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「このっ、出来損ない!あんたが、そんなだから、いつまでたっても迎えが来ないのよ!今まで私達が、あんたにいくら使ったか分かってんの!?」


ごめんなさい。
ごめんなさい、お母さん。
私、もっと頑張るから、怒らないで。


「お前には、神に選ばれた印があるんだぞ!なのに、どうして...、どうしてなんだ!?お前の髪が、こんな汚らしい赤毛だからか!?お前のせいで、俺達は町中の笑い者なんだぞ!」


ごめんなさい、この髪は染めるから。
言われた通り可愛くなるから。
だから許して。
もう殴らないで、お父さん。


「もういい。お前は売る。お前のような出来損ないに、夢を見たのがバカだった!」



ヤダ、嫌だ!
捨てないで!

ごめんなさい。
許して。
痛いのはイヤ。
ごめんなさい。
何も出来なくて、ごめんなさい。
可愛くなくて、ごめんなさい。

でも、お願い。どうか私を愛して...。








「はっ!は、はあ、はあ。」

嫌な夢を見た。
いや、思い出した。
子供の頃の最悪な日の記憶を。


大丈夫。
ここは私の部屋。
あの地獄じゃない。

見慣れた天井が、私の破裂しそうな程脈打つ心臓を慰めてくれる。


ふと目に入った窓の外は、まだ薄暗い。
でも、もう眠れない。
汗で張り付いた寝衣が、気持ち悪かった。

私はベッドから抜け出し、部屋の隅に置かれた鏡の前に立った。

どこにでもいる平凡な顔立ち。そして、癖の強い赤い髪。
今日も大嫌いな自分の姿が、鏡に写っている。
乱れた寝衣の胸元から覗く大輪の花の印が、お前は不要な存在なのだと、私に訴えていた。






遥か昔、突如として、空に大きな亀裂が入った。そしてそこから、禍々しい魔が滝のように、この世界へ流れ込んできた。
やがて魔は、世界に破滅を齎す魔物を生み出す。瞬く間に、魔物は世界に広がり、弱い命を蹂躙していった。

絶望が世界を覆う中、人々を哀れんだ慈悲深き神が、種族の代表者に魔を払う力を与えた。
それから長い長い激闘の末、彼らは神の力で魔物を倒し、世界から魔を消し去った。
英雄となった彼らを、人々は畏敬を込めて、異能者と呼ぶ。

危機が去った後も、その力は代々子孫達に受け継がれ、異能者は未だ世界に残る魔物と戦い続けている。
しかし、強すぎる力は、異能者を徐々に苦しめ始めた。そんな彼らに、神は再び救いを与えた。


運命の番。
神が生み出した異能者の番は、疲弊する彼らの魂を癒す存在となった。番が世界の何処かに生まれると、その胸に咲く花の印が、異能者に自らの居場所を教えるのだという。
番を得た多くの異能者は、その番を伴侶に迎え、生涯を平穏に生きた。




サージェント王国の辺境の田舎町に生まれた私にも、異能者の番の証、花印があった。
貧しい家庭に生まれた私は、両親にとって辛い生活から抜け出す希望になった。

けれど、私を迎えに来る異能者はいなかった。何年待っても。
両親は精一杯、なけなしのお金で私を飾り立てた。私の存在を異能者に知らせるために。それでも終ぞ、私の下へ誰かが来る事はなかった。

絶望した両親は、10歳を迎えた私を売った。
その日から2年、私は奴隷として苦痛の日々を生きる事になる。







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