19 / 29
第二章 再会
2-11 隠し通路
しおりを挟む
央華は声を大きくした。祭壇の方向に向かって、まるでそこにいる誰かに話しかけているかのようだった。
「私が王太子殿下に呼ばれたのは東宮の南にある祭壇の間でね、いつまでたっても殿下がお出ましにならないものだから、室内を歩き回っていて、それで祭壇の下に地下通路へと続く階段を見つけた。そして地下通路を歩いているうちにここに出た。これであなたの質問に答えているかしら、董星殿下?」
「十分だよ」
董星は答えた。でも彼女の話がそれで終わりではないことは容易に想像がついた。
央華は祭壇の横を通って奥にある掛け軸に近づいた。董星も何気なく彼女の背を追って歩いた。
「……地下通路を歩いているうちに気が付いたのは、途中で道が合流していて、同じ道をついさっき、私よりも先に通った人があること。その人たちはもっと北の方からやっ来て、確かにここにたどり着いている。でも姿が見えない。もし二人で隠れているのだとしたら、ふさわしい場所は……」
「央華!」
董星が叫んで央華を引き寄せるのと、壁の掛け軸が吹き飛んで転がるのが同時だった。風を切る音がし、董星はとっさにつかんだ燭台でそれを受け止めた。
「正解だ」
そう言って、掛け軸の裏側からは剣を握った壮宇が現れた。
もう一度壮宇が剣を振り下ろし、董星が力を込めて打ち返すと、剣は壮宇の手を離れて転がった。董星は床から素早くそれを拾って構えた。
剣を手にして董星ははっとなった。かつては董星の父も腰に下げていた剣。その剣は王太子の証、それ以外の者が手を触れることは許されない。
董星が壮宇の顔を見ると、彼はにやりと笑って腰から何かを外し、董星の足元に投げた。剣の鞘だった。床板に重い音と振動が響いた。
「お前のものだ、持っていけ」
言うなり、壮宇は床に腰を下ろして胡坐をかいた。壁の方からもう一人、隠れていた女が走って近づいたのを壮宇は手で制した。女は恵明だった。彼女も壮宇の隣に並んで膝を折って座った。
董星は床の上の鞘と壮宇との顔とを順に見た。
央華が動いた。剣の鞘を拾い上げると両手で董星に差し出した。
「剣をおさめて。神殿で振り回すのは、とてもよくない」
「わかった」
董星は鞘をつかむと剣を収めた。壮宇の真意を計りかねて彼をにらみつけた。
壮宇は笑っていた。恵明に何かをささやいた後で、再び董星の方を向いて言った。
「その剣が何か、知っているな」
壮宇に言われて董星は鞘と剣とを握りなおした。ずっしりとした感触が伝わった。
「さっきも言った通りだ、お前が王太子をやれ」
「何を……?」
「私は王には向かぬ。今回のことは私と恵明とで謀ったのだ」
「私が王太子殿下に呼ばれたのは東宮の南にある祭壇の間でね、いつまでたっても殿下がお出ましにならないものだから、室内を歩き回っていて、それで祭壇の下に地下通路へと続く階段を見つけた。そして地下通路を歩いているうちにここに出た。これであなたの質問に答えているかしら、董星殿下?」
「十分だよ」
董星は答えた。でも彼女の話がそれで終わりではないことは容易に想像がついた。
央華は祭壇の横を通って奥にある掛け軸に近づいた。董星も何気なく彼女の背を追って歩いた。
「……地下通路を歩いているうちに気が付いたのは、途中で道が合流していて、同じ道をついさっき、私よりも先に通った人があること。その人たちはもっと北の方からやっ来て、確かにここにたどり着いている。でも姿が見えない。もし二人で隠れているのだとしたら、ふさわしい場所は……」
「央華!」
董星が叫んで央華を引き寄せるのと、壁の掛け軸が吹き飛んで転がるのが同時だった。風を切る音がし、董星はとっさにつかんだ燭台でそれを受け止めた。
「正解だ」
そう言って、掛け軸の裏側からは剣を握った壮宇が現れた。
もう一度壮宇が剣を振り下ろし、董星が力を込めて打ち返すと、剣は壮宇の手を離れて転がった。董星は床から素早くそれを拾って構えた。
剣を手にして董星ははっとなった。かつては董星の父も腰に下げていた剣。その剣は王太子の証、それ以外の者が手を触れることは許されない。
董星が壮宇の顔を見ると、彼はにやりと笑って腰から何かを外し、董星の足元に投げた。剣の鞘だった。床板に重い音と振動が響いた。
「お前のものだ、持っていけ」
言うなり、壮宇は床に腰を下ろして胡坐をかいた。壁の方からもう一人、隠れていた女が走って近づいたのを壮宇は手で制した。女は恵明だった。彼女も壮宇の隣に並んで膝を折って座った。
董星は床の上の鞘と壮宇との顔とを順に見た。
央華が動いた。剣の鞘を拾い上げると両手で董星に差し出した。
「剣をおさめて。神殿で振り回すのは、とてもよくない」
「わかった」
董星は鞘をつかむと剣を収めた。壮宇の真意を計りかねて彼をにらみつけた。
壮宇は笑っていた。恵明に何かをささやいた後で、再び董星の方を向いて言った。
「その剣が何か、知っているな」
壮宇に言われて董星は鞘と剣とを握りなおした。ずっしりとした感触が伝わった。
「さっきも言った通りだ、お前が王太子をやれ」
「何を……?」
「私は王には向かぬ。今回のことは私と恵明とで謀ったのだ」
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる