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第一章:皇国動乱編
ある皇の懺悔
しおりを挟むもしも、自分があと少しだけ強かったらと思った。
戦った。何度も戦った。
その都度、顔見知りが死んだ。
料理人になりたいと言っていたあいつは、俺を庇ってたくさんの槍に串刺しにされた。あいつの苦しげな表情は忘れることができない。
別の隊に恋人がいると言っていたあいつは、雨の中で崖下に落ちていった。あいつの恋人が戦後、同じ崖から飛び降りたと聞いた。
親子揃って部隊の装備の手入れをしてくれていたあの人たちは、あの帝都での戦いの中で具現魔導炉の光の中に消えていった。残された幼子が鍛冶となり、俺に毒を塗った短剣を贈ってきたとき、嬉しかった。
龍も、人も、獣人も、天人も、魔人も、みんなみんな、驚くくらい簡単に死んだ。
俺の掲げた理想は、簡単にヒトを殺した。殺しまくった。
それでも俺は生きている。皇王なんて立場になって、生きている。
人々はこの地に国を造った日を祝っている。何度も何度も、毎年毎年祝っている。
俺はその日が来るたびに、死んでいった彼らの顔を思い出そうとする。でも、できなかった。
〈皇剣〉になる前の記憶は、〈皇剣〉によって保護されないのだと知った。むしろ、積極的に消されていく。
最適化。俺と彼らを引き裂くそんな機能は、それでも明日の国民たちのためになるのだろう。
彼らが救いたかったものは、本当に今も残っているのだろうか。
俺はそれを、壊れるまで知ることができない。
――――皇国暦一二〇年 公開された初代皇王の手記より抜粋
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