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しおりを挟む全身黒の司祭服で現れた5人の使者が、白のストラを肩に掛けた男性を先頭に入場してきた。
フードを目深に被り、宝石一つ付けていない地味な衣装は、夜会にはそぐわないものだった。けれど、その使者達の纏う空気に、会場内の貴族達が気圧されている。
「さあ、聖王国の使者よ!今ここでダリアが聖女であることを証明してくれ!」
陛下が顔を高揚させて、大仰に両手を天に掲げる。
「アーレント王よ、何度も言うが、これは聖女を任命する儀式ではない。神の審判であり、神事。それでもこの場でやると?」
白のストラを掛けた使者が、抑揚のない声で陛下に問いかける。その声は、決して大きくはないはずなのに、会場中にしっかりと届いていた。
「もちろんだ!ダリアは間違いなく聖女。それを皆に見てもらいたい。そして約束通り、そなたは聖王国の代表として聖女に忠誠を誓うのだ。」
「約束しよう。」
そう言うと、使者達が一斉にフードを取った。
それぞれ違った精悍な美しい顔立ちに、会場中の視線が集まる。
そんな中、使者の1人がベルベットの箱から花型の瓶を取り出した。そして颯爽と階段を登る。揺れる緑がかった銀髪が、ストラと共に後ろに流れて煌めいていた。
「では、始める。」
使者がダリア様の前に立つと、手に持っていた瓶にゆっくりと魔力を流す。
「ちょ、ちょっと待ってください!あ、あの。」
今まさに瓶の蓋が開こうとした瞬間、ダリア様が使者を止めた。
「ダリア、なにを!」
「ご、ごめんなさい、お父様。私、不安で。だからウィルフレイ様に近くにいてほしくて。」
「分かった。リングドン、ここへ。」
陛下の呼び声で、ウィルが前へ出る。
ウィルは警備の近衛騎士と同じ騎士服を着ていた。
無表情で壇上へ上がったウィルは、使者を一瞥するとダリア様の後ろに控えた。
「あ、あと、リルメリア様にもちゃんと見届けてほしいです。私が聖女だって...」
俯きながら話したダリア様の声は、私の所にも届いた。
「ダリア、それは...」
「お願いです、お父様!私が聖女として覚悟できるように。リルメリア様を怖がっていた自分をここで終わりにしたいんです。」
「はあ、わかった。仕方ない。可愛いお前の頼みだ。アルト嬢もここへ。」
私は、止めようとするお父様とお母様に無言で首を振った後、前へ進んだ。
「リルメリア嬢、ダメです。」
「大丈夫です、ゲイツ様。」
ゲイツ様が、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも送り出してくれた。
視線が集まる中、私はヒールを響かせ、一歩一歩時間を掛けて階段を登った。
私はぞんざいに案内された壇上の端で、事の成り行きを見守る。
「もういいか?何度も言うが、これは神事。何人も汚すことも介入することも止めることも出来ない。心するように。」
使者の手にあった花の瓶が、ゆっくりと綻びながら開く。
そこから溢れる不思議な魔力は、どこか春の日差しのように暖かかった。
フードを目深に被り、宝石一つ付けていない地味な衣装は、夜会にはそぐわないものだった。けれど、その使者達の纏う空気に、会場内の貴族達が気圧されている。
「さあ、聖王国の使者よ!今ここでダリアが聖女であることを証明してくれ!」
陛下が顔を高揚させて、大仰に両手を天に掲げる。
「アーレント王よ、何度も言うが、これは聖女を任命する儀式ではない。神の審判であり、神事。それでもこの場でやると?」
白のストラを掛けた使者が、抑揚のない声で陛下に問いかける。その声は、決して大きくはないはずなのに、会場中にしっかりと届いていた。
「もちろんだ!ダリアは間違いなく聖女。それを皆に見てもらいたい。そして約束通り、そなたは聖王国の代表として聖女に忠誠を誓うのだ。」
「約束しよう。」
そう言うと、使者達が一斉にフードを取った。
それぞれ違った精悍な美しい顔立ちに、会場中の視線が集まる。
そんな中、使者の1人がベルベットの箱から花型の瓶を取り出した。そして颯爽と階段を登る。揺れる緑がかった銀髪が、ストラと共に後ろに流れて煌めいていた。
「では、始める。」
使者がダリア様の前に立つと、手に持っていた瓶にゆっくりと魔力を流す。
「ちょ、ちょっと待ってください!あ、あの。」
今まさに瓶の蓋が開こうとした瞬間、ダリア様が使者を止めた。
「ダリア、なにを!」
「ご、ごめんなさい、お父様。私、不安で。だからウィルフレイ様に近くにいてほしくて。」
「分かった。リングドン、ここへ。」
陛下の呼び声で、ウィルが前へ出る。
ウィルは警備の近衛騎士と同じ騎士服を着ていた。
無表情で壇上へ上がったウィルは、使者を一瞥するとダリア様の後ろに控えた。
「あ、あと、リルメリア様にもちゃんと見届けてほしいです。私が聖女だって...」
俯きながら話したダリア様の声は、私の所にも届いた。
「ダリア、それは...」
「お願いです、お父様!私が聖女として覚悟できるように。リルメリア様を怖がっていた自分をここで終わりにしたいんです。」
「はあ、わかった。仕方ない。可愛いお前の頼みだ。アルト嬢もここへ。」
私は、止めようとするお父様とお母様に無言で首を振った後、前へ進んだ。
「リルメリア嬢、ダメです。」
「大丈夫です、ゲイツ様。」
ゲイツ様が、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも送り出してくれた。
視線が集まる中、私はヒールを響かせ、一歩一歩時間を掛けて階段を登った。
私はぞんざいに案内された壇上の端で、事の成り行きを見守る。
「もういいか?何度も言うが、これは神事。何人も汚すことも介入することも止めることも出来ない。心するように。」
使者の手にあった花の瓶が、ゆっくりと綻びながら開く。
そこから溢れる不思議な魔力は、どこか春の日差しのように暖かかった。
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