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高校生編
第1話「はじまりの朝」
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春。桜の花が舞う朝、しゅんは自転車を押して坂道を登っていた。新しい制服がまだ身体に馴染まない。高校生になった実感が、少しずつ現実になっていく。
「うわ…今日も遅刻ギリギリだ」
しゅんは腕時計を見て焦りながらペダルを漕ぎ始めた。入学式から一週間。クラスメイトの顔と名前もようやく一致してきた頃。けれど、その中でもひときわ印象に残っているのがこたろうだった。
無愛想で、いつも一人でいる。けれど、その端正な顔立ちと鋭い眼差しに、誰もが一度は目を奪われる。しゅんもまた、そのうちの一人だった。
(…なんであいつ、いつも一人なんだろ)
気になって仕方ないのに、声をかける勇気はなかった。けれど、今日ーーその日常が少しだけ動き出す。
教室に滑り込んだしゅんは、息を整えながら席につく。隣の席には、こたろうが静かに座っていた。相変わらずの無表情で、何かを考えているような、どこか遠くを見ているような瞳。
「…おはよう」
思わず、しゅんは声をかけていた。
こたろうが、ほんの一瞬だけ目を見開いたように見えた。
「…おはよう」
それだけだった。でも、それだけで胸が高鳴るのをしゅんは止められなかった。
(あれ、話せた…!)
周りのクラスメイトたち。元気で明るい[ゆい]と[ひな]、いつもふざけあっている[そう]と[かずと]は、すぐに打ち解けてグループを作っていた。でもこたろうはずっと一人でいた。孤立しているわけじゃない。むしろ、その静けさが周囲に壁を作っているような、そんな存在。
(でも、話せた…ってことは)
それから、しゅんは毎朝こたろうに「おはよう」と言うようになった。
昼休み。教室の片隅でパンを食べているしゅんの元に、ゆいがやってきた。
「しゅーん、また一人でごはん?」
「うん、まあ…」
ひなが後ろから顔を覗かせる。
「こたろうくんと仲良いんじゃなかったの?席隣でしょ?」
「えっ、いや…仲良いっていうか…」
赤くなるしゅんに、ゆいがにやりと笑う。
「しゅんってさ、昔からわかりやすいよね~。気になってるんでしょ、こたろうくん」
「ちょ、ちょっとやめてよっ!」
おおげさに手を振るしゅんの後ろから、そうが登場する。
「お、なんの話ー?しゅんが恋してんの?へー、こたろうくんかぁ~・渋いとこいくなぁ!」
「うるさいっ!」
顔を真っ赤にして否定するしゅんを、ひながくすくす笑う。
「でも、いいと思うよ?こたろうくん、クールだけど悪い子じゃなさそうだし」
かずとも頷きながら口をひらく。
「むしろ、誰も近づかないからこそ、近づいてあげられる人が必要なんじゃないかな」
その言葉に、しゅんの心が揺れる。自分が、こたろうのその一人になれるかもしれないーーそんな予感。
放課後、図書室でこたろうを見つけたしゅんは、思い切って隣の席に座った。
「…何読んでるの?」
少し間があって、こたろうが表紙を見せる。
「…太宰」
「太宰…って、『人間失格』とかの?」
「うん。好きなんだ。虚無感とか、よくわかる」
「そっか…俺、読んだことないや」
「…今度、貸そうか」
「えっ、ほんと?」
こたろうが少しだけ、口元を緩めた。
初めて見るその表情に、しゅんの胸がきゅっとしめつけられる。
(…やっぱり、笑うと綺麗だ)
そして、心の奥に芽生えた感情が、静かに膨らみ始めた。
その日から、二人は少しずつ距離を縮めていった。
放課後の図書室。読書の時間。たまに交わす、他愛もない会話。だが、少しずつ確かに深まっていく関係。
「しゅんは、なんで俺に話しかけたの?」
ある日、こたろうがぽつりと聞いた。
「え?」
「俺、たぶん…周りからは、怖がられてる。無口だし、目つき悪いし」
「ううん、そうじゃなくて…俺は、ただ、気になったから」
その瞬間、こたろうの目が大きく開く。
「なんで?」
「うまく言えないけど…なんか、放っておけなかったっていうか…」
しゅんの声がだんだん小さくなる。
こたろうは何も言わず、ただその言葉を受け止めるように見つめていた。
(これって…どういう気持ちなんだろう)
しゅんの胸の鼓動が、またひとつ高鳴った。
季節は、少しづつ初夏へと向かう。
しゅんこたろうの距離は、確かに縮まっていた。
けれどーーこの穏やかな日々が、ずっと続くわけではないことも、どこかで感じていた。
心に芽生えた想いが、本物の「恋」だと気づくのは、もう少し先のことだった。
「うわ…今日も遅刻ギリギリだ」
しゅんは腕時計を見て焦りながらペダルを漕ぎ始めた。入学式から一週間。クラスメイトの顔と名前もようやく一致してきた頃。けれど、その中でもひときわ印象に残っているのがこたろうだった。
無愛想で、いつも一人でいる。けれど、その端正な顔立ちと鋭い眼差しに、誰もが一度は目を奪われる。しゅんもまた、そのうちの一人だった。
(…なんであいつ、いつも一人なんだろ)
気になって仕方ないのに、声をかける勇気はなかった。けれど、今日ーーその日常が少しだけ動き出す。
教室に滑り込んだしゅんは、息を整えながら席につく。隣の席には、こたろうが静かに座っていた。相変わらずの無表情で、何かを考えているような、どこか遠くを見ているような瞳。
「…おはよう」
思わず、しゅんは声をかけていた。
こたろうが、ほんの一瞬だけ目を見開いたように見えた。
「…おはよう」
それだけだった。でも、それだけで胸が高鳴るのをしゅんは止められなかった。
(あれ、話せた…!)
周りのクラスメイトたち。元気で明るい[ゆい]と[ひな]、いつもふざけあっている[そう]と[かずと]は、すぐに打ち解けてグループを作っていた。でもこたろうはずっと一人でいた。孤立しているわけじゃない。むしろ、その静けさが周囲に壁を作っているような、そんな存在。
(でも、話せた…ってことは)
それから、しゅんは毎朝こたろうに「おはよう」と言うようになった。
昼休み。教室の片隅でパンを食べているしゅんの元に、ゆいがやってきた。
「しゅーん、また一人でごはん?」
「うん、まあ…」
ひなが後ろから顔を覗かせる。
「こたろうくんと仲良いんじゃなかったの?席隣でしょ?」
「えっ、いや…仲良いっていうか…」
赤くなるしゅんに、ゆいがにやりと笑う。
「しゅんってさ、昔からわかりやすいよね~。気になってるんでしょ、こたろうくん」
「ちょ、ちょっとやめてよっ!」
おおげさに手を振るしゅんの後ろから、そうが登場する。
「お、なんの話ー?しゅんが恋してんの?へー、こたろうくんかぁ~・渋いとこいくなぁ!」
「うるさいっ!」
顔を真っ赤にして否定するしゅんを、ひながくすくす笑う。
「でも、いいと思うよ?こたろうくん、クールだけど悪い子じゃなさそうだし」
かずとも頷きながら口をひらく。
「むしろ、誰も近づかないからこそ、近づいてあげられる人が必要なんじゃないかな」
その言葉に、しゅんの心が揺れる。自分が、こたろうのその一人になれるかもしれないーーそんな予感。
放課後、図書室でこたろうを見つけたしゅんは、思い切って隣の席に座った。
「…何読んでるの?」
少し間があって、こたろうが表紙を見せる。
「…太宰」
「太宰…って、『人間失格』とかの?」
「うん。好きなんだ。虚無感とか、よくわかる」
「そっか…俺、読んだことないや」
「…今度、貸そうか」
「えっ、ほんと?」
こたろうが少しだけ、口元を緩めた。
初めて見るその表情に、しゅんの胸がきゅっとしめつけられる。
(…やっぱり、笑うと綺麗だ)
そして、心の奥に芽生えた感情が、静かに膨らみ始めた。
その日から、二人は少しずつ距離を縮めていった。
放課後の図書室。読書の時間。たまに交わす、他愛もない会話。だが、少しずつ確かに深まっていく関係。
「しゅんは、なんで俺に話しかけたの?」
ある日、こたろうがぽつりと聞いた。
「え?」
「俺、たぶん…周りからは、怖がられてる。無口だし、目つき悪いし」
「ううん、そうじゃなくて…俺は、ただ、気になったから」
その瞬間、こたろうの目が大きく開く。
「なんで?」
「うまく言えないけど…なんか、放っておけなかったっていうか…」
しゅんの声がだんだん小さくなる。
こたろうは何も言わず、ただその言葉を受け止めるように見つめていた。
(これって…どういう気持ちなんだろう)
しゅんの胸の鼓動が、またひとつ高鳴った。
季節は、少しづつ初夏へと向かう。
しゅんこたろうの距離は、確かに縮まっていた。
けれどーーこの穏やかな日々が、ずっと続くわけではないことも、どこかで感じていた。
心に芽生えた想いが、本物の「恋」だと気づくのは、もう少し先のことだった。
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