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第一話 邂逅or遭遇
3.再会
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御島英美と再会したのは三日後。
朝から降り続く雨にうんざりしている午後だった。
こないだ店に飛び込んできた時には、頭の上の脱色お団子ヘアがやたらと印象に残ったんだが、今日は黒髪のショートヘアになっていた。薄めの化粧も合わせて、一見しただけだと別人のようだ。ふんわりしたスカートとカーディガン姿もイメチェンには成功していた。
店の前で入るかどうしようか迷っていたらしいところへ、出掛けようとした俺と鉢合わせたのだ。
「あ……悪い、まだ店は準備中……っと、あれ? こないだの彼女?」
見かけは別人でも、俺の直感の方が勝ったようだ。
だけどなにか、ほんの一瞬、ちりちりとしたイヤな感覚が項に走った。
「……え? 上手く変えたと思ったのに、わかっちゃいました?」
がくりと文字通り項垂れた彼女の肩をぽむぽむ叩く。
なんとなく仕草が幼さすら感じさせての動きだったが、小うるさいタイプだと、今はこれもセクハラだっただろうか?
「いや、普通のヤツらなら誤魔化せると思うぜ? 俺がたまたま気付いたってだけじゃないかな?」
何かに気付いたように軽く目を見開いて俺を見上げた彼女に、買い物に行くから続きは歩きながらでいいか?と問う。
頷くのを確認すると軒から出て大きめの蝙蝠傘を開いた。彼女はピンク色の丸っこい傘で、初めて会った時のOLさんっぽさもない。どっちが本来なのか、どっちも逃げるためだけの借り物なのか。ともあれ、見た目は化けるモノだなぁ、とやや感心しつつも歩き出した。
雨粒が傘を叩く音でこそこそ話しは聞き取りづらい。そのせいか無口になってついてくる彼女に、用があったんじゃないのか?と直球で切り出した。
「えっと……先日のお礼と言うか……いえ、正直に言えば、通り過ぎても気付かれないか知りたかったんですけど……無理、でしたね……」
溜息。
たぶん確認したかっただけなんだろう。でも、それだけのコトを頼んだり確かめさせてもらうような知り合いも他にいないんだろうか。
なにやら普通じゃない訳あり感が漂ってきて、面倒なのはわかっちゃいても、好奇心だけはうずうずしてきた。
「そこのコンビニで雑誌買おうと思って出て来たんだけど、さっさと済ませてやっぱ俺の店に戻ろう。落ち着かないんじゃないの?」
傘の下の彼女を窺うように少し屈んで見遣る。視線に気付いたか、俺の方をちらりと向いて、こくり、頷いた。
「……で、あんたが追われてる理由、知りたいんだけど? てか、それがわかんないと助けようもないしな」
ふたつあるテーブル席のひとつで、俺と彼女、英美は向かい合って座っている。
テーブルの上には、俺の前にはアイスコーヒー、英美の前には暖かい紅茶。俺はグラスに差したストローで氷をからから掻き回しながら尋ねた。英美は困ったような顔で視線を彷徨わせては小さく溜息をつく。
沈黙に耐えかねたのか紅茶を口に運んで、ほぅ、とひと息漏らしたところで、ようやく決心したのか、カップを置いて顔を上げた。
「マスターさんは、最近話題になってきてる、人間以外の、異種族とか能力者とかって、信じます……?」
