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「魔石?なぜ、他人の魔力が入った魔石を身に付けている?」

「こ、これは、ただのお守り、です。」
私は慌てて魔石をしまって、ボタンを閉めた。


「ああ、恋人からの贈り物という訳か。」
ヴェイル殿下の声に、私への蔑みが現れる。ただでさえ低い部屋の温度が、更に下がったような気がした。


「こ、恋人!?いいえ、まさか!この魔石を下さったアレン様には、素敵な婚約者様がいらっしゃいます。私のような下賤な者が、アレン様の恋人だなんてありえません!」

私が、アレン様と恋仲だなんてとんでもない!
アレン様の婚約者は、マイヤ様なのだから。
私とアレン様の関係に、変な誤解が生まれれば、お二人に迷惑をかけてしまう。
私は必死で、ヴェイル殿下に弁明した。


「そうか。ならば何故、そんな物を?他人の魔力など不快でしかないはずだ。以前、お前からは、その魔石とは違う者の魔力を感じた。いったいそれに、どんな理由がある?」


普通、他人の魔力を自分の体に取り込むような事はしない。それは、どうしても不快感を伴うからだった。しかも、魔力の相性によっては、酷い拒絶反応を起こすのだそうだ。

でも私は、生まれ持った体質と事故の後遺症のせいで、誰の魔力でも受け入れる事が出来た。



それを今ここで、話さなきゃ駄目だろうか。
私は、チラリとヴェイル殿下を窺う。
ばっちりと合ったヴェイル殿下の目には、言い逃れは許さないという意思が、はっきりと浮かんでいた。


「あ、あの...。不快に思われるかもしれないのですが...。」

「構わない。話せ。」

「...はい。」
最後の足掻きをばっさり切り捨てられた私は、渋々話を始める。


「その...。私は、生まれつき魔力がないのです。お恥ずかしい話ですが、私は今までずっと、親切な方々に魔力を分けて頂きながら生きてきました。魔力無しの私では、魔道具は起動出来ませんので。」

「お前、魔力欠如症なのか!?」
ヴェイル殿下は、眉間に深い皺を寄せ、眼光鋭く私を見下ろす。



不快に思われてしまった。
やっぱり今話すべきではなかったのだ。
でも、ヴェイル殿下は私から他人の魔力が漏れている事に気付いていた。
きっと、魔力検知能力に優れているのだろう。なら、私が魔力無しである事は、すぐにバレていたはず。




魔力とは、神から全ての命に与えられた祝福だ。
動物や植物ですら、微力な魔力を持って生まれる。それにも関わらず、魔力を全く持たない私のような存在が、稀に生まれることがあった。
その魔力無しという存在は、神から見放された異端者として昔から人々に忌避されていた。

しかし近年、その偏見が問題視され、忌み名であった魔力無しという名称は、魔力欠如症者と認識を改められることとなった。
それでも、魔力欠如症に治療法はない。魔道具が生活の大半を支えているこの世界では、魔力欠如症者は、結局、無能者なのだ。



「魔力無しの私は、皆様を不快にしてしまうでしょう。ですので、私は分析官の職を辞し、皆様の目に留まらぬように致します。申し訳ありませんでした。」

私は、下げていた頭を更に深く下げた。


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