13 / 163
1-11
しおりを挟む
あの後、中々泣き止めなかった私は、アレン様と同僚の侍女達に散々心配をかけてしまった。しかも、彼らはこのまま私が仕事を休めるよう、面倒な手配までしてくれていたのだ。でも、私は頑なにそれを断った。
ずっと寄り添ってくれた彼らの優しさに、私自身が負けたままで終わりたくないと強く思ったから。
私は、腫れた目を化粧で誤魔化して、もう一度仕事に向かった。
仕事に遅れた私が部室に入ると、案の定、文官達からは厳しい視線を向けられた。
迷惑をかけた事を謝り、すっかり私専用になった保管室に入る。すると、小さな机の上には、嫌がらせのような書類の山が出来上がっていた。
今日は、帰れないかもしれないわね。
でも、負けないって決めたんだもの。
頑張ろう。
私は休んだ時間を取り戻すため、集中して机に向かった。
ふと気付くと、部屋の中が暗くなっていた。どうやら私は、随分と集中していたらしい。
痛む肩をほぐしながら、残りの仕事を確認すると、机にあった書類は、粗方片付いていた。けれど、次に目に入った光景に、私の気分は地まで落ちる。
扉の前には、いつの間に置かれたのか、新しい書類の山が出来上がっていたのだ。
「はあ、今日は完全に徹夜ね。」
私はブラウスの第一ボタンを外して、首にかけている魔石を取り出した。
温かい...。
優しい温もりが、毛羽立った私の心を宥めてくれた。
「おい、何をやっている。」
静寂に包まれた空気を、刃のような声が切り裂く。
座ったまま振り返った先には、眉間に皺を寄せたヴェイル殿下が立っていた。
「殿下!?申し訳ありません!遅れてしまった仕事をしておりました。明日までには、終わらせます。」
「この量をか?」
「はい、必ず。」
ヴェイル殿下は、急いで立ち上がった私の前を通り過ぎ、纏め終えたばかりの書類に手を伸ばした。
静かな部屋に、パラパラと紙を捲る音が響く。
「この字...。では、今まで提出されたものは...。いや、でも...。」
ヴェイル殿下が書類に視線を落としながら、何かを呟いている。
「おい!」
「は、はい!」
いきなり呼ばれて、声が裏返ってしまった。
私は恐々顔を上げて、ヴェイル殿下の次の言葉を待った。
「この部屋は、何だ?なぜ、皆と同じ部屋を使わない?机なら人数分用意したはずだ。」
「そ、それは...。」
言ってもいいのだろうか...。
でも、この指示を出したのは、この方の副官だ。揉めれば、きっと面倒な事になる。
下手に波風を立てるぐらいなら、私が我慢した方がいい。
私は近い内に、この国からいなくなるのだから。
「そ、その。私が、お願いしたんです。人がいない方が落ち着くので。」
「...寒く、は、ないのか?」
ボソボソと呟いたヴェイル殿下の声が小さくて、よく聞こえなかった。聞き返そうとした時、再びヴェイル殿下が口を開く。
「よ、夜も更けた時間に、こんな部屋とも言えない倉庫にいて、寒くはないのか?」
ヴェイル殿下の視線の先には、私が用意したポットと分厚いブランケットがある。
「大丈夫です。」
「本当か?しかし、...ん?それは...。」
ヴェイル殿下の訝しむような眼差しが、私の胸元で止まった。
ずっと寄り添ってくれた彼らの優しさに、私自身が負けたままで終わりたくないと強く思ったから。
私は、腫れた目を化粧で誤魔化して、もう一度仕事に向かった。
仕事に遅れた私が部室に入ると、案の定、文官達からは厳しい視線を向けられた。
迷惑をかけた事を謝り、すっかり私専用になった保管室に入る。すると、小さな机の上には、嫌がらせのような書類の山が出来上がっていた。
今日は、帰れないかもしれないわね。
でも、負けないって決めたんだもの。
頑張ろう。
私は休んだ時間を取り戻すため、集中して机に向かった。
ふと気付くと、部屋の中が暗くなっていた。どうやら私は、随分と集中していたらしい。
痛む肩をほぐしながら、残りの仕事を確認すると、机にあった書類は、粗方片付いていた。けれど、次に目に入った光景に、私の気分は地まで落ちる。
扉の前には、いつの間に置かれたのか、新しい書類の山が出来上がっていたのだ。
「はあ、今日は完全に徹夜ね。」
私はブラウスの第一ボタンを外して、首にかけている魔石を取り出した。
温かい...。
優しい温もりが、毛羽立った私の心を宥めてくれた。
「おい、何をやっている。」
静寂に包まれた空気を、刃のような声が切り裂く。
座ったまま振り返った先には、眉間に皺を寄せたヴェイル殿下が立っていた。
「殿下!?申し訳ありません!遅れてしまった仕事をしておりました。明日までには、終わらせます。」
「この量をか?」
「はい、必ず。」
ヴェイル殿下は、急いで立ち上がった私の前を通り過ぎ、纏め終えたばかりの書類に手を伸ばした。
静かな部屋に、パラパラと紙を捲る音が響く。
「この字...。では、今まで提出されたものは...。いや、でも...。」
ヴェイル殿下が書類に視線を落としながら、何かを呟いている。
「おい!」
「は、はい!」
いきなり呼ばれて、声が裏返ってしまった。
私は恐々顔を上げて、ヴェイル殿下の次の言葉を待った。
「この部屋は、何だ?なぜ、皆と同じ部屋を使わない?机なら人数分用意したはずだ。」
「そ、それは...。」
言ってもいいのだろうか...。
でも、この指示を出したのは、この方の副官だ。揉めれば、きっと面倒な事になる。
下手に波風を立てるぐらいなら、私が我慢した方がいい。
私は近い内に、この国からいなくなるのだから。
「そ、その。私が、お願いしたんです。人がいない方が落ち着くので。」
「...寒く、は、ないのか?」
ボソボソと呟いたヴェイル殿下の声が小さくて、よく聞こえなかった。聞き返そうとした時、再びヴェイル殿下が口を開く。
「よ、夜も更けた時間に、こんな部屋とも言えない倉庫にいて、寒くはないのか?」
ヴェイル殿下の視線の先には、私が用意したポットと分厚いブランケットがある。
「大丈夫です。」
「本当か?しかし、...ん?それは...。」
ヴェイル殿下の訝しむような眼差しが、私の胸元で止まった。
161
あなたにおすすめの小説
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)
神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛
女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。
月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。
ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。
そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。
さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。
味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。
誰が敵で誰が味方なのか。
そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。
カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる