平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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次の日も、その次の日も、味をしめた文官達は、私に仕事を押し付けるようになった。その量も、段々と増えてきている。

保管室から出る暇がなくなったおかげで、誰ともと顔を合わせる事なく、平穏に過ごせているのだから、私にとっては良かったのかもしれないけど。

私は、奥から引っ張り出してきたサイドテーブルにお茶と軽食を並べて、うず高く積み上げられた書類に取り掛かった。




「ステラは、もう仕事?毎日帰りが遅いって、マイヤから聞いたけど、大丈夫?」
朝日が降り注ぐ回廊で、夜勤明けのアレン様と出会した。


「お疲れ様です、アレン様。この仕事は、今だけですから、大丈夫です。それに、やり甲斐もありますし!」

「でも、顔色が悪い。陛下も心配してたよ。」
アレン様の指が、私の目元に刻まれた隈を優しく擦る。


「ア、アレン様っ!」

「ん?」

指から流れ込むアレン様の魔力と、引き込まれるような蠱惑的な微笑みに、私の心臓が悲鳴を上げた。あまり表情の変わらない私の顔が、一気に赤く染まる。


「フフッ、少し顔色が戻ったね。」

「アレン様...。」
アレン様は、私を揶揄って遊んでいたらしい。私は少しだけ目を細めて、アレン様を見返した。



「人目がある廊下で、堂々と相引きか?見苦しい。」

私の中で、すっかりトラウマになってしまった声が聞こえ、反射的に体が動きを止める。それでも私は、何とか作法通りに腰を落として頭を下げた。

そんな私を庇うように、アレン様が一歩、前に出た。アレン様の大きな背が、ヴェイル殿下の姿を遮る。


「見苦しい姿をお見せしました事、謝罪いたします。実は、僕にとって妹のような存在の彼女が、連日の不慣れな仕事に疲弊しておりまして。ついつい、人目を憚らず、母国の時のように接してしまいました。我らが王も、可愛がっている彼女を大変心配しております。どうか、ご理解下さい。」

「随分、その侍女を評価しているんだな。私の下にいる文官達は違うようだが。」

「それは、見る目のない!ステラは、優秀な女性ですよ。きっとその文官達は、人を身分でしか評価出来ないのでしょう。まさか、殿下もそうなのですか?獣人は、実力主義だと聞きましたが、残念です。」

ヴェイル殿下とアレン様の間に、火花が散る。どちらも譲る気がないのか、お互いから目を逸らさない。


こんな所を誰かに見られたら、国同士の問題になってしまう。
止めなきゃいけない。
私が止めなければ...。

でも、アレン様の言葉が嬉しくて、嬉しくて。
私の体は、その場から動くことが出来なかった。

気付くと、ポロポロと涙が溢れる。
人前では、泣かないと決めていたのに。
私は涙を止めるために、無我夢中で数を数えた。


「ステラ!ごめん。怖かったよね。顔色が真っ青だ。一度戻ろう。」
私の泣く姿に驚いたアレン様は、オロオロしながら私を抱き上げた。そして、ヴェイル殿下を放ったまま、一目散に廊下を駆け出していった。



「やめろ...。泣くな。」
ボソリと呟いたヴェイル殿下の声は、私には届かなかった。


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