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【第十三幕】四級女官は王宮を守れるか?
重過ぎる女官頭のパインチッチ
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名門バレンシア家の父と名門ブリヘラブナ家の母の間に生まれた女官頭は、大きく成長してほしいと願われてパインチッチという名を受けた。そうしたら、成長した彼女は本当にその通りとなった。名は体を表す事例といえよう。
「いいことなんぞ、一つとしてないのよ」
「そう、ですの?」
「オフコォス。もぉ重過ぎて重過ぎて、体重計壊れたの。二十回も、ぶふぅー」
「ま、まあっ★! ほほ、本当ですの?」
アルデンテ王宮勤め第一日目である新米ピクルスに課された初仕事は、王宮敷地内の地理を覚えること。ガイド役が、女官歴十五年のベテランにして、女官頭の任に就いているパインチッチなのは、あくまで当然といえよう。
今はランチタイムだ。女官たちの食堂で、二人は食べながら話している。
「決まってるでしょ、冗句よ。歯ごたえが命、アルデンテ流の冗句。うふふ」
「で……ですわねえ。おほほほ」
「実際のところ壊れたのはねえ、ただの一回」
「へ……?」
その一回というのは、偶偶不良品を使っていてのこと。
下手なパプリカン・コメディではないのだから、身体が重過ぎるから壊れる体重計など、少なくとも「メイドinアルデンテ王国」の称号を与えられた製品には、一つとして存在し得ない。それは無理な注文だ。
近頃は、貿易自由化政策の荒波が押し寄せ、牛肉・オレンジ・体重計などが、隣のパプリカ連邦共和国から安価で侵流してきている。食料品には、化学肥料・農薬などを使用する点から安全性の面で懸念も多く、また体重計にも粗悪品が多い。
チープとは、安産であろうが、安心と安定と信頼とはいかないことが、はかばかしくなくも常の世である。自身のパインアップル級なる両の乳房が原因で故障させてしまったとばかりに、パインチッチが悲観した体重計は、「粗悪品の代表格を表すレッテル」とまで揶揄されている「メイドinパプリカ」の製品だった。
「やっぱり、ここの酢豚定食『メガトン』は、病みつきだわ。うふふ」
「わたくしは、この『狐うどん』が、お気に飯ましてよ」
「ふうん……けど、そんなのだけで満腹?」
「シュアー!」
ここへ、もう一人女官が現れた。桃色の衣装だ。
「ご機嫌よう、パインチッチさん」
「ああらぁご機嫌よう、パンコちゃん」
「ええっと、そちらは?」
「この生娘ね、今日から働いて貰うことになった四級女官のピクルス大佐。ピクルス大佐、こっちはあなたにとって先輩お姉様の一人になる、二級女官アンドナツ‐パンコちゃん」
女官衣装の色を目で見て、階級は自明なのだが、新人に覚えさせるためにも、口で補う慣例が続いている。
パインチッチが女官頭らしく場を取り仕切ったので、パンコは白色女官に手を差し伸べざるを得なくなった。
「ナス・ミートソース、Missピクルス大佐」
「ナス・ミートソース・ツー、Miss二級女官アンドナツ‐パンコお姉様」
二人は、儀礼的な缶詰のようになってハンドシェイクを交わす。
「ま、そんな堅苦しい社交的お飾りは最初だけ。うふふ」
さりげなく、しんちゅうの釘を打ちつけるパインチッチ。気さくな忠告だ。
これにはパンコも追随する。
「……ええ、そうです。あ、ところでMissピクルス大佐は、うどん派?」
「シュアー♪ それと、わたくしのことは、ピクルス大佐で構いませんわ」
「そう、私も、パンコでいいわ」
「ウィ、パンコ先輩」
「セ・ボン。そんなあなたって、とってもスレンダーね。秘訣は狐うどん?」
「おほほほ。そうやも、しれませんわ」
実際は違うのだが、あからさまに否定しないところが、後輩として先輩の顔を立てようと努力するピクルスの配慮だった。
そもそもピクルスは胡瓜とトマトが好物で、鮭や若芽といった海産品なども比較的好んで食す。その他では麺類一般。まあ、その辺りが秘訣といえば秘訣だ。
この日ひねもす、アルデンテ王宮の敷地をくまなく歩いてガイダンスされなければならない。あらゆる設備を把握するためだ。
この王宮は、アインデイアン大陸の主な都市建築には珍しく、ウムラジアン大陸のチャイ帝国都を模した造りの、まるでチェスボードのような整然たる区画様式が採用された。東端と西端には門が構えてある。
西門から入って、右手が女官エリアで、その北東箇所に女官たちの食堂が建っている。そこから北に進むと「フカヒレマート」というコンビニエンス・ストアが二十四時間の営業をしている。屋根の鐘が、続けて三つ鳴った。
パインチッチの主導でおやつを買うことが決まる。
「ピクルス大佐は、どんなスイーツがお好きなの?」
「わたくし、今は完熟西瓜パンに嵌まっておりまして」
「ああ、あれは流行の品よね」
「シュアー。パインチッチさんは?」
「ぱりやっ、ティラミ酢蛸の煎餅だわ。これFA」
いうが早いか、パインチッチは菓子棚に向かった。店内で走ってはいけないことを知らないでもないが、気にもせず胸を揺らし揺らし走った。
店頭のラックに挿し込まれていた新聞の「フライシラコ家の令嬢がアルデンテ王国に潜入!」という見出しが気になるピクルスは、歩み寄る別の王宮女官に気づかなかった。
「もしかしてあなた、この春の新入りかしら?」
