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プロローグ 国家魔術師
第五話 王都
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アンと出会った頃から季節は六つ巡り、秋。風が冷たく変わり、メルードが赤い実をつけ始めるころ。
夏の採用試験には、なんとか合格できた。
あれほど緊張したのは初めて……。試験は理論・実技・面接の三つで、理論はほぼ満点。実技も良い点をもらえた。でも面接は正直……胃が痛かった。面接官は六人全員が貴族なのだけど、そのうちの男性五人からは初体験がいつなのかとか、胸の発育が良いなとか、試験に関係ないようなことを聞かれて憂鬱だった。
でも、合格しちゃえばこっちのもの。
アンなんて号泣しちゃって。それがやけに激しいものだから、思わず笑っちゃった。
初出勤を七日後に控え、私たちは王都へ向かう。
アンが荷物の最終チェックをしていた。
「お姉さま、本当に忘れ物はないですか? パジャマは入れました? 指輪は嵌めてます? トイレは行きました?」
「ちゃんと入ってるし嵌めてるし行ったよ!」
「資格証は持ってます?」
「持ってる」
「なら結構です」
アンが杖の先で二つのトランクに触れると、トランクは瞬時に消え失せた。〈ここではないどこかに物を保管する魔法〉は、アンが最も得意としている。
そのアンは去年の秋から既に国家魔術師だ。最近は臆病な面が薄らいで、堂々としていることが多くなった。
ありがたいことに、アンは王都で暮らすようになっても、休日は欠かさず私のところにやってきて、練習に付き合ってくれた。おかげで十分特訓もできた。試験を通過できたのはほとんどアンのおかげだ。
今日アンが家にいるのは、私が王都で迷わないか心配だったかららしい。そんなに私、危なっかしいかなあ。
「では移動の準備ができたら発てますね」
噂をすれば、ママが倉庫から一つの小瓶を持ってやってきた。入っているのはきらめく青色の液体。転送の魔法に必要な触媒だ。地面に撒くことで、その場所を一時的に魔法の出発点にすることができる。貴重品のはずだけど、「行きで疲れ果てたらよくないでしょう」と使ってくれることになった。
ママが私に近づいてきて、柔らかく私を抱きしめた。
「ミルティナ」
「ママ……私、向こうでやっていけるかな」
「あなたはしっかりやってきたわ。アンちゃんもいるし、きっと大丈夫。自分を信じなさい」
ママはそれだけ言って、外に出る。私たちも後に続く。
ママが小瓶を開け、中身を振りまいた。液体のように見えた中身は、霧状になって広がり、辺りに漂い始める。
「さあ、その中に立って」
言われた通り霧の中に入る。久しぶりの経験だ。視界のほとんどが青になる。触媒同士がこすれ合っているのか、さらさらと微かに音が聞こえる。ミルティナ——私の名前の由来である青い花の、さわやかな香りがする。
「手は握っておいて。はぐれてしまったら大変だから」
すぐにアンの手を握る。もう、アンの手の感触も覚えてしまった。きっと目を塞がれて、手を握られても、私はアンを当てられると思う。
「じゃあ、送るわよ。アン、ミルティナ。二人とも——いつでも帰ってきていいからね」
うん、ママ。ありがとう。
ママが指を鳴らした。
刹那、その指が鳴る音が遠ざかる。積もった雪に音が吸い込まれるような、一瞬の静けさが訪れる。次に視界が徐々に光を失っていく。すぐにママも、触媒の青も、手を握っているはずのアンも、見えなくなる。新月の日の暗闇が、眼球に直接張り付いたような感覚が、私を支配する。ほんの一瞬だけ、地面が消えた。足裏は今何も掴んでいない、ように感じる。
でも落ちはしなかった。一度瞬きする頃には、足は硬い地面を踏みしめ、視界は明るさを取り戻し、耳にはざわめきが帰ってきていた。
転送の終わった合図。
私の目には、広場と、噴水と、賑わう出店の数々が映っていた。
間違いなく、ここは王都。
転送の魔法、便利すぎてびっくりだ。
「お姉さま、こっちですよ」
余韻に浸る暇もなく、アンが手を引っ張る。
「まずは寮?」
「そうですね、荷物を整理した方がいいと思うので。それから師長——もとい、グラーヴェ隊長に挨拶しに行きましょう」
グラーヴェ、という人が、これから私の上司になる。アンと同じ部隊で、少数精鋭らしい。なんだかカッコいいなあ。
「寮って王城にあるんだよね」
「そうですよ。厳密には、敷地内に併設されている建物が寮です」
「貴族たちと同じ敷地で寝泊まりするの? 私なんかが良いのかな」
「それだけ国家魔術師は重宝されるんですよ」
白く輝く王城は、王都にいればどこからでも見える。天をつくように巨大だからだ。伝説では、巨人が建てたとか言われていたっけ。その大きさゆえに距離が測りづらく、いくら足を進めても近づけていないような錯覚に陥る。
入り組んだ路地裏を上がったり下がったりして、大通りに出る。王城の門へと続く石畳の道で、幅がとても広い。端から端へは大体五百歩ほど。道端ではフリーマーケットが開かれており、人々が商品を並べて声を張り上げている。同じく道に沿って等間隔に設置された神々の石像は、この先が神聖な空間であることを告げる。私の身長五つ分はありそうな像。荘厳な面持ちで向かい合っている。
「すごい像だよね、作るの大変だったろうな」
「だと思いますよ。でも太古の神々ですから、尊敬と畏怖の気持ちを込めて大きく作ったんでしょうね」
「楽器を持ってる像が多いような気がするけど」
「大昔にこの王都を築いたのは、音楽家たちらしいです。たぶん彼らを讃えようとしてるんですよ」
馬車に轢かれないよう、注意しながら進む。見えてきた重々しげな正門の脇には、衛兵が四人ほど。しかしそのほかに、一人、少女が立っている。白と黒の、ロングスカートが特徴的な、侍女特有の制服を着ている。
声が届く距離まで来ると、少女は私たちに向け、恭しく一礼した。
「アンリエッタさま、お帰りなさいませ」
アンは慣れた調子でただいまと告げる。
「それからミルティナさま、お初にお目にかかります。わたくし、サラ・ミナヅキ・マルカートと申します。本日から身の回りのお世話を担当致します。どうぞお見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします……」
サラと名乗った女の子が顔を上げる。
この子、つり上がった目のせいか、若干冷たい感じがする。たぶん年下なんだろうけど、思わず敬語を使ってしまった。
ミナヅキ、というミドルネームはすごく独特だな。
「でもどうして侍女さんが? そんな貴族じゃあるまいし……」
「国家魔術師のみなさまは、貴族の方々と同じように扱うこととなっております。先々代の国王さまがお決めになったことです」
「本当に貴族の扱いなんだ……」
アンがトランクを取り出して、片方を私に手渡す。
うっ、重い。
「寮に着いてから出せばいいんじゃ……」
「お姉さま、知らないんですか? 王城の敷地内は、許可がないと魔法が一切使えないんですよ。荷物は出しておかないと」
侍女のサラが一歩進み出てくる。
「わたくしがお運びいたします」
「え、でも重いよ?」
「お構いなく」
侍女は買い物かごでも持つみたいに、ひょいと二つのトランクを持ち上げた。
すごい、華奢な見た目なのに力持ちだ。
こちらです、という侍女の案内に従い、大きな正門をくぐり抜ける。すると、何かの膜を突き破ったような感覚があった。
「お姉さま、顔がびっくりしてますよ。今のは王城に掛かっている守りの魔法です。矢や魔法はもちろん、許可されていない人間も通さないようになっています」
「へー、そんなことできるの?」
「そのために国家魔術師が雇われているといっても過言ではないですね。シフトが組まれて、交代で守りの維持をしています」
アンはほんの一瞬、すごく嫌そうな顔をした。
きっと激務なんだろうな……。
「あ、守りの魔法があるなら門や城壁が不要かと思いました? 実はそうでもないんですよ」
誰も聞いてないのにアンが説明する。
「城の守りはかなり強力なので、たとえば子どもなんかが間違って敷地に飛び込んでくると、一瞬で消し炭になってしまいます」
「えっ」
けっこうゾッとした。そんな怖い魔法を私は今通り抜けたの?
