24 / 24
第24話 西の尼僧院
しおりを挟む
馬車が止まった。車窓から、高い塀がぐるりと取り囲んでいる場所が見える。正面には固く閉ざされた門扉。奥に背の高い尖塔。とうとう着いてしまった。西の尼僧院だ。
「着いた」
ためらっている間もなく馬車の扉が開き、シャーズが顔を出す。
「ありがとう、シャーズ」
フェリックス様が先に馬車から降りる。続いて私が降りようとした時、彼は私を見上げて自分の手を差し出す。
一瞬迷って、私は両手で服の裾とマントを持ち上げながら降りた。彼の手なんか借りなくていい。だって、一緒に笑うことがあっても、所詮、……私は女中だから。
フェリックス様は私が降りるのを見、何も言わずに出した手を戻す。
その時、カラスの鳴き声がした。
はっとしてフェリックス様が歩き出す。私が小走りにその後を追うと、塀の上から今まさに黒いカラスが飛び立った。
こんな場所にカラス? 嫌な予感がする。フェリックス様が空を見上げて言う。
「奥様の使い魔だ。先回りして来ていた」
「……!」
驚くと同時に怖さを感じる。奥様は、フェリックス様がこの場所に来ることを予期して待ち構えていたのだろうか?
私が聞くとフェリックス様は言う。
「可能性はありますね。奥様はそれを確かめるために、使い魔を寄越した」
カラスが飛び去った方向。青い空の向こうはもちろん、ヴァロン城だ。
フェリックス様は尼僧院に来た理由について、こう言った。
「『領主の赦し』の指環をずっと持っていたのなら、母は死んでこの場所に帰ってきているのではないか、と。これが、モリスが僕にくれた手がかりです」
経緯は分からないけどフェリックス様のご両親は結婚した。二人はお腹の子の親になった。それで終わりじゃなかったんだ。お母上が死してなお、西の尼僧院を目指したなら、そうしなければならなかった理由はなんだろう?
尼僧院の正面へと向かう足取りが重い。
モリスがフェリックス様に話したことによれば、お母上は女中として奥様に仕え、信頼されていたという。が、お母上とテオドール様が結婚した際、奥様は彼女を罵って城から追い出したそうだ。
……分からない。最初にモリスから『領主の赦し』の指環をもらったのは奥様だった。奥様がお母上に指環を渡した? 結婚相手のいる女中にそんな物はいらない。ましてや、城から追い出すくらい憎い女中に、わざわざ指環を渡す理由がどこにある?
「僕にも分かりません」
フェリックス様は首を横に振る。
「分かるのは、母は自分の意志でここに戻ったということです。死の間際に父と相談し、尼僧を呼び、そして死後、父が付き添って墓地に行った。行き先は僕にだけ知らされなかった」
言葉の最後でフェリックス様は口を閉ざして下を向く。彼の逡巡する気持ちが伝わってくる。お母上の墓所を尋ね当てて来てしまったけれど、本当に来てよかったのかどうか、迷っているんだ。
でも、来て何の悪いことがある? どんな事情があれ、この人はご両親から大事にされて育ち、この人もご両親を敬愛していた。それは間違いようがなく明らかだ。
彼は純粋に慕う気持ちでお母上の跡を追ってきた。それだけだ。ご両親が息子を怒るはずもなく、息子もご両親を恨みに思わない。
「取次ぎを頼みましょう」
私は言う。フェリックス様は顔を上げ、うなずく。
◇◇◇
通常、尼僧院の中の女たちは、俗世の男と口をきかない。が、院長であれば話は別で、自身の判断で外部の人間と会ってくれる。
今日はあいにくとその院長が留守だった。モリスはあらかじめ尼僧院に使者を送ってくれていたが、その使者の来る前に院長が出かけてしまったのだという。
「お母上の墓所を訪ねて来られたのですか……でもお気の毒に……男性はお入れできないものですから」
わずかに開けた門扉の隙間から一人の尼僧が答えてくれる。本当に申し訳ないという感情が顔と声に現れている。しかしその眼差しはうっとりとフェリックス様に見とれ、一瞬たりとも目を離そうとしない。
尼僧は尋ねる。
「あなた様のお母上というのは、どなたでしたか?」
「ルメール伯夫人ジョルジェットです」
尼僧はそれを聞いて、何も答えず沈黙する。尋ねる墓所がここにあるともないとも言わない。少なくとも否定はしなかった。答えて良いかどうかの判断が彼女にはできないから、何も答えない。そう思えた。
尼僧院と外界とは、厚くて高い壁が隔てる。今、門扉の隙間からは、尼僧たちが集まって興味津々で事態を見守っている。それもそうなるはずだ。
こんな周囲に何もない場所の尼僧院。毎日の勤めは厳粛に、決まった日課を繰り返す。閉ざされた塀の内で暮らせば、外界のほんのちょっとした変化が想像をかきたてる。急の来客は珍しいし、しかも若くて美男子の貴族がやって来た。見に来るなという方が無理だろう。
注目されていることを分かってか、フェリックス様も魅力的な微笑みを振りまく。礼儀正しく頭を下げて言う。
「出直してまいります。……お勤めの邪魔をして申し訳ありませんでした」
彼が背を向けると名残惜しそうに重い門扉が閉じた。門扉の向こう側で尼僧たちのざわめきと、それをたしなめる高位の尼僧の声が聞こえるよう。
馬車まで戻るとフェリックス様は言った。
「出かけていた院長が帰って来るかもしれないし、まだ時間があるから少し待ちましょう」
彼は空を見上げる。時刻はちょうど正午くらい。城へは夕方、城門が閉まるまでに帰るとして、まだ時間の猶予がありそうだった。
彼の表情を目で追いながら思う。待って院長が戻らなかったら、本当に出直すつもりだろうか? このまま何もせず、あきらめて帰る?
ヴァロン城からはそう離れてはいないけど、フェリックス様にとってはご自身の領地の外、遠い場所。再び訪れるのは、言うほど簡単ではなさそうだ。
私はフェリックス様に声をかける。
「待つのもいいですが、先に私が参りましょうか?」
「あなたが?」
「私は女ですから、尼僧院の中に入れます。お母上のお墓があるかどうか見て来て、あれば墓前で、ご子息が来ていることをお伝え申し上げましょう」
「しかし……」
彼は態度を決めきれない。何が彼をためらわせている?
「ご心配なのですか?」
「あなたのことが?」
彼は私の質問に質問で返す。
……あのですね、あなた様の心配の種が、私なわけ、ないでしょう?
「いいえ。あなた様ご自身のことです。失礼ですが、お気持ちに不安があるのではと」
「僕の? なぜ?」
「お母上の墓前で、何か新たなことを見聞きするかもしれません。そうしたら、あなた様はお気持ちが揺れて、お心変わりなさいますでしょうか?」
「変わる?」
「例えば、ご両親を恨み、ご自身の生い立ちを呪い、この世の全てが無駄であると、そうお思いになりますか?」
「いいえ。それは絶対にありません」
彼はきっぱりと言って首を横に振る。
「では何も問題ありません。私が行って、確かめてくるだけです」
フェリックス様は少し困ったような顔をして言う。
「本当に、あなたがそうしてくれるのはありがたいのです。でも何というか……」
「今ここに、他にそうすべき人がいないのですから。当然でしょう?」
彼はじっと私の目を見る。私も彼の目を見つめ返す。ここでようやくフェリックス様の決心がついたようだ。
「では、あなたに頼みます」
「かしこまりました」
「でも、約束してください」
「?」
「中であなたが何を見聞きしても、道理に合わないと思っても、一人で戦わずに戻って来てください」
「はい?」
「もしあなたが戻らないならば、尼僧院といえども、僕はあなたを探しに門を破らなければならない」
彼のあまりにも真面目な態度に私は一瞬言葉を失う。これは、何かの冗談だろうか?
