この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第五章 第三十一回紅白歌合わせ

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 ここへ大臣が御座します。

「これ頼道、MP400は用意できたのか? 天がお待ちぞ」
「あっお父ちゃ、あいえ大臣、そ、それがそのう……」

 司会者は口ごもってしまう。
 大臣が、落ち込んでいる笙に宣はす。

「ん? 笙、どないした?」

 笙はこれまでのいきさつを奏す。

「――とまあ、こんな状況なのです」
「そうかぁ、それは難儀じゃなあ~」
「はい……あ、そうだ。大臣もMPをお持ちでしたよね。MP100をお出し願えませんか? そうすれば四人でMP100ずつとなり、余りが出ません」
「MP100か。うむむむぅ~」

 普段は何のお悩みもお持ちでない大臣だが、今回ばかりはお悩みのようだ。なぜなら来週発売の雑誌『平餡エッチ』を、どうしてもご所望なのだから。

「うむ、そうじゃのう」

 しばらくお考えになり、お気づき遊ばす。

(何も悩む必要などないではないか。そうだそうだ。中納言の奴めがMPを使って必ずや『平餡エッチ』を手に入れる筈。それを横取りしてやればよいではないか。何しろあいつんちは、凄いMP持ちだからな。中納言のものは我のもの。我のものは我のもの。文句言う奴はぶん殴ってやる)

 大臣がご決意遊ばした。

「うむ、決めたぞ。我もMP100を出そう」
「ありがとうございます!」

 これで天にお願いすることができる。

        ・

 俗人のお願いが叶って、特例として判者である花実の退場が許可された。
 だが肝心の救護はまだこれからなのだ。

「それから大臣様、あのう、救急車のようなものを呼べますでしょうか?」
「うむ、俗人と申したな。そのようなものはないが、救牛車きゅうぎゅうしゃならある。これ頼道、救牛車を呼べ。さあ呼べ、すぐ呼べ。はよう呼ばぬか!」

 司会者は慌てて信号弾を打ち上げた。救牛車を呼ぶ合図なのだ。
 しばらくすると、「もおぉ~~~」という大きな鳴き声が聞こえてきた。そちらを見ると、紅い牛が白い車を引いてやってくる。通常の牛の三倍の歩速で歩んでいる。

 こうして、花実は僧子のつき添いで療養所へ運ばれることになった。定子様の女房の清原きよはらさんも一緒に救牛車に乗った。彼女は、この世界について俗人に教えてあげた、たいそう賢い黄鬼の女性。そのうえ美人でもある。もう一度繰り返す。たいそうだ!

「ありがとうございます。ありがとうございます!」

 俗人はみんなに向かって深く頭を下げた。

「うむ、俗人。そちの歌は実に素晴らしい。残りの戦いも楽しみにしておるぞ」
「はい、励みます!」
「ああそれより、なぜあの女子おなごの体調を直して欲しいと願わなかったのじゃ?」
「あ!」

 とき既に遅しである……。

 戦いが中断していることで、会場内はかなりざわついている。
 ここで司会者が戦場に立ち説明を始めた。

「えー、お待たせしております。ただいま判者の花実さんが具合を悪くされたため、救牛車で運ばれました。本来ですと、終戦までは会場外へ出ることができませんけれども、大臣・俗人さん・笙さん・鈴さんがMPをお使いになり、天にお願いして許可を得ることができたのです」

 会場内のいたるところから盛大な拍手が送られてきた。
 彰子と彼女の女房たちも懸命に拍手しており、何人かは涙を流している。きっとみんな根はたいそう心の優しい人たちばかりなのだろう。

「ご理解ありがとうございます。戦いはまもなく再開いたします。つきましては判者が一人少なくなりますが、今回は特例として、その分の判定を無条件で『いいよ』とみなします。さあ、それでは七回戦に参りましょう!」

