キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼

文字の大きさ
119 / 121
【第十四幕】アルデンテ王国の危機

謎解きはザラメ軍曹にお任せ

しおりを挟む
 直立不動の状態で待ち構えていたチョリソールがここで口を開く。ピクルスとザラメの会話が一段落したと判断したのだ。

「ピクルス大佐は、ザラメ軍曹にどのようなご用件でしょうか?」
「そうでしたわ。これの匂いを嗅いで下さるかしら?」

 ピクルスは、エプロンのポケットに忍ばせてきたレジ袋を取り出し、中から蝉の抜け殻を一個摘み出した。
 そして、すぐさまそれをザラメ軍曹の鼻先に持って行った。

「わおん! これは、先日チョリソール大尉についていた女性の匂いです!」
「まあ、チョリソール大尉には、そのような仲の恋人がいらして?」
「憎いねぇチョリソール大尉、よっ色男!」
「うぉちょちょつおっ! ちちち、違いまっす!! ごっらぁザラメ軍曹、滅多なことを、そんな軽々しくいうものでは、ないぞぉぉーっ!」

 チョリソールは顔面を真っ赤にして、突如として自身に振りかかってきたスキャンダルを全否定した。

「違いますの?」
「そうです。ピクルス大佐、どうか信じて下さい。私の心の中には、あ……」
「あなたの心の中には?」
「あ、いえ、なにも……」

 喉まで出かかってきた、「あなた様しか、ピクルス姫様しかあり得ません!」という心の底からの雄叫びを、チョリソールは、すんでのところで飲み込んだ。

「そうしますと、その女性の匂いというのは?」
「はい、それは先の日曜日の午後に、私がポプコン山の麓で馬の稽古をしていた時のことです。見慣れない女性が倒れておるのを偶然発見しまして、それで人気のない場所でもありますし、とても気になって私が側へ近づいた途端、その女性が目を覚まして、突然私の下半身に飛びかかってきたのです」
「まあ、そうとうアグレッシブな方、なのですわね?」
「はい。容姿からは、とっくに三十歳を越えているように見えたのですが、なんと私と同じ二十歳だったのです」
「なるほど。分かりましたわ!」

 ピクルスは確信した。

「どういうことでしょう?」
「その女性が犯人ですわ。ええ、フライシラコ‐ピザエスに相違なくてよ!」
「す、すると、そのピザエスという者が、オチタスピのレプリカを盗んだということに、なるのでしょうか?」
「シュアー!」

 先日の真夜中に、ペンネ伯爵から届いた怪しい手紙に、「近日,あなたの大切なχクロスを貰おうと思う.」と書かれていたのはそういう意味だったのだ。しかも、もう一つ、このアルデンテ王国の実権をも奪う、という大それた野心が隠されている。
 そこまでの筋書きを、ピクルスは推理しているのだ。

 ――ズッドォーン!!

 突然、爆発音が聞こえた。

「おや、どこやらの軍隊が爆撃を仕かけてきたのかしら?」
「いやあ、今の爆破は、規模も比較的小さかったですし、それにこの王宮敷地内は、四重の聖水翼賛強結界にて、外部から強固に守られておりますし……」
「そうしますと、きっと内部に忍び込んだ者による小型爆弾での犯行ですわ。爆音は、女官たちの食堂がある辺りから届きました。さあ、チョリソール大尉とザラメ軍曹も、準備はよろしくて? 直ちに急行しますわよっ!」
「ラッジャーッ!!」
「ラジャーわおん!」

 二人と一匹が勢い良く駆け出した。
 エスカレートする嫌がらせ事件も、いよいよ大詰めを迎えた。
 果たして爆破実行犯は誰であろうか? その目的はなんであろうか?

 女官たちの食堂は火の手が上がっていた。
 ピクルスたちが到着した時、王宮消火部門に属している騎士たちもやってきて、ちょうど放水を始めるところだった。
 建物から大勢の女官たちが逃げてくる。先頭を走ってきたのは準一級女官ショコレットだ。その後方にパンコとパインチッチの顔も見える。
 ピクルスがショコレットに駆け寄った。

「ショコレットさん!」
「あピクルス大佐、食堂でラードが暴れたのよ」
「ラード!? あっそういえば、以前わたくしが倒した魔王ギョーザーはラードに転生したのだったわ。倒せまして?」
「ええ、もちろん。でも少しだけ手強い相手でしたわ」

 ラードになってまで戦いを挑んでくるとは、魔王ギョーザーもしぶとい惣菜キャラだといえよう。

「それで、みなさんはご無事ですの?」
「彼女たちは私の防火魔法で守りましたわ」
「さすがは準一級女官さん!」
「それももちろんのことよ。階級では負けても、魔法ではまだまだ負けません」
「ですわ」

 この時、上空を一機のヘリコプターが飛んできた。

「あ、オヤジがきた!」
「チョリソール大尉のお父様ですの?」
「イエッサァー!」

 水を得た海老が跳ねるかのように威勢良く応えるチョリソールだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...