背後からの言葉を受け、若干慌てて振り返ると、クルクルしている濃紺の髪をスプリングのように弾ませる少女が立っている。紫色の衣装を着て、背丈はピクルスよりも頭一つ分くらい低い。
右手に完熟西瓜パンの袋を持っていることから察して、決して悪人ではないはずと信じられる。
「いいことなんぞ、一つとしてないのよ」
「そう、ですの?」
「オフコォス。もぉ重過ぎて重過ぎて、体重計壊れたの。二十回も、ぶふぅー」
「ま、まあっ★! ほほ、本当ですの?」
アルデンテ王宮勤め第一日目である新米ピクルスに課された初仕事は、王宮敷地内の地理を覚えること。ガイド役が、女官歴十五年のベテランにして、女官頭の任に就いているパインチッチなのは、あくまで当然といえよう。
今はランチタイムだ。女官たちの食堂で、二人は食べながら話している。
「決まってるでしょ、冗句よ。歯ごたえが命、アルデンテ流の冗句。うふふ」
「で……ですわねえ。おほほほ」
「実際のところ壊れたのはねえ、ただの一回」
「へ……?」
その一回というのは、偶偶不良品を使っていてのこと。
下手なパプリカン・コメディではないのだから、身体が重過ぎるから壊れる体重計など、少なくとも「メイドinアルデンテ王国」の称号を与えられた製品には、一つとして存在し得ない。それは無理な注文だ。
近頃は、貿易自由化政策の荒波が押し寄せ、牛肉・オレンジ・体重計などが、隣のパプリカ連邦共和国から安価で侵流してきている。食料品には、化学肥料・農薬などを使用する点から安全性の面で懸念も多く、また体重計にも粗悪品が多い。
チープとは、安産であろうが、安心と安定と信頼とはいかないことが、はかばかしくなくも常の世である。自身のパインアップル級なる両の乳房が原因で故障させてしまったとばかりに、パインチッチが悲観した体重計は、「粗悪品の代表格を表すレッテル」とまで揶揄されている「メイドinパプリカ」の製品だった。
「やっぱり、ここの酢豚定食『メガトン』は、病みつきだわ。うふふ」
「わたくしは、この『狐うどん』が、お気に飯ましてよ」
「ふうん……けど、そんなのだけで満腹?」
「シュアー!」
ここへ、もう一人女官が現れた。桃色の衣装だ。
「ご機嫌よう、パインチッチさん」
「ああらぁご機嫌よう、パンコちゃん」
「ええっと、そちらは?」
「この生娘ね、今日から働いて貰うことになった四級女官のピクルス大佐。ピクルス大佐、こっちはあなたにとって先輩お姉様の一人になる、二級女官アンドナツ‐パンコちゃん」
女官衣装の色を目で見て、階級は自明なのだが、新人に覚えさせるためにも、口で補う慣例が続いている。
パインチッチが女官頭らしく場を取り仕切ったので、パンコは白色女官に手を差し伸べざるを得なくなった。
「ナス・ミートソース、Missピクルス大佐」
「ナス・ミートソース・ツー、Miss二級女官アンドナツ‐パンコお姉様」
二人は、儀礼的な缶詰のようになってハンドシェイクを交わす。
「ま、そんな堅苦しい社交的お飾りは最初だけ。うふふ」
さりげなく、しんちゅうの釘を打ちつけるパインチッチ。気さくな忠告だ。
これにはパンコも追随する。
「……ええ、そうです。あ、ところでMissピクルス大佐は、うどん派?」
「シュアー♪ それと、わたくしのことは、ピクルス大佐で構いませんわ」
「そう、私も、パンコでいいわ」
「ウィ、パンコ先輩」
「セ・ボン。そんなあなたって、とってもスレンダーね。秘訣は狐うどん?」
「おほほほ。そうやも、しれませんわ」
実際は違うのだが、あからさまに否定しないところが、後輩として先輩の顔を立てようと努力するピクルスの配慮だった。
そもそもピクルスは胡瓜とトマトが好物で、鮭や若芽といった海産品なども比較的好んで食す。その他では麺類一般。まあ、その辺りが秘訣といえば秘訣だ。
この日ひねもす、アルデンテ王宮の敷地をくまなく歩いてガイダンスされなければならない。あらゆる設備を把握するためだ。
この王宮は、アインデイアン大陸の主な都市建築には珍しく、ウムラジアン大陸のチャイ帝国都を模した造りの、まるでチェスボードのような整然たる区画様式が採用された。東端と西端には門が構えてある。
西門から入って、右手が女官エリアで、その北東箇所に女官たちの食堂が建っている。そこから北に進むと「フカヒレマート」というコンビニエンス・ストアが二十四時間の営業をしている。屋根の鐘が、続けて三つ鳴った。
パインチッチの主導でおやつを買うことが決まる。
「ピクルス大佐は、どんなスイーツがお好きなの?」
「わたくし、今は完熟西瓜パンに嵌まっておりまして」
「ああ、あれは流行の品よね」
「シュアー。パインチッチさんは?」
「ぱりやっ、ティラミ酢蛸の煎餅だわ。これFA」
いうが早いか、パインチッチは菓子棚に向かった。店内で走ってはいけないことを知らないでもないが、気にもせず胸を揺らし揺らし走った。
店頭のラックに挿し込まれていた新聞の「フライシラコ家の令嬢がアルデンテ王国に潜入!」という見出しが気になるピクルスは、歩み寄る別の王宮女官に気づかなかった。
「もしかしてあなた、この春の新入りかしら?」
背後からの言葉を受け、若干慌てて振り返ると、クルクルしている濃紺の髪をスプリングのように弾ませる少女が立っている。紫色の衣装を着て、背丈はピクルスよりも頭一つ分くらい低い。
右手に完熟西瓜パンの袋を持っていることから察して、決して悪人ではないはずと信じられる。
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