秀も、私達常人とは違う世界に生きる人間。そして恐らくは、道三に認められ、光秀に惹かれた帰蝶も彼らと同類だ。
ふと、不安に思えてきた。斎藤道三の娘で織田信長の妻、更に明智光秀の従妹という時点で、帰蝶という女が普通の人間じゃないことは分かりきってるんだ。
そんな女に、果たして私は成りきれるのか?
もしかしたら、私の行動のせいで歴史が変わってしまうこともあるのでは?
ああ、やっぱりこれは悪夢だ。お願いだから、早く覚めて……
「……大丈夫ですか? 帰蝶様……」
「……みつ、ひでさ……」
「……昔のように十兵衛とお呼び下さい。たとえどれだけ時が経とうとも、妻や子供を得ようとも、私はいつまでもあなたにこの身を捧げます。……あなたは覚えていないかもしれませんが、そう約束したので」
……光秀の眼が、変わった。野望の炎は消え、澄んだ瞳が私をじっと見つめている。
そしてその眼を見た時、私の心の奥底に眠っていた帰蝶の記憶が脳内に奔流してくる。
何で今更帰蝶の記憶が私の中に入ってくるんだ?
それだけ、帰蝶は光秀に対して強い思いを抱いていたの?
よく分からないまま、私は遂に帰蝶の記憶の中の光秀を見つけだした。
『誓いましょう。私は生涯、あなたにこの身を捧げ続けると』
帰蝶の記憶の中の光秀は、純粋な笑顔を彼女に向けていた。
「……ありがとう。み……いや、十兵衛」
「……よかった。顔色が元に戻りましたね」
目の前で微笑む光秀は、紛れもなく帰蝶の記憶の光秀と同じだ。
彼女の見る光秀は、優しくて、頭が良くて……確かに、あれは憧れのお兄ちゃんって感じだ。好きになっちゃうのも分かるよ。
でもさ、1つだけ引っかかるところがあったんだ。
野心の欠片も見えなかった光秀の眼が、一瞬狼のようになった瞬間が。
『……十兵衛なら、きっと天下にも手が届く。お前の才覚があれば、いつか天下を取ってこの下らない戦乱の世を……』
『天下』。この言葉を聞いた時、光秀の眼の色が変わったんだ。もしかして、光秀の野望に火を着けたのは帰蝶なんじゃ……
「殿ッ! 若ッ! 至急お耳に入れたき儀がありますッ!!!」
その時、明智家の家臣らしき人が襖の向こうから光安と光秀を呼ぶ声が聞こえた。
光安さんは小見さんに断りを入れてから席を立つと、襖を開けて家臣の人から話を聞く。
「……なんだ伝五よ。急ぎの話か?」
「……尾張の織田と、越前の朝倉がこちらに向かって進軍を始めたとの由。山城守様は、至急兵を稲葉山に集めよと申されました」
「……なんと!」
……戦だ。遂に戦が始まるんだ。私は、いよいよ今を戦国時代たらしめる出来事を体験することになるんだ。
「……叔父上、私は伝五と共に明智に戻り兵を募ってきます。叔父上は、今いる手勢と共に先に大殿の下へ!」
「うむ。そちらは頼むぞ、十兵衛、伝五!」
「「はっ!!!」」
「……では、私もこれにて失礼致します」
「ええ。御武運を」
慌ただしくなってきた……これが戦か。光安さんも、光秀も、小見さんも、皆戦の顔に変わっている。
何をすればいいか分かっていないのは、この場では私だけだ。
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「……はい」
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