夢の結晶

優歩

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夢の結晶 特別編 彼が白衣に着替えたら 前編

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いつもと、変わらない朝だった、カ-テンを開けて、窓の外を見るまでは。家の周囲の塀全部に、脚立に乗って、カメラを構えている、報道人がいた。僕は、平静を装い、中庭に出て、池の鯉に餌を与えていた。すると、茶トラの猫が、僕の後を付いて歩いてきた。「モモ」名前を呼んでも、じっと池の鯉を見つめて、動こうとしない。仕方なく、僕は猫を抱えて、部屋に入ろうとした、その瞬間、フラッシュと、連写の音がした。僕は、猫を庇うように部屋に入った。その時、リビングから、僕の方に歩いて来る、家政婦の安原由美さんの姿が見えた。「旦那様、朝食の用意ができました。」と、声を掛けてきた。その落ち着いた声に、僕は救われた。「ありがとう」由美さんを、この家に紹介してくれたのは、小山教授で、この家に住む事を、勧めてくれたのも、教授であった。僕は、分不相応の生活に、まだ慣れていなかった。テーブルに着くと、右手に新聞が、置いてあった。その一面は「東照大学病院  新教授に  三島裕次郎氏」という、大きな見出しと、僕の白衣姿の写真が、大きく載せられていた。一ヶ月前の教授選挙の結果と、その後の教授会で僕は正式に教授になって、京都の今の住まいに、引っ越してきた。そして今日から、大学に出勤し、僕の教授としての、新しい医師生活をスタートさせる事となった。大学からの迎えの車に、井上君と二人で、乗り込もうとした時、記者の一人から「お二人で、門の所に並んで頂けますか。」との、リクエストがあり、写真撮影の間、数分、僕達は、フラッシュの光とカメラの連写音に耐え続けた。その後も、大学までの道路の歩道には、報道人やテレビ局のカメラやレポーターが、所々にいた。着なれないスーツ姿の井上君は、僕よりも、緊張しているようで、車内でも、極端に、口数が、少なかった。僕達が大学病院の正面玄関口に着くと、職員や病院スタッフが並び、花束が渡された。その時も記者から、写真撮影の要望があり、僕は今日何度目かのフラッシュとカメラの連写音を、再度経験する事となった。教授室に向かう前に、僕はトイレに行くと言った。少しの時間、一人になって、落ち着きたかった。「いつまでも、こんな日々が、続いたら困るな。早く、患者さんの事だけに、集中したいよ。」ため息と共に、僕は、そんな愚痴を、言ってみた。その後、「ただ今より、三島教授の総回診が、始まります。」という、定番のアナウンスが流れ、僕は助教授の前田俊哉、講師の松島健吾ら、医局員を、従えて、患者さん達の病室を回り、診察を、した。終わると、息つく暇もなく、教授診察室に、移動し、本日の特診患者を診始めた。京都府知事の杉崎氏の紹介名刺とかかりつけ医の浜田医院の紹介状を持参の京都染物社長の川田陽一さん  63歳  毎年、受けている、人間ドックで、脳動脈瘤が、発見されて、経過観察をしていたのだが、この数ヶ月で、大きくなってきているので、専門医に、診察を仰ぎたいとの事だった。紹介状と持参の検査資料に目を、通した僕は、血圧を計りながら「血圧は、かかりつけ医の浜田先生から、出されている、お薬で、落ち着いているようで、問題ないですね。今日は、この後、お時間は、ありますか。いくつか、検査を受けて頂きたいのですが、宜しいですか。」「今日は、そのつもりで、時間を空けて来ております。」「そうですか、では検査室に、ご案内致します。」検査オーダーを書いた用紙を看護師に渡すと「川田さんを、検査室に案内して下さい。」「川田さん、来週の水曜日に検査結果を、ご説明致しますので、来院、できますか」「はい、大丈夫です。よろしくお願い致します。」「お大事に」僕は検査室に向かう患者さんに、声を掛けて、カルテの続きを書いた。
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