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【第五幕】ピクルスの決意
ヴェッポン国王の懸念とチョリソールの涙
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ヴェッポン国に帰ったピクルスは、国王に呼ばれ王宮に参上した。
「ピクルスよ」
「はい」
「ヤポン神国へ行き、少しの間そこで働いて貰いたい」
「ラジャー!!!」
「ぬぉ、決断が早いのう?」
「シュアー!!!」
目的も尋ねず即断で了解するという、そんなピクルスの清々しい態度には、泰然自若で有名なヴェッポン国王ですら驚いた。
「それでヤポン神国では、どのようなお仕事を?」
「フランセ国の第一王子シャンペンハウアーがヤポン神国へ出稼ぎに行った。そのことは既に知っておるだろうな?」
「シュアー!」
「メロウリの婚約が遅れるばかりか、シャンペンハウアーがヤポン神国で出会う娘と結ばれるようなことにでもなれば、メロウリの相手を探し直さねばならぬこととなる。そうするとウムラジアン・クイーンの選出にも影響が出る」
ウムラジアン・クイーンとは、ウムラジアン大陸の代表として立てる女王のことである。その最有力候補がメロウリなのだ。
「そこで、お前がシャンペンハウアーの恋路を妨げる路傍の石になるのだ。たとえ馬に蹴飛ばされようとも、必ずやり抜かねばならぬ。この使命を果たすのだ」
「ラジャー!!」
「しかも、ゲルマーヌ国のフライシラコ‐ピザエル十九世が、ヤポン神国で既に動き出しておるそうだ。勝機はあるといえるか?」
今度ばかりはさすがのピクルスもためらい、即答できなかった。
「ピザエル十九世?」
「そうだ、ウムラジアン大陸の平和を揺るがそうとする不届き者である」
「ウムラジアン王家との関係は?」
「ふうむ。その言葉が記憶にあったとはなあ、がはははは!」
「昨日フランセ国で知り合いました、マーシャラーのコワサンというヒグマから聞きましたの。そのコワサンさんが、わたくしをピクルス姫などと」
「そうか。あのおしゃべり熊めが」
「ん?」
国王がコワサンを知っているような口振りをしたので、ピクルスは少なからず拍子抜け感を覚えた。
「国王陛下はコワサンさんと、一体どのようなご関係なのでしょうか?」
「あの男は、真の名をココワサンダー八十八世といって、余とは古くからダチ同士だったのだ。ネパ国の宰相の立場にあるのだが、ややこしい事情があって、今は熊の姿で世界を欺き、フランセ国で潜入捜査をしておる」
「まあ!!」
コワサンがネパ国の宰相だったことは初耳で、驚きの真相である。それにしてもいつになく今日の国王は口数が多い、とピクルスは思った。普段なら最低限の要件を伝えるか尋ねるかで、改まって話を聞かされるのは初めてのこととなった。
「ふうむ。いつかはピクルスにも伝えなければならぬこと。この機会に洗いざらい話すことにしよう」
「はい、お聞きしますわ♪」
「実は、ココワサンダー家もキュウカンバ家も、ウムラジアン王家の血を受け継いでおるのだ。両家はウムラジアン大陸が七つの国に分かれた後も、代々ウムラジアン大陸の平和を願って陰日向なく奮戦してきた。我がヴェッポン国も、ココワサンダーの生まれ育ったネパ国も、ずっとそういった平和路線を掲げ歩んできた。武器を巧みに扱うことで外からの武力に屈しないことは、ヴェッポン国の存続を確固とする礎であった。それは今も変わらぬ。だが、この先の時代の先導者となる若い者には、武器を置く勇気も必要で、そうして書物を手に取ることも良かろう。ヤポン神国ではそのことをも、しかと学んでくるのだ!」
「ラジャー!!」
与えられた責任の重みを感じ取ったピクルスは、ウムラジアン大陸の明日の先導者とはどうあるべきか? という考えを巡らせながら、これまでとは異なる張りつめた空気の満ちている、王の一番大居室から退出した。
今はピクルス専用デパッチ・ピックルで帰路の夜空を飛んでいる。操縦はいつものようにチョリソールの役目だ。
「あなたには、彼女いませんの?」
「シュアー!!」
チョリソールは分厚い胸板を張って、元気良く即答した。
「女は嫌いか?」
「いえ決してそうではなく、私はピクルス大佐にお仕えする身でありますから」
チョリソールは、毎晩寝る時に必ずピクルスの写真を入れてあるロケットペンダントを枕元に置いている。既に母親を亡くしていて、姉妹も祖母も叔母も従姉妹もいないチョリソールにとって、女という存在はピクルスただ一人なのだ。
その気持ちを口に出すなど、決してできはしない。いや、してはならない、執事としての立場で仕えることができているだけで満足なのだ、と常々チョリソールは自身を納得させているのである。
「わたくしは、ヤポン神国へ行くことになりましたわ♪」
「ふぇ!??」
「チョリソールは邸に残り、ジッゲンとクッペ婆やの手助けをなさい。お父様の面倒を、そして、もうそろそろ素敵な彼女を見つけて、一緒に暮らしなさい」
チョリソールは返答に困った。だが、どうしても叫びたかった。
「私も、私もヤポン神国へ!! 是非ピクルス大佐のお傍にぃ!!!」