 お願いをしたことでMPがDOWNしたため、俗人たちの順位が変化した。
 第四位だった紅戦士のMP112が第一位になり第二位は笙のMP101。第三位が鈴のMP98、第四位が紅戦士のMP97、第五位が白戦士のMP88で、以下、俗人のMP78、白戦士のMP76、紅戦士のMP73と続く。

 戦い続行だ。さあ面白くなってきた!
 花実のことが心配でしばらく心臓がドキドキしていた俗人は、自分の番がくるまでに落ち着こうとした。

(花実ちゃんのためにも、それからMPを出してくれた大臣・笙さん・鈴さんの恩に報いるためにも、もちろん僧子のためにも、僕は頑張らないといけない)

 そう考えることで平静さを取り戻した俗人。
 どうにか満点UPを続けることができた。それで八回戦が終わった時点には、第四位にまで上がったのだ。
 ここでまた司会者が戦場に立った。

「さあ残すところ九回戦のみとなりましたが、お知らせがあります」
「おっ、どうした?」
「また何ぞあったのかしらん?」
「なんだ、今度は何が起きたんだ!」
「えー、今から天のお告げがあります。みなさんどうかお静かに願います。それでは天、どうぞっ!」
『アーアー。聞こえているわね? 天よ。よくお聞きなさい。でないと天罰よ』

 天の声が届き始めるとすぐに会場内が静まり返った。

『ごほん。えー、紅白熱こうはくねつした戦いが続き、天は満足よ。記念すべき第三十一回紅白歌合わせにふさわしい戦いぶりね。だから特別俸給MPを第二位にも与えることにしたわ。複数の戦士が該当しても、それぞれに与えるのよ。最後の最後まで、持てる力の限り戦うように。以上ですわ』
「はいはい天。どうもどうも、ありがとうございましたっ!」

 司会者が恭しく天に向かって頭を上げた。

「うぉ~~」
「いいぞぉ、さすが天だ!」
「そうよ、そうよ~」

 会場内の人も天に向かって歓声を上げた。
 今のお告げは俗人にとっても嬉しいことである。希望が増したのだ。
 そして九回戦が始まり、まず第一位の紅戦士に対する結果が出た。MP19UPで彼女の総合計点はMP169に確定した。

 ここへきて俗人は少し困っている。これまで今回のお題「紅」に則した和歌を選んで歌ってきたが、都合のよい歌が尽きてしまったのだ。
 紅葉や梅に関する歌で、まだ知っているものも残ってはいるのだが、それをうまく歌って解説までする自信がない。

(笙さんも鈴さんも、最後の歌で勝負してくるに違いない。現時点での第一位はMP169だけれど、恐らく二人のMPはそれを追い越すだろう。そうなると僕が第二位以上を狙うには満点UPでMP171としなければならないなあ)

 俗人は悩んでいる。

(ん~、どうするか)

『俗人、俗人。聞こえるか?』

(うん。確かに声が聞こえるって、えっ、白夜なの?)

 声は俗人の心に直接届いている。

『そうだ、私だ』

 俗人の心の声もまた、ちゃんと白夜に届いている。

(白夜!)

『私はずっと俗人の戦いを見ていたぞ。素晴らしい戦いだ。俗人には戦いに集中して貰いたいので、ずっと話しかけずにいた。俗人はよく頑張っているぞ』

(白夜、あの錠剤を食べたんだね)

『そうだ食べたぞ。あ、それと花実は大丈夫だ。すっかり元気になって、今そちらに向かっている』

(えっ、本当!)

『本当だ。もう心配はないぞ』

(よかった! 花実ちゃんは無事なんだ)

『俗人は今悩んでいるのだろ。だが負けるな。ここで緩むな。無難な歌に逃げようとするな。俗人も分かっていると思うが、ここで満点UPできない限り、恐らく勝ちはない。だから勝負に出ろ!』

(勝負に?)

