11 / 23
三人称 斎藤利政の戦略
しおりを挟む
「……あらあら、急いで駆けつけたというのに、随分余裕がおありのようですね」
己の傍らに侍る妻、小見の方の言葉に、斎藤利政は不敵な笑みとともに頷いた。
「4年前から阿呆守護のいる織田が動いた時点で、馬鹿坊主が頼りにしていた朝倉も呼応するのは読めておったからな。状況は厳しいが、想定の範囲内ならば焦る必要もあるまい」
「しかし、相も変わらず大殿は嫌われているようで。今回も数は劣勢、大義名分も守護を掲げるあちらにございますが?」
尾張、越前の両面から美濃大垣に迫る織田、朝倉連合軍の数は2万以上。対する斎藤軍はアンチ利政を掲げる土岐派国人の参戦ボイコットもあり僅か5000程であった。
「うむ、この戦は負けだ。ならば負けによる傷を最小限に抑えることを考えねばな」
「もう、手を打っておられるので?」
「ああ、奴らの錦の御旗である阿呆と馬鹿を懐柔する。まずははるばる越前からお越しの上に、馬鹿坊主がまだ若く取り入り易い朝倉からだ」
利政が小見の方に今後の展望を語っていると、彼の前に3人の息子達が姿を見せた。
仏頂面の新九郎こと利尚、血気盛んな孫四郎、そして、不敵にニヤつく喜平次である。
「……父上。我らの準備は完了致しました」
「もう連合軍は大垣の目と鼻の先にまで迫っていると聞きます。すぐに援軍に向かうべきかと!」
「……ふむ、確かに大垣を抜かれては面倒なことになる。新九郎、直ちに軍を率いて大垣へと向かえ。補佐として長井隼人をつけてやる」
「はっ。叔父上とともに、必ずや大垣を救ってみせましょう」
「孫四郎、喜平次。お前達はまだ若い。此度はこの稲葉山にて待機しておけ」
「……はい……!」
「はい、父上」
「先に言っておく。儂は此度の戦、この稲葉山の城から一歩たりとも動くつもりはない。新九郎よ、お前は儂の指示がなくとも自分の力で考えて行動するのだ。よいな?」
「……はっ!」
利政からの指示を聞き終え、三兄弟が部屋を出ていこうと背を向けると、小見の方が新九郎に向けて言葉をかけてきた。
「私からも一言……新九郎殿、こんな戦で命を散らすような馬鹿な真似は止すのですよ」
「……承知しました、母上」
再び前を向き直って頭を下げてから、新九郎を先頭にして3人は部屋から出ていった。
3人の足音が段々遠ざかり、完全に消えたのを確認すると、利政は静かに笑いはじめた。
「クク……こんな戦、か。お前もこの戦の価値が分かっていたようだな?」
「此度の戦は、腕や足よりも頭と口がものをいうのでしょう? 大垣での戦は、そのための時間稼ぎにすぎないのですから」
「うむ、下らん負け戦はさっさと終わらすに限るな」
聡明さを見せる小見の方に利政は満足そうな顔をするが、逆に小見の方は少し不安そうな顔をしていた。
「……でも、子供達に何も教えないのは少し意地悪じゃありませんか?」
「……甘やかすな、小見よ。この程度自力で気づいてもらわねば困るわ」
「やれやれ……そんなのだからこのお方は嫌われるんでしょうねぇ……」
己の傍らに侍る妻、小見の方の言葉に、斎藤利政は不敵な笑みとともに頷いた。
「4年前から阿呆守護のいる織田が動いた時点で、馬鹿坊主が頼りにしていた朝倉も呼応するのは読めておったからな。状況は厳しいが、想定の範囲内ならば焦る必要もあるまい」
「しかし、相も変わらず大殿は嫌われているようで。今回も数は劣勢、大義名分も守護を掲げるあちらにございますが?」
尾張、越前の両面から美濃大垣に迫る織田、朝倉連合軍の数は2万以上。対する斎藤軍はアンチ利政を掲げる土岐派国人の参戦ボイコットもあり僅か5000程であった。
「うむ、この戦は負けだ。ならば負けによる傷を最小限に抑えることを考えねばな」
「もう、手を打っておられるので?」
「ああ、奴らの錦の御旗である阿呆と馬鹿を懐柔する。まずははるばる越前からお越しの上に、馬鹿坊主がまだ若く取り入り易い朝倉からだ」
利政が小見の方に今後の展望を語っていると、彼の前に3人の息子達が姿を見せた。
仏頂面の新九郎こと利尚、血気盛んな孫四郎、そして、不敵にニヤつく喜平次である。
「……父上。我らの準備は完了致しました」
「もう連合軍は大垣の目と鼻の先にまで迫っていると聞きます。すぐに援軍に向かうべきかと!」
「……ふむ、確かに大垣を抜かれては面倒なことになる。新九郎、直ちに軍を率いて大垣へと向かえ。補佐として長井隼人をつけてやる」
「はっ。叔父上とともに、必ずや大垣を救ってみせましょう」
「孫四郎、喜平次。お前達はまだ若い。此度はこの稲葉山にて待機しておけ」
「……はい……!」
「はい、父上」
「先に言っておく。儂は此度の戦、この稲葉山の城から一歩たりとも動くつもりはない。新九郎よ、お前は儂の指示がなくとも自分の力で考えて行動するのだ。よいな?」
「……はっ!」
利政からの指示を聞き終え、三兄弟が部屋を出ていこうと背を向けると、小見の方が新九郎に向けて言葉をかけてきた。
「私からも一言……新九郎殿、こんな戦で命を散らすような馬鹿な真似は止すのですよ」
「……承知しました、母上」
再び前を向き直って頭を下げてから、新九郎を先頭にして3人は部屋から出ていった。
3人の足音が段々遠ざかり、完全に消えたのを確認すると、利政は静かに笑いはじめた。
「クク……こんな戦、か。お前もこの戦の価値が分かっていたようだな?」
「此度の戦は、腕や足よりも頭と口がものをいうのでしょう? 大垣での戦は、そのための時間稼ぎにすぎないのですから」
「うむ、下らん負け戦はさっさと終わらすに限るな」
聡明さを見せる小見の方に利政は満足そうな顔をするが、逆に小見の方は少し不安そうな顔をしていた。
「……でも、子供達に何も教えないのは少し意地悪じゃありませんか?」
「……甘やかすな、小見よ。この程度自力で気づいてもらわねば困るわ」
「やれやれ……そんなのだからこのお方は嫌われるんでしょうねぇ……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる