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2章 ヒロゾフへの険しい道のり
二次試験の口頭試問
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一方、リルカは〈口頭試問〉という言葉に大袈裟過ぎる反応を示す。
「えっえぇぇ~~、ななな、何でえ、今からなのお~~っ!」
「そうじゃとも、今からやるのじゃ。まずはリルカ、1足す0は?」
「ひっ。えとぉ、えとえと……じゅう!」
元気いっぱい笑顔いっぱいで叫ぶ少女リルカ。
たとえ真実に反する解答であっても、その純真かつ罪のない表情こそが永遠の真実といえなくもない。だが、そんなリルカの真実に真っ向から異を唱えようとするのがハイデッガ‐ミルティである。
「あはは、リルカってバカだったのねっ、はははは、おっかしいぃ~~」
「むむうっ、バカって云った人はね、云った人は、今度生まれたらカバだよお」
「ぷっ、きゃはははっ~、何それ。そんな話聞いたことないってば、あはあはは、はぁ~、ううっお腹痛いいぃ、ひぃ~」
「うむぉお~~、うるさいよお! 黙れぇ黙れえぇ~~」
笑い過ぎて苦しそうに喘ぐミルティ。
対するリルカは今にも噛みつかんばかりに身構えている。温和なリルカがここまで怒る姿も珍しい。
「おうおう、仲よしさん同士になったばかりというに、さっそく喧嘩を始めおったわい。こりゃこりゃ、止さんか二人とも」
「だってだってぇ、ミルティがぁ~、すっごい笑うんだよお!」
「それはリルカが笑わしてくれるからよ。きゃは、はははは~~」
涙まで流して、リルカのことを笑い飛ばし続けるミルティ。
そしてリルカの方は膨れっ面をしている。
(何だよ、この流れは……ここは、これでも学問所なのか?)
一人で呆れているセブルに対して、今からカントゥによる口頭試問が始まろうとしている。セブルにはどのような問題が出されるのであろうか。
「困ったちゃんの二人は放っておくとして、では次はセブルの口頭試問じゃ!」
「はいっ!」
カントゥが低い声でセブルに尋ねる。
「1足す0は?」
「1だ」
間に髪一本すら容れずにセブルが答えた。
(というか、何でこんな簡単なのが二次試験だよ……)
すると、ようやく笑いが収まりかけていたミルティが再び吹き出す。
「ぷぷっ、ははは。何よ何よリルカだけじゃなくて、セブルもバカだったわ、あははは。ダメねえ二人とも」
「おい待てよ、1で合ってるだろう! バカはそっちの方だ、ミルティ」
「違うわ、答えは0。だって0は何もないってこと。存在しないことなの。だから0を足すと0。つまり存在しなくなってしまうのよ! あ、それとセブル、気安くミルティなんて呼ばないでよね、危うく聞き流すとこだったわ、全くぅ!」
ミルティの林檎、いや紅玉から放たれる光が、セブルの顔を射るかのごとく、その厳しさを露わに見せている。
「いや待てよ、だったら僕のことも、気安くセブルなんて呼ぶなよ」
「どうしてよぉ、あんたセブルなんだからいいじゃない!」
「だとすれば、そっちもミルティだよな」
だが、ここでフッゼルが口を挟む。
「ちょっと待て」
「何だよ!」
「ミルティのいう通りだ。身内でもない男子が許しもなく女の子を下の名前で呼ぶなど、もっての他。それはセクハラだぞ」
「セクハラってどういうこと?」
「セクシャル・ハラスメント。性的嫌がらせという意味だ」
セブルにもリルカにとっても、初めて耳にする言葉だった。
「性的嫌がらせ? 何だそれ」
「セブル嫌がらせ、したのお?」
二人揃って首を傾げている。
「ゲルマーヌ国では、女の子が親しくもない男から下の名前で呼ばれることは、下着の中に手を突っ込まれるのと同じくらい屈辱的なことなのだ」
「は?」
「ええええ、えっ、え、ええぇぇ~~~っ!」
セブルは普通に唖然となっただけだが、リルカの方はこれでもかというくらいの驚きようだ。
「ええっセブルぅ~、そんなエッチなことしちゃったのお! ああ、でもでも待ってよお、わたし、もう何度も何度もリルカって呼ばれてしまってるよお。わあ、どうしよお、もう何回わたしの下着に手ぇ突っ込んだのお~~」
興奮したリルカが左右の握り拳を上下に激しくブンブンと振り回す。
「いや、違うだろ。というより、危ないからやめろぉ!」
「わあぁぁ、いいやあぁぁ~~、わたしもう、この下着、二度と穿けないよお~」
「最低だわ、セブル。ちゃんと新品の下着買って弁償してあげなさいよねっ、一番可愛いやつよっ!」
「おいおいっ、何云ってんだ!」
「もおぅ、セブルなんか溶けてなくなっちゃえ。塩水持ってきてよお~」
「だから落ち着けってば!」
その時フッゼルがガラス製の容器をリルカに手渡した。
「塩水はないが、高濃度塩酸と高濃度硝酸を三対一の体積比で混合させたものならあるぞ。シルバー以外の金属を溶かす。だが人体には、こちらの蛍石を砕いたものに高濃度硫酸を加えて――」
「いいい、いらないですからっ! フッゼルさんやめてくださいって。謝りますです、僕が悪かったますですたられば、だからですって! ほらほら、リルカもさっさと返せ、そんな劇物!」
「げぇ、劇物!? ええええええええぇ~~~~」
リルカは慌てて容器をフッゼルの手に戻す。どうやら塩水と同レベルに考えていたようだ。無知とは劇物同様に大変危険である。
「ふぅ~、どうにか助かったあ」
ボヤきながらセブルはミルティの正面まで歩み寄る。
「ゲルマーヌ国のしきたりを知らなかったとはいえ悪かった。うっかり下の名前で呼んでしまって……」
丁寧に頭を下げるセブル。そんな真摯な姿を見て、フッゼルとカントゥは目を交わし頷き合った。
「えっえぇぇ~~、ななな、何でえ、今からなのお~~っ!」
「そうじゃとも、今からやるのじゃ。まずはリルカ、1足す0は?」
「ひっ。えとぉ、えとえと……じゅう!」
元気いっぱい笑顔いっぱいで叫ぶ少女リルカ。
たとえ真実に反する解答であっても、その純真かつ罪のない表情こそが永遠の真実といえなくもない。だが、そんなリルカの真実に真っ向から異を唱えようとするのがハイデッガ‐ミルティである。
「あはは、リルカってバカだったのねっ、はははは、おっかしいぃ~~」
「むむうっ、バカって云った人はね、云った人は、今度生まれたらカバだよお」
「ぷっ、きゃはははっ~、何それ。そんな話聞いたことないってば、あはあはは、はぁ~、ううっお腹痛いいぃ、ひぃ~」
「うむぉお~~、うるさいよお! 黙れぇ黙れえぇ~~」
笑い過ぎて苦しそうに喘ぐミルティ。
対するリルカは今にも噛みつかんばかりに身構えている。温和なリルカがここまで怒る姿も珍しい。
「おうおう、仲よしさん同士になったばかりというに、さっそく喧嘩を始めおったわい。こりゃこりゃ、止さんか二人とも」
「だってだってぇ、ミルティがぁ~、すっごい笑うんだよお!」
「それはリルカが笑わしてくれるからよ。きゃは、はははは~~」
涙まで流して、リルカのことを笑い飛ばし続けるミルティ。
そしてリルカの方は膨れっ面をしている。
(何だよ、この流れは……ここは、これでも学問所なのか?)
一人で呆れているセブルに対して、今からカントゥによる口頭試問が始まろうとしている。セブルにはどのような問題が出されるのであろうか。
「困ったちゃんの二人は放っておくとして、では次はセブルの口頭試問じゃ!」
「はいっ!」
カントゥが低い声でセブルに尋ねる。
「1足す0は?」
「1だ」
間に髪一本すら容れずにセブルが答えた。
(というか、何でこんな簡単なのが二次試験だよ……)
すると、ようやく笑いが収まりかけていたミルティが再び吹き出す。
「ぷぷっ、ははは。何よ何よリルカだけじゃなくて、セブルもバカだったわ、あははは。ダメねえ二人とも」
「おい待てよ、1で合ってるだろう! バカはそっちの方だ、ミルティ」
「違うわ、答えは0。だって0は何もないってこと。存在しないことなの。だから0を足すと0。つまり存在しなくなってしまうのよ! あ、それとセブル、気安くミルティなんて呼ばないでよね、危うく聞き流すとこだったわ、全くぅ!」
ミルティの林檎、いや紅玉から放たれる光が、セブルの顔を射るかのごとく、その厳しさを露わに見せている。
「いや待てよ、だったら僕のことも、気安くセブルなんて呼ぶなよ」
「どうしてよぉ、あんたセブルなんだからいいじゃない!」
「だとすれば、そっちもミルティだよな」
だが、ここでフッゼルが口を挟む。
「ちょっと待て」
「何だよ!」
「ミルティのいう通りだ。身内でもない男子が許しもなく女の子を下の名前で呼ぶなど、もっての他。それはセクハラだぞ」
「セクハラってどういうこと?」
「セクシャル・ハラスメント。性的嫌がらせという意味だ」
セブルにもリルカにとっても、初めて耳にする言葉だった。
「性的嫌がらせ? 何だそれ」
「セブル嫌がらせ、したのお?」
二人揃って首を傾げている。
「ゲルマーヌ国では、女の子が親しくもない男から下の名前で呼ばれることは、下着の中に手を突っ込まれるのと同じくらい屈辱的なことなのだ」
「は?」
「ええええ、えっ、え、ええぇぇ~~~っ!」
セブルは普通に唖然となっただけだが、リルカの方はこれでもかというくらいの驚きようだ。
「ええっセブルぅ~、そんなエッチなことしちゃったのお! ああ、でもでも待ってよお、わたし、もう何度も何度もリルカって呼ばれてしまってるよお。わあ、どうしよお、もう何回わたしの下着に手ぇ突っ込んだのお~~」
興奮したリルカが左右の握り拳を上下に激しくブンブンと振り回す。
「いや、違うだろ。というより、危ないからやめろぉ!」
「わあぁぁ、いいやあぁぁ~~、わたしもう、この下着、二度と穿けないよお~」
「最低だわ、セブル。ちゃんと新品の下着買って弁償してあげなさいよねっ、一番可愛いやつよっ!」
「おいおいっ、何云ってんだ!」
「もおぅ、セブルなんか溶けてなくなっちゃえ。塩水持ってきてよお~」
「だから落ち着けってば!」
その時フッゼルがガラス製の容器をリルカに手渡した。
「塩水はないが、高濃度塩酸と高濃度硝酸を三対一の体積比で混合させたものならあるぞ。シルバー以外の金属を溶かす。だが人体には、こちらの蛍石を砕いたものに高濃度硫酸を加えて――」
「いいい、いらないですからっ! フッゼルさんやめてくださいって。謝りますです、僕が悪かったますですたられば、だからですって! ほらほら、リルカもさっさと返せ、そんな劇物!」
「げぇ、劇物!? ええええええええぇ~~~~」
リルカは慌てて容器をフッゼルの手に戻す。どうやら塩水と同レベルに考えていたようだ。無知とは劇物同様に大変危険である。
「ふぅ~、どうにか助かったあ」
ボヤきながらセブルはミルティの正面まで歩み寄る。
「ゲルマーヌ国のしきたりを知らなかったとはいえ悪かった。うっかり下の名前で呼んでしまって……」
丁寧に頭を下げるセブル。そんな真摯な姿を見て、フッゼルとカントゥは目を交わし頷き合った。
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