「あ~、ネットとかでは盛り上がってっけど、世間的には戯れ言扱いされてる、アレ?」
すっとぼけた口調で言い、ストローを啜る。
「……信じます?」
上目遣いに問いかける英美に、さてどうしたものか、と俺は思案した。
ほんの数年前から、まことしやかに噂されていて、最近では肯定派がかなり増えてきた存在、異能種。
いわゆる超能力者から妖怪、モンスター種、UMAまで、今までは想像上のとか気のせいと捉えられてきたそれらが、実は現実に、そこらに存在するのだと言われるようになっていた。
昔なら揉み消されただろうそれらの目撃情報、当人の主張などが、SNSなどネットを介して拡散されるのに時間はかからなかった。
アイスコーヒーが入ったグラスが汗をかいていた。水滴が溜まっては伝い落ちてコースターを濡らしていく。氷が溶けて形を崩して透き通った音と共に浮き上がる。
俺は軽く肩を竦めた。
「ま、今どき信じないって方が叩かれかねない風潮ではあるな」
「迎合して、そう言うだけ? もしも存在していたら、どう思う?」
そろりそろりとした物言いで更に問う。
問い詰めてみようと思ったら、質問に質問で返されるパターンだった。
しかしまぁ、仕方あるまい。
昨今ではかなりデリケートな問題として扱われてるのだ。
信じるか信じないか、信じたとしても認めるか認められないか。
もしも電車で隣に座った者が他人の心を読めたら、そして読まれたら、或いは千里眼みたいになんでも見透かせるのだとしたら。そのあたりで考えるのがいちばん理解しやすいだろう。盗聴器も隠しカメラも要らない。
或いは、糧が生き物の場合。自分が餌とされる可能性。
そういう存在がいてもいいのか。
そして異能力を知らず知らずに発動させてしまって騒ぎになる実例が目立ち始めてはいた。
「んん~……どうとも思わない、かな? ま、自分に直接害がない限りはだけどさ」
「じゃあ、そういう異能種の人たちが迫害されたりするの、どう思う?」
「言ったろ? 実害がなければいいんじゃね?」
やや目を眇めて英美の本心を窺う。
「実害があったら……?」
「それはその相手次第だろ。それと程度問題か。悪意とか敵意をもって使われたら、お断りな感じにもなるけどさ。そんなの、その場になんないとなぁ……それが今回あんたが追われてるのとなにか関係してくるのか? なにか秘密を知っちまって追われてるとか?」
やっとこっちの質問タイムだ。
英美は小さく頷いた。
朝から降り続く雨にうんざりしている午後だった。
こないだ店に飛び込んできた時には、頭の上の脱色お団子ヘアがやたらと印象に残ったんだが、今日は黒髪のショートヘアになっていた。薄めの化粧も合わせて、一見しただけだと別人のようだ。ふんわりしたスカートとカーディガン姿もイメチェンには成功していた。
店の前で入るかどうしようか迷っていたらしいところへ、出掛けようとした俺と鉢合わせたのだ。
「あ……悪い、まだ店は準備中……っと、あれ? こないだの彼女?」
見かけは別人でも、俺の直感の方が勝ったようだ。
だけどなにか、ほんの一瞬、ちりちりとしたイヤな感覚が項に走った。
「……え? 上手く変えたと思ったのに、わかっちゃいました?」
がくりと文字通り項垂れた彼女の肩をぽむぽむ叩く。
なんとなく仕草が幼さすら感じさせての動きだったが、小うるさいタイプだと、今はこれもセクハラだっただろうか?
