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第三話 Film Dance
7.副業?
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偵察にきた先にその関係者。
俺らついてるんじゃないか?
雅巳と顔を見合わせて、にんまり微笑む。
駐車できる場所を探すという雅巳に、俺は後を付けると告げて車を降りた。
ドアを閉めざま、ああ、と思いつき、雅巳に窓開けろとウインドウを軽くノックする。かすれた駆動音と共に開いた窓に顔を入れると囁く。
「向こうもそれほど警戒心持って歩いてる感じじゃなかったから、変なコトにゃならないと思うけど、念の為……こいつ連れていけ。俺の後をトレースして追っかけられる」
そっと一般的な人間には聞こえない音域の口笛を鳴らすと、瞬時に雅巳の頭上に小さな蝙蝠が乗っかった。俗に言うところの、使い魔ってヤツだ。
ほとんど重さのないそれを、確かめるようにぽふぽふと触れた雅巳は頷いた。
「わかったよ、気をつけて……は余計か。じゃ、すぐに追うから」
窓を閉めるより先に車は出た。
俺も即座に振り返り、神沢がいたところへと戻る。
少し人混みから外れたところだったのが幸いしたか、すぐに追いついた。
浮世離れとまでは言わないが、どことなく周囲から浮いているから見つけやすい。
周囲に他の連れらしいモノはいないか視線を巡らせ気配を探る。人間に限らないのが曲者だ。
神沢は人通りが少ないところを選んで歩いてはいるが、向かっているのは人通りが多い方のようだった。
おかげで本当に単独でいるらしい、とは察せたが。
「お待たせ~」
背後から息を切らせて雅巳が追いついてきた。
俺に追いついた時点で、雅巳の目の前を誘導するように飛んでいた使い魔蝙蝠は霧散した。
「思ったより近くで駐められたんだ……で、あいつ、どこに?」
俺はくいっと親指を立てて示す。
警戒するでもなく、神沢はゆっくりした足取りで出店の裏から入っていった。
出店はやや西洋のゴシック風味に仕立てられたテントで、陰陽師とはなんの関係もなさそうどころか、イメージは完全に逆だ。
通路の向かい側には地元野菜のテントがあったり、お祭りのテキ屋みたいな屋台もあって、そういう点でも浮いていた。
そして周りで覗き込んでいるのも女性ばかりなら、並んでいるのも女性ばかり。気になったところといえば、神沢が来た時に、女性陣から聞こえたざわめきの中に、黄色い声も混じっていたくらいか。
「彼、モテモテ?」
むぅ、と眉を寄せる雅巳に、軽くデコピンして、妬ける?と笑った。
「それより……この盛況ぶりはいったい……?」
「モテモテというか、有名人だったりするのか?」
少し遠巻きに眺めながら顰めっ面で見ていたのがかえって悪目立ちしたのか、店を見に来たと思しき二十代後半の女性が振り向いた。
「お兄さんたち、知らないんだ? ここでマルシェはじめた頃から参加してるらしいよ。お願いごとすると、お札書いてくれてね、それで願いが叶うコトが多くて、口コミが広まってるんですよぉ」
「へぇえ……君はそれで何か叶ったのかい?」
「ぜったい無理だと思ってた彼氏をゲットしたわよ~、ホンモノよ、彼は」
一気に夢見心地な目つきで胸元に手を当てる様子は、まるで……そう、宗教にハマっている信者にも似た雰囲気だ。
「そいつはよかったな。お札ねぇ」
いやな記憶が脳裏をよぎったが、彼女はくすくす笑って言った。
「あ、もしかして取材とかそういうので来られたんですかぁ? そういうの、受けないのでも有名らしいですよ~。ほら、異能種扱いとかされちゃうと困るからって」
「ああ、そういうコトね。いや俺らは、単に女の子がいっぱい騒いでるから、気になっただけさ」
肩を竦めてにっこり微笑む。
が、すっかり神沢に心酔している彼女には、残念ながら通用しなかった。
「……出直すか」
俺は疲れた、とため息混じりに呟き、雅巳もため息で返した。
俺らついてるんじゃないか?
雅巳と顔を見合わせて、にんまり微笑む。
駐車できる場所を探すという雅巳に、俺は後を付けると告げて車を降りた。
ドアを閉めざま、ああ、と思いつき、雅巳に窓開けろとウインドウを軽くノックする。かすれた駆動音と共に開いた窓に顔を入れると囁く。
「向こうもそれほど警戒心持って歩いてる感じじゃなかったから、変なコトにゃならないと思うけど、念の為……こいつ連れていけ。俺の後をトレースして追っかけられる」
そっと一般的な人間には聞こえない音域の口笛を鳴らすと、瞬時に雅巳の頭上に小さな蝙蝠が乗っかった。俗に言うところの、使い魔ってヤツだ。
ほとんど重さのないそれを、確かめるようにぽふぽふと触れた雅巳は頷いた。
「わかったよ、気をつけて……は余計か。じゃ、すぐに追うから」
窓を閉めるより先に車は出た。
俺も即座に振り返り、神沢がいたところへと戻る。
少し人混みから外れたところだったのが幸いしたか、すぐに追いついた。
浮世離れとまでは言わないが、どことなく周囲から浮いているから見つけやすい。
周囲に他の連れらしいモノはいないか視線を巡らせ気配を探る。人間に限らないのが曲者だ。
神沢は人通りが少ないところを選んで歩いてはいるが、向かっているのは人通りが多い方のようだった。
おかげで本当に単独でいるらしい、とは察せたが。
「お待たせ~」
背後から息を切らせて雅巳が追いついてきた。
俺に追いついた時点で、雅巳の目の前を誘導するように飛んでいた使い魔蝙蝠は霧散した。
「思ったより近くで駐められたんだ……で、あいつ、どこに?」
俺はくいっと親指を立てて示す。
警戒するでもなく、神沢はゆっくりした足取りで出店の裏から入っていった。
出店はやや西洋のゴシック風味に仕立てられたテントで、陰陽師とはなんの関係もなさそうどころか、イメージは完全に逆だ。
通路の向かい側には地元野菜のテントがあったり、お祭りのテキ屋みたいな屋台もあって、そういう点でも浮いていた。
そして周りで覗き込んでいるのも女性ばかりなら、並んでいるのも女性ばかり。気になったところといえば、神沢が来た時に、女性陣から聞こえたざわめきの中に、黄色い声も混じっていたくらいか。
「彼、モテモテ?」
むぅ、と眉を寄せる雅巳に、軽くデコピンして、妬ける?と笑った。
「それより……この盛況ぶりはいったい……?」
「モテモテというか、有名人だったりするのか?」
少し遠巻きに眺めながら顰めっ面で見ていたのがかえって悪目立ちしたのか、店を見に来たと思しき二十代後半の女性が振り向いた。
「お兄さんたち、知らないんだ? ここでマルシェはじめた頃から参加してるらしいよ。お願いごとすると、お札書いてくれてね、それで願いが叶うコトが多くて、口コミが広まってるんですよぉ」
「へぇえ……君はそれで何か叶ったのかい?」
「ぜったい無理だと思ってた彼氏をゲットしたわよ~、ホンモノよ、彼は」
一気に夢見心地な目つきで胸元に手を当てる様子は、まるで……そう、宗教にハマっている信者にも似た雰囲気だ。
「そいつはよかったな。お札ねぇ」
いやな記憶が脳裏をよぎったが、彼女はくすくす笑って言った。
「あ、もしかして取材とかそういうので来られたんですかぁ? そういうの、受けないのでも有名らしいですよ~。ほら、異能種扱いとかされちゃうと困るからって」
「ああ、そういうコトね。いや俺らは、単に女の子がいっぱい騒いでるから、気になっただけさ」
肩を竦めてにっこり微笑む。
が、すっかり神沢に心酔している彼女には、残念ながら通用しなかった。
「……出直すか」
俺は疲れた、とため息混じりに呟き、雅巳もため息で返した。
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