私は手を振って彼の言うことを否定しようとした。
「いや、そんな物騒なことは……」
「ものの例えですよ。こちらもそれくらいの覚悟でいるということです。分かりましたか?」
彼は私に返事を迫る。冗談ではすまされない迫力があった。
「分かりました……」
私はうなずき、それを見て彼もうなずく。よく分からないけれど、約束させられた。
「俺はレアと一緒に行くぜ」
それまで首の後ろにいたイアシントが肩の上に出て来て言った。フェリックス様は肩の上の野ネズミに向かって手を伸ばす。イアシントがその手に前脚を乗せ、二人も何かを約束する。
「そうだ、これを。何かの役に立つかもしれない」
フェリックス様はそう言うと自分の懐を探る。彼のお母上の『領主の赦し』を取り出し、私に持たせようとする。
少し考えて私はそれを受け取る。代わりに私は自分が持っていた指環を彼に渡す。彼は受け取ろうとしなかったが、私は言った。
「もし院長が戻られた時、実物があった方が話がしやすいのではありませんか?」
「分かりました」
私たちはお互いが持っていた指環を交換する。一瞬、その手が触れた。彼の手は温かい。私よりもずっと大きくて力強い手。そして彼の手の触れるところ、彼の優しさを感じる。
私は彼の顔を見上げて微笑む。作り笑いなんかじゃない。自然と湧き上がる何かを感じる。不思議な高揚感が私を突き動かす。
さあ、行って見てこよう。この塀の先、何が起きても私は大丈夫。それどころか、私に出来ることがあるなんて、とてもいい気分だ。
◇◇◇
私が一人、門扉を叩くとすぐに尼僧が現れた。
「何か?」
門扉の隙間から尼僧がぶっきらぼうに言う。さっき取次ぎに出てくれたのと同じ尼僧だ。なんて雑な扱い。フェリックス様の時とずいぶん態度が違うじゃないか。
尼僧は私をじろじろと値踏みして言う。
「下働きを希望の方? 今は間に合っています」
僧院には尼僧たちと、聖務とは関わらない下働きの女たちがいる。お城女中の私の外見は下働きの志願者と思われたらしい。
もっともな判断だけれど、今は事情が異なる。あ、待って。閉じようとする門扉に私は食い下がる。
「お待ちください。あの、……保護を求めます」
私はとっさに例の指環を差し出した。
「着いた」
ためらっている間もなく馬車の扉が開き、シャーズが顔を出す。
「ありがとう、シャーズ」
フェリックス様が先に馬車から降りる。続いて私が降りようとした時、彼は私を見上げて自分の手を差し出す。
一瞬迷って、私は両手で服の裾とマントを持ち上げながら降りた。彼の手なんか借りなくていい。だって、一緒に笑うことがあっても、所詮、……私は女中だから。
フェリックス様は私が降りるのを見、何も言わずに出した手を戻す。
その時、カラスの鳴き声がした。
はっとしてフェリックス様が歩き出す。私が小走りにその後を追うと、塀の上から今まさに黒いカラスが飛び立った。
こんな場所にカラス? 嫌な予感がする。フェリックス様が空を見上げて言う。
「奥様の使い魔だ。先回りして来ていた」
「……!」
驚くと同時に怖さを感じる。奥様は、フェリックス様がこの場所に来ることを予期して待ち構えていたのだろうか?
私が聞くとフェリックス様は言う。
「可能性はありますね。奥様はそれを確かめるために、使い魔を寄越した」
カラスが飛び去った方向。青い空の向こうはもちろん、ヴァロン城だ。
フェリックス様は尼僧院に来た理由について、こう言った。
「『領主の赦し』の指環をずっと持っていたのなら、母は死んでこの場所に帰ってきているのではないか、と。これが、モリスが僕にくれた手がかりです」
経緯は分からないけどフェリックス様のご両親は結婚した。二人はお腹の子の親になった。それで終わりじゃなかったんだ。お母上が死してなお、西の尼僧院を目指したなら、そうしなければならなかった理由はなんだろう?
尼僧院の正面へと向かう足取りが重い。
モリスがフェリックス様に話したことによれば、お母上は女中として奥様に仕え、信頼されていたという。が、お母上とテオドール様が結婚した際、奥様は彼女を罵って城から追い出したそうだ。
……分からない。最初にモリスから『領主の赦し』の指環をもらったのは奥様だった。奥様がお母上に指環を渡した? 結婚相手のいる女中にそんな物はいらない。ましてや、城から追い出すくらい憎い女中に、わざわざ指環を渡す理由がどこにある?
「僕にも分かりません」
フェリックス様は首を横に振る。
「分かるのは、母は自分の意志でここに戻ったということです。死の間際に父と相談し、尼僧を呼び、そして死後、父が付き添って墓地に行った。行き先は僕にだけ知らされなかった」
言葉の最後でフェリックス様は口を閉ざして下を向く。彼の逡巡する気持ちが伝わってくる。お母上の墓所を尋ね当てて来てしまったけれど、本当に来てよかったのかどうか、迷っているんだ。
でも、来て何の悪いことがある? どんな事情があれ、この人はご両親から大事にされて育ち、この人もご両親を敬愛していた。それは間違いようがなく明らかだ。
彼は純粋に慕う気持ちでお母上の跡を追ってきた。それだけだ。ご両親が息子を怒るはずもなく、息子もご両親を恨みに思わない。
「取次ぎを頼みましょう」
私は言う。フェリックス様は顔を上げ、うなずく。
◇◇◇
通常、尼僧院の中の女たちは、俗世の男と口をきかない。が、院長であれば話は別で、自身の判断で外部の人間と会ってくれる。
今日はあいにくとその院長が留守だった。モリスはあらかじめ尼僧院に使者を送ってくれていたが、その使者の来る前に院長が出かけてしまったのだという。
「お母上の墓所を訪ねて来られたのですか……でもお気の毒に……男性はお入れできないものですから」
わずかに開けた門扉の隙間から一人の尼僧が答えてくれる。本当に申し訳ないという感情が顔と声に現れている。しかしその眼差しはうっとりとフェリックス様に見とれ、一瞬たりとも目を離そうとしない。
尼僧は尋ねる。
「あなた様のお母上というのは、どなたでしたか?」
「ルメール伯夫人ジョルジェットです」
尼僧はそれを聞いて、何も答えず沈黙する。尋ねる墓所がここにあるともないとも言わない。少なくとも否定はしなかった。答えて良いかどうかの判断が彼女にはできないから、何も答えない。そう思えた。
尼僧院と外界とは、厚くて高い壁が隔てる。今、門扉の隙間からは、尼僧たちが集まって興味津々で事態を見守っている。それもそうなるはずだ。
こんな周囲に何もない場所の尼僧院。毎日の勤めは厳粛に、決まった日課を繰り返す。閉ざされた塀の内で暮らせば、外界のほんのちょっとした変化が想像をかきたてる。急の来客は珍しいし、しかも若くて美男子の貴族がやって来た。見に来るなという方が無理だろう。
注目されていることを分かってか、フェリックス様も魅力的な微笑みを振りまく。礼儀正しく頭を下げて言う。
「出直してまいります。……お勤めの邪魔をして申し訳ありませんでした」
彼が背を向けると名残惜しそうに重い門扉が閉じた。門扉の向こう側で尼僧たちのざわめきと、それをたしなめる高位の尼僧の声が聞こえるよう。
馬車まで戻るとフェリックス様は言った。
「出かけていた院長が帰って来るかもしれないし、まだ時間があるから少し待ちましょう」
彼は空を見上げる。時刻はちょうど正午くらい。城へは夕方、城門が閉まるまでに帰るとして、まだ時間の猶予がありそうだった。
彼の表情を目で追いながら思う。待って院長が戻らなかったら、本当に出直すつもりだろうか? このまま何もせず、あきらめて帰る?
ヴァロン城からはそう離れてはいないけど、フェリックス様にとってはご自身の領地の外、遠い場所。再び訪れるのは、言うほど簡単ではなさそうだ。
私はフェリックス様に声をかける。
「待つのもいいですが、先に私が参りましょうか?」
「あなたが?」
「私は女ですから、尼僧院の中に入れます。お母上のお墓があるかどうか見て来て、あれば墓前で、ご子息が来ていることをお伝え申し上げましょう」
「しかし……」
彼は態度を決めきれない。何が彼をためらわせている?
「ご心配なのですか?」
「あなたのことが?」
彼は私の質問に質問で返す。
……あのですね、あなた様の心配の種が、私なわけ、ないでしょう?
