キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼

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【第七幕】戦争勃発の危機と神薬の在り処

武器売りの少女&婚約破棄されるゴボウさん

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 ゴボウさんが山奥の寒村まできた時、武器売りの少女がいた。

「武器いかが? 扱い方教えますわよ!」

 良く見ると自分の婚約者エクレアーノだ。間違いない。
 ゴボウさんは、木の後ろに隠れて様子を窺う。

「武器いかが? 扱い方教えますわよ!」

 少女は懸命に叫んでいる。

「ふぅ寒いですわ。身体も冷え切ってしまいましてよ。でも、武器を売らないとなりませんもの。どなたか、武器いかが? 扱い方教えますわよ!」

 頑張って繰り返し叫んでいるのだが、誰も武器を買ってはくれない。
 その健気な姿を見て、切なくなってしまったゴボウさんは、隠れたまま声音を変えて話しかける。

「おいおい、女子や。武器を一つ買うだべ。けんど、俺は顔を見せられねえだで、そこに置いてけつかれ。金は、ほらこんだけあるだべ」

 木樵はそういい、お宿代として貰って貯めていた金貨を袋ごと投げた。
 武器売りの少女は、四百連射銃を一挺だけ木の根元にそっと置いて、ゴボウさんの投げた袋を拾う。
 そして中の金貨を確認して、顔色を変えた。

「あなた様は、ゴボウ様ですわね」
「なしてばれただべか」
「わたくしは金貨の一枚一枚に印をつけていましてよ。これらは一枚残らず、ゴボウ様にお支払いした金貨に相違ありませんもの。おほほほ」
「たまげただべなあ。そげな細工しちょったとは」

 木樵はエクレアーノの巧妙な手腕に脱帽した。

「あなた様は、わたくしとのお約束を破ってしまわれました。婚約破棄ですわ」
「そうだべなあ。けんど、おめえも嘘こいとっただべ。希少生物保護のお役人が、なして武器なんぞ売っとるんだべか。つうか一体何者だべか、おめえ」

 そういって、木樵は表情を険しくさせた。

「わたくしは、希少生物保護のお仕事をしているエクレアーノになりすまして、実は神薬を探しているのです。わたくしの正体は、キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ! ヴェッポン国自衛軍所属ですわ」
「本物のエクレアーノの名を騙った偽エクレアーノだべか」
「シュアー」
「なして、そげなことしただべか」
「実は、伯爵のお父様は武器を売っておりましたの。ですがとても悲しいことに、あんなに元気でおられたお父様が、急な病で倒れてしまい、ぐすん。それで、ヴェッポン国王から教えて貰いました幻の神薬を求めて、このヤポン神国にも参りましてよ。神薬を探しがてら、武器を売って路銀の足しにしておりますの」
「そうけえ。そんで武器は、たんとう売れただべか」

 ピクルスは、肩を落として悲しそうな顔を見せる。

「いいえ。あなた様が買って下さった、その一挺だけですの」
「もっと買ってやりてえけんど、俺にはもう金がねえだでなあ」
「一挺売れただけでもましですわ。あ、そうでした、扱い方教えますわよ!」
「そうけえ。そんなら教えてけつかれ」
「ラジャー♪」

 ピクルスの顔に笑みが戻った。
 木樵のゴボウさんは武器の扱い方を教わった。

 数日後、偽エクレアーノのピクルスは、希少生物保護のお役人令嬢エクレアーノの名を騙った罪により、雪土竜の姿にされてしまった。このことをゴボウさんは知らない。夜になってもピクルスが小屋に帰ってこないので、自分が約束を破ったせいだと、深く反省した。本当に婚約破棄されたのだと思った。

 それから、ゴボウさんは木樵を辞めて狩人になった。
 チロル山脈の動物たちを四百連射銃で片っ端から仕留め、それを売って大儲けできるようになったのだ。ところが、動物が激減して獲物がなくなったために、ゴボウさん再び木樵のお仕事をするようになったとさ。

 さて、雪土竜の姿にされてしまったピクルスだが、お札を使うことにした。
 ヤポン神ポンズヒコから授かった三枚のお札は、一枚につき一つのお願いが叶うのである。
 ピクルスは、お札を掲げ願う。

(ヤポン神ヤポン神、どうかわたくしを元の人間の姿にお戻し下さい)

 するとどうだろう、雪土竜の背がスクスクと伸びて、若い女性の姿へと変化するではないか。キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐として、蘇ることができたのである。目出たし目出たし。

 しかし、実際にはそれほど目出たくはない。なぜなら、肝心の神薬が見つからなかったからだ。

「この南ヤポンアルプスにはないのかしら? 北へ参りましょうか?」
「ひっひーっんλ!」

 ピクルスは黒馬サツマにまたがった。

 Ω Ω Ω

 ここは北ヤポンアルプスの最北に連なるポッキー山脈。
 冬になるとこの地方では雨が凍り、硬い氷の玉になって落ちてくる。
 断続的に氷が落ち続ける夕暮れどき、一段と寒さも増し、腹も減ってきて、とてもひもじい思いをしている時だった。貧しい猟師のレンコンさんには、もう食べる物もなく、木の実でもまだ残ってはいないだろうか、などと望みを託しながら氷を割って地面を物色していた。
 だがそんなに都合良く食べ物が埋まってはいない。

 シュシュシュシュ♪
 少し滑って別の場所を割る。
 それでも木の実など、なに一つ見つからない。

 シュシュシュシュ♪
 また滑って別の場所へ行く。

 とこの時、けったいな音が鳴る。
 グモグモグモグモ♪
 滅法おかしな声が聞こえてくるのだ。

「おれおれ、なにか生き物でもいるんかな?」

 グモグモグモグモ♪
 また同じ音がした。

「おっとと、コラコラ逃がしはせんぞ。ほうら捕まえた」

 それは透き通った土竜だった。とても珍しい氷土竜こおりもぐらだ。

「僕には食べる物がなくて、気の毒には思うけれど、お前を焼いて食べることにしようと決めた」

 レンコンさんは、氷土竜に申し訳なさそうにいいながら、せめてすぐに楽にしてやろうと思った。
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