「なので、通れないことをアピールする必要があるんです。あとは昔からあるものを壊したくないという、いささか不合理な理由もありますね」
しばらく綺麗な芝生を眺めながら、舗装された道を歩いていくと、サラが足を止めた。
「こちらが女子寮でございます」
寮はすごく立派な建物だった。寮、というよりは館といったほうが正確な気もする。真っ白な石造りの建物で、見た目は三階建て。装飾として、ところどころに神々の小さな像が彫り込まれている。貴族が見栄を張るために建てた別荘という感じ。
サラがトランクを持ったまま玄関扉に近づく。
「マルカートです。ミルティナさまをお連れしました」
サラがそう告げると、両開きの扉が、建物の中の方へとゆっくり口を開く。
「サラ——さんも魔法が使えるの?」
「サラ、と呼び捨てで結構です。たしかにミルティナさまの仰る通り、魔法は少し扱えます。ですが、今のはわたくしの魔法ではございません。先ほどアンリエッタさまが説明された通り、この敷地内では、許可なく魔法は使えませんので」
扉の陰から、別の侍女が二人現れた。長身の人と、少し太った人。
そうか、この二人がそれぞれ手でドアを開けていたんだ。勘違いしちゃったな、恥ずかしい……。
「ミルティナさまはアンリエッタさまと同室になります。こちらです」
扉を抜けると、大広間が私たちを迎える。大きな窓から太陽光が取り入れられていて、すごく明るい雰囲気。大きな階段が中央に陣取っていて、そこを何人かの女性が行き来している。全員が全く同じ軍服を着ている。服は灰みのかかった緑色をベースにして、金糸があしらわれているようだ。胸には国章と、国家魔術師の証である正四角形の幾何学模様が並んで配置されていた。なぜか腰回りを包むのはミニスカートだ。
赤いカーペットが、その柔らかさで私の足を押し返している。新入りを見る奇異の目を受けながら階段を上っていると、懐かしい顔に出くわした。
「あら、ミルティナじゃない」
金髪ロングにティアラを載せた女。それにこの自信満々な口ぶり。忘れるはずもない。
「……サリア・ブリランテ」
宿敵のご登場だ……。
夏の採用試験には、なんとか合格できた。
あれほど緊張したのは初めて……。試験は理論・実技・面接の三つで、理論はほぼ満点。実技も良い点をもらえた。でも面接は正直……胃が痛かった。面接官は六人全員が貴族なのだけど、そのうちの男性五人からは初体験がいつなのかとか、胸の発育が良いなとか、試験に関係ないようなことを聞かれて憂鬱だった。
でも、合格しちゃえばこっちのもの。
アンなんて号泣しちゃって。それがやけに激しいものだから、思わず笑っちゃった。
初出勤を七日後に控え、私たちは王都へ向かう。
アンが荷物の最終チェックをしていた。
「お姉さま、本当に忘れ物はないですか? パジャマは入れました? 指輪は嵌めてます? トイレは行きました?」
「ちゃんと入ってるし嵌めてるし行ったよ!」
「資格証は持ってます?」
「持ってる」
「なら結構です」
アンが杖の先で二つのトランクに触れると、トランクは瞬時に消え失せた。〈ここではないどこかに物を保管する魔法〉は、アンが最も得意としている。
そのアンは去年の秋から既に国家魔術師だ。最近は臆病な面が薄らいで、堂々としていることが多くなった。
ありがたいことに、アンは王都で暮らすようになっても、休日は欠かさず私のところにやってきて、練習に付き合ってくれた。おかげで十分特訓もできた。試験を通過できたのはほとんどアンのおかげだ。
今日アンが家にいるのは、私が王都で迷わないか心配だったかららしい。そんなに私、危なっかしいかなあ。
「では移動の準備ができたら発てますね」
噂をすれば、ママが倉庫から一つの小瓶を持ってやってきた。入っているのはきらめく青色の液体。転送の魔法に必要な触媒だ。地面に撒くことで、その場所を一時的に魔法の出発点にすることができる。貴重品のはずだけど、「行きで疲れ果てたらよくないでしょう」と使ってくれることになった。
ママが私に近づいてきて、柔らかく私を抱きしめた。
「ミルティナ」
「ママ……私、向こうでやっていけるかな」
「あなたはしっかりやってきたわ。アンちゃんもいるし、きっと大丈夫。自分を信じなさい」
ママはそれだけ言って、外に出る。私たちも後に続く。
ママが小瓶を開け、中身を振りまいた。液体のように見えた中身は、霧状になって広がり、辺りに漂い始める。
「さあ、その中に立って」
言われた通り霧の中に入る。久しぶりの経験だ。視界のほとんどが青になる。触媒同士がこすれ合っているのか、さらさらと微かに音が聞こえる。ミルティナ——私の名前の由来である青い花の、さわやかな香りがする。
「手は握っておいて。はぐれてしまったら大変だから」
すぐにアンの手を握る。もう、アンの手の感触も覚えてしまった。きっと目を塞がれて、手を握られても、私はアンを当てられると思う。
「じゃあ、送るわよ。アン、ミルティナ。二人とも——いつでも帰ってきていいからね」
うん、ママ。ありがとう。
ママが指を鳴らした。
刹那、その指が鳴る音が遠ざかる。積もった雪に音が吸い込まれるような、一瞬の静けさが訪れる。次に視界が徐々に光を失っていく。すぐにママも、触媒の青も、手を握っているはずのアンも、見えなくなる。新月の日の暗闇が、眼球に直接張り付いたような感覚が、私を支配する。ほんの一瞬だけ、地面が消えた。足裏は今何も掴んでいない、ように感じる。
でも落ちはしなかった。一度瞬きする頃には、足は硬い地面を踏みしめ、視界は明るさを取り戻し、耳にはざわめきが帰ってきていた。
転送の終わった合図。
私の目には、広場と、噴水と、賑わう出店の数々が映っていた。
間違いなく、ここは王都。
転送の魔法、便利すぎてびっくりだ。
「お姉さま、こっちですよ」
余韻に浸る暇もなく、アンが手を引っ張る。
「まずは寮?」
「そうですね、荷物を整理した方がいいと思うので。それから師長——もとい、グラーヴェ隊長に挨拶しに行きましょう」
グラーヴェ、という人が、これから私の上司になる。アンと同じ部隊で、少数精鋭らしい。なんだかカッコいいなあ。
「寮って王城にあるんだよね」
「そうですよ。厳密には、敷地内に併設されている建物が寮です」
「貴族たちと同じ敷地で寝泊まりするの? 私なんかが良いのかな」
「それだけ国家魔術師は重宝されるんですよ」
白く輝く王城は、王都にいればどこからでも見える。天をつくように巨大だからだ。伝説では、巨人が建てたとか言われていたっけ。その大きさゆえに距離が測りづらく、いくら足を進めても近づけていないような錯覚に陥る。
入り組んだ路地裏を上がったり下がったりして、大通りに出る。王城の門へと続く石畳の道で、幅がとても広い。端から端へは大体五百歩ほど。道端ではフリーマーケットが開かれており、人々が商品を並べて声を張り上げている。同じく道に沿って等間隔に設置された神々の石像は、この先が神聖な空間であることを告げる。私の身長五つ分はありそうな像。荘厳な面持ちで向かい合っている。
「すごい像だよね、作るの大変だったろうな」
「だと思いますよ。でも太古の神々ですから、尊敬と畏怖の気持ちを込めて大きく作ったんでしょうね」
「楽器を持ってる像が多いような気がするけど」
「大昔にこの王都を築いたのは、音楽家たちらしいです。たぶん彼らを讃えようとしてるんですよ」
馬車に轢かれないよう、注意しながら進む。見えてきた重々しげな正門の脇には、衛兵が四人ほど。しかしそのほかに、一人、少女が立っている。白と黒の、ロングスカートが特徴的な、侍女特有の制服を着ている。
声が届く距離まで来ると、少女は私たちに向け、恭しく一礼した。
「アンリエッタさま、お帰りなさいませ」
アンは慣れた調子でただいまと告げる。
「それからミルティナさま、お初にお目にかかります。わたくし、サラ・ミナヅキ・マルカートと申します。本日から身の回りのお世話を担当致します。どうぞお見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします……」
サラと名乗った女の子が顔を上げる。
この子、つり上がった目のせいか、若干冷たい感じがする。たぶん年下なんだろうけど、思わず敬語を使ってしまった。
ミナヅキ、というミドルネームはすごく独特だな。
「でもどうして侍女さんが? そんな貴族じゃあるまいし……」
「国家魔術師のみなさまは、貴族の方々と同じように扱うこととなっております。先々代の国王さまがお決めになったことです」
「本当に貴族の扱いなんだ……」
アンがトランクを取り出して、片方を私に手渡す。
うっ、重い。
「寮に着いてから出せばいいんじゃ……」
「お姉さま、知らないんですか? 王城の敷地内は、許可がないと魔法が一切使えないんですよ。荷物は出しておかないと」
侍女のサラが一歩進み出てくる。
「わたくしがお運びいたします」
「え、でも重いよ?」
「お構いなく」
侍女は買い物かごでも持つみたいに、ひょいと二つのトランクを持ち上げた。
すごい、華奢な見た目なのに力持ちだ。
こちらです、という侍女の案内に従い、大きな正門をくぐり抜ける。すると、何かの膜を突き破ったような感覚があった。
「お姉さま、顔がびっくりしてますよ。今のは王城に掛かっている守りの魔法です。矢や魔法はもちろん、許可されていない人間も通さないようになっています」
「へー、そんなことできるの?」
「そのために国家魔術師が雇われているといっても過言ではないですね。シフトが組まれて、交代で守りの維持をしています」
アンはほんの一瞬、すごく嫌そうな顔をした。
きっと激務なんだろうな……。
「あ、守りの魔法があるなら門や城壁が不要かと思いました? 実はそうでもないんですよ」
誰も聞いてないのにアンが説明する。
「城の守りはかなり強力なので、たとえば子どもなんかが間違って敷地に飛び込んでくると、一瞬で消し炭になってしまいます」
「えっ」
けっこうゾッとした。そんな怖い魔法を私は今通り抜けたの?
「なので、通れないことをアピールする必要があるんです。あとは昔からあるものを壊したくないという、いささか不合理な理由もありますね」
しばらく綺麗な芝生を眺めながら、舗装された道を歩いていくと、サラが足を止めた。
「こちらが女子寮でございます」
寮はすごく立派な建物だった。寮、というよりは館といったほうが正確な気もする。真っ白な石造りの建物で、見た目は三階建て。装飾として、ところどころに神々の小さな像が彫り込まれている。貴族が見栄を張るために建てた別荘という感じ。
サラがトランクを持ったまま玄関扉に近づく。
「マルカートです。ミルティナさまをお連れしました」
サラがそう告げると、両開きの扉が、建物の中の方へとゆっくり口を開く。
「サラ——さんも魔法が使えるの?」
「サラ、と呼び捨てで結構です。たしかにミルティナさまの仰る通り、魔法は少し扱えます。ですが、今のはわたくしの魔法ではございません。先ほどアンリエッタさまが説明された通り、この敷地内では、許可なく魔法は使えませんので」
扉の陰から、別の侍女が二人現れた。長身の人と、少し太った人。
そうか、この二人がそれぞれ手でドアを開けていたんだ。勘違いしちゃったな、恥ずかしい……。
「ミルティナさまはアンリエッタさまと同室になります。こちらです」
扉を抜けると、大広間が私たちを迎える。大きな窓から太陽光が取り入れられていて、すごく明るい雰囲気。大きな階段が中央に陣取っていて、そこを何人かの女性が行き来している。全員が全く同じ軍服を着ている。服は灰みのかかった緑色をベースにして、金糸があしらわれているようだ。胸には国章と、国家魔術師の証である正四角形の幾何学模様が並んで配置されていた。なぜか腰回りを包むのはミニスカートだ。
赤いカーペットが、その柔らかさで私の足を押し返している。新入りを見る奇異の目を受けながら階段を上っていると、懐かしい顔に出くわした。
「あら、ミルティナじゃない」
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