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夢の結晶 第22話
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私はその声のする方を、振り返った。「奥田」それから彼は、静かな口調で、語りはじめた。「あれは、僕が医師になって、周りからも少しずつ、腕を認められはじめた頃、僕が医学部時代から、尊敬していた先輩がいた。その人は、将来は、ノーベル賞を受賞するとか、教授になるのではと、噂をされ、皆から一目措かれている人でした。その先輩がある日、電車待ちのホームから、線路に突き落とされるという、事件で、うちの病院に、救急で運ばれて来た。かなりの重症で、予断を許さぬ状況が、何日も続いた。僕は泊まり込みで、必死に手を尽くしたが、意識が、戻る事は、なかった。そうわかった翌日、僕は先輩の両親と妹に、その事を説明した。ご両親は、何とかその事を、受け入れようと勤めたが、妹は受け入れられず、精神に異常を来すようになってしまった。その頃僕は、もう一人、末期の脳腫瘍で、難しい患者を抱えていた。その患者を助けるのには、今の医学では、タブーとされている、ある治療方法しかないと、思っていたが、踏み出す勇気が、持てずにいた。僕は、ご両親に、妹さんの手術を、引き受ける替わりに、ある条件をお願いして、交渉は成立した。その手術を実行した場合、大学を追われる事も、その後にする手術でも、あるいは、最悪、医師免許を剥奪される事態に、なる事も、覚悟していた。ただ、今まで指導をしていただいていた、恩師の平井先生にだけは、僕が、これからする事を全て、お話ししておいた。その時平井先生は、「奥田、どんな事態になっても、医師でいろ。決してメスを、置くんじゃないぞ。」真っ直ぐに僕を見つめ、そう言った先生のあの日の顔を、僕は生涯、忘れないだろう。妹さんの記憶を、消し去る手術は、成功した。その後、僕は彼女を横浜のある施設に入所させた。そして僕は、もう一人の末期の脳腫瘍の患者に、あと数日で、心臓が停止する、藤崎先輩の脳を移植した。手術は、無事に成功をして、彼は脳腫瘍から救われ、数ヶ月後、社会復帰を果たした。その後の事は、三島も知っての通りということだ。僕は今も、本当の名前を隠し、メガネも変えて、医師として、現場にいる。僕は、今でも、あの時、あの二つの手術を、した事が正しい事だったのか、わからずにいた。でも、先日の小山教授の手術の成功で僕は、間違っていなかったと、改めて確信した。あの時、藤崎先輩の脳を移植したのは、
三島、お前だったんだ。」
三島、お前だったんだ。」
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