「いや、普通のヤツらなら誤魔化せると思うぜ? 俺がたまたま気付いたってだけじゃないかな?」
何かに気付いたように軽く目を見開いて俺を見上げた彼女に、買い物に行くから続きは歩きながらでいいか?と問う。
頷くのを確認すると軒から出て大きめの蝙蝠傘を開いた。彼女はピンク色の丸っこい傘で、初めて会った時のOLさんっぽさもない。どっちが本来なのか、どっちも逃げるためだけの借り物なのか。ともあれ、見た目は化けるモノだなぁ、とやや感心しつつも歩き出した。
雨粒が傘を叩く音でこそこそ話しは聞き取りづらい。そのせいか無口になってついてくる彼女に、用があったんじゃないのか?と直球で切り出した。
「えっと……先日のお礼と言うか……いえ、正直に言えば、通り過ぎても気付かれないか知りたかったんですけど……無理、でしたね……」
溜息。
たぶん確認したかっただけなんだろう。でも、それだけのコトを頼んだり確かめさせてもらうような知り合いも他にいないんだろうか。
なにやら普通じゃない訳あり感が漂ってきて、面倒なのはわかっちゃいても、好奇心だけはうずうずしてきた。
「そこのコンビニで雑誌買おうと思って出て来たんだけど、さっさと済ませてやっぱ俺の店に戻ろう。落ち着かないんじゃないの?」
傘の下の彼女を窺うように少し屈んで見遣る。視線に気付いたか、俺の方をちらりと向いて、こくり、頷いた。
「……で、あんたが追われてる理由、知りたいんだけど? てか、それがわかんないと助けようもないしな」
ふたつあるテーブル席のひとつで、俺と彼女、英美は向かい合って座っている。
テーブルの上には、俺の前にはアイスコーヒー、英美の前には暖かい紅茶。俺はグラスに差したストローで氷をからから掻き回しながら尋ねた。英美は困ったような顔で視線を彷徨わせては小さく溜息をつく。
沈黙に耐えかねたのか紅茶を口に運んで、ほぅ、とひと息漏らしたところで、ようやく決心したのか、カップを置いて顔を上げた。
「マスターさんは、最近話題になってきてる、人間以外の、異種族とか能力者とかって、信じます……?」
「あ~、ネットとかでは盛り上がってっけど、世間的には戯れ言扱いされてる、アレ?」
すっとぼけた口調で言い、ストローを啜る。
「……信じます?」
上目遣いに問いかける英美に、さてどうしたものか、と俺は思案した。
ほんの数年前から、まことしやかに噂されていて、最近では肯定派がかなり増えてきた存在、異能種。
いわゆる超能力者から妖怪、モンスター種、UMAまで、今までは想像上のとか気のせいと捉えられてきたそれらが、実は現実に、そこらに存在するのだと言われるようになっていた。
昔なら揉み消されただろうそれらの目撃情報、当人の主張などが、SNSなどネットを介して拡散されるのに時間はかからなかった。
アイスコーヒーが入ったグラスが汗をかいていた。水滴が溜まっては伝い落ちてコースターを濡らしていく。氷が溶けて形を崩して透き通った音と共に浮き上がる。
俺は軽く肩を竦めた。
「ま、今どき信じないって方が叩かれかねない風潮ではあるな」
「迎合して、そう言うだけ? もしも存在していたら、どう思う?」
そろりそろりとした物言いで更に問う。
問い詰めてみようと思ったら、質問に質問で返されるパターンだった。
しかしまぁ、仕方あるまい。
昨今ではかなりデリケートな問題として扱われてるのだ。
信じるか信じないか、信じたとしても認めるか認められないか。
もしも電車で隣に座った者が他人の心を読めたら、そして読まれたら、或いは千里眼みたいになんでも見透かせるのだとしたら。そのあたりで考えるのがいちばん理解しやすいだろう。盗聴器も隠しカメラも要らない。
或いは、糧が生き物の場合。自分が餌とされる可能性。
そういう存在がいてもいいのか。
そして異能力を知らず知らずに発動させてしまって騒ぎになる実例が目立ち始めてはいた。
「んん~……どうとも思わない、かな? ま、自分に直接害がない限りはだけどさ」
「じゃあ、そういう異能種の人たちが迫害されたりするの、どう思う?」
「言ったろ? 実害がなければいいんじゃね?」
やや目を眇めて英美の本心を窺う。
「実害があったら……?」
「それはその相手次第だろ。それと程度問題か。悪意とか敵意をもって使われたら、お断りな感じにもなるけどさ。そんなの、その場になんないとなぁ……それが今回あんたが追われてるのとなにか関係してくるのか? なにか秘密を知っちまって追われてるとか?」
やっとこっちの質問タイムだ。
英美は小さく頷いた。
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