『そうだ。勝負だ!』

(分かった。白夜、ありがとう)

『よし。それでは、私はまた黙って見守ることにする』

 これを最後に白夜からの声は途絶えた。

「うん、よし。勝負だ!」

 このときだった。

「酢雀先輩!」
「お兄ちゃ~ん」
「えっ、花実ちゃん? 僧子?」

 判者席に花実が戻っている。すぐ傍に僧子もいる。

「花実ちゃ~ん、もう大丈夫なのーっ!」

 俗人も、判者席までしっかり届くように大声で叫んだ。

「は~い! 心配おかけしましたー。MP使わせてしまってしゅみませ、あてて。すみませーん!」
「MPのことはいいよーっ! それよりも無事でよかったよぉー」
「療養所で少し横になってぇ、これ飲んだら気分もよくなりましたでっす!」

 花実が〈男根エキスウォーター〉のペットボトルを振っている。

「あっ、そうか。それみんなに飲んで貰うんだったね」

 土産の積りで四十箱も持ってきている。定子様のお邸に置いてあったのだが、戻ってくるときに立ち寄り、ここまで牛車で運んできたのだ。
 花実と僧子は判者たちにペットボトルを配り始めた。

「先ほどは、とても大変お騒がせしてしまいました。こ、これは、異世界からのお土産でしゅ。どうぞ、お飲みください!」

 定子様の女房たちも、観者席のみんなに配って歩いている。
 各戦士の手にも順に行き渡る。司会者でありながら、真っ先に貰った頼道はもう飲み干していた。
 こうして、男根エキスウォーターを飲みながらも戦いは続く。
 もちろん俗人も飲んだ。飲みながら考えて思いついた。

「よし、それでいこう」

 そしてついに俗人の番となった。
 意を決し、歌い出す。

 ――はなみしてぇ~ 先輩たちとぉ 男根のぉ~♪
 ――エキスウォータ~ いとビンビンだぁ~♪

「質問!」

 予想通り質問が出たので、俗人が解説を始める。
 最初に花実を紹介した。
 判者席の花実は席を立ち、観者席のみんなにお辞儀をする。

「牡椋花実でぇ~~す。酢雀俗人戦士と一緒に、はるばる異世界からやってきましたのです。てへへ」
「おぉ~、いとうつくし」
「らうたし、らうたし!」

 このとき突風が吹いた。これは神風ならぬ天風てんかぜかもしれない。そのせいで花実のスカートが見事なまでのめくれ方をする。

「いや~だぁ」

 真っ白。またまた可愛い。花実には白が映える。

「すげ~、超かあえぇぇ~、男根ビンビン」
「チョベリ・プリティ・パンチィ! アーイ・ラヴゥ・ユゥー!」
「まじ、可愛いー。白さいこー、男根にズッコンときたぁー」

 俗人もしっかり見た。それは、まるで白戦士俗人の応援旗であるかのようにも思えた。向こうの世界の白夜もきっと「実に嫌な風だった」と言いながらも、嬉しそうに見ていることだろう。
 花実はたくさんの声援を貰って照れて頬を染めている。こちらは紅色だ。
 それにしてもやはり、この世界でも男根は正義だ、希望だ、勇気だ。花実の可愛いパンツお披露目で、男根の偏差値は急上昇したのである。
 俗人が解説を続ける。
 花実が俗人・白夜と一緒に花見をしながら男根エキスウォーターを飲み、たいそう美味しかったこと。その情景を詠んだ花実の初めての和歌が、今の歌であると。
 そして最後につけ加える。

「僕たちの住む世界でお花見というのは、普通は桜です。特に僕たちは、その花びらが淡い桃色のものを好みます。まるで紅と白とが優しく融和したような、そんな美しい桃色なのです」

 俗人の解説が終わるとすぐに判定が始まった。

「いいよ、いいよ、いいよ! まじいいよ!」
「うんいいよ! いいよ~、…………、いいよっ!」
「くぅ~いいよ! いいよお、…………、いいよぉ!」
「いいよぉ、いいよっ、…………、いいよぉ!」

 十四人の判者が「いいよ」を言った。
 他の戦士も全員「いいよ」だ。
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