「いいえ。あなた様ご自身のことです。失礼ですが、お気持ちに不安があるのではと」
「僕の? なぜ?」
「お母上の墓前で、何か新たなことを見聞きするかもしれません。そうしたら、あなた様はお気持ちが揺れて、お心変わりなさいますでしょうか?」
「変わる?」
「例えば、ご両親を恨み、ご自身の生い立ちを呪い、この世の全てが無駄であると、そうお思いになりますか?」
「いいえ。それは絶対にありません」
彼はきっぱりと言って首を横に振る。
「では何も問題ありません。私が行って、確かめてくるだけです」
フェリックス様は少し困ったような顔をして言う。
「本当に、あなたがそうしてくれるのはありがたいのです。でも何というか……」
「今ここに、他にそうすべき人がいないのですから。当然でしょう?」
彼はじっと私の目を見る。私も彼の目を見つめ返す。ここでようやくフェリックス様の決心がついたようだ。
「では、あなたに頼みます」
「かしこまりました」
「でも、約束してください」
「?」
「中であなたが何を見聞きしても、道理に合わないと思っても、一人で戦わずに戻って来てください」
「はい?」
「もしあなたが戻らないならば、尼僧院といえども、僕はあなたを探しに門を破らなければならない」
彼のあまりにも真面目な態度に私は一瞬言葉を失う。これは、何かの冗談だろうか?
私は手を振って彼の言うことを否定しようとした。
「いや、そんな物騒なことは……」
「ものの例えですよ。こちらもそれくらいの覚悟でいるということです。分かりましたか?」
彼は私に返事を迫る。冗談ではすまされない迫力があった。
「分かりました……」
私はうなずき、それを見て彼もうなずく。よく分からないけれど、約束させられた。
「俺はレアと一緒に行くぜ」
それまで首の後ろにいたイアシントが肩の上に出て来て言った。フェリックス様は肩の上の野ネズミに向かって手を伸ばす。イアシントがその手に前脚を乗せ、二人も何かを約束する。
「そうだ、これを。何かの役に立つかもしれない」
フェリックス様はそう言うと自分の懐を探る。彼のお母上の『領主の赦し』を取り出し、私に持たせようとする。
少し考えて私はそれを受け取る。代わりに私は自分が持っていた指環を彼に渡す。彼は受け取ろうとしなかったが、私は言った。
「もし院長が戻られた時、実物があった方が話がしやすいのではありませんか?」
「分かりました」
私たちはお互いが持っていた指環を交換する。一瞬、その手が触れた。彼の手は温かい。私よりもずっと大きくて力強い手。そして彼の手の触れるところ、彼の優しさを感じる。
私は彼の顔を見上げて微笑む。作り笑いなんかじゃない。自然と湧き上がる何かを感じる。不思議な高揚感が私を突き動かす。
さあ、行って見てこよう。この塀の先、何が起きても私は大丈夫。それどころか、私に出来ることがあるなんて、とてもいい気分だ。
◇◇◇
私が一人、門扉を叩くとすぐに尼僧が現れた。
「何か?」
門扉の隙間から尼僧がぶっきらぼうに言う。さっき取次ぎに出てくれたのと同じ尼僧だ。なんて雑な扱い。フェリックス様の時とずいぶん態度が違うじゃないか。
尼僧は私をじろじろと値踏みして言う。
「下働きを希望の方? 今は間に合っています」
僧院には尼僧たちと、聖務とは関わらない下働きの女たちがいる。お城女中の私の外見は下働きの志願者と思われたらしい。
もっともな判断だけれど、今は事情が異なる。あ、待って。閉じようとする門扉に私は食い下がる。
「お待ちください。あの、……保護を求めます」
私はとっさに例の指環を差し出した。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
元婚約者のあなたへ どうか幸せに
石里 唯
恋愛
公爵令嬢ローラは王太子ケネスの婚約者だったが、家が困窮したことから、婚約破棄をされることになる。破棄だけでなく、相愛と信じていたケネスの冷酷な態度に傷つき、最後の挨拶もできず別れる。失意を抱いたローラは、国を出て隣国の大学の奨学生となることを決意する。
隣国は3年前、疫病が広がり大打撃を受け、国全体が復興への熱意に満ち、ローラもその熱意に染まり勉学に勤しむ日々を送っていたところ、ある日、一人の「学生」がローラに声をかけてきて―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる