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第三章 幕引き
3-2 話し合い
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一週間前のあの日、董星と央華、壮宇と恵明の四人が、人知れず宮中神殿で顔を合わせた日。
壮宇と恵明の二人は、董星が乗ってきた馬車に乗り、董星がそれを護送して東宮に戻った。
央華は再び地下通路を通って東宮内の祭壇の間に戻り、彼女があの場に居合わせたことは伏せられた。
地下通路の存在そのものについても、隠された。
公式には次のような説明がなされた。
宮中神殿に向かうとき、董星は壮宇が差し向けた馬車を使った。実はその馬車には座席の後部に隠しがあり、馬車が東宮から出た際に、壮宇と恵明の二人が馬車に隠れて一緒に神殿に向かったのだ、と。
神殿で董星は壮宇と恵明が隠れていることに気づき、董星が壮宇を説得して東宮に戻らせた。また、その際の話し合いによって、壮宇は董星に王太子の証の剣を譲った……。
実際の話し合いは、どうだったか。
『宮中では知れた話だが、見ての通り、私は恵明に骨抜きにされている』
壮宇はそう言うと、董星と央華の目の前で恵明を抱きにかかった。恵明の方がやんわりとそれを退け、壮宇は軽く笑った。
二人の様子は極めて冷静で、どちらかというと計算ずくでやっているようにも見えた。分別を失った行為には全く見えなかった。
『王太子が正式に妃を迎えることになり、愛妾がそれに嫉妬して恋敵を打ち殺そうとしたのだ。それに父親が手をかした』
これは王都に入る赤影門の前で、央華の隊の馬車が打ち壊されたことへの説明だ。ただし、
『表向きには、そういうことになる』
と、壮宇は続けた。つまり真相は別にあるということだ。
董星も央華も壮宇の言葉の続きを待った。
『……王太子妃の暗殺に失敗した後、さらに私たちは逃亡をはかったが、それも未遂に終わった。王宮の連中は裏で恵明が糸を引いていたと思うだろうが、王太子の私も関わっているとなると対応には苦慮する。一番良いのは、王太子が自らその地位を降りて、愛妾と二人、どこかに引きこもってくれることだ。というわけで、』
壮宇は再び恵明の体を引き寄せた。今度は恵明は抵抗せず壮宇のするに任せた。
『私たちを王宮から追放し、山の離宮にでも幽閉するよう進言してくれ。かつて私が幼少を過ごした場所がふさわしい』
壮宇は座って恵明を背後から抱きしめたまま、鋭い視線で董星を見上げた。
董星は壮宇をにらみ返した。
『しかし、あんた方は俺と央華たちを危険にさらした』
怒りのためなのか、二人を糾弾する董星の声が震えた。
城壁からの落石で、央華たちの一行はあわやという所だった。高人も肩を負傷した。ただ黙って見過ごす訳にはいかない。
董星の手は王太子の証の剣を握りなおした。
壮宇は片手で恵明を抱えたまま、恵明とともに床に擦るように頭を下げた。
『悪かった。二度としない。許せ』
意外なことに壮宇が言葉と態度で謝罪の意を示したので、董星は驚いて目をみはった。
壮宇と恵明の二人は、董星が乗ってきた馬車に乗り、董星がそれを護送して東宮に戻った。
央華は再び地下通路を通って東宮内の祭壇の間に戻り、彼女があの場に居合わせたことは伏せられた。
地下通路の存在そのものについても、隠された。
公式には次のような説明がなされた。
宮中神殿に向かうとき、董星は壮宇が差し向けた馬車を使った。実はその馬車には座席の後部に隠しがあり、馬車が東宮から出た際に、壮宇と恵明の二人が馬車に隠れて一緒に神殿に向かったのだ、と。
神殿で董星は壮宇と恵明が隠れていることに気づき、董星が壮宇を説得して東宮に戻らせた。また、その際の話し合いによって、壮宇は董星に王太子の証の剣を譲った……。
実際の話し合いは、どうだったか。
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壮宇はそう言うと、董星と央華の目の前で恵明を抱きにかかった。恵明の方がやんわりとそれを退け、壮宇は軽く笑った。
二人の様子は極めて冷静で、どちらかというと計算ずくでやっているようにも見えた。分別を失った行為には全く見えなかった。
『王太子が正式に妃を迎えることになり、愛妾がそれに嫉妬して恋敵を打ち殺そうとしたのだ。それに父親が手をかした』
これは王都に入る赤影門の前で、央華の隊の馬車が打ち壊されたことへの説明だ。ただし、
『表向きには、そういうことになる』
と、壮宇は続けた。つまり真相は別にあるということだ。
董星も央華も壮宇の言葉の続きを待った。
『……王太子妃の暗殺に失敗した後、さらに私たちは逃亡をはかったが、それも未遂に終わった。王宮の連中は裏で恵明が糸を引いていたと思うだろうが、王太子の私も関わっているとなると対応には苦慮する。一番良いのは、王太子が自らその地位を降りて、愛妾と二人、どこかに引きこもってくれることだ。というわけで、』
壮宇は再び恵明の体を引き寄せた。今度は恵明は抵抗せず壮宇のするに任せた。
『私たちを王宮から追放し、山の離宮にでも幽閉するよう進言してくれ。かつて私が幼少を過ごした場所がふさわしい』
壮宇は座って恵明を背後から抱きしめたまま、鋭い視線で董星を見上げた。
董星は壮宇をにらみ返した。
『しかし、あんた方は俺と央華たちを危険にさらした』
怒りのためなのか、二人を糾弾する董星の声が震えた。
城壁からの落石で、央華たちの一行はあわやという所だった。高人も肩を負傷した。ただ黙って見過ごす訳にはいかない。
董星の手は王太子の証の剣を握りなおした。
壮宇は片手で恵明を抱えたまま、恵明とともに床に擦るように頭を下げた。
『悪かった。二度としない。許せ』
意外なことに壮宇が言葉と態度で謝罪の意を示したので、董星は驚いて目をみはった。
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