「なりませんわ!」
「そ、そんなあぁ……」
チョリソールは自然に出てくる涙をポツポツと溢すのだった。
「ピクルスよ」
「はい」
「ヤポン神国へ行き、少しの間そこで働いて貰いたい」
「ラジャー!!!」
「ぬぉ、決断が早いのう?」
「シュアー!!!」
目的も尋ねず即断で了解するという、そんなピクルスの清々しい態度には、泰然自若で有名なヴェッポン国王ですら驚いた。
「それでヤポン神国では、どのようなお仕事を?」
「フランセ国の第一王子シャンペンハウアーがヤポン神国へ出稼ぎに行った。そのことは既に知っておるだろうな?」
「シュアー!」
「メロウリの婚約が遅れるばかりか、シャンペンハウアーがヤポン神国で出会う娘と結ばれるようなことにでもなれば、メロウリの相手を探し直さねばならぬこととなる。そうするとウムラジアン・クイーンの選出にも影響が出る」
ウムラジアン・クイーンとは、ウムラジアン大陸の代表として立てる女王のことである。その最有力候補がメロウリなのだ。
「そこで、お前がシャンペンハウアーの恋路を妨げる路傍の石になるのだ。たとえ馬に蹴飛ばされようとも、必ずやり抜かねばならぬ。この使命を果たすのだ」
「ラジャー!!」
「しかも、ゲルマーヌ国のフライシラコ‐ピザエル十九世が、ヤポン神国で既に動き出しておるそうだ。勝機はあるといえるか?」
今度ばかりはさすがのピクルスもためらい、即答できなかった。
「ピザエル十九世?」
「そうだ、ウムラジアン大陸の平和を揺るがそうとする不届き者である」
「ウムラジアン王家との関係は?」
「ふうむ。その言葉が記憶にあったとはなあ、がはははは!」
「昨日フランセ国で知り合いました、マーシャラーのコワサンというヒグマから聞きましたの。そのコワサンさんが、わたくしをピクルス姫などと」
「そうか。あのおしゃべり熊めが」
「ん?」
国王がコワサンを知っているような口振りをしたので、ピクルスは少なからず拍子抜け感を覚えた。
「国王陛下はコワサンさんと、一体どのようなご関係なのでしょうか?」
「あの男は、真の名をココワサンダー八十八世といって、余とは古くからダチ同士だったのだ。ネパ国の宰相の立場にあるのだが、ややこしい事情があって、今は熊の姿で世界を欺き、フランセ国で潜入捜査をしておる」
「まあ!!」
コワサンがネパ国の宰相だったことは初耳で、驚きの真相である。それにしてもいつになく今日の国王は口数が多い、とピクルスは思った。普段なら最低限の要件を伝えるか尋ねるかで、改まって話を聞かされるのは初めてのこととなった。
「ふうむ。いつかはピクルスにも伝えなければならぬこと。この機会に洗いざらい話すことにしよう」
「はい、お聞きしますわ♪」
「実は、ココワサンダー家もキュウカンバ家も、ウムラジアン王家の血を受け継いでおるのだ。両家はウムラジアン大陸が七つの国に分かれた後も、代々ウムラジアン大陸の平和を願って陰日向なく奮戦してきた。我がヴェッポン国も、ココワサンダーの生まれ育ったネパ国も、ずっとそういった平和路線を掲げ歩んできた。武器を巧みに扱うことで外からの武力に屈しないことは、ヴェッポン国の存続を確固とする礎であった。それは今も変わらぬ。だが、この先の時代の先導者となる若い者には、武器を置く勇気も必要で、そうして書物を手に取ることも良かろう。ヤポン神国ではそのことをも、しかと学んでくるのだ!」
「ラジャー!!」
与えられた責任の重みを感じ取ったピクルスは、ウムラジアン大陸の明日の先導者とはどうあるべきか? という考えを巡らせながら、これまでとは異なる張りつめた空気の満ちている、王の一番大居室から退出した。
今はピクルス専用デパッチ・ピックルで帰路の夜空を飛んでいる。操縦はいつものようにチョリソールの役目だ。
「あなたには、彼女いませんの?」
「シュアー!!」
チョリソールは分厚い胸板を張って、元気良く即答した。
「女は嫌いか?」
「いえ決してそうではなく、私はピクルス大佐にお仕えする身でありますから」
チョリソールは、毎晩寝る時に必ずピクルスの写真を入れてあるロケットペンダントを枕元に置いている。既に母親を亡くしていて、姉妹も祖母も叔母も従姉妹もいないチョリソールにとって、女という存在はピクルスただ一人なのだ。
その気持ちを口に出すなど、決してできはしない。いや、してはならない、執事としての立場で仕えることができているだけで満足なのだ、と常々チョリソールは自身を納得させているのである。
「わたくしは、ヤポン神国へ行くことになりましたわ♪」
「ふぇ!??」
「チョリソールは邸に残り、ジッゲンとクッペ婆やの手助けをなさい。お父様の面倒を、そして、もうそろそろ素敵な彼女を見つけて、一緒に暮らしなさい」
チョリソールは返答に困った。だが、どうしても叫びたかった。
「私も、私もヤポン神国へ!! 是非ピクルス大佐のお傍にぃ!!!」
「なりませんわ!」
「そ、そんなあぁ……」
チョリソールは自然に出てくる涙をポツポツと溢すのだった。
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